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対峙する

『ポーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンンンンン』


 同時に高い音を立てて、空に幾つもの狼煙が白く上がっていく!!魔獣投入の合図が響き渡るエンルーダの空の下。

 


「若ーーーー、!ー!!」


 馬に飛び乗り走らせるイグザムの後方から、自分を呼ぶ声が段々と近付く事に気が付き、イグザムは振り返り、、目を見張った。


「ザリア?!何故ついてきた? !」


「当たり前でしょ!若の介錯をするのは俺しかいないんですから!!」


 見ればイグザムの後ろを、別れたはずのザリアが放たれていたであろう馬を操り、追い掛けて来たのだ!!

 何処かニタついた顔を見せつつだ。


(結局タニアの事も、全部お見通しだという事だな。)


 とはいえ分かっていた様な顔をするイグザムは、居心地悪そうにしながらも、馬上のザリアと手を打ち合う。


「仕方がないな、、とりあえず物見の崖まで走らせるぞ!!」



『ウオオオーー!!!』


 その瞬間、又も黒装束の軍団が馬でイグザムとザリアを追い掛け襲って来た!!


「分かっております、あの合図が鳴ってしまえば、あそこに向かうしかありませんから。!!」


 そう言いながらイグザムは馬を操りつつ、金属製の耐切創手袋を片手に装着すると、、


「すまん!できるだけ『墓守の建屋』に向かう猿人魔獣に乗り移るぞ!!」


 そのまま手袋越しに迫る敵の脇腹を撃ち抜いた!!


『ギャ!!』


 脇腹を撃ち抜かれた相手は臓器を撒き散らしながら、鮮やかに流れる様に後ろへと飛んでいく。


 そうする間に、俄かにエンルーダ領土が不穏な空気に包まれていく!!

 空気が振動するかの感覚がイグザムとザリアの肌を襲った。


(此の地鳴りの感覚、、)


「、、かしこまりました!何処までも付き合いますよ。仕方がありません、乳兄弟ですからね!!」


 同じく不穏な空気をザリアも感じた顔を見せ、耐切創手袋を片手に付けると、敵の馬の脇腹を蹴り上げドミノ倒しで押し蹴散らす。


『ウワ!ワーー!!』


 そうすると一旦目の前に居た黒装束達は、軒並み馬ごとバタバタと共倒れ踏み付けられ、後ろへと消え去った。


「これで時間を稼ぎましょう!」


 ザリアのドヤ顔をイグザムが呆れた顔で見るが、それも一瞬。


 イグザムとザリアの耳にハッキリと聴こえた、覚えのある『雄叫び』。


「そろそろ来るぞ!!」


 イグザムの赤い髪が一瞬逆毛だった。ザリアの目がイグザムの目と合わさる。


 魔獣戦に入ったという事はエンルーダーの僻地から猿人魔獣が投入され、間違いなくそのまま街に向かって雪崩来る。


『生きているモノ』を蝨潰しに食い漁る猿人魔獣は、初めはエンルーダ領内で、群れとなり動くモノに手を出していく。

 まずは弱い家畜から。

 そして敵襲としてエンルーダの領地に散らばる黒装束集団達を獲物に見定めるだろう。 だから、、


「そもそも奴らの知能の高さは一体何なんでしょうね。 」


「分からん。彼奴等だけは他の魔獣とは一線を隠している。 とにかくあの背中の腕の数が厄介だ。 」



 とにかく先手として、

 猿人魔獣の視界に入らない事が第一になる。



(確かに身体の小さい猿人魔獣は打ち取れたが、結局一人では無理だった。)


 イグザムもザリアもエンルーダ領を統括する者として、猿人魔獣との対峙は幼少の時から成されている。

 もちろん訓練として対魔獣の戦闘経験も、互いに積できた。

 

 幼き時から既に、イグザムとザリアは『対』で闘ってきた腐れ縁。背中を預け合う宿命的な仲だ。

 

「しいて言うならば、叔父上だけだったからなあ。独りで彼奴等を狩り捕れたのは、、」


「そうですね。素早い動きで全ての腕から、足と頭を全落とすという戦法。」


 そもそも猿人魔獣には、訓練に使える子供の魔獣がいない。 全て成人した魔獣で幼いエンルーダ兵士は向き合うのだ。

 そして、その弱点は皆無だった。


「一人で成し遂げるのは難しいですが、2人組、もしくは何人かで組めば単体を屠るは可能でした。だから、我々エンルーダの男達は皆が『対』で闘うんじゃないですか? 」


「それはそうだな。」


(もしかしたら叔父上に付いていたのは、亡くなられた義叔母の魂だったのかもしれないな。)


 とにかくイグザムとザリアは一心不乱で馬を走らせる!!


(狩りをする時や闘う時は、誰かと一緒に舞う様に動くのが叔父上だった、、)


「若!見えてまいりました。物見の崖が!!」


「よしそのまま馬は放つぞ!可哀想だがな。」


 イグザムとザリアの目の前に、断崖絶壁が空へと聳え立つのが見えた。


 エンルーダでは結界魔法の影響で、木々が高く大きく成長するが、そんな木々を凌駕する高さの絶壁は、その先が雲に隠れ見えない程だ。


 此の想像を絶する直角な高さが『物見の崖』と言われる所以。


「足場が全くないから、彼奴等が登れないですけど、下手すると俺等も無理ですね。」


「それはそれで仕方がないがな。そうなれば奴等の背中に乗るだけだ。 」


「ザリア、行くぞ! 」


 イグザムが背中に背負うボウガンを肩から外すと、走る馬を操りながら 勢いよく矢を放った。


『ザシュッーーーーーーーーー、、、』


 矢には魔法強化された鎖が繋がり、そのまま物見の崖の頂きに向かって登っていく!!


 遥か遠くに放たれた矢が、物見の崖の側面に上手く突き刺さった。

 と、直ぐにイグザムがボウガンの本体に足をかけて飛び乗り、リングスライダーを通すとボウガンに備え付けられたギアを巻き上げる!


 その動力で物見の崖の上へとイグザムが引き上げられ、同じ要領でザネリも後に続いた。


『物見の崖』の中腹に鎖吊りのボウガンを足場に吊り上がる戦法だ。


 乗り手をなくした馬は急に速度を上げて、そのまま前方へ走り去って行く。


「若! 此の辺りでしょうか?」


「いや、もう少しだけ上に上がろう。どの個体が1番デカイ奴か、未だに分からないからな。」


「分かりました。 」


「よし此の辺りでいいだろう。」


 そう言うと、イグザムはボウガンに備え付けられたギアを止めて、そのまま鎖にぶら下がると足場になる暗器を腰から出し2本出し、崖に打ち込んだ。


 

「若!後方に奴等の一団体!間もなく通過します。」


「よし、擬態、、 」


 ザリアが腰から出した魔望遠鏡で、エンルーダ山脈方向を見ていたが、直ぐに イグザムに報告する。


 イグザムが直ぐ様、自分のマントを身体に巻きつけた。 そうする事でマントに施された魔力が、自然と物見の崖に同化する。


 それと同時に、


『ブオオォロオオオ。』


 いくつもの赤い目を持つ生き物が群れと現れた。


 猿というには何本もの腕を背中から蜘蛛の如く生やす姿。

 2足歩行で顔つきは猿だが、口は狼の様に張り出し不揃いな牙が下がる。


 魔獣であるのに、どこか溶けて不確定な身体が此の世の生き物の理を逸脱した悍ましさを感じる生物。


 群れの中の個体を注意力深く見ていたイグザムが、一瞬ザリアを見る。


(・・・・・)


 と、同時にイグザムとザリアが、ある猿人魔獣に向かって擬態をしたまま飛び乗りた!!


(コイツは、タニアのいる建屋に向かう、、そう信じる。それに絶対、叔父上がタニアを避難させているはずだ。)


 再びイグザムの目が紅に染まったのを、ザリアは隣で息を潜めて見る。

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