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貴方が辺境に来たのは

 エンルーダ当主が住まう牙城。


 辺境の城は都の皇宮のような優美さは全く無い。

 天然の城壁にもなる、険しいリュリアール山脈を背後に組み込み、要塞と国境壁を合わせた長い建築になる。

 城の地下はそのまま、山の地下にも繋がっているのだ。まるでリュリアール山脈事態が、エンルーダ要塞にも見える程の迫力。


「とんでも無い場所ですね、、ザード。」


 エリオットは想像するより遥かに壮大なエンルーダの佇まいに、要塞の中に入っても唖然とするばかり。


「エリオット、もうザードで無くていい。領主の御前だ。」


 ウイルザードは既に忍び隠していたフードを取り払い、其の顔を顕にした。

 皇帝からの書状を持つ親善使として、エンルーダ当主が居住するの辺境城の門を潜る。


「あ、はい!殿下!いや、しかし、凄いところですよ。殿下はこんな国境で戦ったご経験もあるんですよね。山越えをしたって、聞きましたけれど、此の先の巨山でなど、、戦い方がわからないです。」


 将来は嫡男として領地を治めるまでの第一近衛務めとは言え、エリオットは生粋の騎士希望。

 

 学園生と言う若さで、エンルーダでの国境戦を経験するウイルザードに、興味津々で当時の生活を聞こうとする。

 が、早々に出迎えの従者達に頭を下げられ、エリオットの希望は叶えられなかった。


「殿下、まさか我が領地にて、貴方様のご尊顔を拝することになるとは、夢にも思いませんでした。長く生きる者ですな。隣の貴殿も、よほど都の水で退屈の様子。いつでもエンルーダは歓迎しますぞ。」


 辺境城に掛かる橋を渡り門を抜けると、当主であるアースローと、次期当主候補のイグザムが直々にウイルザード達を出迎える。

 

 其のままウイルザードとエリオットが通されたのは、エンルーダ要塞の上層階。

 山に組み込まれたテラスからは、エンルーダの領土は勿論、遥かシャルドーネの街並みされ見えるのでは無いかと、錯覚する絶景の応接室だ。

 皇族を迎える客室でもある。

 

「本当ですか!!其の時は、何卒よろしくお手合わせ願いたいです!」


 領主アースロの言葉にエリオットが嬉々として応えると、再びウイルザードがエリオットを嗜める。


「やめておけ、エンルーダは山岳ゲリラ戦を得意とされる。お前とは畑違いもいいところだ。領主殿もあまり、このものを揶揄わないでいただけると助かる。いや、既に軽く嫌みをいわれたと同じでしょう?」


 流石ウイルザードは、エンルーダの2人が好意的に迎えてくれてはいないことを弁えている。


 目の前に座するは、諸国を相手に軍畑を駆け抜け続ける現当主と、次期当主。彼らの眼光は終始刺す様に、鋭いのだから。


「此の度はエンルーダに助けて頂きたいことになり、知らせも無く来させてもらった。不躾であるのは十分承知の上。どうか、陛下の書状を認めていただきたく、、」


「例え我が娘に非があったとは言え、毒杯の刑を処したエンルーダにございますぞ。殿下の来訪を喜ぶと思われるかな?」


 ウイルザードが全ての口上を述べる間もなく、固辞するようなアースロの声に遮られた。

 皇太子ウイルザードの言葉を遮ると言う行いに、思わずエリオットの腰が浮くのを、ウイルザードが片手で止めた。


「其の件にしても、実は謝罪せねばならない。ただ、今は待ってもらいたいと思う。申し訳無いが、

大魔法使いガラテアの骸を、どうにか精霊の元に還し、核石浄化の前に記憶の読み取りを、お願いしたいのだ。父上だけで無く、わたしからもお願いしたい儀である。」

 

 エリオットが動いた瞬間、アースロの隣で控えていたイグザムの拳が動いたことに、ウイルザードは気付くも何もいわず。


 ただ大きく頭を1度下げると、再び机に頭をつけて願い出る。

 皇族がとることの無い、エンルーダ特有の最礼の姿勢をアースロとイグザムに、ウイルザードは見せたのだ。


「で、殿下?!!、そんな。」


 その様子にエリオットが顔面蒼白になる。同時に、自分が護衛に選ばれた意味を知る。


もしも常に控える側近近衛ならば、ウイルザードの沽券の為に、目の前のものを切り倒したに違い無い程、重大な光景なのだ。

 頭を下げたままのウイルザードに、拳を震わせたイグザムが、動きを止め凝視する。


 両者の間に緊迫した沈黙が横たわる。


「記憶の読み取りをですか。」


 暫くして、再び声にしたのはアースロだった。しかしすぐようウイルザードは頭を上げたりはしない。


 ウイルザードが頭を未だ下げたまま、アースロに応える。


「まずはガラテアの骸の確認を、当主殿に願いたいのだ。」


「、、、多々こちらの言い分はある。しかし、ことは性急。仕方あるまいですな。まずは対面をしましょう。我らの建屋に案内しましょうぞ。今直ぐ取り掛かるように言いつけます。しかし儀式の最中はいかなるものも入れませんからな。こちらで、しばし待たれませ。」


 頑なに頭を上げない、ウイルザードに根負けしたアースロが、墓守りに会うことに承諾した。


 イグザムが場を読んで侍従を呼ぶと、アースロの言付けを素早く告げる。

 今から、墓守りに伝令が飛び、ガラテアの儀式となるのだろう。


「恐れ入ります!下賜品の一部とし建屋に届させる体裁で願いたい。それと、もう1つエンルーダ殿に伺いたいことがあるのだが。」


 侍従が出ていくのを安堵の思いで、ウイルザードは確認しつつ、更にアースロへ願い出る。

 ここからがウイルザードにとって、もう1つの山場。


「これは、一体改まって。今度は 何様ですかな?」


 アースロも思いもしないウイルザードの申し出にも、本題の終わりに、気を緩めていた。

 ウイルザードに漸く茶を勧めた時だった。


「実は、、貴殿の令嬢、、タニア嬢の身体に、特徴的な痣がなかっただろうか?今更の話で、言いにくい。貴殿に不快な思いもさせる。が、薔薇の様な痣なのだが。」


 ウイルザードが毒杯の刑に処したタニアの話を出す。


「殿下!!今、そんな事を出されるのは、!!」


「ほう、殿下は既に骸になった我が娘にまだ、何か言いがかりを付けますのか。」


「すまぬ、しかし アースロ殿!覚えが無いだろうか!」


「殿下やめてください!せっかくガラテア様の儀式を当主殿に呑んで頂いたばかりなのに!」


 ウイルザードの突然の言葉に、エリオットが度肝を抜かれて立ち上がる。


「分かっている!しかし、大切な事なのだ!!」


 けれどもウイルザードは引く事を拒んだ!

 何故なら、ウイルザードの言葉に意味がわからない様子のアースロとは裏腹に、隣に座るイグザムの両眼が見開き、ウイルザードを睨み付けてきたのだ。


(此奴は何か知っている!!)


ウイルザードはイグザムに向かって再び、


「彼女に、薔薇の痣があったのではないか?!」


 吠える如く叫んだ。

 イグザムの全身が、ウイルザードへの憤怒で震えているのが分かる。


(もう一声すれば、此奴が何を言うはず!!)

 

留めの一言をウイルザードがイグザムに浴びせようとした瞬間。


『ブーォーン、、ブーォーン、、ブーォーン、、』


 不穏な音がエンルーダに鳴り響く!

応接室の扉が開け放たれ、飛び込んできたのは見張りの侍従!!



「襲撃、墓守りの建屋が襲撃されています!!」


「なに?!!窓をあけろ!!」


 叫ばれた自体にアースロがテラスの窓を開け放つ!


 眼下に広がるエンルーダの地。其の場所の至るところから火の手が上がっていいた。


「殿下!!」





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