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貴方の目の前から最愛は

 艶やかな香りが漂う初夜の寝所で、ウイルザードはパメラの金色に輝く髪を眺め、背後から彼女の白いうなじに顔を摺り寄せた。


「殿下、恥ずかしいですわ。」


 パメラが身体を捩じらせ逃げようとするも、ウイルザードが腰をしっかりと掴んでいる。静まり返る皇太子宮に、尚も続く宴の声が遠く聞こえるからには、主役不在でも賑わっているのだろう。


「今更ではないか?そのような君も愛らしいが。」


 そうパメラの耳元にウイルザードは囁くと、未だ座るパメラの両足を抱え上げ、そのままベッドに優しく降ろした。そうするとウイルザードは天蓋の付いたベッドの幕を降ろしていく。


「漸く此の日を迎えた。どれだけ待ったかしれないな。」


 ウイルザードになされるまま、ベッドに横たわるパメラの髪が悩めかしく広がる。そうすればウイルザードが、誘うように艶めく薄いパメラの唇を、ゆっくりと自分の口で塞ぐ。戯れる様に啄むウイルザードにパメラの吐息が熱量を上げる。


「わたくしも、同じ気持ちですわ、殿下。」


 ウイルザードの首に、己の腕を回しこんでパメラがウイルザードに応えていく。側使えが入念に施した香油が一気に匂立つ感覚。満月の明るい光にシルエットになり、夜に蠢くウイルザードの動きは理性を持つ獣の様になる。ウイルザードがパメラに愛撫しながら、


「殿下ではないだろう?君だけのウイルザードだ。」


 余裕のある物言いで、パメラが纏う夜着の胸元を開けながらウイルザードが強請った。まるで寝所の香りに酔うが如くパメラが微笑んだ。


「わたくしのウイルザード様。」

 

 恍惚とした表情を見せるも、パメラがウイルザードの願い通りに、彼の名前を囁く。そうすればウイルザードが破顔して、今度はさらに色気を増しながら


「ただ一人の君には、名を呼んで欲しい。」


 パメラに乞うた。初夜の儀は皇太子としての義務でもあるが、今宵ウイルザードは見届け人を拒んでいる。既に婚約者の処女を得た事は、届けているからだった。


「ええ、何度でもお呼びしますわ。」


ウイルザードが夜着で隠されたパメラの肢体に手を掛けた。満月の灯に、パメラの白い太腿が浮かび上がり、ウイルザードは愛おしそうに、なだらかな曲線に手を這わせる。さらにパメラの恥じらいに染まる肌が、ウイルザードの両手でゆっくりと暴かれていく時だった。


「!!!」


 そのパメラの白い片腿に口づけを落としていたウイルザードが、根元に口を近付けようとした途端、それまでの前戯をパタリと止めた。それを気付かれぬ様に、パメラの肢体を撫で上げながらも、ウイルザードは見聞するように凝視する。とはいえ其れは、ほんの僅かな時間だ。


「如何されましたの?ウイルザード様」


 パメラがウイルザードの違和感に、豊かな胸を上下させながら問い掛ける。


「いや、、、、パメラは大丈夫か?」


「もちろんですわ。」


「そうか。」


これまで浴びせる様に、パメラへの思いを言葉にしてきたウイルザードが、少ない口数でパメラに返すと、彼女の両足の間に己の腰を入れた。


「ふ、」


 行われる情事に期待するかのように、パメラの唇から漏れる吐息。しかし其のパメラを無視する様に、ウイルザードは彼女の下口の秘所へ指を入れていく。そして何かを確かめる仕草で、中の壁に指の腹を押し付ける。次の瞬間、ウイルザードは自分の指先から魔力を放出させた!!


「あああああっっ!!」


パメラの括れた腰から背が、与えられた刺激に反り返る。パメラは一気に快感を得た声を上げると、過ぎた感覚に意識を飛ばし瞼を閉じた。若干、涎た口が快感に震えて見える。


「く!」


にも拘らず、ウイルザードはパメラの秘所に差し入れた指を抜くと、傍らに用意された布で指を忌々しそう拭った。今、ウイルザードの雰囲気は先程までと一変している。


「、、焦り過ぎたのか、、。酒を、、。君も飲むかい?唇が渇いている。水かな?」


明らかに怒りを浮かべるウイルザードは、意識を飛ばしたままのパメラが返事をすることなど望まない風に云い放つと、ベッドの横へ備え付けられた台から小さなケースを取り出した。

寝込みの暗殺対応に使う薬は、含ませれば直ぐに意識が飛ぶ代物。間者を殺さず捉える為に常備していたものが、まさかの初夜で役立つ。


「もちろん、わたしの花嫁が侍女を呼ぶ手間などさせられない。わたしは、酒を言いつけよう。」


言葉とは反し、ウイルザードは乱雑にケースの中にある粉を水差しに入れると、パメラの口に突っ込み入れる。そしてパメラの喉が動くのを見定め、部屋の外へ歩きだした。


バン!!


 本来ならば朝まで開くことは無いと予想されていた寝所の扉が開け放たれた事に、扉に立つ護衛2人が驚き慄いた。


「ガラテアを呼べ!!」


ウイルザードが戸口に控える侍従長と護衛に向かって、城務めの魔法使いの名を叫ぶ!!其の名に侍従長が目を見開き、一瞬中を伺った。


「かしこまりました。」


 直ぐに侍従長が知らせに走ると、ウイルザードが護衛に扉を守らせる。そして皇太子妃の側仕えが呼ばれた。


「待たせた、パメラ。と言っても即効性の催眠薬が効いて気絶してるか。」


 冷ややかな口調でベッドに気絶するパメラに、ウイルザードが部屋の飾り剣で、彼女の指を切る。浅い傷から鮮やかな血がシーツに拡がった。ウイルザードがパメラにガウンを掛る。そして呟いた言葉が、


「君じゃないのか? 、、、ならばその嘘の意味は、、また俺の間違いか。」


窓の外に浮かぶ 巨大な満月に吸い込まれた。


「殿下!!これは?!」


 側仕え達が裸のパメラにガウンを着せる間に、ウイルザードが呼びつけた人物が侍従長に連れられ到着する。白亜のローブを纏う大魔法使いガラテアだ。


「ガラテア、そいつの血と、このハンカチの血を比べられるか。」


 そうしてウイルザードがガラテアに出したのは、普段皇太子が持ち歩く手布。其処の茶色く変色した付着物が見える。


「それはお安い御用にございますが、、」


「ならば今すぐにしろ。」


 ウイルザードの言葉にガラテアは目を見開き、出された手布を受け取る。側仕えが、パメラの血で汚れたシーツを破ると、こちらもガラテアに渡される。


「年寄りを初夜の寝床に呼び出すとは、、こちらは、、皇太子妃様の血ですかな?して、こちらは?」


「真に探し出すべき人物の処女血だ。」


「それは、いささか、、、それに妃様は、、何故か気絶してございますが、、」


 冷静に考えれば、不穏な言葉をウイルザードが難なく口にした事で、ガラテアはウイルザードを白い目で一瞬見つめた。しかし城仕えである故、貴族の秘め事も多いのだろう。ガラテアは何か言葉を飲み込んで、呪文を唱える。


「恐れながら殿下、この2つの血痕は違う人物の物でございます。」


 虚空に描き出された2つの遺伝子陣が符号しないのは、一目瞭然だった。


「、、、、そうか。」


「ガラテア、その女の頭の中を見れるか?」


 ウイルザードの放つ雰囲気が一層冷え冷えと変わり、侍従長が震えだす。ガラテアの顔もみるみる青ざめていく。


「それは、、骸であれば、、精霊師ならば、記憶を読むと同じく容易いでしょうが、生きた人間にとなりますと少々。記憶操作は廃人になる可能性も。それに皇太子妃様にございますが?」


 ガラテアは持てる答えをウイルザードに示してみせた。大魔法師になるにつけ、平均寿命の優に2倍は生きているガラテアが、難色を示したのだ。


「なるべく早く頼む。それに事によれば、こいつは罪人になる。」


「一体何が、、承知しました。では少し離れてくださいまし。」


 ガラテアが再び呪文を詠唱すると、ガウン姿のパメラが横たわったまま、虚空に浮かぶ。その広がる髪をかき分けて、ガラテアがパメラの額に己の額を乗せた時、


「これは、、」


「ウイルザード様!!」


 ガラテアが何かに驚きの声を上げたと同時に、つい先ほどまで意識を無くしていたはずのパメラの両目が開く!そして息を潜めていた3人の側仕えの1人が飛び出した!!


「うあっ!!」

 

 側使えの手には小刀が握られ、そのままガラテアの背後から心臓部を貫いている。しかも普通の刀では無く、刃先がら禍々しい植物が急激に伸びあがり、ガラテアの全身を棘のある蔓で締め上げた!!

 皇太子の寝所に今度はガラテアの身体から吹き上げた血飛沫が舞う。


「護衛!!その側仕えを捕らえろ!」


「殿下!毒を仕込んでおり、絶命しました!」


 ガラテアと側仕えの叫びに、扉を守る護衛が部屋に飛び入ったが既に遅し。ガラテアは口からも血を吐き、側仕えも歯に仕込んだ毒を噛み潰し死んでいる。


「くそ!!とにかく皇太子妃を監禁とする。直ちに箝口令を!!」


 真っ赤に染まる部屋の中央で、ウイルザードが咆哮する。

 しかしベッドの上にあるはずの、パメラの身体は消えていた。


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