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最愛と婚儀を迎えた王都の貴方は

 夜のリュリュアール皇国宮殿。今宵月夜は、巨大な満月が闇に浮かび輝く。

 遠くに人の騒めきと、音楽が奏でられる様子が聞こえてくる、皇太子宮。極力人払いをされ静まり返るが、綺羅びやかな宮に今日は、花が至る所に飾られ一層美しい。


「今日のパレード!素敵だったわぁ。」

「本当に、殿下も妃殿下も素晴らしかったもの。」


 そんな皇太子宮で、3人の侍女が宮殿回廊を荷物を持ちながら、話に花を咲かせている。先程まで、婚礼を上げた皇太子達が使う初夜のベッドを花で飾りつけ、入れ替えたシーツ整えていた侍女達だった。


「街道の人の多さもすごかったもの!!」


 1人は恍惚とした表情で、昼間のパレードを思い返し感嘆の声を出す。其の腕は花籠を引っ掛け、肩にはシーツカバーの布。3人は共に同じ荷物を持っていた。


 リュリアール皇国の都シャルドーネ。


 ウイルザードとパメラが皇国学園を卒業し1年。吉兆日を占い、執り行われた婚礼に、昼間の都シャルドーネは沸きに沸いた。国民はもちろん、貴族も満場一致の婚姻。


『ウイルザード皇子万歳!!パメラ皇太妃万歳!!』


 国中に響くが如く、民衆の祝いの言葉がそこかしこに聞こえる婚礼を寿ぐ。華やかな空気に包まれた皇都シャルドーネに佇む、大聖堂で行われた婚姻の儀式。精霊が見守る大聖堂は、皇族でなくては婚儀に使う事叶わ無い。


「殿下の白正装のお姿!漆黒の御髪に、映えて本当に眼福だったわ。」

「そうよねー。妃殿下のドレスもトレーンが長くて豪華だったしね。」

「ああ、素敵だったわー。」


 教皇の前で誓いを述べる婚姻の儀式の後に行われたのが、国民の祝福を受ける中を、白亜の馬車に乗りながら行うパレードだ。


「あんな結婚式、あげたいわ。」

「夢みたいなパレードだったものね。」

「どこまでも続くフラワーシャワーよねー。」

 

 屋根のない馬車に乗る2人に、人々が色とりどりの花を振り掛けたり、手渡そうと花を揺らす。民衆に応え、ウイルザードとパメラが手を振り返すと、再び民衆の歓声が沸き上がる。


「あら、さすがに皇太子様の結婚ですもの。でも、殿下だけでなくても素敵な方いらしたわよね?」

「ジュード様よね!」

「あら、パレードには騎乗されなかったけれど、カイロン様も素敵よ。」


 沿道を護衛しながらパレードに続く近衛兵隊の中には、エリオットの姿も見えた。パレードを見守る令嬢達からは、ウイルザードの容姿に歓声を上げる姿だけでなく、見目麗しい騎士達の姿に溜息を付く姿も見られたのだ。


「「「ほんとにねー。」」」


「あなた方、無駄話をしないで今日の仕事が終わったなら戻りなさい。」


 月夜に照らされる回廊で、内緒話をしていた侍女達の後ろから、鋭い叱責が飛ぶ。


「「「侍女長!!」」」


 お喋りをしていた侍女3人は慌てて謝ると、侍女長の前から飛んで消えた。

侍女長は呆れた様子で、回廊を進むと、優美な装飾を施された扉をノックする。同時にドアの向こうから現れたのは、妃殿下付きの側仕え。


「妃殿下の香油をお持ちいたしました。」


 侍女長は、飾り盆を中に渡す。側仕えは静かに頷いて、其の飾り盆を受け取った。


「妃殿下、ご指示いただきました香油が届きました。」


「お願いね。」


 広い部屋へ飾り盆を掲げた側仕えは、大鏡の前で2人の側仕えに準備をされるパメラの前に進み出る。


「妃殿下、婚礼のお姿も美しゅうございましたが、夜伽のお姿も女神のようでございます。」


 鏡に向かうパメラに、髪を梳く側仕えが感嘆の台詞を吐いた。

 婚礼のパレードが終わり、夕暮れから始まった近隣国来賓を迎えての、披露舞踏会。そのパーティを中座して、今宵主人公のウイルザードとパメラはこれから初夜の儀を迎える。


「それではこちらを。」


 置かれた飾り盆から、華奢の小瓶を取り、側仕えがパメラの首元から塗っていく。そして手の甲に塗り広げ終えた時、再び扉からノックが聞こえた。同時に扉が大きく開かれる。その先に現れたのは、皇太子宮の主、ウイルザード。


「我が妻の準備は滞りなく終わったかな?」


 既にウイルザードも初夜に向けて夜着に衣替えている。そのまま中へと進むと、ウイルザードは鏡の前に座るパメラの手を取り、其の甲に自分の唇を落とした。ここから既に、初夜の儀は始まっている。


「パメラ、皆に祝福され、漸く君を私の元に得る事が出来た。もう離しはしないからね。」


 ウイルザードの言葉が紡がれると、波が引くように部屋にいた側仕え達が部屋から出ていく。ここからは明日の朝まで、表向きはウイルザードとパメラだけの空間になるのだから。

 ウイルザードがパメラの返事を促す様に、滑らかに梳かれた髪に、又唇を落とした。途端に鼻孔をくすぐる香油の香り。ウイルザードの瞳が一層熱の籠もる光になった。

 

「殿下、民ももちろん皆様にお祝いして下さるなんて、皇太妃として幸せですわ。」


 自分の髪に口づけを落としていくウイルザードに応えると、巨大な満月を背景に、真っ赤な紅を引いた口を、弓なりにしてパメラは妖艶に微笑んだ。

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