表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/50

最後の断罪に

【あらすじ、牢への中で→牢の中で】「タニア・ルー・エンルーダ!!いかに清廉無垢なる淑女の振る舞いを演じていようとも、お前の悪行全てを私は知っている。私を欺き!我が婚約者パメラをこれまでに、どれほど害してきたのかも!!私は決して許さぬ!多く重ねた罪の深さ、其の身をもって今思い知れ!!」


会場に響き渡る、黒髪の皇太子・ウイルザードの澄んだ声と、その前で床に倒れながらも頭を振り、否定をしているのは、1人の小柄な令嬢。


学園ホールの 豪華なシャンデリアの下。繰り広げられる様子を、息を呑んで見ている子息子女達は、普段の制服ではなく、様々に正装であれ、ドレスなどを身に纏う。

本来ならば卒業を祝う言葉が学園長から発せられ、主席で卒業を遂げた皇太子が、卒業舞踏会の幕開けとなるファーストダンスを踊る予定だったはず。


「待ってください!!間違いです!わたしは、パメラ公爵令嬢様に害など及ぼしておりません!!本当です!それに、殿下は、わたくしを愛してくださったではないですか?!」


そして今、断罪をされる彼女は、桃色の髪を巻いて、見目は麗しく、愛らしい大きな目に涙を浮かべながら、見る者の庇護欲を掻き立てるかの如く、ふるふると華奢な身体を震えさせながら、床に座りこみながらも叫んだ。


「誰がお前などを?!戯言で、聴衆を惑わす悪女め!まさにおまえこそが、真の悪役令嬢だと私は充分に見抜いている!!タニア・ルー・エンルーダ!皇族の寵愛を得たなどと妄言、公爵令嬢を婚約者とする私への不敬罪にあたう!それとも辺境伯の差し金か?!」


しかも皇太子は正装だからこそ帯剣していた儀礼サーベルを、辺境伯令嬢に向けて抜いている!囲む子息令嬢が息をのんだ!!


「そんなっ!嘘など申しておりません。それに我がエンルーダ家は、建国より皇帝に忠誠を誓う『盾』にございます!

決して、治世転覆など画策してございません!!殿下、どうか、、」


「うるさい!!エンルーダ一族による謀反の一旦ではないと、あくまでも言い張るのならば、よかろう!タニア・ルー・エンルーダ個人の愚かなる画策と罪に問い、刑を執行する!!衛兵!捕らえよ!!」


「はっ!!!」


学園といえども皇太子をはじめ、貴族の子息子女が通う場所。特に卒業を祝う舞踏会とあって、城から警備の衛兵も配置されている。

しかし余りに用意周到な兵の動きに、経緯を見守る子息子女達は悟るしかない。皇太子が抜き出したサーベルが物語る。正装サーベルの抜刀は宣誓布告の証。今宵断罪は、まさに予定調和なのだと。そして、、


「エンルーダ嬢、身の程をわきまえないから、このような事になるのですよ?まさか殿下の寵愛を受けたなどと、妄言を吐くとは。真に残念です、ごきげんよう。」

「パメラ、さあ、向こうへ。ここにいては、見なくてもいいものを見る。」


緊迫した空気の中、発せられた高圧な声は、ウイルザード皇太子に守られる様に肩を抱かれた、金髪の婚約者パメラ・ラーナ・ブリュイエル公爵令嬢によるもの。まさしく目の前の断罪劇は、彼女の悪趣味な余興なのだとも、その場で固まる子息子女達は察した。



「どうして、、わたしは、」


まるで小鹿の如く、うち震える辺境伯令嬢とは180度異なるブリュイエル公爵令嬢。筆頭公爵の令嬢は幼い頃から縁された、皇太子寵愛の婚約者。


研ぎ澄まされた美貌故か、薄い唇から紡ぎ出される公爵令嬢の挨拶でさえ、凍えそうに感じさせるのが彼女の常であり、実に青い血を持つ貴族そのものな容赦ない振る舞い。


涙を飛ばし、ウイルザードへ駆け寄ろうとするタニア・エンルーダ辺境伯令嬢を、ブリュイエル公爵令嬢の言葉を合図にし、屈強な衛兵が床へ抑え付ける。あまりの暴挙に、思わず目を背ける令嬢達もいる。


「待って!待って下さい!わたしは何もしていません。嘘も言ってません!殿下どうして!!、、誰か助けてください。誰か、わたしが何もしていないと、、、」


本来は愛らしいであろう顔を、組しだかれる苦痛に歪めながら、床にまで伏し付けられるタニアの悲痛な声。その額には血が流れていた。


にも関わらず、射抜く程の視線のウイルザードと、微笑み扇の端から盗み見るパメラの横顔。


「どうして、また、わたしなのよ!!」


その場を壊す程の音声で、タニアが放つ言葉は、皇子の宣言に驚く、貴族子息子女達のざわめきに掻き消される!蔭から囁く噂話!


「来世永劫、私の前に現れるな!悪女タニア・エンルーダ!!」


全てが怒涛の渦の中に飲まれ、世界は漆黒に泥沼へと色塗られる。濁流の様な会場の黒い渦に、タニアは成す術もなく、暗黒の闇に落ちていく。



ピチョーン、、ピチョーン、


滴り落ちる独房の汚水の音で、タニアは意識を戻した。

鉄格子を嵌められた空気穴程度の窓。


貴族の独房とは違い、下層の犯罪者が入る牢なのだろう。排泄を足す為、地下の下水に直接垂れ流す穴があるだけの場所に、タニアは入れられている。


(何度、思い出すの、、)


数日前に行われた断罪劇を、悪夢にまで見たタニアは、汚れた額に汗を滲ませ、荒げる息を落ち着ける。


タニアは断罪された時のドレスのまま、衛兵に引き摺られる様に牢へ入れられて以来、独房で数日を過ごしていた。


「、、ようやく悪役令嬢じゃない人生に転生したのに。今度は上手く生きれるはずだったんじゃないの?何故なの?」


(一体、何がダメだった?)


血走る瞳は、数日の間に落窪み、飲まず食わずの状態で、頬は自分が触って分かる程に痩せてきた。もう舞踏会での愛らしさは見る影もない。


きっとこれまでと同じ様に、自分は牢で最期を迎えるのだと、タニアは朦朧とする意識の中で考える。


「もしくは、、急に出されて、処刑かもね。そんな時も、、あったのは、、何時だったかな。あんまりたくさん断罪されて、もう覚えるのも嫌だもん。」


タニアは朧気に鉄格子がはまる窓の外を見ると、血の滲む手を桃色の髪にのばし、髪簪を外した。既に巻いていた髪は、引き摺られて千切れ伸びていた。



「、、毒杯ってのも、あったっけ。、、出来れば、早く決めてくれないかしら、、」


タニアは、取り出した髪簪を震える手に持つと、牢の壁に◯印を書く。すでに◯印は2つ刻まれ、今3つに増えたことを確認して、タニアは溜息をつくのだ。


(太陽が窓に見えて、3日目、、衰弱死するには、まだ日がある。)


これまでの得たくもない経験から、タニアは衰弱死するにはまだ数日がかかる事に、再び絶望した。


「はあーー、、」


(この簪で喉を貫く?)


貴族の罪人に家族の面会が許されるのは7日までが、この国の法だとタニアはこれまで蓄えた本の知識で知っている。ということは、この身を看守達に犯される危険が出てくるは、7日以降だと計算する。


「、、出来れば、、それまでに今回は最期を、、迎えたいわ、、陵辱されるよりは、、」


(これまでも、誰1人無実を信じて助けてくれた人は、いなかった。)


タニアの頭に浮かぶのは、最後に自分を罵る家族達の姿だ。

何時の時も、冤罪だと懇願する自分を非難するだけの家族達。彼等の醜悪な面影をタニアは、首を振り払い消した。


「うっ!!」


途端に吐き気を催したタニアは、吐く物もない故に込み上げる胃液を、用足しの穴へと戻し上げてしまう。


肩で息をしながら壁に寄りかかり、◯印を付けた壁を力なく見つめるタニア。 ふと、薄い自分の腹に汚れた手を当てると、ある懸念に目を見開いた。


(もしかして、、、まさか。)


自分が付けた◯印を睨む様に見つめ、タニアは呟いた。


「子供、、?出来たの、、」


(たった、、1回で、?、、)



「殿下、の、、子、、が。」



断罪の場で、戯れ言扱いをされたウイルザード皇太子との逢瀬。けれども間違いなくタニアは、あの日ウイルザード皇太子と結ばれたのだ。


「一体、、どうなっているの、、これって、、、」


タニアは薄暗い独房の中で、唖然としながら自分の下腹を撫でる。今、子宮辺りの違和感に気が付いたのは、


(しかも、聖紋が、、刻まれている?って、どういうこと?!)


己が腹に、汚物を見る眼差しを向けていた、あのウイルザード皇太子が間違いなく、『聖紋』というマーキングを刻み付けていたからだ!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ