表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

魔王様、ただの魔女に魔王なんて無理ですから!

作者: 高丘楓

 「魔王なんて無理ですよぉ。私、ただの若いだけのふっつーの魔女ですよ!?」


 私、十八歳になったばかりの魔女であるクゥネル・ロコトムスは今、人生において最大級の困難に直面していた。




+-+-+-+-+




 ことの発端となったのは、魔女仲間が酔った勢いで登録して参加することになってしまった『魔族領魔王選抜闘技会』で、いろいろな不運が重なって優勝してしまったのだ。さらに言うなら、優勝者が挑めるという現魔王様も倒してしまい、次期魔王に選ばれてしまった。


 私は魔族領にある月読の森に住んでいる魔女で、薬作りをお仕事にしているだけの、ごく普通の一般的な魔女でしかないです。

 私に魔女の何たるかを指導してくれたお師匠様も、『お前を人の世に出すのは危ないから、この森で静かに薬作りをしていた方がいいだろう』と言っていたから、私は弱いんだと思っている。


 だって、魔族は基本的に弱肉強食で、より強い者が王となり魔族を率いるというルールがあるくらいだし、お師匠様がそこに出るのは危ないと言っているんだから、私なんかがまず闘技会で勝てることの方がおかしいんです!


 でも、初戦は相手のオーガが体調不良で不戦勝になって、二回戦は相手のダークリッチの不正が発覚して不戦勝になって、三回戦は相手のヴァンパイアの家庭の事情で不戦勝になって、気が付けば準決勝。

 準決勝の相手は不滅の騎士として名高いデュラハンだったけど、私がやけくそで振り回した杖に当たってくれて、自分から場外に跳んでってくれて私に勝ちを譲ってくれた。

 きっとおびえる私がかわいそうだと思って演技してくれたんだろう。騎士の矜持というやつなんだと思う。


 そして決勝戦。相手は魔王の側近の一人のドラゴノイドだったから、私は死ぬことも意識して、お師匠様に禁止されていた攻撃魔法を久しぶりに使おうと解禁した。

 で、魔力を練って魔法を構成しているときに観客席から『クゥネル!!今すぐ魔法の発動を中止するのじゃ!!!』と、懐かしい声で言われたことで魔法を中断。

 そっちに視線を向けるとお師匠様が息を切らしながら叫んでいて、私はお師匠様が応援に来てくれたことに嬉しくなって手を振った。


 すると―――。


 「相手の棄権により、勝者、クゥネル・ロコトムス!!!!」


 大きな声が私の耳に響き、私はきょとんとしながら審判の方を見る。

 そして、その審判の後ろではドラゴノイドの人は小さく縮まりながら白旗を振っていた。


 頭の処理が追い付かなくて、なんで側近の人が棄権したのかもわからないし、自分が優勝してしまったことも理解できなかった。


 「…………だから森で大人しくしておれと言ったのに…………」

お師匠様はふよふよと宙を浮いてこっちに来ながら呆れた声で私に何か言ってくる。

「お師匠様ぁー…………。助けて下さいよぉ…………」

「流石の私でもできん。ほれ、魔王様が御出でになられたぞ」


 お師匠様の顔の動きに合わせて私もその視線の先を見るように姿勢を変える。

 そして、ステージに降り立った魔王様に対してすぐに土下座を披露した。


 「ん?お前は確か、ウィッチマスターの深淵の魔女だったか?そこでダンゴムシみたいに土下座している娘はお前の弟子か?」

「左様でございます、魔王様。この娘は月読の森の魔女クゥネル・ロコトムスでございます」


 お師匠様、なんで私の名前をさらっと伝えちゃってくれてるんですか!?

 とはいっても、魔王様から訊かれたら答えるしかないんだけど。


 「面白い。お前の弟子で、あの魔力量だ。面白いバトルができそうじゃないか。なぁ?クゥネルとやら?」


 頭上から聞こえる魔王様の声はとても楽しそうで、とても愉快そうで、とても、怖かった。


 「む、無理ですよぉ。私、戦闘なんてほとんどしたことなくって、お師匠様からも攻撃魔法の使用は禁止されていたくらいなんですから!」

 さらっとお師匠様に断らせるために名前を出してみて、顔を少しだけ上げてお師匠様の顔を見てみる。が、お師匠様は皺が深く刻まれた顔に諦めの表情を浮かべながら首を小さく左右に振る。

 つまり、魔王様のお言葉を覆すことはできないということなんですね!?お師匠様!!


 「魔王様。このクゥネルとの戦いを望むのでしたら、条件を付けてもよろしいでしょうか?」

「この俺に手加減をしろとでも言うのか?魔女よ」

お師匠様の言葉に、魔王様は少しだけ不機嫌そうに言葉を返してくる。

「いえ。魔族とは強き者を尊ぶもの。魔王様に手加減をして欲しいとは申しません。ただ全力で一撃、その攻撃のみにしていただきたいのです。クゥネルに戦いの経験はほとんどありません。魔王様と何度も切り結ぶことは酷というものです」


 はい。死んだ。

 死にましたよ、私。

 まだ十八歳になったばかりなのに。

 お父さんお母さんゴメンナサイ。お酒の勢いで失敗しちゃいました。

 次に生まれ変わったら、私、お酒を飲まない堅実な生き方をします。

 全力の魔王様の一撃なんて、私が粉になることもなく消し炭になることもなく、消滅しちゃうじゃないですか!!


 「かなり変わった要望だが、よかろう。俺は一度だけ攻撃をする。そいつを受けきったらクゥネルの勝ちとし、魔王の位もくれてやろうではないか」

「聞き入れて頂き、ありがたく存じます。魔王様。さて、クゥネルや。いつまでもダンゴムシの真似事などせずに立ち上がりなさい」

「うぅ……。いやだなぁ…………。お師匠様ぁ…………」

いつまでも土下座しているわけにもいかず、お師匠様に急かされるようにして立ち上がり、改めて魔王様の姿を見る。


 この魔王様になってから、大体四年くらいだったかな?前の魔王様が人間領との境界で人間の勇者に破れて力を失い、その後すぐに即位した魔王様。

 先代よりも強く、魔族領に攻め込んできた勇者を返り討ちにしたというのは記憶に新しい。


 黄金であって夕日のような熱を感じるタテガミが雄々しさを際立たせている、筋骨隆々とした獅子獣人の魔王様は、並んで立つと、立ち上がった私でも子どもに見えるくらいに大きく、そして、威圧的だった。戦士として魔王様に敵う者はこの魔族領には居ないだろう。全身から体内に循環されきれない魔力が溢れていて、近くにいると多分低位の魔族だと気を失うくらいだろう。

 私が何とか立っていられるのは、一応曲がりなりにも魔力操作のスペシャリストの魔女だっていうのはある。


 「クゥネル。こんなことになったのも、お前が生活で油断した結果。まったく、手のかかる弟子に育ってしまったわい。攻撃魔法は勝手に解禁したみたいじゃが、指輪は解禁しておらぬな?」

「あ、はい。指輪はちゃんとつけてますよ、お師匠様。……って、それよりも助けて下さいよぉ。無理ですよぉ。遺骨も残らないで、お父さんとお母さんに申し訳ない結果になっちゃうじゃないですかぁ……」

「泣き言を言うでない!……クゥネルや、指輪を外すことを許す。全力の防御結界でその身を守るのじゃ」

お師匠様はお説教してくると思ったら、真剣な眼差しで私に命じてきた。


 「……私、死にませんよね?お師匠様」

「お前の集中次第じゃ。私は客席の防御結界を他の魔女仲間達と万全にせねばならんのでな。健闘を祈るぞ」


 そう言い残して、お師匠様は観客席に戻っていく。

 私も死にたくはないし、お師匠様に昔渡された、左手の中指にはめているお守りの指輪を外した。


 気の所為かな。

 ちょっとだけ体が軽くなった気がした。


 「ん?少しだけ空気が変わったか?だが、そんなことはどうでもいい。色々無駄に話すのは俺の趣味じゃないんでな。一気に行く!」


 魔王様は全身に魔力を漲らせ、溢れ出す魔力は黄金の業火のように全身に絡みつき、魔王様を何倍にも大きく見せる。

 魔王様は近接戦闘に特化した強さを持っている。先代は魔法による中遠距離戦闘の方が得意だったけれど、タイプが全くの逆。


 私はお師匠様の言いつけに従い、半径一メートルほどに全力で分厚い防御結界を幾重にも展開した。

 それを確認した魔王様はニヤリと笑い、構え、瞬間、『行くぞ』という言葉と同時に大地を吹き飛ばす勢いで蹴って拳を振ってきた。


 涙目になりながら割れていく防御結界を維持することに全力を注ぎ、割れた先から更に新しく結界を展開していく。

 衝突の衝撃で闘技場のステージは脆くも崩れていき、私が立っている場所だけ辛うじて原型を留めている。


 魔王様の攻撃が終わるのが先か、私の魔力が尽きるのが先か。

 私だって生きたい!生きていたい!!

 お酒はもう飲まないようにするけど、魔女仲間とまたお茶したりもしたいし、恋人だってほしいし結婚だってしたい!!

 だから今こんなところで、魔王様の力に負けたくない!!


 強く思った瞬間に防御結界が一際光って、まぶしくて瞬きをした間に爆発音が聞こえ、目を開けると魔王様が闘技場の客席を守っている防御結界に衝突して地面に崩れ落ちていた。


 「しょ、勝者、クゥネル・ロコトムスっっっ!!!!!」


 ちゃっかりと客席に避難していた審判が、会場全体に響くような大声で叫んだ。


 「えぇぇえええー--っっっ!!?」

それに負けないくらい、私も驚きに声を上げて審判の顔をガン見した。


 「イテェな……ったくよぉ……」

起き上がった魔王様がブツブツと文句を言うように呟きながら私の前まで歩いてくる。

「クゥネル・ロコトムス!」

「は、はい!!」

「お前を魔王に任命する」


 名前を呼ばれ、叱られる、怒られると思った瞬間、魔王様は思っていたこととは違うことを言ってきた。


 「え?なに?魔王?……いやいや、魔王様がいるじゃないですか、ちゃんと」

いまいち何を言っているかわからなかったから、私は冗談っぽく手をパタパタさせながら言ってみる。


 「いや、今からお前が魔王だ」

魔王様は無慈悲にも、さらっと同じことを私に言ってきた。




+-+-+-+-+




 そして、冒頭に戻る。


 私は魔王になることを全力で否定した。

 否定はしたが、魔王様はそれを許してくれ無さそうな雰囲気で、少し腰を落として私の顔の高さに顔を合わせてくれて、そして、刺さるような痛い視線を全力で向けてくるから、全力で目を逸らす。


 「ただの若いだけの魔女が、俺の全力の一撃を防ぎきった上に反射攻撃で俺を吹き飛ばしてくるわけがねぇだろ」

ん?魔王様、ちょっと口調変わってない?


 「いやぁ、その……ただ無我夢中だったというか、なんというか、がんばったらできちゃいましたってこと、無いですか?魔王様にも」

「頑張って俺の攻撃を防いだ上にカウンター喰らわすことができるんなら、あの勇者達だって俺を倒すこともできただろうよ。力の差だ、力の差」


 ストレートな正論で返されて、私はさらに脂汗をかく。

 緊張しすぎてヤバい。


 「えぇっと、でもやっぱ魔王になるなんて無理っていうか、ほら、私、薬を作るくらいしか脳が無いですし、お父さんもお母さんもびっくりしちゃうというかぁ…………」


 「…………そんなに魔王になるのが嫌か?」

少しだけ考え込んでから訊いてくる魔王様に、私は脊椎反射で答える。

「イヤです」


 あぁ、多分私不敬罪とかで捕まるかも。

 言った後で後悔しちゃうあたり、ホント私は迂闊なんだろう。


 「じゃあ、魔王以外だったらいいのか?」

「まぁ魔王じゃなければ…………まだいいですよ」


 と、言った瞬間に魔王様はニヤリと笑った。

 あ、これまた選択ミスったパターンだ!!


 後悔する間も与えてもらえずに魔王様は大きな手で私を抱え上げて、お姫様抱っこをされてしまう。


 「魔族領の者達よ!俺は魔王を辞退したこの若き魔女、クゥネル・ロコトムスを嫁にするッッ!!」


 お姫様抱っこされるだけでも恥ずかしくて顔が真っ赤になったのに、魔王様の私の意思関係なしの宣言に、さらに顔を赤くしてしまう。

 そして、ようやく頭が少しだけ動くようになってから、抗議の視線を魔王様の顔に送る。が、魔王様は私の視線に気づいて顔を私に向けてくれた後に、またあの笑い方をして言ってきた。


 「魔王以外だったらいいといったのはお前だぞ?クゥネル」

「で、で、でも、あの、私、その、男性とお付き合いしたことなんて…………」

言ったけど、確かに言ったけど!

 でも、だからって嫁になんて聞いてない!いや、魔王以外とは言ってたけど!


 「大丈夫だ。俺も女と付き合ったことはねぇからな。お互い初めて同士だ。安心しろ。獣人は生涯に一人と決めた番を大切にする種族だ。…………一生大事にするぜ、クゥネル」


 「いや、でも、その、エルフとかサキュバスとかカーミラとかハーピィとか、私より綺麗でしっかりした人達っているじゃないですか!そっちの方がいいと思います!!お師匠様を見てください!魔女なんて、年行ったらしわしわですよ?しわしわ……!」

必死に言葉を紡いでどうにか意思を曲げてもらおうとするけれど、返されたのは、なんかすごく呆れたり疲れたような色が滲んだ溜息だった。


 「淡雪のように透き通る白い肌。風に揺れる菫色の緩やかに軽い艶やかな髪。俺に抱き上げられただけで真っ赤になる初々しい可愛らしい反応。深淵の魔女に大事に育てられた魔女というだけでは説明できない圧倒的な魔力―――。俺がお前に魅力を感じない理由がどこにある?」


 ちょっと混乱していた私でもわかった。

 これ、ガチの告白だ。

 視界の魔王様の顔も、どこか緊張しているように見えた。


 「…………あの、魔王様も緊張してます?」

「当たり前だ。娶りたいと思った女はお前が初めてだからな。クゥネル、魔王にならなくてもいい。だが、魔王の俺を支えてくれないか?一番近くで」


 真剣な彼の言葉に、私はしっかりと考えて、がんばって声を振り絞って―――。

 

「なら――――――」




+-+-+-+-+




 「魔王様、今日もお疲れさまでした」


 魔王城の中にある一室で、私は入ってきた魔王様に声をかけながら走り寄っていく。

「クゥネル。二人だけのときは」

「―――そうでした。お疲れさまでした、オズウェルさん」


 私だけが許された、魔王様の名前を呼びながら、その鍛え上げられた逞しい体に抱き付く。

 とはいっても、抱き付いたところで身長差のせいで私の顔は魔王様のおなかに埋もれてしまうんだけど。


 魔王は孤独だと言っていた。

 強すぎる魔力のせいで、弱い者達は近づくことすらできない。

 近づくことができるような者達も、魔王という名前のせいで近しい関係になることは稀だ。

 そして、魔族領を狙う人間達の勇者からいつでも命を狙われる。

 魔族領の魔族達を人間から守る役目もあるから、いつ死んでもおかしくない。


 だから、魔王と同等以上の魔力を持ち、権力欲も無い私は貴重だと言っていた。

 もちろんそれだけじゃなくて、なんか私のことを放っておけないとも言っていた。


 一日の仕事が終わって、待っていてくれる者がいるだけで頑張れるとも。


 そして、意外と魔王様は若かった。

 魔王様は私より二つ上の二十歳で、十六歳という成人してすぐの年で魔王となったらしい。

 それでも、もう四年以上も魔族領を人間から守り切っているんだから、やっぱりすごく強い人だと思う。


 「落ち着くな。お前に抱きしめてもらうのは。……汗臭くはねぇか?今日は領境で激しい戦闘があったから……」

「頑張ってみんなを守ってくれてるオズウェルさんの匂いです。臭くなんてないですよ」

「そっか」


 大きな手が私の頭を撫でてくれる。

 魔王様の毛皮の毛と私の髪の毛が少しだけ絡まって、ちょっと硬い魔王様の毛が櫛のように私の髪の毛を梳かしていく。


 「そうだ。オズウェルさんが元気になるようにって、魔女仲間が体に良い薬草を沢山送ってくれたんですよ。だから、頑張って料理したんですよ。温かいうちに食べませんか?」

「クゥネルの手料理はうまいからな。魔女達にも感謝しねぇとな」

魔王様の体から顔を離して顔を上げ、彼の顔をしっかりと見ながら言って、手を握る。


 「はい!私もオズウェルさんを支えるために頑張ってますから、みんなも応援してくれます!」


 二人でテーブルを囲み、二人でその日あったことを話したり笑ったり、穏やかな時間が流れるのをこの身に感じる。


 本格的に結婚式を挙げるとなったとき、いろんなことがわかった。

 というか、私が知らな過ぎたんだけど。


 まず、私が魔王様レベル以上の魔力を持っていた理由だけど、それは両親にあった。

 私の父は先代の魔王の魔人。それこそ、人間の勇者に敗れて引退した元魔王様だった。

 顔は何度も見ているけれど、魔王様としての顔なんて一度も見たことが無い。元魔王様、というかお父さんは魔王として君臨しながらも、一般への露出をすごく避けていたらしい。だから、私は今の今まで、お父さんは出稼ぎ労働者の類だと思っていたくらいだ。

 そして、母は魔女のウィッチマスターの一人であり、お師匠様の元弟子でもあった。家では普通の魔女だと思っていたのに。


 お師匠様が私にくれたお守りの指輪は、成長限界を知らない私の魔力を抑え込んで周りに悪用されないようにするためのマジックアイテムだった。


 言ってくれればよかったのにと言ったら、お師匠様や両親からは、『お前は迂闊なところがあるし危なっかしいから言えるわけないだろ』と口を揃えて言われ、魔王様に助けを求めようと視線を送っても、『まったくもってその通りだ』としか言われなかった。


 闘技会で勝てた理由も、一回戦から三回戦は、私の『嫌だ・怖い』という感情が魔力に反応して、私の運が上がる魔法が発動していたらしい。

 準決勝は、適当に振り回していた杖に魔力がこもりすぎて攻撃力が上がったせいだった。

 決勝戦は、指輪無しの全力状態の魔力ではないにしろ、全盛期のお父さんレベルの魔力で攻撃魔法を発動させようとしていたことから、側近さんが驚き棄権したとのことだった。


 血統怖い。


 ちなみに、あの闘技場で言っていたように、魔王様は私をとても大事にしてくれる。

 子どもじみたからかいとかも言われることもあるけれど、そんなところもなんだかかわいらしいというか、愛おしいというか。

 私もちゃんと言い返すときは言い返すけどね?

 言い返しきれずにいつも言いくるめられているような気もします。


 なんだかんだで怖いと思っていた魔王様は、若くして責任感に駆られて勇者討伐をしたくらいなんだし、基本はとても真面目で誠実な人なんだって思う。

 だから、そんな彼の強い部分を見たり、年相応の若者みたいな日常の反応を見たりしたら、そりゃあ好きになっていきますよ。


 そして、私のことを案じてか『クゥネルが俺のことを好きになってくれるまで、子作りをせがむことはしねぇ!これは、俺の男としてのケジメだ!!』って言って、抱きしめたり抱きしめられたりはあるけれど、キスとかその先とかはまだ経験していない。


 でもさ、それって、私からそういうことしようって言わないといけないってことなのかなぁとか考えてしまう。

 それって恥ずかしいことだし、抵抗感があったりするんだよ?


 というか、むしろ気付いてほしい。

 結婚してもう三か月は経つんだし、なんだかんだで誠実な魔王様のことを、割と早い段階で好きになっていたんだよ?


 二人でご飯を食べ、湯あみをし、二人並んで大きなベッドに身を投げ出して、慣れたように伸ばされた魔王様の逞しい腕を枕にして眠りに付こうとする。今日も。


 「おやすみなさい、愛しいオズウェルさん―――」

 「あぁ、クゥネル」


 今度はちゃんと、私が私の意思で『打倒、魔王様(の鉄の意志)!』をしようと心に誓いながらも、魔王様に襲われることもなく、私が襲うこともなく、腕枕の温もりで微睡んで今日も深い眠りに落ちていった――――――。

短編ですが、最後まで読んでいただきありがとうございました!


なんか急に魔女と魔王の話を書きたくなったので書いちゃいました。

最初はバトル系のチート系にしようかどうか悩んだりはしたんですが、結局はバタバタラブコメ系になりました。二人が末永く幸せであらんことを。


※評価や感想やレビュー、いいねなどを貰えると、作者はとても喜んじゃいます!※




物語中の登場人物ですが一部の設定だけ。


主人公:クゥネル・ロコトムス(18)

魔女。月読の森でのんびりと薬作りをしている。菫色のゆるふわロングヘアーに黒い魔女の帽子をかぶり、ベージュのロングワンピースの上に黒の魔導士ローブを羽織っている若い魔女。なお、お酒は強くはない。身長155cmで、線が細く、魔王からすれば子どものように感じられる身長差。わりとちょろい。


魔王:オズウェル・エンリーオ(20)

現魔王の獅子獣人。前魔王が勇者によって倒された後に現れた魔王。魔力を纏い自身の肉体を強化しながらの肉弾戦が得意。16歳で魔王デビュー。中身は初心で誠実ながらも、すこしこどもじみたところもある青年。身長230cmで、筋骨隆々なガッチリ体型。


深淵の魔女(101)

クゥネルの師匠で、あらゆる高等魔法の使い手である魔女<ウィッチマスター>。頼りになるおばあちゃんポジション。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] とても面白かったです! 素敵な作品をありがとうございました!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ