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魔導士ハロルド


 レベル1

 マナ 13/100


「なかなか上がらないな」


 アルクの町には、あまりツボやタルを置いてないようだ。

 他の町ではよく見かけたりするのだが。


「地道にやっていくしかないか」


 俺は中央広場に向かうことにした。

 前に来たとき、ツボが並んでいたのを思い出したからだ。


 そして広場に向かう途中、思わぬ人物が路地裏から現れた。

 茶髪でローブを着た男。


 体つきを見たところ、あまり鍛えてる様子はない。

 純粋な魔導士といったところだろう。


 薄笑いを浮かべながら彼は口を開いた。


「探したぞ、ラルフ・メイスン。いや、それとも無能と呼んだ方がいいか?」

「誰だ……」


 まったく見覚えのない顔だ。


「僕はハロルド。魔導士をやっている」


 聞いたことない名だ。 

 だが、単なるチンピラと違うのは雰囲気で分かる。


 どうやらハロルドは俺が追放されたことまで知っているようだ。

 フランが知らなかったから、アルクの町までは広まっていないと思っていた。


「その様子を見ると、僕が一番乗りということだな」

「何の話だ」

「これを見ろ」


 彼は俺に一枚の広告を見せた。

 そこには『剣聖イアン・メイスン、弟子を募集』と書かれていた。


 俺が無能だったので、父上は俺の後釜を探しているのだろう。

 ずいぶんと対応が早く感じるが、きっと父上も焦っているのかもしれない。

 まだ自分の強さを維持できているうちに、後継者を作っておきたいのだ。


「僕は剣聖の弟子になりたい」


 ハロルドはどう見ても魔導士だが、別に不思議ではない。

 剣聖の技は素晴らしく、覚えておくだけでも意味がある。


「それが俺に何の関係があるんだ」


 もう俺はラルフ・メイスンではなく、ただのラルフなのだ。


「まだ自分の置かれた立場が理解できていないようだな」


 ハロルドは俺の言葉に顔をしかめた。


「いいか。剣聖の弟子になりたい奴は、この国には腐るほどいる。そんな奴らから一歩抜きん出るためにはどうすべきか」

「俺を倒すってことか?」

「そうさ。たとえ無能と言っても息子の首を差し出せば、剣聖も一目置くだろう」

「おまえ勘違いしてるよ。父上は俺のことなんかもう忘れてる。俺に価値はないよ」

「それはおまえが決めることじゃない。もうレースは始まっているんだ。悪いが、ここで消えてもらうぞ」


 ハロルドが右手を上げると、彼の前に杖が現れた。

 魔法は杖がなくても使用できるが、杖を持つと威力と精度が格段に上がる。


 また、杖を持っていないと使用できない魔法もある。

 真面目に魔法を学んでいるなら、基本は杖を装備するものだ。


 俺もハルバードを構えた。


 このタイミングで武器を手に入れられたのは運が良かった。

 まだレベル1で傷つく恐れもあるが、そうも言ってられない。


 背を向ければ、魔法を撃たれてやられる。

 これは逃げられない戦いだ。


「ふっ」


 ハロルドが力むと、杖からバチっと火花が発生した。

 それが戦闘開始の合図だった。


「ロ……」

「縮地!」


 相手が呪文を唱えるまでに、俺は『縮地』を使用して距離を詰める。


 最近では様々な対策法はあるが、やはり魔導士の弱点は接近戦。

 魔法を発動するまでの数秒間で勝負を決める。


「はああっ!」


 ハルバードを振り、肩口に切りかかった。


「ロックシールド!」


 地面が変形し、ハロルドの前面を塞ぐ壁となった。


 俺の攻撃は通らず、弾かれる。


「……くっ」


 魔法の発動スピードが速い。


 そして。


「……硬い」


 立ちはだかる岩の壁はまるで鋼鉄のようだ。

 おそらく事前に準備し、かなりの魔力が練られているのだろう。

 俺の斬撃では岩肌が少し削れるだけで、全くの無力だ。


「クレイドール」


 周りの地面から粘土が溢れ出し、人形の姿になった。

 サイズは等身大だが数が多い。十体以上はいる。


 土人形が迫ってくる。


 だが、怖くはない。

 動きは鈍重。攻撃も殴ってくるだけでワンパターン。

 『ロックシールド』と比べれば作りも荒く、いくつもヒビが見える。


 これなら、やれる。

 俺はハルバードを横に振り、二体の首をはねた。

 続けざまに振り返って、背後の人形を縦に切り裂く。


 人形は糸が切れたように、体がドロドロに崩れていった。


『マスター。見てください』

 

 レベル1

 マナ 37/100


 マナの量が増加している。

 土人形を倒したおかげだろう。


 倒した数は3体だから、マナの増加量は1体につき8ポイント。

 10体以上はいるから、全て倒せば100ポイントは超えるはず。


 レベルを上げれば、ロックシールドを破れるかもしれない。

 まずは人形を全滅させることにしよう。


「ロックショット」


 魔法で小型の岩を飛ばして来たが、俺は『縮地』でかわした。

 攻撃面は大したことはない。

 ロックシールドにリソースを割きすぎてるのか。


「やああっ!」


 斧槍を使って、前方の二体を突き刺す。

 それから、もう四体。レベルアップが見えてきた。


「……ちっ」


 舌打ちすると、ハロルドが地面で杖を叩いた。

 何が来ようと縮地で避ける。


「縮……」


 足が動かない。

 土人形の死体が俺の足にへばりついているのだ。


「……しまった」

「ロックプリズン!」


 俺を取り囲むように、土の壁が形成された。

 上下左右、もう逃げ場がない。


「……ふん。頑張っていたが、ここまでのようだな」


 壁の向こうから、勝ち誇ったような声が聞こえる。


 自信があるのだろう。

 実際、この壁は『ロックシールド』と同様に硬くて俺では歯が立たない。


 レベル1

 マナ 85/100

 

 マナも足りてない。

 あと二体を倒せば、レベルアップできたんだが。


「悪い。初戦でいきなり負けた」


 俺は謝るが、ニナは諦めていないようだ。


『マスターは負けてませんよ』


 だが、俺には手がない。


『アレを使うとしましょう』

「アレって、何だ?」

『Pブレイク。簡単に言えば、必殺技です』


 この武器には必殺技なんてあったのか。


「だったら何で最初から使わない? 使ってたら勝ててただろ」

『Pブレイクにはマナが必要だからです。使用すれば全てのマナが放出されます』


 つまり、今ある85ポイントのマナは全てなくなるということか。


『ですが、放出したマナの量が多いほど、威力と効果がアップします』


「レベルアップは?」

『あきらめてください』


 まあ。いいだろう。どうせ100ぐらいなら、すぐに溜められる。


「よし! やる」

『では、Pブレイクと叫んでください』

 

 俺を息を吸って、声を張り上げた。


「Pブレイク!!」


 キィィィィィン!


 ハルバードの全体が真っ赤に輝いた。

 体が燃えるように熱くなる。

 力がみなぎってくる。


「はああああっ!」


 俺はロックプリズンを縦に切り裂いた。


 ガラガラと音を立て、岩の壁が崩れ去っていく。


 勢いよく外に出ると、ちょうどハロルドが新たな魔法を使うところだった。


 だが、攻撃しても俺は『縮地』で避けられる。


「おまえ、どうやって出てきたんだ」


 ハロルドの顔が青ざめている。


 俺はステータスを確認する。


 レベル1

 マナ 40/100


 Pブレイクは全てのマナを放出するから、数値は0になるはずだ。

 おそらく、この数字はロックプリズンを破壊したことで取得したマナなのだろう。


「40か。ギリギリいけるか」


 俺は『縮地』で距離を詰め、ハロルドに切りかかった。


「バカめ! ロックシールド」


 彼の前に土の壁が現れた。


「Pブレイク!!」


 赤く輝くハルバードで、俺は横なぎに壁を切り裂いた。


 バキイイィィッ!


 鈍い音がしたが、壁は壊れなかった。

 大きな傷はできたが、なんとか持ちこたえている。


「……ふう。驚かすなよ」


 やはりマナ40では破壊しきれない。


 だが、これならどうだ。


 さらに俺は技を使用した。


「地獄突き」


 ハルバードを両手で持ち、数百発の突きを放った。


 壁にいくつもの穴ができ、その穴がどんどん大きくなっていく。

 ついに土の壁は完全に破壊されてしまった。


「バカな。この僕のロックシールドが」

「あとはお前だけだ」


 ハロルドは、その場に跪いた。


「まいった。僕の負けだ」


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