Pウエポン
ミーナから貰ったペンダントは、『Pウエポン』という最新兵器。
武器の種類はハルバードだった。
『こんにちは。マスター』
斧槍から聞こえてきたのは、落ち着いた女性の声だった。
『私はパーフェクト・ウエポン。製造番号027』
「名前は?」
『ありません』
「じゃあ、これから名前はニナだ。『027』だから」
『了解しました。私はニナ』
「気に入ったか?」
『はい』
さっそく俺は触ってみることにする。
「いやいや、待ってよ」
「フラン。どうしたんだ?」
「武器が喋ってるんだよ。名前がどうとか以前に、そこに反応すべきでしょう」
ああ、そうか。最近は【剣悪感】で剣の声が聞こえるから忘れていた。
普通の武器は喋らないものだ。
それに、いきなりペンダントが武器に変化したのも、特殊な能力だ。
「凄いな。ニナ。上手に話せて」
『お褒めいただき光栄です』
俺はハルバードの柄に手をかけて、持ち上げてみた。
「……軽い」
これが最初の感想だった。
しかし、軽すぎて扱いにくいというわけではなく、しっくりくる重量だ。
「はあああっ!」
力を込めて、振ってみる。
ヒュッ! ヒュッ!
空気を裂くような良い音がした。
久しぶりの感覚だ。
武器の素振りをやったのなんて、もうずいぶん前のような気がする。
「うん。こりゃあ良い武器だな」
武器の選び方には、切れ味や耐久力などが重視される。
でも、俺が最も重視しているのは、フィーリングだ。
自分に合うかどうか。それが大切だと思っている。
その点で、この武器は完璧だった。
まるで自分の身体の一部みたいに、自由自在に動かせるのだ。
お世辞でもなんでもなく、これほど使いやすい武器に初めて出会った。
「さすがレア武器だ。フランもそう思うだろう?」
「……そうかな」
フランは俺の素振りを見ていたのだが、どうも納得していないようだった。
「たしかに良いとは思う。けど、今のままじゃ平凡な武器だよ。知能があって、お喋りはできるけど、それでも武器としては普通だよ」
わざわざ他の武器と区別されて、『Pウエポン』と呼ばれているのだ。
それに武器ではなく、兵器という呼び方もされている。
他にも何か隠れた秘密があるんじゃないのか。
というのがフランの意見だ。
「ニナ。何か秘密があるのか? 極大魔法が撃てたり?」
『魔法は撃てませんが、秘密はあります』
ニナが呪文のようなものを唱えると、俺の前に透明な板が現れた。
板には文字が書いてある。
レベル1
マナ 0/100
「なんだこれ?」
『これはステータス。私のレベルとマナの蓄積量です。今は数値が0になっていますが、数値が100まで溜まると、レベルの数値が2になります。レベルが上がると、私の武器としての能力が一段階アップします』
「つまり?」
『私は強くなることができるのです』
要するに、ニナは『成長できる武器』ということか。
それが本当なら、凄いなんてものじゃないな。
レベルを上げるためには、まずマナを集めなければならないが。
『マスター。何かを切ってくれませんか』
俺はお店の中にあるタルに目を付けた。
「やあああっ!」
ハルバードで、タルを切る。
タルは一発で粉々になった。
それから、もう一度、ステータスを確認してみると。
レベル1
マナ 1/100
マナの数値が上がっている。
『物を壊した場合、取得できるマナの量は1です』
レベルアップをするためには、あと99個のタルを破壊する必要があるのか。
あまり効率はよくない。
「もっと簡単に上げられないのか」
『それならモンスターですね。彼らを倒せば、より多くのマナを取得できます。強ければ強いほど、取得できるマナの量も多くなります』
モンスターはこの辺りにも数多くいるし、量には困らない。
だが、雑魚狩りをしているときに、たまたま強いモンスターに遭遇する可能性もある。
まだレベルが低いうちに、ニナを壊すようなことはしたくない。
「とおっ!」
バキンッ!
タルを壊した。これでマナの数値は2になった。
しばらくはこうやって物を壊す。
レベルがいくつか上がったら、モンスターに挑むことにしよう。
「……でも、けっこう退屈だな」
『マスター。あれなんてどうでしょうか』
「あれって、鉄の箱のことか?」
『はい。固い物を壊すと、マナの取得量が上がることがあります』
まあ、タルだと柔らかすぎるしな。
「やあああっ!」
「ちょっと待てっ!」
後ろから、フランに止められた。
「なんで、お店の中で、破壊行為をしてるの?」
今、俺たちがいるのは鍛冶屋の中である。
「固いこと言うなよ。町でタルを破壊するのは定番だろ?」
「やるなら、外でやりなよ。 壊すものぐらい落ちてるでしょ」
俺とニアは店から追い出された。