大会当日
「フフフフッ! ハハハハッ!」
『楽しそうですね』
当然だ。
明日はついにウェールズ武術大会。
剣聖と戦うことができるのだ。楽しいに決まっている。
「父上の驚く姿が早く見たいぜ」
『勝算はあるんですか?』
「勝てる……はず」
『はず? 確率で言うと?』
「9割」
『おお』
「……やっぱり8割……7……6……5割」
『一気に5分5分になっていますよ』
イメージトレーニングはやった。
勝てるヴィジョンは見えている。
まずは父上に切られて、次に切られて、それから切られて。
俺は慌てて防御するが、やっぱり切られて……。
「まるで勝てる気がしないっ!」
『どっちなんですか?』
だって父上は強いのだ。
でも、とりあえず戦ってみないことには始まらない。
それにもしかしたら、運良く勝てるかもしれない。
「大丈夫。ニナがなんとかしてくれる。土壇場で覚醒して、父上をワンパンするんだ」
『無駄に期待されても困りますけど』
さて、大会も明日に迫っているのだ。
フランの鍛冶屋で、ニナの整備をしてもらっておこう。
「こんにちはー」
中に入ると、そこには見覚えのある人がいた。
「シルカ。それにシーニャも。何故こんなところに」
「明日は大会だから、武器を診てもらってたんだ」
俺と同じ理由か。
アルクの町で鍛冶屋と言えば、この店だ。別に不思議ではない。
「普段は店になんて来ないんだが、姉さまが鍛冶師に頼めと」
「シーニャが正しいよ。武器は大切にすべきだ」
大会前は、俺も通い詰めている。
ニナは嫌がるが、壊れたら俺が困る。
「これからどうするんだ?」
「魔導士対策をしたいから、姉さまと模擬試合を」
「いいな。俺も混ぜてくれよ」
「またか。構わないが」
「ちょっと待っててくれ。すぐ終わらせてくるから」
俺は鍛冶屋のカウンターにハルバードを置いた。
「頼んだ」
「……うん」
フランの顔色が優れないな。
何かあったんだろうか。
「調子が悪いのか?」
ドルクは遠出することが多く、あまり店にいない。
だから、この店は彼女が一人で経営しているようなものだ。
大会前で武器の整備に来る人も多いし、疲れが出てきてるのかもしれない。
「無理するなよ」
「……あっ、違うよ。あたしは元気だから」
どう見ても、元気そうに見えないんだが。
「……聞いてもいい?」
フランは小さい声で質問した。
「……あの二人、誰?」
シーニャとシルカのことだろうか。
「仲間だよ。ダンジョンにも一緒に潜ってる」
「……そっか。仲間かあ」
フランが息を吐いた。
「仲間なんだよね。仲間。仲間……」
「本当に大丈夫か?」
「うん。あたしは元気。頑張るよ」
そのとき、シーニャがこっちにやってきた。
「ラルフくん。これすごく強そうだよー」
柄頭にトゲトゲの鉄球が付いた武器を持っている。
モーニングスターだったか。
「おっとっと」
シーニャがバランスを崩したので、俺が体を支えてやる。
「もう気を付けろよ。危ないぞ」
ガシャーンッ!
斧槍が床に落ちた。
……ニナを落とさないで欲しいんだが。
「……仲間?」
「だから、仲間だって」
「そうだよね」
そのまま、「……仲間」と呟きながら、階段を昇って行く。
不安だな。
何か悪い物でも食べたんだろうか。
*
そして、大会当日。
「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」
俺は頭上でハルバードを振り回した。
「おまえがやる気なのは、よくわかった。邪魔だから、武器をしまってくれるか」
武術大会は王都でも定期的に開かれているが、あちらはお祭りのような雰囲気だ。
一方、このウェールズ武術大会は、主催者の関係でコアな武術ファンが多い。
闘技場までの道のりでも、人々はみな目がぎらついてたり、体つきが良かったりする。
「騎士団や武術系組合の関係者も見に来てる。好成績を残せば、スカウトされることもあるんだ」
「へぇ。詳しいな」
「私もスカウトを狙ってるからな」
そうだったのか。それを目指してるから、強くなりたかったんだな。
「まあ。余裕だろう。俺とシルカがいれば、全員ぶっとばせる」
「そう上手く行けばいいがな」
シルカは意外と自信がなさそうだ。
「まあ、予定では俺が1位でシルカが2位。それで、俺たちの目的は同時に果たせるわけだ」
『……マスター、ハイになってますね。ちゃんと寝ないから」
だが、残念なことに、この予定は狂ってしまった。
「なっ、そりゃあ、どういうことだよ」
「ですから、剣聖は出場を辞退されました」
父上が大会に来ていないのだ。




