護衛しよう
さて、賊は倒すことができた。
「大丈夫か?」
「はい。ありがとうございます」
俺たちは近くの飲食店に入って、話をすることにした。
「どうぞ。これは私からのお礼です。好きなだけ食べてください」
少女は俺にご馳走してくれるようだ。
俺は遠慮なく食べることにする。
「私はミーナといいます」
「俺はラルフだ。よろしく」
軽い自己紹介を終えたあと、俺は質問をしてみた。
「君の出身はどこだ? この辺りでは見ない恰好をしているけど」
初めて見たときから、気になっていたのだ。
「お気づきでしたか。実は私は、システナ王国の出身なのです」
システナ王国は、この国ロナンシアの隣国に位置する国のことだ。言われてみると、彼女の着ている服はシステナの民族衣装によく似ている。
ミーナがこの町にやってきたのは観光目的ではなかった。
彼女は冒険者で、この町には依頼のために通りがかった。
内容は荷物の運搬で、これから次の町に出発するところだったようだ。
「先ほどは、本当に助かりました。見れば分かると思いますが、私は戦闘は不得意なので、困っていたんです」
「でも、一応は冒険者なんだろ? それに、その脇にあるのは杖じゃないのか。魔法は使わないのか?」
「私は魔導士ですが、私の使う魔法は少し面倒なもので、こんな町中でバリバリ撃つことはできません」
そういったタイプの魔法もあるのか。
俺は魔法には詳しくないので、よく分からない。
「ですが、その悩みも、つい先ほど解決しました。私の前に、たくましい戦士が現れましたから」
「へぇ。それって……」
ミーナは微笑むと、俺をさした。
「え? 俺?」
「はい。ラルフさんに護衛してもらえば、きっと依頼も簡単に達成できるでしょう」
俺は外れスキル持ちの落ちこぼれだ。
剣聖である父親にも見限られ、追放されたのだ。
さっきの男たちの言ったように、無能な剣士なのだ。
俺みたいな奴に護衛されても、彼女がかわいそうだろう。
「悪いが、他を当たってくれないか」
俺は断ったが、彼女はまったく諦める気がないようだ。
「何かご都合が悪いのでしょうか? 外せない用事があるとか?」
「いや、特には……」
「では、決まりですね。これから、よろしくお願いします」
俺は、あっさりと押し切られてしまい、ミーナに同行することになった。
「ここから、まっすぐ進んで、隣町を目指します」
俺の行き先はグレンの町なので、方角は一緒だ。
それにミーナは地図と食料を持っている。道具屋で買えなかった俺には都合が良い。
「荷物を持とうか?」
「いえ。私も冒険者のはしくれ。依頼の品まで他人に預けることはできません」
「そうだよな」
「ラルフさんは危険がないように、周りを見張っておいてください」
俺たちは、だだっ広い草原をひたすら歩いていた。
と。
「グルルルルル……!」
魔物――グリーンウルフの群に遭遇した。緑色の毛並みが特徴の、すばしっこい魔物だ。
しかも口から粘液を吐き出してくるので、並の冒険者でも舐めてかかると厳しいかもしれない。
「ミーナ。さがっていてくれ」
「はい」
彼女は俺の強さには全く疑いを持っていないようだ。
落ち着いた様子で、俺のことを観察している。
だが、今の俺は丸腰だ。武器を何も所持していない。
先ほどの男たちは倒すことができたが、あれは彼らが三人とも剣を持っていたからだ。
だから、【剣悪感】を使うことで、丸腰でも敵を倒すことができた。
剣を持たないグリーンウルフの群れに対して、俺はどう戦うべきか。
「グアアッ!」
狼の一匹が、俺に襲い掛かって来た。
俺は両足に力を込めて、地面を蹴る。
「縮地!」
狼の攻撃をギリギリで回避すると、勢いに任せて、近くの狼を蹴り飛ばした。
「がうっ!」
狼は地面を転がって、そのまま倒れる。
「……これは使えるな」
今の技は『縮地』と呼ばれる移動技だ。使えば高スピードで動けるようになる。
父に教わった技だが、剣技ではない。
したがって、剣を装備してなくても使うことができる。
狼たちは一匹ずつでは無理だと思ったのだろう。
今度は数匹が一斉に襲い掛かって来た。
「縮地!」
高速でバックステップをして攻撃を回避。
さらに技を使用した。
「地獄突き!」
前方に向かって、数百のパンチを放った。
狼はうめき声をあげて盛大に吹き飛ぶ。
「……よし。こっちも使える」
この技は本来は剣による突きだが、応用すれば素手でも使えるようだ。
「……しかし、数が多いな」
俺が一回の攻撃で倒せるのは、多くても数匹だ。
狼の群れと戦うには、手数が足りない。
できれば、全体攻撃が欲しかったところだが、ないものは仕方がない。
面倒だが、一匹ずつ倒していこう。
そのとき。
「クウウウンッ!」
急に、狼の群れが顔色を変えて、逃げ始めたのだ。
後ろに何かあるのか。
俺が振り返ると、そこにいたのは新たなモンスターだった。
「なんだこりゃ……」
黒いクマのようだが、この辺りでは見かけないモンスターだ。
「ブレードベアです」
ミーアが説明する。
そう言えば、彼女は冒険者だったか。
「強さはA級相当になります」
「A級だって!?」
10階層以上のダンジョンでボスをやれるレベルだ。
さっきの狼たちとは格が違う。彼らが恐れをなして逃げ出したのも頷ける。
腕に覚えのある剣士でも、数人がかりでなければ適わない相手だ。
むろん、俺ひとりでも勝ち目は薄い。
剣聖である父上なら楽勝だろうが、外れスキルしか持っていない俺では普通に考えて無理だろう。
だが、ブレードベアは待ってくれない。
片手を上げて、俺に狙いを定めている。
あの腕に切り裂かれたが最期、俺の命はあるまい。
「縮地」
俺は地面を蹴り上げ、前方に素早くダッシュすると、そのまま敵の懐に飛び込んだ。
「地獄突き」
熊の腹に向けて、連続で突きを叩きこんだ。
衝撃によって、熊の体が後ろに追いやられる。
俺の攻撃が効いているようだ。
「……やったか」
「グオオオッ!」
いや、効いていない。
数百発のパンチを喰らっても、ブレードベアは無傷。何ともなさそうに、腹をさすっている。
たぶん、もう一度やっても無駄だろう。
その前に敵の攻撃を浴びれば、俺が負けてしまう。
敵がタフなのもあるが、それ以上に技の威力が弱すぎる。
『地獄突き』は剣を装備し、剣技として使って初めて強力な技なのだ。
「……くそっ。どうすれば」
俺が考えていると、どこかから声が聞こえて来た。
『やめてくれー』
わりと年齢の高そうな男の声だ。
声の主を探してみると、どうやら目の前のクマが聞こえていることが分かった。
「……まさか」
たしかに、名前には『ブレード』と付いているし、右腕に刃物のようなものが突き出てはいるが。
あれは剣なのだろうか。
剣と言うより、尖った棒じゃないだろうか。
『やめてくれよう。ラルフ・メイスンを近づけないでくれよう』
しかし、声は間違いなく、熊の右腕から聞こえている。
外れスキル【剣悪感】はモンスターにまで有効なのか。
「ようし。それなら……」
俺はクマの右腕に飛びかかり、両手で剣を掴んだ。
「ほら、触ったぞ」
『うわあああっ! やめてくれええっ! 触らないでくれええっ!』
パリィィィィィィィン!!
剣が粉々に砕け散った。
「グアアアッ!?」
クマが痛そうに腕を抑える。
クマにとっては爪のようなものだったのかもしれない。
俺は『縮地』で飛び上がると、右腕に向かって『地獄突き』を叩きこんだ。
「グアアッ!」
クマは大ダメージを受け、その場に倒れる。
「……やった」
俺はA級相当のモンスターを倒した。
外れスキル【剣悪感】。強すぎるな……。