消える魔法陣
「ウインドストライク」
『ウインドスピン』に続くシルカの二つ目の特技だ。
メイスの先端に、緑色のオーラを纏わせる。
直撃すれば複数の斬撃が発生して、俺の体が切り刻まれることになる。
「よっと」
俺はシルカの攻撃を、余裕を持って回避した。
「たあっ! やあっ!」
彼女は負けじと二連撃を繰り出す。
俺が大きく後ろにさがったので、メイスは地面に突き刺さった。
「なぜ、当たらないんだ」
シルカが息を切らしながら呟く。
「……ふっ。見えるからさ」
少し調子に乗ってはいるが、実際に彼女の動きは見えている。
よく『相手の動きが止まって見える』という言い方をするが、まさにそんな感じだ。
普段なら、相手の予備動作から次の行動を予測。
そこから俺の持ち前の身体能力を活かして、攻撃を避けている。
だが、今は会話しながらでも回避ができる。
モード〈スピード〉。これは本当に便利だ。
そして、更にここからスキルを使用すると。
「縮地」
「……なっ」
ほぼ一瞬で相手の背後を取ることができる。
「タッチ」
俺はシルカの頭に触った。
「……くっ。また後ろを取られた」
ちょっとした無双気分である。
「ヤバいな。最強だよ。これなら父上に勝つことも夢じゃない」
『ええ。ですが、マスター。忘れてるかもしれませんが……』
攻撃力↓↓ 防御力↓↓ 素早さ↑↑ 精神↓↓
『この状態では、攻撃しても相手にダメージは入りませんし、敵の魔法を受けることもできませんよ』
「……そうなんだよな」
俺の体力が上がるわけでもないから、長距離移動にも利用できない。
「うーん。もったいない。スピードだけなら、父上にも負けないかもしれないのに」
どうにか、このモードを有効活用できないものか。
「私、知ってるよ。ラルフくんのスピードを活かす方法」
シーニャには何か考えがあるらしい。
「姉さま。それはもしかして……」
「ついてきて。『セイホウ遺跡』へ」
「……やっぱり」
*
俺たちは『セイホウ遺跡』までやってきた。
「モンスターが出てこないな」
ちょっと楽しみにしていたのだが。
「この遺跡に出てくるモンスターは素材が高く売れる。冒険者たちの小銭稼ぎには最適なんだ」
「その代わり、人がやって来ると怯えて出てこないんだけどね」
今日、ここまで来たのはモンスターを狩るためではない。
俺たちは遺跡の地下5階まで進んだ。
目の前には扉がある。両手で開けるタイプの大きな扉だ。
「これを開けるのか」
軽く押してみるが、びくともしない。
鍵も見当たらないし、ドアノブもない。
「それは力では開けられない。ダンジョンのギミックだからな」
開けるには、特定の条件を満たす必要がある。
「私たちは前に来たとき、開けられなかったの。条件を満たせなくて」
「その条件というのは?」
「説明するね」
数百メートルに及ぶ長い通路があり、その端には魔法陣が設置してある。
「まずは、これを……」
シーニャが両足で踏むと、もう一方の端に魔法陣が出現した。
だが、少しすると、消えてしまった。
「あの奥の魔法陣を消える前に踏むことができれば、扉が開きます」
『消える魔法陣』と呼ばれる有名なギミックで世界各地のダンジョンにある。
まあ、要するに短距離走のようなものだ。
「単純だな」
「そう、単純。でも、シンプルが故に難しいの。必要なのはスピードだけ」
セイホウ遺跡は多くの冒険者により探索されている。
だが、この扉だけはまだ開けられていない。
トレジャーサーチというもので、中にお宝があるのは分かっているようだが。
「じゃあ、シルカも失敗したのか?」
「悪かったな」
シルカは決して身体能力が低いわけではない。
ここのギミックは本当に難しいということだ。
「さあ、ラルフくん。君の力を見せるときだよ」
「おう。任せとけ」
俺は魔法陣の前に立った。
起動させるためには、体の全てを魔法陣の中に入れる必要がある。
モード〈スピード〉に変更して。
呼吸を整えて。
スタートだ。
「縮地!」
魔法陣を踏んで、すぐにダッシュ。
自分でも驚くほどのスピードだ。
モードチェンジによる素早さの強化と『縮地』の組み合わせは良好。
ぐんぐん加速できる。
もうスタート地点からはだいぶ離れてきた。
だが、ゴールまでは距離がある。
もう一度、スキルを使用する。
「縮地!」
タイミングはばっちり。
スピードはまったく落ちていない。
もう半分を通り過ぎた。
ゴールが見えてくる。
「……え?」
魔法陣が消えかけてる。
嘘だろ。早すぎる。
俺は全力でやってるんだが、これは間に合うか……。
スキルが切れかけている。
「縮地!」
これが最後だ。『縮地』は重ね掛けできないから、あとは走り抜けるしかない。
魔法陣がどんどん薄くなる。
やばい。間に合わない。
速く。もっと速く。
「うおおおおっ!」
気合を入れて、ヘッドスライディング。
こうしなければ、ゴールまで届かない。
体が入った。
よし。
――カチッ!
扉の方で鍵の開く音がする。
際どかったな。
「あった。宝箱だ」
俺たちが中に入ってみると、部屋の中心にあるのは大きな宝箱だった。
しかも、色や造りから見て、これはレアものだ。
アイテムか装備か知らないが、かなり良いものが入っているに違いない。
「ラルフ。開けていいぞ」
「そうだよ。ラルフくんのおかげで手に入ったんだから」
二人に言われたので、俺が代表して開けることにする。
さあて、いったい中には何が……。
「……」
俺は固まってしまった。
「……ない」
そう。ないのだ。
宝箱の中には何も入っていなかったのだ。




