フランの父親
フランの父親の名前はドルク。
ドワーフ族の血を引いているからか、背丈が小さく口にはヒゲを生やしている。
ちなみにフランは全くドワーフっぽくない。
前に毛深いと嘆いていたが、俺にはそんな風には思えない。
背丈も女性として見れば、平均的。
まあ、ドルクの時点で純血ではないので、その血は薄まっているということだろう。
「おお。ラルフくんじゃないか」
「お邪魔してます」
「また大きくなったな。イアンに似てきた」
イアンとは剣聖。俺の父上のことだ。
「……はは」
俺は愛想笑いを浮かべた。
フランには時間を稼ぐように言われたけど、どうしろと。
幸いなことにドルクの機嫌はいい。
いや、この人は以前から俺に対しては、わりと優しかった。
なぜか俺のことを気に入っているのだ。
「ところで、フランはどこにいる」
「えっと、トイレにでも行ってるんじゃないでしょうか」
「ラルフくんを独りにしてか。まったく何をやっているんだ」
ドルクは裏口から入ると、まっすぐ進んでいく。
そっちには壊れている剣がある。
今、行かれるとまずい。
「あの。ちょっと待ってください」
「わしはこっちに用があるんだ。邪魔しないでもらおう」
「フランは向こうにいますよ。さっき見かけました」
そのとき、鍛冶場の方でカンカンと鉄を打つ音がした。
たぶん、フランが剣を修理しているのだろう。
「仕事中だったのか」
「はい。そうでした」
「ふむ。何をやっているのか拝見しておこうか」
俺はドルクの服を引っ張った。
「あいつ気が散りやすい質なんで。作業の邪魔はしない方かと」
実際には集中すると周りが見えなくなるが、今はどうでもいい。
「ずいぶんと娘に詳しいようじゃないか」
「いえ。そんなことは……」
「彼女のことが気になって、ついつい目で追ってしまうのか。若いな」
そう言って、俺の肩を叩いた。
「任せておきなさい」
何の話だ。
結局、ドルクの足止めには失敗。
彼は鍛冶場の方までやって来た。
「お父さん。お帰り」
フランは立ち上がって、笑顔で挨拶した。
俺はフランの横まで行くと、こそこそと話しかけた。
「……速いな。もう修理は終わったのか」
「……バカ。武器ってものは繊細なの。こんな短時間で治せるわけない」
見ると、彼女は大剣を背中に隠し持っていた。
途中で折れているので長さは半分だが、それでも前から見えている。
「……おい。せめて、どこかに隠せよ」
「……仕方ないでしょっ! ラルフに時間稼ぎしてもらう予定だったんだから」
俺たちは全く噛み合っていなかった。
前を見ると、ドルクが満足そうに頷いている。
「大丈夫。わしは何も言わんから。好きなだけ、お話しなさい」
ドルクの機嫌が良さそうなうちに、早めに謝っておこう。
俺が前に出ようとすると、
バチン!
「いたっ!」
なぜかフランの腕に電撃が走り、大剣を床に落とす。
「……あ」
俺は唖然として立ち止まった。
今までの【剣悪感】にはなかった効果だ。
どうなってるんだ。
「ふむふむ。ラルフくんが神様に貰った固有スキルは【剣悪感】で、その効果で剣を折ってしまったと」
ドルクにはだいたいのことは説明した。
「事故だったというわけか。しかし、それなら正直に話して欲しかったな」
「すみませんでした」
俺は頭を下げた。
あの剣は店の奥に展示してあったのだから、きっと大事にしていたのだろう。
「お父さん。治してごまかそうとしたのはあたしなの。ラルフも反省してるし、許してあげてよ」
フランも口添えしてくれた。
ドルクは考えこんでいる。
「許してやりたいが、その前にわしの頼みを聞いて欲しい」
「はい。ドルクさんの頼みなら、何でも聞きましょう」
「……ん? 今、『何でも』って言ったよね」
「え? 言いましたけど」
「わしの頼みというのはな」
一泊の間を置いてからドルクが続けた。
「フランを嫁に貰って欲しいんだ」
俺の代わりに反応したのは隣のフランだった。
「ええええええええっ!? ちょ、ちょっと、お父さん! 何言ってるの!?」
「娘は昔からラルフくんのことが好きなんだ」
ドルクからの衝撃のカミングアウト。
俺は言葉を失った。
「嘘っ! 嘘っ! 嘘だからっ! お父さん適当なこと言ってるだけだからっ!」
フランは必死になって反論しているが、ドルクは無視して話を続ける。
「鍛冶屋を継ぐ気になったのも、ラルフくんの力になりたいから。娘の行動原理にはいつもラルフくんが絡んでいる。この間なんてラルフくんに喜んで欲しくて、机の前でアレをアレして――」
「きゃああああああっ!」
「ごめん。フラン。よく聞こえない」
「それダメっ! 言っちゃダメな奴っ! あとなんで見てるの!? なんで知ってるの!?」
フランが興奮しすぎで内容がよく分からないが、とりあえず返事をしておく。
「あの、お気持ちは嬉しいんですけど、俺にはやりたいことがあって。結婚のことを考える余裕はないです」
「うむ。たしかに、ラルフ君にはまだ早そうだ。キスで手を打とう。娘に口づけしてくれたら、今日のことは水に流す」
「キスですか?」
「ああ。キスだ。お好みなら、それ以上のことをやっても構わんが」
「……いや、ムリ」
「実は、あのバスターソード、わしの自信作だったんだ。売れば、100万ゴールドはしただろう」
「……100万」
あの口の悪い大剣に、それほどの価値が。
いや、人は見かけによらないものだし、剣も外側だけで判断してはダメか。
「君が断るなら、弁償してもらうとしようか」
「やりますっ! やらせてくださいっ!」
俺は立ち上がって、フランの方を向いた。
フランは茫然としていて、否定する気力もないようだ。
「フラン。悪い。キスさせてくれ。俺のために」
俺は両肩を掴むと、彼女を引き寄せて、顔を近づけた。
「……い、いや」
「こらえてくれ。一瞬だから」
「いぃやああああああっ!」
フランは俺の顔面を殴り飛ばす。
それから、扉を蹴破って、外に逃げていった。
「……良いパンチだったな」
俺は口についた血を拭った。
「必死に拒んでいましたけど、本当に俺のこと好きなんですか?」
「ラルフくん。君はもう少し乙女心というものを知るべきだな」
ドルクには許してもらえたが、フランの方はどうだろう。
あとで、ちゃんと謝っておこう。




