ベクチオ山
「はい。元気になりましたよ。ケガしたら無理せずに私のところまで来てくださいね」
システィーに全快してもらったところで、ベクチオ山についての情報を聞いてみる。
「熊、狼、鳥などの獣タイプのモンスターが多いですね」
「厄介な状態異常や属性攻撃は?」
「レッドスネークというモンスターが毒を持っていますが、歩いていればすぐ回復します。厄介なのはそれぐらいでしょうか」
洞窟のときのようにならなければ、問題はない。
「クラウンバードを倒したいんだけど、何か知ってる?」
「斧槍で倒すのは難しいと思います」
「どういう意味?」
「当然ですが、彼らは空を飛びます。倒す場合は遠距離技が必須ですが、習得していますか?」
俺には『裂空斬』がある。
これは斬撃を飛ばす技で、かなり遠くの敵も攻撃できる。
名前には『斬』と付いているが、剣を装備していなくても使用できる。
「それなら、問題ありませんね」
俺はクラウンバードの生息場所を教えてもらった。
というわけで、ベクチオ山に入る。
『遠距離攻撃を持っていたんですね』
「そういや、ニナにはまだ見せたことがなかったな」
『どうして、今まで使わなかったんですか?』
「正直に言うと、苦手なんだ」
剣聖である父上に教わった『裂空斬』。
本来なら、命中率が100%の技なのだが。
俺がこれを使用すると、命中率が75%まで落ちる。
よく父上に怒られていた。
苦い思い出が蘇る。
『75%はわりと高いと思いますが』
「止まっている的に対して75%な。的が動いていたら、目も当てられない」
ベクチオ山をゆっくりと登って行く。
すると、目の前にモンスターが現れた。
赤いヘビだ。舌を出して、シャーシャー言っている。
「レッドスネークだな」
このダンジョンで初のモンスターだが、強さのほどはどんなものか。
スネークがこちらに向かってきた。
地面を這ってくるので、攻撃しにくいがベリーラットより遅い。
俺が斧槍で一突きすると、あっけなく倒れた。
牙には毒があったそうだが、それも披露できず。
「うん。たいしたことないな」
ステータスを確認してみる。
レベル 5
マナ 40/1000
「40!? 今のモンスターで、40もマナが入るのか」
ベリーラットの10倍のマナなんだが。
『おそらく私のレベルが上がって、火力が安定してきてるからでしょう。以前なら一撃で倒せなかったはずです』
「そうなのか」
ニナも強くなっているようだ。
俺たちは、更に前へ進んでいく。
木々が多くなってきたので、死角が増えてきた。
「探索系スキルの出番だな」
俺が【エネミーサーチ】を使用すると、目の前に透明な板が現れた。
透明な板には、簡素な地図が描かれている。
ぴこん、と赤い点が表示された。
北に約100メートル。そこに敵がいるということだ。
俺は【ステルス】を使って、体を透明化させる。
【エネミーサーチ】の地図を元に100メートル北に進んでみる。
『ウサギですね』
「ああ。これからバレないよう不意打ちしてみよう」
ゆっくりと慎重に歩み寄っていく。
ウサギは気付いていない。
俺はハルバードを構えた。
そのとき。
パキンッ!
枝を踏みつけて、大きな音を出してしまった。
『気付かれましたよ』
「ちくしょー。縮地!」
一気に距離を詰める。
間合いに入ったので、斧槍を振ってウサギを切り裂いた。
「……ふう。倒したぜ」
『でも、【ステルス】による不意打ちは失敗なのでは?』
「そうだな。もっと練習しないといけない」
俺たちはベクチオ山の頂上付近までやってきた。
レベル 6
マナ 320/1200
今日の目的は素材なのでマナは気にしてなかったが、かなり上げることができた。
この調子で行けば、レベル7まで行けるかもしれない。
あとは『王者のクチバシ』だが。
「……あれがクラウンバードか」
ワシのような鳥だ。
頭の部分の毛が逆立ち王冠のようになっている。あれが名前の由来なのだろう。
木の枝にとまっている。
こっちに気付いていないので、今がチャンスだ。
【ステルス】で近づいて不意打ちも考えたが、やめておいた方がいいだろう。
魔法、特技、スキル、全てに言えることだが、使用回数が増えるにつれて強力になっていく。
【ステルス】は数えるほどしか使っていないので、まだ効果が弱い。
あまり気はすすまないが、遠距離攻撃を使うことにする。
「裂空斬」
俺がハルバードを横に振ると、斬撃が発生した。
クラウンバードに向かって飛んでいく。
「キーッ!」
クラウンバードは反応し、飛び上がることで攻撃を回避した。
それから、上空を円を描くように飛び回っている。
逃げられないうちに仕留めなければ。
俺はさらにスキルを放った。
「裂空斬! 裂空斬! 裂空斬!」
「キーッ! キーッ! キーッ!」
やはり飛んでいる鳥に攻撃を当てるのは難しい。
そして、俺にコントロールがなさすぎる。
システィーは飛んでいること以外は特に注意をしていなかった。
おそらく、体力は他のモンスターと大差はないはずだ。
地上まで降りてくれば、一撃で倒してやるんだが。
「キーッ!」
鳥は俺をあざ笑うかのように、まだ上空を飛び回っている。
イライラしてきた。だが、当たらない。
俺が苦戦していると、ニナがある提案をしてきた。
『マスター。私を投げてください』
「急にどうした?』
『私は少しなら自分の体を動かすことができます。近くまで飛ばしてくれれば、必ず命中させてみせますよ』
ニナは斧槍だ。
槍には【投げ槍】があり、斧には【トマホークブーメラン】がある。
武器を投げるというのも、立派な攻撃方法だろう。
しかし、これでも俺は元剣士。武器を投げるというのは、抵抗がある。
『マスターはキーワードを覚えていますか?』
「ハロー・アタックだろ?」
『私を遠くに飛ばしても、キーワードを言えば、すぐに手元に戻ってきますよ』
「本当か。というか、ニナって便利すぎないか?」
『ありがとうございます。とにかく投げてもらえませんか? 早くしないと逃げられるので』
「ああ。わかった」
すぐに戻ってくるなら安心だ。
俺は斧槍を肩に担ぐ。
「うおりゃああっ!」
力いっぱい投げ込んだ。
斧槍はクラウンバード目掛けて、まっすぐに飛んでいく。
「キーッ!」
ふたたび翼をはためかせ、上手に避ける。
ハルバードがググっと曲がり、方向をわずかにずらした。
抜群のタイミングだった。あれなら鳥も対応できない。
ブスッ! 斧槍の穂先は片翼を撃ち抜いた。
鳥の体が傾き、スピードが一気に落ちる。
かなり苦しそうだが、まだ飛べるようだ。
「ハロー・アタック」
俺はキーワードを言うと、俺の右手に一瞬で斧槍が戻った。
「もう一度、行くぞ」
『はい』
「うおりゃああっ!」
まっすぐに飛んでいく。
翼が傷ついた鳥には避ける余裕がない。
槍の穂先は鳥の頭を捉えており――。




