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童貞社畜王子(プリンス)

そして――夜。

 俺はリオナさんに手伝ってもらい、王子のような格好にさせられた。

 髪もバッチリ整えられ、なぜか化粧までされる。


「……いかがでしょうか、ミチト様」


 部屋の隅にある全身を写すことができる鏡の前に連れてこられ、訊ねられる。


「うおおっ……!?」


 そこには元社畜とは思えない王子がいた!

 白馬に乗っても似合いそうだ!

 ……というか本当にこれ、俺なのか⁉


「化粧とは化けることです。お城に仕えるメイドとして、これぐらいのスキルなんてことはありません」


 驚く俺にリオナさんは淡々と告げる。


 それにしたって、ちょっとイケメンすぎてビビる。まるで別人のようだ。というか、テレビに映っている芸能人みたいだ。

 そこで――ガチャリとドアが開かれた。


「ミチト! わらわ自ら迎えに来たんのじゃ! ぬぉおおぉおおおおおっ!?」


 リリは俺の姿を見て驚愕する。


「ま、ま、ま、まさかミチトなのか!?」


 リリにとっても、この姿は信じがたいらしい。

 目を丸くして、口をあんぐりと開けている。


「あ、ああ……一応、俺だ」

「ななななななななななななななっ、なんと!?」


 リリは俺に近づくと、まじまじとこちらを見つめてきた。


「まるで物語の中の王子のようなのじゃ!」

「リリ様に何度もお読みいたしました『ハチャメチャ王子ムチャクチャシリーズ』をイメージしてヘアスタイルからファッションまで揃えさせていただきました」


 リオナさんは涼しい顔で答えた。

 なにそのシリーズ。ちょっと読んでみたい。


「うむ、確かに! これは主人公の外道(そとみち)ジャドーを彷彿とさせるのう!」


 すごい名前だな。読書欲がそそられる。これで文字を習う意欲が上がった。


「解説いたしますと『ハチャメチャ王子ムチャクチャシリーズ』はこの世界でもっとも読まれているファンタジー小説です。累計二千万部を越えており、吟遊詩人や著名な絵師によるメディアミックスもされています」


 なるほど。この世界のメディアミックスとなるとそういう形になるのか。


「作者は物語好きのエルフの国に住む闇落(やみおち)エルフ子さんというんじゃが、人前に現れん職業堅気の人でのう。一度会ってみたいものじゃ!」

「ミチト様も文字を覚えられたらぜひ原作をお読みください。とりあえず闇落エルフ子さんの作品の話をすればあらゆる国の人との会話に困りません」

「そんなに面白いのか?」


「もちろんなのじゃ! 書物流通業者の大手ジャングルで十年連続一位を獲っておるからのうっ!」

「そ、そうか。じゃあ文字を覚えて読まないとな」


「うむ! わらわも早くミチトと王子シリーズについて白熱したトークをしたいぞ! 特にあの四天王との闘いの前のジャドーの策略……」

「リリ様、ネタバレはいけません」


「むぐぐっ!そ、そうじゃなっ、ネタバレはいかんな! すまぬ、ついエキサイトしてしまった!」


 リリは赤面して恥ずかしそうに頬をかく。

 こうしてリリにも趣味に熱中できる時間があることはよいことだと思った。


 国のことばかりいつも考えていると、大変だろうから。年相応のリリの表情を見られて、俺としてもほっこりした。


「ふふ、それではそろそろまいりましょうか、リリ様、ミチト様」


 そんなリリを見てリオナさんも微笑む。それはまるで歳の離れた妹を見守る姉のようだった。


 リリの家庭教師をしていただけあって、リリとの間に家臣という関係とはまた別種の信頼感が醸成されているようだ。それは、素直に微笑ましい。


「うむっ、それではゆこう、ミチト、リオナ!」


 俺はリリに手を引かれて部屋を出る。

 その後ろから、もちろんリオナさんも付き従っていった。



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