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鉄壁の童貞守備と国家存亡の危機

建国から二週間が経過した。


 リリとルルのお姫様コンビは、ときおり喧嘩をしながらも仲よく内政能力を発揮して、ヌーラント地方の復興を軌道に乗せていた。


 喧嘩するほど仲がよいとはよく言ったものだ。


 内政力の高いリリとヌーラントの地理を熟知しているルルの組み合わせは、ナイスチョイスだった。


 そして、ルリアとリオナさんの凸凹コンビは、軍事面でいい具合に作用して再侵攻をの構えを見せていた魔物たちを国境から山岳奥深くへ追いやっていた。


 香苗とミーヤも臨機応変に内政と軍事を手伝って、効果的に成果を上げている。


 いずれも、適材適所で人材をうまく配置できたということだろう。


 元社畜の俺に管理職的なことができるのか不安だったが、みんなの能力が高いので、かなり助けられている。


 国民たちも最初は俺が国王になることに戸惑いはあったろうが、そつなく内政と軍事をこなしているので、徐々に忠誠度が上がってきているようだ。


 そして、俺は空いた時間を活用して、香苗とミーヤから文字と魔法を教わっていた。その甲斐あって、今ではだいぶ異世界の文字を読めるようになったし魔法の技術も飛躍的に上がっていた。


 つまり、なにもかもが順調だ。

 ちなみに、これまで六人に何度か誘惑的なことはされた。


 リリからは直接的に「わらわと子作りするのじゃ!」とストレートに要求され、ルルからは「お兄ちゃん、い、いけないわっ、あたしたち兄妹なんだからっ……♪」と下手な演技をされながら誘惑され、用事で城に帰ってきたリオナさんからは当然のように全裸で浴場に侵入してきて「さあ、始めましょう」と危うく始められかけた。


 香苗からは、「み、ミチトくんが望むならっ、わ、わたしっ……! う、ううん、やっぱりごめんなさい!」と勝手に盛り上がったところで謝って逃げられ、ミーヤからは超上級おっぱい魔法をかけられて危うく昇天しそうになり、報告のため城にやってきたルリアからはなぜか見事な剣舞を披露された、


 そして、鉄壁の童貞力を誇る俺は――女子六名のさまざまなアプローチを、すべてガードしていた。というよりは、へたれて手を出せなかったというべきなのか……。


 俺の童貞のこじらせ方は、なかなかのもののようだ。


(……こんな露骨に誘われまくって童貞を捨てるというのはなぁ……)


 こうやってウジウジと悩んでしまうところが童貞の童貞たるゆえんだろうか。


 いやでもほんと、俺が子作りをしないと人類滅亡だからしないわけにはいかないのだろうけど。あとは、子種の提供をミーヤから頼まれているが、それも恥ずかしくてできていない。社畜時代に受けていた健康診断や人間ドッグの尿検査とは訳が違う。


(……こうして童貞を守り続けることが、もはや俺のワガママのようにすら思えてくるから困る……)


 玉座に座りながら、懊悩する俺であった。

 はたから見れば玉座で苦悩する王だが、内容があまりにもアレすぎる。


(ううむ……このまま女子に恥をかかせ続けることが、果たして男として正しい道なのだろうか……? 童貞を捨てるべきか、捨てぬべきか、それが問題だ――)


 そうして深淵なる童貞哲学について思索を深めていると――。


 部屋の隅の床に魔法陣が浮かび上がり、続いてまばゆいばかりの光とともに香苗がワープしてきた。


「どうした、香苗」


 香苗は現在ルリアとリオナさんの手伝いで、魔物たちの拠点である山岳地帯で戦っているはずだったのだが……。


「み、み、ミチトくんっ! た、たいへんっ! たいへんっ、たいへんだよっ!」


 ただでさえ普段からおどおどしている香苗がさらに挙動不審になりながら、俺のところへ迫ってくる。


「ど、どうした?」

「う、うんっ、あ、あのねっ! す、すごいのがっ、すごい怪獣みたいなのが山から出てきちゃってっ……! わ、わたしの魔法もあまり効かないし、ルリアさんの剣でもダメージがほとんど与えられないしっ、いざというときにリオナさんの指示で掘っておいた落とし穴とか槍を使った罠とかも突破して、こっちに向かってきてるの!」


 すごい怪獣? 魔物の中には竜のような大型のものもいると聞いていたが、そんなものが出てきたのか?


「み、ミチトくんっ、お城の展望台から見えるから、み、見てっ」

「え? 北の国境って、ここからかなり離れてるだろ? いくら大きいからって、そんなもの見えるわけが」

「ほ、ほら、ミチトくんっ、は、早くっ!」

「ちょ、香苗!?」


 香苗に手を掴まれて、そのまま転移させられる。

 移動先は城の展望台。

 そして、遥かに向こうに見える北の国境には――。


「な、なんじゃこりゃああああああああ!?」


 俺は、思わず叫んでしまった。


 なぜなら――本当に超巨大な恐竜のような怪獣が見えたのだ。

 北の国境は城から三十キロぐらいは離れている。


 それなのに目視できるということは、とんでもない大きさだ。

 しかも――口から炎のブレスのようなものを吐いたりしている。


 そして――その「魔怪獣」(便宜上そう名づける)はこれだけ距離が離れているにも関わらず、俺を見つめてきた。


 目が合うとともに、俺に意思を感じた。

 その意思とは――俺と『子孫を残したい』。


「うわぁ……」


 ドン引きである。

 というか、異種族姦にもホドがあるだろう……。


「だ、だめっ、ミチトくんは渡さないんだからっ」


 香苗は慌てて俺の身体を抱きしめて、魔怪獣から隠そうとした。だが、魔怪獣は俺へ熱っぽい視線を向けながら、ズシンズシンと着実にこちらに進撃してくる。


「これは非常事態だ!」


 魔怪獣に貞操を狙われるというあまりにもあんまりな展開だがシャレにならない。 というか、絶対交尾不可能だろうとは思うが……マジであの目を見た瞬間に、俺は魔怪獣が本気で俺を求めていることがわかったのだった。


 冗談のようで冗談じゃない。俺の危機であり、国の危機だ。

 あの魔怪獣に城下に進撃されたら、滅茶苦茶に街も城も破壊されてしまう。

 しかも、ルリアの剣とリオナさんの知謀と香苗の魔法で倒せないとか最悪すぎる。


「とりあえず今ほかに戦力になるのはミーヤか……」


 現在ミーヤは内政の手伝いでヌーラント北部地方に赴いて復興と開発を手伝っているが、いまは急だからそれは中止して呼び戻そう。


 ……というか、一度全員城に戻したほうがいいかもしれない。


「香苗、あの怪獣の速さはどうだった?」

「えっと、移動する速さはそれほどじゃなかったよっ、ただ、戦闘範囲に入ったときは爪とか尻尾とか火炎ブレスとかの攻撃速度はすごかったけど」

「そうか……なら、香苗はふたりを呼び戻してきてくれ! 兵隊たちも全面撤退だ。今ルートリアにいる転移魔法と回復魔法を使える魔法使いも連れていって負傷者を早く城へ戻してくれ」

「う、うんっ、わかったっ!」


 香苗は杖を振って魔法を発動、戦場へ戻っていった。


 ……って、考えてみればテレパシー使えばよかったんだろうけど、香苗も慌ててたようだな……。まあ、あわてんぼうの香苗らしいといえばらしいが。


 そして、俺もリリとルルとミーヤのいるヌーラント北部の復興現場に転移して非常事態に陥ったことを説明した。


「なんじゃとっ、怪獣がっ?」

「お兄ちゃんの童貞を奪っていいのは妹のあたしだけなのに、怪獣風情が調子に乗るとは許せないわ!」

「ミチトさまは、人間だけでなく怪獣にもモテモテなんですね~♪」


 三人の反応はけっこうアレなのだが、実際、かなり深刻だ。

 ちなみに今いるのは復興作業中のヌーラント北部の宿場町。

 ここは以前、魔物に侵攻されたことによりかなり荒らされてしまっている。


 小型の魔物の侵攻でこの被害なのだから、もしあんな巨大魔怪獣がルートリア城下で暴れたらと思うとゾッとする。

 被害は尋常な規模じゃないだろう。下手すると、国家が滅亡する。


「ともかく、一度みんなで集合して会議だ。それで対策を練る!」


 場合によっては、ルートリア城の民を避難させたりする可能性もある。そういうときは、リリが呼びかけたほうが民も不安が和らぐだろう。


 ……まあ、いざとなったら俺ひとり城を出て、人のいない平原へ恐竜を引きつけるということも考えねばならないだろう。幸い、俺は転移魔法を使えるわけだし。


 ともかく、俺のせいで犠牲者を出すことは避けたい。

 命はひとつしかないのだから。

 過労死した元社畜の俺だからこそ、命を大事にすることの大切さはわかっていた。


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