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お兄ちゃんパワー(諸刃の剣)!

「そもそも、魔物との戦いをあまり長引かせるとこちらが疲弊したときを狙って別の国が攻めてくる可能性だってあるだろ?」


 ヌーラント皇国の西には砂漠が広がっているが、その向こうにも国がある。

 それに南の海を越えた向こうにある国が水軍を使って攻め寄せてくる可能性だってゼロではない。


 誠に遺憾ながら、争いの元凶たる世界唯一の男――俺がいるのだ。

 だから、俺を狙って、これからどんな国が攻めてくるかわからない。

 そんなときに隣国のルートリアと協調できないと滅亡一直線だろう。


 そもそも軍事に秀でたヌーラント皇国と内政に優れたルートリアは、協力すれば力を発揮できるはずだ。


 もともとは伝統的な友好国だったのだから、俺を奪ったことは謝れば許してくれると思う。というか、俺としては、まずこの両国の関係をなんとかすることが第一だ。


「……あたしだって、このままではいけないことはわかってるわ。山岳の魔物の数があそこまで多くて精強なのは見通しが甘かったことは認めざるをえない。……まさか発情の効果によって、魔物たちのステータスが大幅にアップするなんて思わなかったけど……本当に、誤算もいいところだわ」


 まあ野生動物も発情期は凶暴さを増すっていうしな……。

 その対象が俺というのが本当に恐怖でしかないのだが……。


 ちなみに何度か投影魔法による映像を見たのだが、凶悪でグロテスクな魔物も多くて、俺としては寒気がするばかりだった。


 しかし、ただ恐怖で震えているわけにはいかない。なにか手を打たねば。

 なんとかルルとリリに仲直りして同盟を結ばせることが一番なのだが……。


 そんなふうに考えていると――ドアがノックされる。続いて、女性の声で用件が伝えられる(まぁ、俺以外に今この世界にいる人間は全員女性なのだが)。


「ルル姫様、ルートリア皇国から使者がきました!」

「なんですって!? ルートリアで間違いないのよね!?」

「はい! ルートリアの特使、リオナと名乗っています」


 リオナさんが来ただと?

 このタイミングでくるということは、どういうことだ?


「ルートリアのリオナって、リリの家庭教師だったメイドで、この間の戦いでは軍師も務めていた女よね……? なにを考えているのかしら。まさか、使者と見せかけて、お兄ちゃんを奪還に来た? それとも――」


 リリは俺の膝の上に乗ったまま、思案する。


「とにかく会うべきだろ。この際、先日の侵攻のことを詫びて魔物対策のために協力を求めるべきだ」

「でも、そんなことを求めたら、きっと向こうはお兄ちゃんを返せって言ってくるわ! お兄ちゃんは絶対に渡さないんだから!」


 ルルのブラコンっぷりにも、まいったものだ。


 実の兄妹じゃないのに……いや、逆に実の兄妹じゃないからこそ、ここまでイチャイチャしてくるのかもしれないが。実際に妹がいるとアニメとかの妹キャラに萌えないという話を聞いたことがあるし。


 ちょっと脱線したが、この好機を逃すわけにはいかない。


「ともかく、絶対に使者に会って話を聞くんだ! そうじゃないと、俺はお兄ちゃんをやめるぞ!」

「えええっ!? そんなのいやよ! せっかくお兄ちゃんができたのに!」


 戦場にいるときは有能な指揮官っぽかったのに、お兄ちゃん関連になるとポンコツになるルルだった。


 あまり怒らせると監禁されて鞭で打たれるとかになりかねないから匙加減は難しいのだが……今はお兄ちゃんであることを最大限に生かすしかない。


「……俺は外交使節を追い出さずにちゃんと会って話を聞くような度量の広い妹のほうが好きだぞ? ルルは度量の広い賢いお姫様だよな?」

「ううう……」

「ほぉら、ルル。いい子だから、お兄ちゃんの言うことを聞くんだ」


 俺はリリの肩を揉みほぐしながら、耳元で囁く。


「ひゃふぅ♪ お、お兄ちゃん、だめぇ……♪」


 なんか人間として間違った方向に行っている気がしないでもないが……すべてはルルとリリのためだ。……俺は、心を鬼にしてお兄ちゃんになる!


「もうっ、道人くんのばかっ、しすこんっ、小さい子好きっ」


 香苗は頬を膨らませてますます不機嫌になり、俺を罵ってきた。

 くく……好きなだけ罵るがいい、香苗。


 だが、俺はお兄ちゃんという立場を最大限に利用することはやめない。

 それが、両国のためになるのなら!


「ルル……リオナさんと会って先日のことを謝って協力を求めるんだ。そうしたら、あとで膝枕と耳かきもしてやるから」


 普通に考えれば、俺の膝枕と耳かきなんて誰得なんだが――。


「ほ、本当っ!? 本当にしてくれるの、お兄ちゃんっ! 本当にお兄ちゃんの膝枕で耳かきをしてくれるのっ!?」


 ルルにとっては、絶大な効果を発揮した。こちらが引くほどの食いつきっぷりだ。

 ルルは完全なるブラコンになっていた。


「ああ、約束だ。でも、ちゃんとリオナさんに会って役目を果たしてからだぞ? そうしたら、ご褒美をやるから」

「わかったわ! それなら、リオナに会うわ! で、でも、お兄ちゃんをリリのところに返すのだけは絶対にだめだからね! それだけは断固絶対に許せないわ!」


 ここまでブラコンを重症化させているとなると、そうそう離れられないな……。

 匙加減を間違えると本当に監禁されたり首輪をつけられたりしそうで怖い……。


 お兄ちゃんの力を使うのは諸刃の剣ということだな。

 ヤンデレ化した妹に刺されて死ぬとかそんなハードな異世界転生は嫌だ。


「道人くんが、そんなに外道だったなんて、思わなかったよ……」

 

 香苗からは冷たい視線を向けられているが……これもヌーラントとルートリアのためなので仕方ない。


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