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真の目的と『お兄ちゃん』


「というわけで、ようこそヌーラント皇国へ。歓迎するわ」


 ヌーラント城に辿り着いた俺は、玉座に座ったルル姫(玉座の大きさに比べて体が小さいので不釣り合いもいいところだが)から、歓迎の言葉をかけられた。

 なお、ルル姫の傍らには、おどおどしながら香苗が控えている。


「ようこそと言っているわりには、腕輪は外してくれないんだな?」

「ええ、危険だからね。あなた自分がどれだけの魔力量を持っているか、わかってるのかしら?」

「詳しくはわからないな。すごいらしいということはわかってるが」


「それじゃあ、教えてあげるわ。魔力量だけで言えば香苗以上ね。もちろん、異世界に来たばかりで今の香苗のような精度で魔力を使いこなせるわけがないのはわかってるけれど。でも、用心に越したことはないわ」


 香苗よりも俺の魔力量が上なのか……? つまり、俺も修練次第では香苗並の魔法を使えるということだろうか。


「まぁ、いいわ。ともかく、あなたには、この城で暮らしてもらうから」

「本当に強引だな。戦争を起こしてまで、無理やり連れてくるなんて」


「だって、普通に身柄を引き渡せっていってもリリがうなずくわけないでしょう? あの子、ああ見えて、かなり頑固なんだから。話してわかるはずがないから戦場で教えるしかなかったのよ。こちらの訓練も兼ねてね。あのヌイグルミ魔法だって今頃解けているわ」


 訓練といわれると、確かにそう思われる面もあった。ヌーラント皇国は、結局、誰ひとりルートリアの兵を負傷させなかったのだ。ただ兵士をぬいぐるみに変えただけなのと、あとはルリアの攻撃を魔法バリアで防いだだけ。

 行軍中にも、村に対して一切略奪などの乱暴狼藉はしていない。


「これから、あなたを巡ってこの世界は戦国乱世に突入するわ。世界にいるたったひとりだけの男。それはどんな宝石や人材よりも貴重よ。あのままルートリアがあなたを抱えていたら、他国から侵略されて焦土と化していたわ」

「いや、でも……地理的にルートリアの東は荒野だから、攻めてこないって話だったと思うんだが……」


 ちなみにルートリア皇国の軍事会議のときにこの世界の地図を何度か見たので、ある程度の地理は頭に入っている。


 ルートリアの東には荒野が続いている。

 北には山脈があり、その山岳地帯にモンスターや亜人の住む国がある。


 南は海に接しているので、敵国はいない。貿易のための商都があり、ルートリア第二の街がある。ルートリアからは馬車で半日の距離。


 そして、西は今いるヌーラント皇国。


 東西南北いずれにも街道はある。もっとも、北の山岳と東の荒野は国境沿いまでで、そこからは自力で野宿しながら隣国に行かねばならないらしい。


 モンスターや亜人はそれぞれの種族で争いあい、たまに山を越えて辺境の村の作物を荒らしたりするが、そこまでの被害はない。


「ルルは内政ばかりで軍事や外交が適当だから最新の情勢が掴めていないのよ。亜人たちは互いに争いながらも順調に勢力を伸ばしてるわ。交易をしない連中だからリリは軽視してたようだけど、もともとの身体能力が高いからひとつにまとまって侵攻してきたら厄介なのよ」

「……まさか、俺を求めて亜人たちがひとつにまとまってルートリアに侵攻してくるというのか?」


 俺なんかのためにまさかとは思うが――それぐらいしか考えられない。


「そのまさかよ。亜人は人間よりも子孫を残すことに貪欲でせっかちなの。だから山を越えて必ず攻め入ってくるわ。リリは、亜人とのつきあいがないから、わからないでしょうけどね」

「ということは、亜人とつきあいがあるのか?」

「ええ、あたし、モフモフした耳が大好きだもの。配下にも何人か亜人がいるわ。ただ、亜人の中でも人間寄りの種族と獣寄りの種族でぜんぜん違うの。あたしはケモ耳が好きであって獣自体は好きじゃない。そこのところは勘違いしないでほしいわね」


 なんか、よくわからないが、強いこだわりがあるようだった。


「……少し話が脱線したけど、これで、亜人たちのターゲットはルートリアではなくてヌーラント皇国になるわ。本当の戦いはこれからよ」


 ただのワガママ姫かと思いきや、かなり深く物事を考えているようだ。


 見た目は5歳と言われても信じそうな幼さなのだが、やはり軍事国家を統治するだけあるということだろうか。


「まずは、より獣に近い――というよりは、ほとんど獣な連中が子孫を残すという本能に従って山から攻めてくると思うわ。イメージとしては二足歩行して簡単な言語を操る発情した熊や狼の集団ね」


 もし俺がそんな獣たちに捕まったら……うわぁ、想像したら、すごい怖い。

 というか想像したくない。いろいろとアウトだ。


「ふふ、そんなに怯えなくても大丈夫よ。山への警戒のために守備隊は置いてあるわ。ルートリアに侵攻させた軍隊は総力の三分の一だもの。しかも争いを避けられたおかげで戦力を温存できたのはありがたいわ。あらためて、お礼を言うわ。もし、ルートリアが必死に抵抗したら無傷というわけにはいかなかったろうし、この先リリと仲直りするのも大変だったろうから」


 なるほど。やはりルートリア侵攻は本気じゃなかったということか。

 ルル姫は見た目からは考えられないほどのやり手だ。


「……なら、今からでもリリに事情を話したらいいんじゃないのか。このままじゃ、おまえはただの悪役だぞ?」

「あら? あたしのことを気にかけてくれるのね。でも、あたしはただ善意で敵の侵攻を引き受けるわけじゃないわ。……だ、だって……あなたは……あ、あたしのお兄ちゃんになるのだから」


 途中から急に顔を赤くして、ルル姫はそんなことを言ってきた。


「……お兄ちゃん? 俺が?」


 尋ね返すと、ルル姫はさらに顔を赤くした。


「そ、そうよ! お兄ちゃん! あなたはこれから、あたしのお兄ちゃんになるの!文句あるっ!?」


 興奮しながら、まくしたてるルル姫。さっきまでは冷静そのもので大人びて見えたのが、急に子どもっぽくなった。


 というか、なんだそれは……。リリに結婚だとか子を授けてくれだとか言われたときも驚いたが、これもまた斜め上の展開だ。


「闇落エルフ子さんの作品に生き別れになったお兄ちゃんと禁断の愛を育む至高の最高傑作があるのよ! あたしは、ずっとお兄ちゃんという存在に憧れてたのっ!」


 また闇落エルフ子さんか! ルルやリオナさんが話していたとおり、この世界ですごい人気なんだな、闇落エルフ子さん。


 ……というか、リリが話していた『ハチャメチャ王子ムチャクチャシリーズ』シリーズは戦記ファンタジーっぽかったんだが……作風広すぎだろ……。


「というわけで、今日からあなたのことは『お兄ちゃん』って呼ぶから!」


 もうこれ、どう反応していいのかわからない。


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