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第5話 ダブルトルネード!

昼休み。

俺の席にはいつものようにゾンビが一匹やってきた。

「平野ぉ〜ダールーイ〜」

「おまえは日干しになったたれぱんだかよ」


柏木はまさにそんな感じでぐらぐらしながら俺の隣に机を並べる。


本当最近こいつは大丈夫なのか? やっぱり両親のことが大変なのだろうか。


そんなことが少し心配になって、俺は遠回しに聞いてみた。

「なぁ、おまえ最近ダレてるけど家でなんかあったのか?」


柏木はさもつまらなそうな顔をして弁当箱をいじくる。

「あぁ、最近ちょっと夜中まで寝れなくてな」


もしかして親が夜中まで喧嘩していて寝れないのだろうか。


いや確かこいつには妹がいたから、その世話で忙しいとか……。


柏木の弁当は白米に梅干しを一つ乗せただけのもので、そこからもなぜか人としてやらなければならないことがあるような気がしてくる。


「朝もお母さんが弁当作ってくれなくてな。仕方ないから俺がこうして作ってるんだ」


その悲しそうな柏木の横顔に、俺の心はぐっと突き立てられる。


親友として、こいつの力になりたい!


「なぁ、そんな夜中まで何があるんだ?」


俺はなるべく傷付けないように、遠回しに聞く。


すると柏木はやっぱりどこか痛々しい顔をした。


「あぁ、イベントがあってさ」


「え?」


イベント?


すると突然の意味不明な解答に唖然としている俺を見計らって柏木がさらに口を開く。

「ほら、ギャルゲのイベントだよ!イ・ベ・ン・ト」

ピキィィィ


リミッター、解除!


目標の柏木彰発見!


殺す!殺る!ヤってやる!

「あのぉ、平野君?どうして両手にカッターなんか持ってるのかなぁ?!」


「てめぇの皮引っ裂いて肉団子にするためだよ!」


「ひぎぃやああああ!馬鹿!やめろ!俺の貞操がぁ〜!」


「取らねぇよ!」


そんなこんなで柏木を三枚に捌いていると、いきなり俺の机がばんっ!と叩かれた。


「平野!弁当忘れたからその弁当をおとなしく引き渡すのだ!」


そんな恐ろしく理不尽な理由を並べながらも当然のように振る舞っているのはモチロン鳴宮レオナだ。


「おまえなぁ、購売で買ってくりゃいいだろ」


「金がないのだ」


なんかこうもはっきり一刀両断されると正論に見えてくるよ。


鳴宮はまるで俺が何かしたかのように不機嫌に顔を歪ませる。


「だから、渡すのだ」


「いや、それならせめて人にものを頼む時の態度ってものをな……」


「うるさいなぁ〜だからこうしてわざわざ低姿勢で頼んでいるのではないか」


え、これ俺が正しいんだよね?確実に低姿勢じゃないよね?これ。


それでも鳴宮は当然のように腕を差し出す。


「ほら早くするのだ!お腹の怪物が騒ぎ出すではないか」


…………こいつは腹に怪物を飼っているのか?

なんか鳴宮なら有り得る気がしてきたよ。


そういえば、と思って隣を見ると、柏木はきょとんと目を丸くして会話を聞いていた。


「おまえ……鳴宮さんと知り合いだったのか?!」


あっ、喋った。


「なんだよ急に……そうだけど?」


「貴様ぁ〜!まさか俺たちずっと親友だよっ♪協定を破るのか!」


「そんな気色悪い協定誰がするかっ!」


柏木は既にシャアアアと蛇のような薄気味悪い奇怪音を発して戦闘対戦に入っている。


くっ!箸を武器に見立ててカチカチしてるらへんが痛すぎてまともに見れない!

ぐぎゅるるるるる



…………はい?


突然お腹の音のような轟音が教室に響いた。

っていうか恐らくお腹の音だろう。


その音が聞いたことないくらいの音量だったため、教室がいつの間にか静寂に包まれる。


こういう時は絶対犯人探しが始まるんだよな。そんでもってたまに顔に出てるやつが居たりして……


そう思って顔をあげると、何故か周りの目線がこちらに集中している気がする。

いや俺じゃねぇよ!

と思って隣を振り返ると、そこには顔を真っ赤に染めてお腹を抑えて硬直している少女が一人。


……そう、鳴宮レオナである。


って明らか過ぎて逆に解説しちまったじゃねぇか!


あーあ。こいつのお腹にはどうやら本当に怪物がいるらしい。


クラスの連中もここまで分かりやすいと流石にじっと見てくる奴はいなく、それでも好奇の視線はチラチラと鳴宮へと注がれる。


「……バラすぞ」


「……え?」


それまでずっと歯を食いしばって俯いていた鳴宮は、真っ赤な顔に涙まで溜めて俺を睨んできた。


しかも小声で物凄い不吉な言葉を発して。


バラすって……え、俺バラバラにされるのか?!まさか……いやでも今の鳴宮ならやりかねない!


そんな俺の恐怖をよそに、鳴宮は再び小声で続ける。

「覗き……バラすぞ」


あ、よかったそっちのバラすか…………って全然良くねぇ!むしろそっちのが精神的ダメージでけぇ!


いやでも俺にどうしろと言うんだ? この状況だと誰がどう見ても鳴宮だし……

しかし鳴宮はそれっきり黙ったまま真っ赤な顔を俯けてしまっている。


くそう!無茶過ぎる!だがこうなったらやるしかない……!

神よ!我に導きを!


そして俺はどうにか乗り切ることを固く決心して口を開いた。


「あ、あらやだ!平野君、私の体に入ってるからって変なことしないでくださる?」


さぁ!乗ってこい鳴宮!


鳴宮は少し唖然としていたが、それでも決心したように口を開いた。


「みんな! ここにとうとう現実と二次元の区別がつかなくなった可哀相な人がいるぞ!」


え?


変わり身だとぉぉぉ!!


まさか俺の痛さで自分の腹の音をなかったことにしようというのかっ?!


「うわぁ……いるよああいう人」


「ママぁ!あの人何?」


「見ちゃダメよ!」


「ち、違うんだ!今のはちょっとした言葉のあやで……!」


ダメだっ!フォロー仕切れない!


柏木……助けてくれ!


そんな俺の視線を見て力強く頷くと、柏木は勢いよく立ち上がった。


あぁ、やっぱり親友は頼りになる!


「みんな!実はこいつは昔からこうなんだ!だから別に驚くことはないっ!」


フォローになってねぇ!


柏木はグウッと親指を立てると満足げに席に座った。

「ふふっ……やっぱり友達はいいものだ」


隣ではさっきとは打って変わって鳴宮は満面の笑みで弁当を頬張っている。


っていうかそれ俺の弁当!

…………なんか全てを失った気がする。



◇◇◇◇◇◇



「あ゛〜」


結局俺は誤解を解けないまま昼休みを過ごしている。

「平野、何があったんだ?」


北川は心配、というか面白そうに聞く。


「頼むから聞かないでくれ……」


委員会かなんだかで北川は今日は遅れて来た。それが不幸中の幸いだろうか。


「平野は本当に優しいやつでなぁ♪」


相変わらず鳴宮は楽しそうに弁当を堪能している。


俺の母ちゃんの愛妻弁当なのにっ!


「そうそう!平野かっこよかったよ!」


柏木も素直に喜びの笑みを浮かべる。どうやら本人はフォロー仕切れたと思ってるらしい。


……こんな馬鹿に頼んだ俺が愚かだった。


しかし状況を知らない北川は、それを本気にしたらしい。


「そぅかぁ〜、俺も見たかったぜ!平野の晴れ姿」


そう言って軽く頬を赤らめる。


なんで?……てそっか、まだ俺の告白が誤解だって言ってないんだった。


「あのさ北川、この前のことなんだけど……」


と、俺が誤解を解こうとしたその時だった。


「ちょっと」


「え?」


急に背中を叩かれて後ろを振り向くと、そこにいたのはあろうことか早乙女さんだった。


ってもしかして教室にいたのか? ということはあの出来事も……うわぁぁぁぁ!

しかしそんな自暴自棄な俺に、早乙女さんはなんと爆弾を落としたのだった。


「私も……ここで食べていいかしら?」


………………マジ?


そう言って早乙女さんはちょっと赤くなってそっぽを向いた。


可愛い!!


学園一と名高いその美貌は、やっぱりどこを取っても綺麗だ。


っていうかなんでいきなり?! そりゃもう大歓迎に決まって……


「ダメだ!」


は?


って何言ってんだよ!せっかくのチャンスだぞ?!


しかし鳴宮は不機嫌そうにその美貌を歪ませている。


「っ! どうしてよ!」


「その成長し過ぎた胸が気に入らないのだ!」


いやいや理不尽過ぎるだろそれ!

それに確かに早乙女さんはスタイルいいけど、特別胸が大きいわけじゃないし!

「なにそれ! あんたが小さいだけじゃない!」


早乙女さんも胸を手で隠しながら声を張り上げる。


「なんだと?!」


「なによ!」


っていうか、あれ?なんで二人ともいきなり険悪なわけ?!


するとそこまで呆然と事を見ていた柏木がなんとかなだめようと口を開く。


「あのさ、鳴宮さんも早乙女さんも、俺的には一緒にいたいなぁって……」


『うるさい!!』


「ひぃぃぃぃぃ!」


しかも意外と気が合ってるのか?!


北川もあははは……と苦笑い、どうやらお手上げらしい。


しかしこのままだとらちが空かない。ここはやっぱりあれしか……


そして俺はとんでもない爆弾を口にしたのだった。


「鳴宮、早乙女さんと友達になったら……」


『絶対いやっ!!』

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