第3話 ここからが本番?!
最後までお付き合いいただければ幸いです。
さてさて。
俺は今、絶対的なピンチにいる。
もう死にそう。というか、胸が高鳴り過ぎて嫌でも呼吸が速くなる。
なぜ冷静に語ってるのかって?
……正直物凄く恐ぇぇよ!なんかもう本当にチビるよ?チビっちゃうよ俺!
だが今の俺には、あの男なら誰しもがしたことがあるであろう、トイレに行きたくても行けない時に必ずするモジモジさえも許されないのだ。
それほどに俺は追い込まれてるんだよ!もうぼうこうがSOS信号出しちゃってるよ!
きっと身動き一つが命取りになる。なぜならここは男の戦場。そう、通称女子更衣室だからだ。
そして今俺は開いたドアと壁の間で、硬い体をアジの開きの様に無理矢理開いて耐えているのだ。
こんな光景を見たら体操選手もびっくりするだろう。もちろんそれは俺の体の柔らかさにではなく、このアホ過ぎる光景にだ。
言っておくがこれは事故だ!断じて早乙女さんの着替えを覗いてやろうなんてやましいこと考えてないんだぞ!……多分。
ならどうしてここにいるかって?
よくぞ聞いてくれた!
いや〜その言葉を待っていたんだよ!
ついさっき、俺はたまたまちょうど早乙女さんの後ろを歩いてたんだ。
あ、別に早乙女さんの花みたいに甘い匂いに、うごぁっ!ってなってついついストークしてきた訳じゃないんだぞ?
「たまたま」俺もそっちに行こう思っていたんだ。
それでしばらく後ろについて行くと、甘い匂いのする早乙女さんが、更衣室の前でポロッと純白のハンカチを落として、気づかないまま更衣室に入って行ってしまった。
そりゃ誰だって真っ先に思い浮かべるはずだ。
あ!ハンカチフラグもらった!
俺がそう思ってその健気なハンカチを拾おうと手を伸ばしたちょうどその時、俺の手の数センチでハンカチが突然消えた。
正確に言うと、見知らぬ女生徒によって拾われのだ。
「ふぎゃぁ!」
そして勢い良く飛び出していた俺の手は当然空を切り、その体脆とも虚しく冷たい床へとダイブした。
ちくしょあの野郎ぅ!早乙女さんのハンカチは俺のもんだ!返せ!俺の青春を返せ〜!
だが相手は既に更衣室へと姿を消している……いや!それがどうした!行ってやるとも!
その瞬間に俺は大切な何かを無くした気がしたけど、そんなこと、もはやどうだっていい!俺は早乙女さんにハンカチを渡して、
「まぁ!平野君はなんて優しいのかしら!」
「君のためなら何だってしよう!」
「……ステキ!(メロメロ)」
ってなるんだ!
とか妄想を膨らましながら、勢い良くドアを開けた所で正気に戻りターンアンドイン。で、今に至る訳。
馬鹿だと?
はっ!お前だってあの誘惑には耐えられないさ。
って俺はさっきから誰と話しているんだ?!
ヤバイ。このままだとどうやらそろそろ頭の方が限界らしい。
しかし逃げようにもここからは当然ドアで更衣室内が見えないのでタイミングがわからない。
ついさっき一人分の足音が聞こえたから、多分ハンカチを渡した女生徒が帰って行ったんだろう。たが中にはまだ早乙女さんがいるはずだ。
なんとかして覗かねば!(様子をね)
そう思って背伸びしてみると、ちょうどそこに十円玉サイズの小さい穴が空いていた。
……まさか誰かが以前覗くために開けたんじゃないだろうか。
そんな疑いを持ちながらも、俺はさっそくそこから覗いてみる。
「……んっ!」
俺は瞬時に口を片手で塞いだ。
……んやべぇぇ!!危うく声を発してしまう所だったぞ!ていうかこれは何らかの拷問なのか?!
そこには綺麗なピンク色のブラを付けて、ミルク色の透き通る様な肌を現にした早乙女さんが立っていた。
こうなることは予想していたけど、いざ生で見てみるとやっぱり臨場感がすごい!
ツインテールの髪の毛もちょっと赤らんだ頬も可愛すぎだろ!
あぁ、本当にまずい。
俺の心臓は早乙女さんにも聞こえてるんじゃないかって程に高鳴り、俺はそのあまりの速さに危うく失神しそうになった。
早く!早くこの生き地獄から解放してくれぇ!
このままだと俺はここで死体で見つかって、死んで直
「変態覗き魔」の汚名を背負わなければならなくなってしまう!
「んんっ!」
あっぶねぇぇ!
っていうか何してんの早乙女さん?!
こともあろうに早乙女さんは唯一身を守っているスカートの裾にまで手を掛け始めたのだ。
まさか脱ぐのか?!脱いでしまうのかっ?!
見たらそれこそ奇声を発しそうだが、俺の胸は正直に次の瞬間への期待で膨らみまくる。
く、くるのか?ついに!
しかし何を思ったのか、早乙女さんの手は裾を握ったまま止まり、そのまま動かなくなった。
え?
えぇぇえ?!
寸止め?!これはまさかの寸止めなのか?!しかも心なしか顔が笑ってるよ早乙女さん!
サディスティックな俺が手玉に取られるとは恐るべき早乙女さん!
結局早乙女さんは脱がないまま、また制服を着ると更衣室から出て行った。
何がしたかったんだろうか。
まぁそれでもいい物が見れた。というかこれもし見つかったら犯罪レベルじゃないだろうか?
そんなこと考えるとなんかリアルで急に怖くなってきた。さっさとここから出ないと。
ドアと壁の隙間から出ると、案の定そこにはもう誰もいなかった。
まずはタラタラ流れてやがるこいつを止めないと。
だって鼻血タラタラな奴が女子更衣室の前にいたら明らか不審だろ。
俺がポケットからティッシュをほじくり出して鼻に必死で見えないように詰めようとしていると、不意に出口の方に気配を感じた。
ビビって振り向くと、そこには見覚えのある小さな少女が一人。
「ひぃぃぃぃぃ!!」
「……っつ!どうしておまえがここにいるのだっ!」
さらっとした綺麗な黒髪と小学生並の凹凸、クリッとした瞳や人形さんのように整った顔立ち。
ヤバイ。どうやら俺は最悪なタイミングに最低な人間に出会ってしまったらしい。
そう。そこにいたのは正真正銘、鳴宮レオナだった。
「ちょっとこい」
「え!いや、そのこれには深い理由があって……」
「いいからこっちにこいっ!」
「ひぃぃぃぃぃ!」
そう怒鳴り散らすと、鳴宮は物凄い力で俺を軽々と引っ張って行く。
あぁ神様。16で死ぬなんてあまりに酷いだろっ!
ーーーーー
「…………というわけで」
「ふんっ!そんなの言い訳にもならんぞ!」
「本当にすいません」
これで何度誤ったことだろうか。
つまるところ、今俺はああゆうことになった経緯を無限ループ再生しているのだ。
だけど何度言っても鳴宮の答えは同じで、もうかれこれ1時間近くこうして説教をくらっている。
それでも鳴宮の怒りは一向に収まらず、その邪険にしかめた眼差しでずっと俺のことを張り付けにしている。
もう体力も気力も限界。ボロボロですよ。哀れな子羊ですよ。このままだと狼さんに食べられちゃうよ。
こんな小さい奴に俺が食べられてる所を想像するとあまりにも可笑しくて、自分で吹き出してしまう。
「な、なにがおかしいのだっ!」
ヤバイヤバイ。そろそろ打開策を考えないと本当に食われかねない。
「そうだ!じゃあこのこと秘密にしといてくれたら、おまえのお願い一つ聞いてやる!」
「お願い……?」
「そうだ。おまえにとっても悪い取引じゃないだろ?」
「お願い……お願い…」
すると鳴宮はしばらく俯いて考え始めた。
正気これは賭けだ。拒否されればそこで俺の負け。
「どうだ?するのか?」
俺の問いかけに、鳴宮は自分の頬をハムスターのようにカキカキしながら少し間を置いて、小さく頷いた。
よっしゃぁ!賭けには勝った!後はテキトーにこいつのお願いを聞いときゃなんとかなる!
しかしこの
「賭け」が俺にとってとんでもないことになろうなんて、まだ誰も知らない。
「……になって……」
「え?なんだって?」
鳴宮は柄にもなく恥ずかしそうに頬を赤らめたまま、俯く。一々可愛いなこいつ。
「だから!私の友達一号になってくれと言っているのだっ!」
えっ?
今こいつなんて言った?
「とも……だち?」
「わ、私はどうも友達を作るのが苦手なのだ……だから平野が最初の友達になって手伝えっ!」
え
えぇぇぇぇ!!
俺は人生と引き換えに友達一号の称号を得たのだった。