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異世界の魔王に代打で召喚された!~だけど、魔族の待遇改善に努めてから還ります~  作者: 都辻空


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14/28

14th pinch 暗殺容疑!?

長らくお待たせしてしまい申し訳ありませんでした。

本日より投稿を再開いたします。


 朝。

 今日は和平会議の二日目だ。


 私が迎賓館の客室から階段を下りて一階の応接室へと入ると、すでに起きていたエルドラと目が合った。


「おはようございます、陛下」


「おはよう、エルドラ」


 一人掛けのソファに座っていたエルドラは、そう挨拶しながら立ち上がって、私のためにテーブル前の椅子を引いてくれる。


「ありがとう……って、それは新聞?」


 私はエルドラが小脇に抱えていたものに目をやると、彼は頷いて差し出してきた。


 エルドラが読んでいたのは、この世界の新聞。

 と言っても、日本のそれに比べて情報量は少なく、紙面で言うとA4用紙数枚程度のものだった。


「はい。お読みになられますか?」


「あ……ううん。大丈夫」


 人間圏の言語は、魔族のそれとは異なっていた。例を挙げるなら、日本語と英語の違いくらいに文字や文法が違っているのだ。

 魔族語で手一杯の私は、正直に言って手に追えそうもない。


 けれど、やはりというか、さずがというか、魔族のなかで〝知恵者〞と呼ばれるエルドラはその名が示す通り、私の想像を遥かに越えた人物だった。


 彼は聖教会が用意してくれたいくつかの資料からそれらを読み解き、会議が始まるまでの二週間で人間圏の言語をすっかり習得していたのだ。


 どの種族にも、有能な人材はいるらしい。


「そういえば、昨晩はクロムウェルと共に本日の会議資料を作っていたと伺いましたが、体のお加減はいかがですか?」


「うん、大丈夫よ。そんなに疲れるようなことじゃなかったから」


 反対に、私の要望をすべて書き出したジャックス君の方が疲れているだろう。


 本来、魔族は生命力(オド)の回復以外での睡眠は必要としていない。


 けれど、人間にもあるように、怪我の治癒や極度の集中やストレスなどの外的または内的要因が絡んでくると、それが必要になった。


 その時の私と同じく、人間の国に来たことのないジャックス君にとっては、こちらの環境はストレスに感じることも多いのだろう。


(私も前は割りとよく眠くなってたけど、今はそんなことないのよね……。


 きっと、クリストフさんが言ってた〝魂が身体に馴染んでいる〞ってことなんだろうな)


 それは以前、魔法の訓練をしていた際にクリストフさんから言われた言葉だった。


 以前は長時間の睡眠が必要だったこの身体も、今では短時間の休息でも大分回復できるようになっていた。


 クリストフさん曰く、それは宮内環奈(わたし)の魂がこちらの世界の環境やジークリンデの身体に馴染んでいるからなのだそうだ。


 確かにそうなのかもしれない。以前に比べて、魔法の使い方が上手くなっていた自覚はある。


「……」


「おはようございます、陛下。紅茶は飲まれますか?」


 ちょうどその時、クリストフさんが部屋に入って来た音が聞こえた。

 その手にはティーカートが引かれていて、仄かに茶葉の香りが漂ってくる。


 呆然としていた私に、クリストフさんが首を傾げていた。

 クリストフさんの緋色の瞳とバッチリと目が合う。


「陛下? どうかなさいましたか?」


「いっ、いいえ! おはようございます! お茶ですよね!? はいっ。いただきます」


 何度も首肯する私の目の前に、ティーカップが置かれる。


「どうぞ」


 それに口をつけながら、私は向かいに座ったクリストフさんを横目で見た。


 クリストフさんは聖都に来てからは前髪を上げ、白髪をポニーテールにして纏めている。そしてどこで入手したのか、丸眼鏡をかけるようになっていた。そしてその眼鏡が似合うこと似合うこと。


 また前髪がスッキリしたことで、クリストフさんの顔立ちがわかったのだけれど、彼の顔はエルドラと並んでかなり整っていた。


(……美形って目の保養になるけど、観すぎたら目が潰れそうで怖い……)


 紅茶を啜りながら、そんなことを考えてしまう。

 エルドラもクリストフさんも、ただでさえ大人の余裕が全身から溢れ出ていて頼りになるのに、顔も良いとか反則だ。


「そう言えば、陛下。昨日会議に出た〈精霊石〉の件ですが――ん?」


 そう言いかけて、エルドラが顔を窓へ向けた。私もその原因が耳に入る。


 外から馬の嘶きが聞こえてきたのだ。


「あれ? もうそんな時間?」


「いえ……迎えが来るにしては、随分と早い気もしますが……」


 この世界には時計がないため、正確な時刻はわからない。


 けれど、今は夜明けから数刻が経った頃合いで、地球で言うところの七時ぐらいだった。小学生だって、まだ登校時間ではない。


 そして、気になる点はもうひとつあった。


「馬の声……昨日より多くない?」


 昨日は、聖教会までは馬車一台で案内されたのだけれど、往復の馬車を引いていた馬はどちらも二頭。


 それに比べて、今しがた外から聞こえた馬の蹄の音は、少なくとも五頭を超えていた。


 エルドラが窓へ向かい、レースカーテンを捲り表を確認する。


「……どうやら、今日は昨日の倍以上の人員を我々に割いているようですよ」


 玄関(エントランス)の方からは、数人どころではない数の足音。

 そして。


「全員、その場を動かないでください!!」


 その掛け声と共に開け放たれた応接室の扉から入ってきたのは、聖教会の祭服を纏った人間たちだった。


 私たち三人を迅速に取り囲む彼らの動きは、鍛えられた衛兵のように思える。加えてその手には、等しく剣や槍などの武器が握られていた。


「これは、一体何事ですか!?」


 突然のことに呆気に取られていた私は、彼らの目的を推測する。とはいえ、思い当たるのはひとつしかなかった。


(もしかして、昨日勝手に町へ出たことがバレちゃったとか!?)


 にしても、これはやり過ぎではなかろうか?


 私が言い訳の言葉を探している間に、兵の中から一人の男性が前に出てきた。


 その見覚えのある顔に、私は驚きながらその人物の名前を溢す。


「……ヴィックさん」


「魔王ジークリンデ。このような無礼をお許しください。ですが。私どもも火急の件にてご承知いただきたい」


 その口調からは、昨日の外出がバレたわけではないように思えた。


「へ、陛下っ」


「ジャックス君!」


 そこへ、兵に後ろ手で捕らえられたジャックス君が入ってくる。


 着替の途中だったのか、シャツのタイが中途半端で結ばれていた状態だった。


 今にも泣きそうな彼の表情からは、この状況を飲み込めていないであろうことが見て取れた。まあ、それは私たちも同じなのだけれど。


 そして兵に囲まれる私たちの許へと半ば突き飛ばされる形で、ジャックス君が加わる。


「あれを」


 私たちが全員集まったことを確認したヴィック氏は後ろの兵に合図し、何かを受け取っていた。


 それは布にくるまれていて、一見して掌よりも一回りほど大きく、細長いものだった。


「短剣?」


 布から現れたのは、鞘に収まった短剣だった。鞘だけではなく柄、見える範囲全部が漆黒に染まっている。


「陛下……こちらを」


それを目の前へと差し出された私は、ヴィック氏に言われるがまま、柄を握ってその鞘から刀身を抜いた。


 なんの抵抗もなく、刀身が鞘から覗く。


 けれど。


「っ!?」


 刀身には、びっしりと赤黒い〝何か〞が付着していた。

 乾いているだろうとはいえ、それが何なのかは容易に想像がつく。


 誰かを害した凶器。


 けれどいくら頭で理解できていても、予想をしていなかった事態を前に、私は反射的にそれを手から放り投げていた。


 床に落ちた短剣が、金属のような鈍い音を部屋に響かせる。


 苦虫を噛み潰したように、ヴィック氏が呟くのが耳に入った。


「――やはり、あなたには抜けてしまうのですね」


「それは、どういうことですか?」


 私たちの視線に応えるように、ヴィック氏の手が床に落ちた短剣に触れる刹那。


 ばちん。


 空気が弾ける音とともに、両者の間には火花が舞った。

 そしてその衝撃は一瞬にして部屋中へと伝わる。


「い、今のは……」


 ヴィック氏の手はまるで火傷を負った時のように赤く爛れていた。


 その手を私たちへと見せながら、彼は静かに告げる。


「この短剣――魔剣を直に触れることができるのは、魔力を持つ者だけなのです。


 ――そしてこの魔剣は、ヴェルゲン皇帝の胸部に深く突き刺さっていました」


「!?」


 その名前は昨日の会議に出席していた帝国の皇帝の名前だった。


 そしてヴィック氏の口調から、今床に転がっている凶器の犠牲者であるということがわかる。


「大変申し訳ありません。魔王ジークリンデ、貴方をヴェルゲン帝国皇帝エドヴァルド=ラーク・ヴェルゲンの殺害容疑で拘束させていただきます」


「……そんな、何かの間違いですっ! 私は何もしていません」


 身に覚えのない罪状に、私は首を横に振って抗議した。


「ええ。何かの間違いです。陛下はずっと私共とおりました」


 聞こえてきたのは、エルドラの冷静な声。

 彼は私の前に一歩歩み出て、庇う形でヴィック氏の前に立っていた。


「そうですか。それでは失礼ですが、他の方々も同様に試していただきたい」


 ヴィック氏の言葉の意図は聞かなくともわかる。


 そして依頼という口調でも、兵に囲まれている現状でそれは命令と同じことだった。


 エルドラが床に転がっていた短剣を拾い上げ、私から鞘を受け取ってそれを収める。


 続くクリストフさんも私と同じように魔剣の柄を握って抜刀し、何事もなく鞘に収めた。


 そして最後のジャックス君も、同様の行程を覚束無い手元ながらも終えられてしまう。


 結局、この場にいる魔族の全員が、魔剣と呼ばれる短剣に難なく触れることができてしまうのだった。


「……誠に残念ながら、皆様の身柄を拘束さていただきます」


 手の痛みかそれ以外が原因か、ヴィック氏の暗い声が部屋に伝わる。


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