12th pinch 無情な現実
昨日は投稿できず、申し訳ありません。
今日中にもう一話、投稿する予定です。
私の隣で、玲也がポツリと彼女の名前を呼んだ。
「……リア?」
扉を開けて集会室に入ってきたのは、〝聖女〞エルシーリアだった。
「皆様、遅くなりました」
彼女はそう言いながら、すたすたとルジェクの隣まで歩いていき、空席だった椅子へと腰を掛ける。
私を含め会議の参加者たちは、その行動に目を見張った。
「……」
「……猊下、これはどういうことですかな? あなたが本会議に参加するとは聞き及んでおりませんが?」
言葉がないルジェクに代わり、ナシラ大公がエルシーリアへと訊ねる。
「申し訳ありません。
実は、先日皆様の許へお送りした本会議の議題書と参加者名簿には、それぞれ私の署名と名前が記載されていたはずなのですが、何かの手違いで、皆様の許へは、私の署名と名前が記載されていない方が送られていたようなのです。
幸い、〈誓約の印〉を施していたので破棄されることはなかったのですが、見つけるのに時間が掛かり、会議に遅れてしまいました。
こちらが、その議題書のと参加名簿になります」
彼女はそう言って、手に持っていた数枚の紙をテーブルの上に並べた。
「聖下の印もある、ということはこちらも本物だな」
「はい。ちなみに私の会議参加については、聖下からも許可をいただいております」
置かれた書類に目を通したカスト王の言葉に、エルシーリアが頷く。
「中断させてしまい、申し訳ありません。さあ、皆さん。会議を再開いたしましょう――」
そのからの会議は、エルシーリアを含んだ八名で行われた。
これまでの各国の発言に加えて、エルシーリアが〝聖女〞という立場で意見を述べていく。
玲也曰く、この世界の〝聖女〞とは〝世界と神と精霊に愛された存在〞なのだそうだ。
百年に一度、その身に〈聖痕〉を宿して生まれる彼女たちは、魔法を使える人間でも魔力に変換するのに数年単位の修行を要する魔素を生まれながらに使うことができ、同時にどんな魔法も使うことができるという。
そして〝聖女〞の出身国がその強大な力を利用するのを防ぐため、彼女たちはその存在が明らかになると神の名の許に教会へ保護され、どの国にも属さないという宣誓を立てるのだそうだ。
だからこそ、有事の際はどの国の王たちと同等の発言権を持つ、ということに繋がるわけだ。
会議はそれから数時間を要し、窓から覗く空の色は夕刻を示していた。
(……そうか!)
各国の意見を頭のなかで反芻していた私は、やっと理解する。
結論から言うと、各国の和平に対する認識は芳しいものではなかった。
特にヴェルゲン帝国は、連合軍のなかでも一番多く出兵数と物資の支援をしていることから、諸手を挙げて和平に賛成するという訳にはいかないようだ。
あとの六つの国はというと。
アルセド王国は、クエストの破棄により、国内の最大勢力とも呼べる冒険者からの信用失墜を恐れていた。
ディマクタ連邦共和国は、現在国内で発生している民族間の諍いを今回の連合軍への出兵で沈静化を図ろうとしていた。
フィート王国とナシラ公国の両国は、和平には表向き旗色の良い返事ではあるものの、他国を様子見しているようだった。
レイスラント聖国は議長国ということもあり、基本的には中立の立場をとっていた。
和平会議に参加する国が増えれば増えるほど、和平を結ぶための条件は複雑に、そして難解になっていくと思っていた。
実際、彼らの目的は異なっている。
けれどどの国も、根本には同じ。自国の国力の低下を阻止したいだけなのだ。
そして、唯一共通して求めているものがあった。
それは〈精霊石〉。
この世界では欠かすことのできない地下資源の一つであり、どの国も喉から手が出るほど欲しいものでもあった。
そしてまだ未採掘の場所――魔族領にそれがあるのかも知れないのだ。
課題はたくさんあった。
けれど、ここで得たものすべてを明日の会議へと繋げさせる。
「――どうやら、人間側は一枚岩ではないようですね」
「そうみたいね」
会議の終了後。
迎賓館へと戻る馬車のなかで、エルドラがそう意見を述べた。
会議の議事録を取っていたジャックス君も大きく頷いて同意する。
「にしても、あの聖女様スゴかったですね。
あれだけ大勢沢山の王や代表の方々を前にして、堂々とされているなんて……」
「リアはああ見えて、すごく頑固だぞ。一度〝こう〞って言い出したら聞かないし。
でも人一倍努力家で、たまに見せる恥じらうところがいいんだよな」
そう話す玲也の表情は、どこかではなく完全ににやけていた。
外見だけでなく、気の強い娘がタイプなのは変わっていないらしい。
確か、〝ツンデレ〞って言うんだっけ?
けれど実際、私が連合国の内情を知れたのは、エルシーリアがあの会議の場でそれとなく各国の代表へと言葉を投げてくれたからだ。
堂々と王たちと渡り合って意見を述べる彼女には好感が持てた。
私はふと視界に映った窓の街灯を見て思い出した疑問を、エルドラとクリストフさんへ向けて口にする。
「……そう言えば、二人は〈精霊石〉について何か知っていたりする?」
「いいえ。私がこちらに来たのは三百年以上も前のことですが、その際は〝聖女〞〝勇者〞と呼ばれる存在はあったものの、〈精霊石〉という名は聞いたことがありません」
「あー君たちはこっち来てたことがあるのか。そう言えば、そんなこともあったね」
「クリストフさんはどうですか?」
「うーん。私は魔族領にいることの方が多かったから、何も知らないに等しいな。
こっちに積極的に来ていたのは、先代のベルガスヴラト陛下とその弟のリーンハルトの部隊ぐらいかな。魔王城には数名残っているはずですよ」
「その人たちへ聞き込みが強いたいわね。あとは――」
その時だった。
《――や、……か……け……》
「……え?」
それは、意識しなければ聞き逃してしまうようなほど小さな声。
けれど、何か大切なことのような気がして、意識をその声に集中させる。
《――嫌だ! 誰か、助けて!》
「――っ!? 馬車を止めて!!」
気付けば私は御者へ叫び、止まった馬車から降りていた。
「ちょっ、どうしたんだよ!」
「陛下っ!?」
開け放たれた馬車の扉から玲也とエルドラが同時に叫ぶ。
「すぐ帰るから、皆は先に戻ってて!」




