帝国議会
今日から帝国議会。
あいかわらずストリュは文句を言っていたが、なんとか議事堂まで送ってもらった。帝国議会のための議事堂は、お城とは別の立派な建物。お城を中央にして、右に議事堂、左に裁判所が並んでいる。
議事堂にも馬車の駐車場があった。
左大臣に言われた通り半刻前に行くと・・。
左大臣「議長側の候補の立候補の演説を手に入れたぞ。」
どこから?
俺「あ、ありがとうございます。」
左大臣「相手は一昨日、候補となったばかりだし、準備は今一つだろうな。何故か先に演説する事になってるのは議長のはからいだろう。」
俺「昨日いただいたメモに俺の演説の概要がありましたけど、、。この相手の演説への対応は入ってませんよね。」
左大臣「そうだな。だから、、、まあ、おまえにまかせる。」
俺「へ?」
左大臣「その程度の事も出来ないなら、要らんと言う事だ。」
俺「・・・」
そういうお仕事がまったく出来ないなら要らないって事だよな。
左大臣「ぎりぎり過半数は、私と右大臣の派閥で抑えてある。議長の派閥は全体の2割。」
残り3割は浮動票か。
俺「わ、わかりました。」
まあ、やるだけやるさ。
議会は256人が定員で、今は一人の欠員があって255人。プラス一名の候補が俺。
それなりに立派な会議場で、半円形に議席が並んでいる。
議長「本議会を始めるにあたり、欠員についての投票を行います。
候補は、勇者ヒロタン殿。そして、シサム将軍閣下」
議長「それでは、シサム将軍閣下から立候補の弁を」
シサム「私は、長年にわたり帝国軍において・・」
わけの分からん自慢話し。長い!
シサム「しかるに、勇者ヒロタンは」
きた! 俺の批判だ!
シサム「 勇者の本分は戦う事である!つまりは軍に所属すべき者であって、貴族議員に立候補するなど、もっての他。しかも、彼はこの国に来たばかりで、帝国をまったく理解していない。そんな人間に議席を与えて良い物だろうか!
どうか、議員の皆さんには、この点について懸命なるご判断を願いたい。」
ある意味、正論・・だね。
議長「それでは、ヒロタン殿。立候補の弁を」
俺「先日、勇者として顕現したヒロタンです。」
一息ついて、。
俺「 シサム将軍閣下におかれては、帝国への数々の貢献、誠に頭の下がる思いです。今後も、ぜひ、帝国のために、その武勇を役立てて頂ければと考えております。そして、閣下こそ軍において、その真価を発揮されるお方と、まさに、閣下の弁舌が物語っております。しかるに、軍とは異なる貴族議員としての職務において、閣下がご活躍頂けるかと言うと申しわけありませんが、お話しを聞く限り疑問と言わざるをえません。
また、私を軍に置く事についても、賛成できかねるのです。なぜなら、勇者という戦力を軍に置いた場合、かなりの戦力の増強になるわけですが、それは、パワーバランスを憂慮する敵国において対抗する戦力の増強を招きます。長期的な視点に立つと戦力の拡大均衡を招く結果になりましょう。これがもし、戦時下であれば、戦力の優位は勝利という絶対的な利益を生むものです。ですが、今、我々は戦争をしているわけではありません。平和になった、今、我々が目指すべきは、むしろ戦力の縮小均衡です。そのために、勇者というプラスの戦力を、あえて軍から離すことも、敵国をいたずらに刺激しないための策として有益であると考えます。
そもそも、絶対悪も絶対正義も存在しない現実世界において、俺TUEEE勇者というのは「大量破壊兵器を保持した独裁者」と言っても良い存在です。そのような物を前面に出して、国際政治、国際平和を語れる物ではありません。
さて、それでは、異世界より来た私が、貴族議員として役に立つかというお話しですが、。正直、私は帝国の実情を十分に分かっているとは言えません。ですが、ここには帝国を詳しく知り多くの見識を持ち、かつまた、有能・優秀なる先輩議員が多数おられます。ですので、そうした点については皆さんの議論・議決で十分であると言えましょう。
その上で、議会と言うものが、正しい判断を成しえる理由の一つは、同じ考えの人間だけが集まるのでは無く、多くの異なる考えが存在しているから・・と言えないでしょうか。その点で、異世界から来た私が加わる事に意味があると考えています。私は、皆さんと異なる論理・視点を提供できるのです。
と言う事で、帝国に貢献できると考えておりますので、是非、私にご投票ください。」
議長「あ、ありがとうございました。、では投票を、お願いします。」
左大臣が俺によってきて小さい声で
左大臣「まあまあだな。」
俺「左大臣さんが、予め相手の演説を先に渡してくれましたから。」
選挙は7割以上の票で、俺の勝利だった。
取りあえず合格で良いのかな?
その後は、議会の一番端の席に座って、わけのわからない議論を眺め、投票となるたびに左大臣さんに渡されたメモに従って、投票のための番号札を上げるだけ。
たいくつで簡単なお仕事である。
特に携帯禁止では無いらしいので、奴隷 瑠璃の通信でルナリスに
俺 <クラムの薬の作業は上手く行ってる?>
ルナリス<今、言われた通りカビをすりつぶしてろ過してる所です。
十分に消毒しましたし、他のカビは入って無いと思います。>
俺 <じゃあ、油を混ぜてから、水の部分を取り出して、炭に吸着だな。>
ルナリス<分かってます。油に溶ける成分を除いた後、炭で成分を吸い取るのですよね。>
ルナリスは一定の化学知識があるようだ。本人は基礎魔法学と言っていたが。
俺 <クラムの具合は?>
ルナリス<今の所、熱は出ていません。でも、周期から行って今晩あたりは危ないと思います。>
できれば熱が出る前に、飲ませたいのだが。
熱が出ている時は、おそらく免疫力が落ちている。
俺 <分かった。急いでくれ>
ルナリス<でも慎重にやるべきだと思います。失敗したら、次があるかどうか分かりません。>
俺 <そうだな。>
議会が終わって帰ろうとすると、なにやら立派な紳士に声をかけられた。
タジャラン「突然、声をかけてすまない。帝国の魔法士官学校で学校長をしているタジャランと言う者だ。貴族議員の一人でもある。」
俺「エストリア、、さんがいた、学校ですね。」
タジャラン「おぉ。その通りだ。」
俺「私に何か?」
タジャラン「実は、今、うちの学校で、事情のある生徒、、正確には元生徒かな・・を保護しているのだが、帝国内に身寄りが無い生徒で引受先に苦慮しているのだよ。それで、その在学時代のエストリア君とは何かと親交があったようなので、エストリア君にも声をかけてみたのだが、、断られてしまって。」
うわっ。なんだか面倒そうな話しだな。エストリアに声をかけた・・というのは。
俺「もしかして、一昨日、いらっしゃいました?」
タジャラン「あー。お邪魔してしまい申し訳ない。」
そのおかげで、クラムと二人だけになってしまったのだが・・。
俺「いえ、・・。いずれにしろ、エストリア・・さんが断っているなら、俺にはなんとも・・。」
タジャラン「だが、エストリア君は、そのヒロタン殿に余裕が無いので無理と言っていたんでな。」
聞いて無いなぁ。勝手に俺を理由に使うなよ。
俺「そうですね。今は、毎日、忙しいですし。」
タジャラン「理解しているが、そこをなんとか・・。
実は、その子の精神状態がまずい状態でな。エストリア君に断られてから、なおさら・・。早急に安定した環境が必要だと思う。」
かわいそう・・ではあるのかな。
俺「事情は分かりました。戻って、エストリアと相談してみます。」
タジャラン「お願いする。押し付けるようで悪いが、。もし、引き取ってもらえるなら、学校側としても協力は惜しまないつもりだ。」
俺「分かりました。」
屋敷に戻ってエストリアに。
俺「実は話しが・・。」
エストリア「奴隷用の瑠璃で、ルナリスと通信してたみたいね。」
俺「そうだね。」
エストリア「少し、ずるいような・・。」
俺「何が?」
エストリア「なんでもないわ。」
俺「それより、議会で 学校長のタジャランって人に会ったのだが」
エストリア「エミャルの事ね。」
そういう名前なのか?
俺「俺は別に、かまわないと思うけど・・。」
エストリア「学校長が何を言ったか知らないけど、私とエミャルは仲良しでもなんでも無かったのよ。」
俺「・・学校長の話だと、親交・・だったかな。」
エストリア「無いわよ。単に私が当時、生徒会長で、下級生の彼女が酷い扱いを受けていたから立場上、保護しただけ。」
俺「・・そ、そうなんだ・・」
エストリア「なんで、卒業してまで、下級生の面倒を見ないといけないの?」
俺「・・。そのエミャルって、何か事情があるのか?」
エストリア「今の事情・・は良く知らないけど。
当時は見た目と、あと国外からの留学という事で、いじめられていたわね。
士官学校は帝国の軍人を育てる学校であって、国外からの留学は異端なのよ。あと、そうね。性格もいじめられやすいタイプだったかな。」
俺「良く分からんが可哀想・・じゃないのか?」
エストリア「可哀想といえば、その通りだけど。、、。言っとくけど、私は見た目についても問題だと・・。あなたがサミアスを買ったのは見た目でしょ?」
俺「つまり、見た目が良く無いと?」
エストリア「はっきり言うとね。」
なるほど。異世界美少女ハーレムへの道は険しいと・・
俺「確かにサミアスは見た目でだったけど、結局、男だったし。どのみち、ここには、、」
エストリア「ここには・・何?」
俺「い、いえ、、、。きれいな、お嬢様が多くて嬉しいです。」
エストリア「別に無理しなくて良いのだけど、。彼女は特別に酷いわよ。」
そう来たか!
俺「俺はそれでも構わないぞ。エストリアが引き取りたいなら、引き取ってくれ。少なくとも俺のせいにして断るのは止めてくれ。」
エストリア「本気なの?」
俺「そういえば。学校長は、精神状態が酷く悪いとも言ってたぞ。」
エストリア「・・・。まったく、なんで、それを私に押し付けるのよ。」
悩んではいるみたいだな。
俺「分かった、今度、一緒に会いに行こう! エストリアは仲介で判断は俺がする。」
エストリア「・・・。じゃあ、見舞いって事で。」
抗生物質はリナリスが、炭からペニシリンを溶けださせる作業中だった。灰の上澄みというアルカリ性の液体で。
効果を調べるため、他のカビを抑制できるか調べる・・、は、時間が無いので同時並行作業という事にして、。
一定量を分けて、残りを一か八か、クラムに少しづつ飲ませる。かなり危険だと思うけど。
クラム「苦いよ!」
回復用の瑠璃薬は用意してあるが、まだ飲ませるわけにはいかない。
ここで、ひどい副作用なら、終わり・・。
精製ができて無いから、副作用というより毒性だね。
クラム「気持ち悪い・・」
だめか?
俺「体に負担があるのはしょうがないかもしれない。寝ていてくれ。」
クラム「昨日から可愛くしてたよ。俺、、私、治る?」
分からんな。
俺「治るよ。だから寝てろ。」
副作用からか、かなり気分が悪そうだった。
スープは飲んでくれたので、そのまま寝かせる。
ルナリス「今晩、熱が出るかどうかが、ひとつの目安ですね。発熱の周期から言って。」
サミアス「カビはまだ、作る?」
サミアスは、朝、トラクの所へ行ったのだが、今は戻っている。
俺「あー。続けてくれ。どれぐらいの量が必要かもわからない。」
サミアス「そういえば、トラクさんが明日の昼8刻に魔王国と通信したいって。」
エストリア「それを先に言いなさいよ! 準備しておかないと。」
俺「今日の感じだと議会は7刻には終わるから大丈夫だな。」
エストリア「終わらなければ早退してきて。議会って何日までだっけ?」
俺「今節は明後日までらしい。延長されなければ。」
その夜は、交代でクラムのチェックを続けた。
そして、翌朝・・
明日は魔王国との通信です。なんと映像付き通信なので初めて魔王様が登場ですよ!