限られた期間で
そして、見開いた目をスクリーンに向けて最後と言わんばかりにキャヘマが「お願いします。最後にベリュリマーク姉さまと話しをさせてください。」
だが、博士は怪訝な表情で<いや、彼女は既に聖殿の聖女では無い、。そもそも、今の彼女は正気では無いからな。悪いが、ここへ呼ぶわけには……。>
「今は、どうしているのですか?」
<我々(われわれ)を妨害しかねないので、止むを得ず幽閉している。>
「おかしいです! 彼女こそが理想の聖女でした。私のような……汚れた……」
<止めないか。君は十分に聖女だったし、。もちろん、彼女もそうだった。だが、レッドドラゴンへの無謀な干渉は彼女を狂わせてしまったのだ。>
「そう聞いています。でも、最後に姉さまと話しをさせてください。通信の機会は、これで最後ですよね? 例え、どんなに狂っていても彼女は私の最高の師であり友人です。」
博士は少し考えていたが
<そうだな。或いは、君の言葉で彼女が正気を取り戻す事も考えられる。彼女の狂気は我々の責任でもあるし・・。>
そして、俺たちに確認するように<そちらの皆さんは構わないかな?>
キャヘマが懇願するように俺を見ているし否定出来ないので「あー。俺は構わないよ。」 ロコナは帰りたそうだが、無視しよう。
俺の答えを聞いた後、博士は助手に何かを指示した。助手は少し躊躇していたが、博士に再度言われて、部屋を出て行く。
<予め断っておくが、ベリュは暴れる危険がある。そのため拘束をかけているが、悪気があるわけではない。>
やがて連れてこられた小柄な女性は、確かに手を縛れていた。それよりも顔の上半分が仮面でおおわれているのが気になる。キャヘマは額に巻いているだけだったが、彼女は顔を覆う金属の仮面で、そこにいくつかの瑠璃が付いている。おかげで表情は分からないが、言われていたような狂気と言う雰囲気では無い……ように見える……が。
その彼女がスクリーンを見つめて
<キャヘマなの? 無事だったのね。……、でも、、聖王の涙は、どうしたのでしょう……?!>
キャヘマが額の輪を外している事を言っているらしい。
そのキャヘマは手を差し出すように「私は……大丈夫です。でも、ベリュ姉さまは……。そんな、どうして、、。」
だが、その相手はキャヘマの言葉を無視して……
<ちょっと待って! あなたの隣の人は……、。どういう事?>
キャヘマの隣? それって、俺?
キャヘマ「ヒロタンの事ですね。彼は魔王で、古い血筋らしいのです。それで、まあ、。」
ベリュ<ありえないでしょ! 彼女は創成期の人間よ。どれだけの世代があると思ってるの?>
博士が横から訂正するように<既に、あれは人間……では無いよ。とっくの昔しにね>
ベリュ<今も人間よ! 何度、言ったら分かってもらえるの? それに暴走なんてしていないわ! >
博士<いいかげんにしてくれ! 破壊された街を見せただろう?>
ベリュ<そ、それは。分からないのだけど。違うの! だから、止めて!!
これ以上、毒を流すのは! >
ロコナが割り込むように「創成期の人間って言ったのかしら?」
ベリュ<そうよ。レッドドラゴンは創成期の人間。
そして、そのヒロタン……さん?に、そっくりだわ。瓜二つ!
まるで彼女が言っていた、彼女の兄のよう。>
ロコナは平然と
「あー。あるのじゃない。創成期の人間ならヒロタンが兄……でもおかしくない。肉親ってヤツね。」
何を言ってるのだ? 似てるとしても偶然だろ?
博士<いいかげんにしないか! レッドドラゴンは覚醒していないだぞ。
ベリュは寝ているレッドドラゴンから何を聞いたと言うのだ? >
ベリュ<そうね。話しをした……わけじゃない。でも聞いたのよ。彼女は助けを求めている。>
そして、俺を見ながら名指しするように<ヒロタン!あなたにね!>
ちょっと待て! 俺は、この世界に肉親なんかいないからな! 勝手に決めるなよ。
博士<違う!暴走するレッドドラゴンは抹消すべき存在だ。それ以外に無い。
世界のためには、それしか無い!>
そして博士は俺たちを諭すように
<彼女は妄想を語っているだけだ。彼女の言葉は聞かないで欲しい。>
そして向き直って <やはり、ベリュは呼ぶべきで無かった。誰か! ベリュをここから連れて……>
だがロコナが俺に「あんたは、すぐにも行けるって言ってたわね?」
また、ややこしい所でバラしてくれるな。
俺「あ、。あ~、。まあ、相談してみないと分からないが。」
その言葉にスクリーンの向うの博士が首を振って
博士<だが、そこからだと、どんなに急いでも……、。>
エミャル「3日……、いや2日でしょうか。最短だと。」
エミャルに向かって俺が「良いのか?」 エミャルはうなずいている。
博士<なんだと! そんな方法があるのか?>
ベリュ<本当なの!? ならば……。>
キャヘマがベリュの言葉を遮るように
「お姉さま。言葉を選んでください。私は……大丈夫ですから! 」
キャヘマの言葉にベリュは言いかけた言葉を飲み込んだ。
博士はキャヘマの言葉を聞いていなかったかのように
博士<もし2日で来てくれるなら、、。そうだな……。
魔王の魔力で、やれる事がある……かもしれない。
完全な暴走状態になる前に、。>
そうなるのか?
だが、行くにしたって、もし、エミャルが危険になりそうだったら、すぐに逃げよう。絶対に!
俺「近くに着陸できる平らな……、。凍った湖とか……、。ありませんか?」
博士<何が言いたのか知らんが馬車とソリで5日ほどの山の上になら、凍った湖がある。>
遠いなぁ。
キャヘマが慌てて額のリングを付け直しながら、。
キャヘマ「塩湖でも良いのでしょうか? 確か近くの平原に、。」
俺「そんなものがあるのか? 或いは、その方が良いかもしれない。」
数理博士<塩湖なら、馬車で半日だが、この季節、水はまったくないぞ。
ただただ平らな塩の大地が広がっているだけだ。>
理想的じゃないか!
俺「水は無い方が良いです! 2日後にそこで!」
キャヘマ「それまで毒を流し込むのは止めて頂けますか?」
<もちろん、君らが来てくれるなら御所に毒は流すのは止める。
そうしないと君たちも入れないからな。>
俺「それと、我々の安全を保障して欲しいのですが、。」
<我々に出来る範囲であれば、。だが、正直、レッドドラゴンはそれ自体が危険だ。
保証と言われても。>
キャヘマ「ヒロタンさんは枢密院の事を言っているのです。彼らは異教徒に対して暴力的ですから。」
<なるほど。彼らには君らが来る事を知らせないようにしよう。>
俺「ありがとうございます。」
博士<断っておくが、さきほどのベリュのたわごとは忘れてくれ。
繰り返すが、彼女は妄想に囚われて真実を見失っている。>
キャヘマが割り込むよう「分かっています。大丈夫です。」そう言ってうなずく。
博士<ならば、良いが……。>
俺「では、2日後に塩湖で!」
キャヘマが「あの~、それと、。さきほどの私の清王の涙の事は……。」
リングを外した事か。
<あー、。見なかった事にしておくよ。>そして隣の助手やベリュに<君らも、……、。良いね。>
キャヘマ「ありがとうございます。」
俺「では、急いで、準備しますので。」
そして、通信を切った後、ロコナに少し小さい声で、。
俺「偶然、似ているだけじゃないのか? それか、その血筋的なご先祖様……みたいな。」
ロコナ「違うわ。あなたの、その体も創成期のものよ。」
ロコナは何故か決めつけてる。どういう根拠なんだろう。
そして行かないといけないらしい。
エミャル「肉親……なら、ヒロタンさんは行くべきです。
少なくとも行って確かめるべきです! 」
肉体がそうだと言うだけで、この世界に俺の肉親などいないのだが、。
エミャルは肉親と言う言葉に特別に反応している。それは、まあ、境遇から分からないのでも無いのだが。ロコナは何??
エミャル「あの魔獣と飛行艇?ですよね。」
俺「そう。2日だと、それで行くしか無いだろう。」
エミャル「今のテストは共和国までの飛行しか想定していませんが、。」
俺「う~ん、。まあ、相談してみよう。」
エミャル「分かりました。飛行場で、。」
俺「あ~、すぐに!」
帝都の郊外の古い街道沿いに、既に整地した滑走路が出来ていた。
おりしも、そこに着陸しようとする空飛ぶ魔獣と、それに繋がれた飛行艇。
飛行艇は俺たちが乗って来た物を修理しただけだが、それに馬車の車輪がつけてある。
エミャル「テストで大陸……島を4周して戻ってきた所だと思います。
共和国までの距離相当……。」
俺「できるだけ詰め込んだら、何人、乗れる?」
以前は乗客乗員4人にプラス2人の密航者だったが。
エミャル「あの飛行艇だと、荷物無しなら乗員二人。乗客は5人が限界ですね。
高高度飛行を行わない前提ですし、かなり狭い事になりますが、。
魔獣の力から言うと余裕があるので、今、共和国で、もっと大きな物を作ってもらってます。」
着陸した飛行艇から、以前の操縦士がおりてきた。そして、魔獣を操っていたらしいアウラ。
機長 「着陸時の操作が難しいな。」
アウラ「魔獣は横に逸らした方が良いかもしれませんね。」
彼らが俺たちに気づいて近づいてきたので。
俺「共和国と、その先のレイモンという所まで乗せて行って欲しいのだが?」
機長「無理です。行った事の無いところへ行けと言われても、地形も分かりませんし。」
俺「聖女さんが知ってるだろう。」
キャヘマ「空から……というのは初めてですが。場所は、もちろん、分かります。」
機長「いやでも、着陸施設は、ここと共和国にしか作って無いはず。
そんな所に行っても着陸できませんよ。」
俺「塩湖があるそうだ。どこまでも平らな平原。」
機長「塩湖? 凍った湖じゃなくて?」
俺「似たような物……と思ってくれ。それよりも平だし、寒くは無い。」
アウラ「少なくとも1回で飛ぶのは無理ですね。魔獣がもちません。」
少し考えてから「共和国で一泊するという事であれば。」
機長「高度を上げれば良いのではないか? 高度を上げると速度も上がったぞ。
マスクをすれば4時間は耐えられる。」
アウラ「人間は、マスクで良いかもしれませんが魔獣は息が出来ないよ。」
将来は魔獣用の酸素マスクでも作るのかな。
俺「分かった。共和国で一泊。その後、レイモンまで!
明日、出発できるか? そうすれば2日後に着ける。」
機長「ぎりぎりですね。」
アウラ「危険もありますが、ヒロタンさんが言うなら、やってみましょう。」
そして、その日は帝都の城に戻る。既に暗くなっていた。
いろいろあって疲れた、。夕飯の後でベッドに倒れ込む、。
っと、。
隣の部屋から顔を出したエミャルが「ようやく、二人きりですね。」
そういえばそうかもしれない。
俺「ミリア姫は?」
「知らないと思います。ヒロタンさんが戻っている事を。」
そう言いながら、近づいてくる。
例の結婚を約束する瑠璃があるから、エミャルとの浮気?の機会はエストリアが帰ってくるまでの僅かな期間かもしれない。エストリアがあれを埋め込んだら浮気も出来ないらしい。
或いは今夜だけ? 今夜が最初で最後の機会?
エミャルが「私は、もう、ほとんど成人したみたいなものです。今夜は大人として……、。」
大人な事をしようという意味? 良いのか?
だが、これほどの美少女に誘われて抗える男がいるだろうか。なんだか、面倒な事ばかりで良いイベントが無かったが、ついに待望のハッピーイベントだ!
思わずエミャルを抱きかかえようとすると……
ドアがノックされて、。
ドアの裏から侍従長の声が「申し訳ありません。左大臣様が、すぐに来て欲しいと、ご連絡を。」
酷い!
俺「い、今、忙しいのだが。」
侍従長「ヒロタン陛下の身に係わる、火急のご要件だそうです。」
もしかして、エミャルと良いところになりそうなのを見計らってわざと?
議会のせいで、弱い立場の俺の足元を見ての妨害??
まあ良い。左大臣の家は、この城から近いし、これ以上、俺は何も出来ないと釘を刺して、すぐに戻ってこよう!
既に十分な代価を払っているわけだし、さらなる要求は約束違反だ! 断固拒否! それで、もう、何を言われても、どうなっても構わない!
世界が滅びようが構わないぞ!!
そして今夜は、絶対に城に戻ってエミャルと……。
俺はエミャルに「すぐに戻るから待っていてくれ!」と言って城を後にした。




