一緒に死ぬのか!
ええい、ままよ!
俺は、落下傘を背負って走り出し。そしてキャヘマを追って思いっきり崖を蹴った。
なんとか聖女キャヘマを空中で捕まえる。
頭の中でクラムの通信が <その人を助けるつもりなら急いでベルトで留めて!>
キャヘマを抱きかかえ、自由落下の状態でベルトのひとつをキャヘマの体に回して止める。
キャヘマ「き、きつい、です。」
続いてクラムの指示が<背中のヒモを引いて飛行具を広げて!>
ヒモを引くと俺の上で布が大きく広がり、、。
落下が急減速する。かなりの衝撃! 抱きかかえていただけではキャヘマを落としてしまったかもしれない。ベルトを止めておいて良かった。
そして、俺たちは空中に浮いた。
ひとまず、なんとかなったかな。正直、バカな事をしたと思うけど……。
半ば放心していた聖女も、空中に浮いた事で安堵したのか、……、
急に暴れ出した!
キャヘマ「ダメです! 男の人に、そんなに強く抱かれたら……、清王の涙が……。」
この状態で、何を言ってるの?
俺「止めろ! 危ないだろ。 落ち着け! 」
それに彼女の額の瑠璃は特に反応していない。
少しの間、暴れていたが、聖女キャヘマも額の瑠璃が反応していない事に気づいたようだ。
キャヘマ「清王の涙は反応してませんね。これも、不可抗力……? だから大丈夫なのかしら。」
聖女と俺が向かい合わせになるように止めてしまったから、微妙に彼女の胸が俺に当たるのですけど……。
本当は逆向きに留めるのかな?
キャヘマ「ごめんなさい。取り乱してしまって、。
助けて頂いた事にはお礼を言うべきでしょうね。
救って頂き、ありがとうございます。」
落ち着いてきたかな?
キャヘマ「で、でも、あなたは、いったいなぜ? このような事を?
私たちは、あなたがたに酷い事しかしてないのに……。」
とっさの事で俺にも良く分からん。
少しの間、聖女は何やら考えていたが、。
キャヘマ「もしかすると、私の体が目当て……でしょうか?
異教徒の男とはそういうもの、と!? 新約の聖典では、そんな風に書いてあったようにも……。」
そう脅されていた?
キャヘマ「そうですよね。あのような壊れた少女では満足できませんよね。
それで、私の体を!?」
そう言いながら、何を考えたのか聖女が顔を赤らめる。
と、清王の涙……らしい額の瑠璃が赤く光り始めた。そして聖女の顔がゆがむ。
キャヘマ「うわっ。やはり、……、。」
いや、清王の涙が反応しているのは、。
俺「君が変な事を考えなければ良いのじゃないか?」
キャヘマ「いいえ違います! あ、あなたが、あんな事やこんな事をしようとするからです!?」
いや、してないしてない!
だがキャヘマの言葉に呼応するかのように清王の涙の光が増している。目の前にいる俺には眩しいほどだ。
キャヘマ「だ、ダメです! 痛い!! 頭が割れそう! こ、これは……、無理!!死ぬ!!!」
そう言って、額の輪に手をかけると、、、。
頭から外した!?
なんだか、簡単に外してしまったが、。 それで良いの?
聖女は、ふうっとため息をついて、そして、初めて目を開き、綺麗な大きな瞳で俺を見つめ
キャヘマ「内緒にしてくださいね。」
視力が無い、、わけじゃない?
風にあおられて長い髪が顔にまとわりつく。それなりに美人じゃないか?
俺「え~と何が内緒なのかな??」
キャヘマ「聖王の涙が外せる事です。これは本来、特殊な儀式でしか外せない事になっています。」
そう言いながら、輪を腰のホルダーに止めた。以前は、なにやら攻撃用の瑠璃を付けていたホルダーだが、先ほど俺が取り上げたから空になっている。
キャヘマ「これで、今だけは聖女では無く、ただの一人の女です。下の船に降りるまでは。」
よく見ると確かに下に船が見える。
他に降りれる場所は無いし、船に向かうしか無さそうだ。
クラムに言われた通りに、色のついた2本のロープを引っ張ると進路を変える事ができる。それで、旋回しながら、、。
俺「うまく降りれるかなぁ。」
今はまだ、小さく見えるだけの船。
だが、この距離でも異様に細い船なのは分かる。針のようだ。速度を出すためだろうか? でも、あんなに細い所に着地するの?
キャヘマ「船の帆の間に網を張っていますので、そこに降りてください。」
蜘蛛の巣に捕らえられるみたいな物か。ならば、難しくは無い?!
でも、やった事無いし慎重に行かないと……、。
ところが何を思ったが聖女が俺に抱き着いてきて
キャヘマ「助けて頂いたのですし、今だけ、、。あなたの望み通りに……、。良いですよ? 」
何が良いの?
聖女という名前の通り清楚にふるまっていたけど、今はなんだか、……。
でも、飛行の制御の邪魔なんですけど!?
キャヘマ「それがあなたの目的なのですよね?
命を救って頂いたのですから、あなたの望みをかなえるべきでしょう。
最初は、……、キスをすれば良いでしょうか……? 」
そう言いながら両手で抱き着いて、唇を重ねてきた。
俺の両手は、このパラグライダーみたいなヤツの操作で塞がっている。
俺「あぐっ。いや、今は無事に下の船に、降りるのが、。いや、あぐ。」
キャヘマ「あなたの見た目は清王様と比べようもありませんが、。
それも、また、止むを得ない事……、です。」
俺の見た目がなんだって?
俺「いや、俺は、そんな、つもりないじゃないから。」
キャヘマ「も、もちろん、分かってますよ。これは準備で、、。キスじゃなく……、。」
なぜ、視線を外して、恥ずかしそうにするの?
キャヘマ「次はあれ……ですよね。」
聖女の顔が赤くなっている。何をする気?
俺「俺は、この飛行具の操作をしないといけないから!」
キャヘマ「大丈夫です。このベルトをこうして。」
ベルトをずらして何をする気?
俺「ほら、、。もう下の船が近づいているよ。」
下の船を目指して、色の着いたロープを引いて旋回しながら降りていく。
一方で聖女は俺にからみついて。
キャヘマ「ズボンを取るのは無理みたいですね。」
この状態でズボンを取って何をするって言うの?
俺「いや、今はとにかく……。」
キャヘマ「でも、、。下に降りたらら、私は、また聖女に戻るしか無いのですよ? 」
俺「でも、ほら、もう、 」
下を見たキャヘマは、船の上の人影に気づいたかもしれない。
キャヘマ「そろそろ、下から見えてしまいそうですね……。」
俺「だろ? だから止め!」
キャヘマ「 では、約束です! 後で必ずお礼をさせてください! 」
俺「あー、後でな。」
そして、またキスをした聖女は
キャヘマ「いまは、ここまで。あなたは心情的には清王様に少し似ているかもしません。なので……」
マストの間に大きな網が何段に重ねて張ってあった。おかげで、なんとか無事に着地! 反動で網から飛ばされそうになったが必死でしがみつく。
上から見た時にも思ったが、やたらと細い船体だ。
ベルトを外して俺から離れたキャヘマは、いつの間にか額の輪っかを付け、マストの梯子を伝って降りて行く。
俺も布を外して、キャヘマの後を追う。
船の甲板に降りると、剣を構えた白い服の兵士が近寄ってきた。なかなか厳めしい感じの兵士。彼が歩くと木の甲板がきしむ。どういう体重だ?
「聖女様! ご無事で!」
そして兵士は上を見ながら
「他の皆さんは、どうしたのでしょう? なかなか、降りてこられないようですが?」
その兵士以外の……船員風の人たちは遠巻きに俺たちを見ている。
キャヘマ「残念ながら他の者は、皆、島の人間に捕らえられてしまいました。」
兵士「なんと!!」
キャヘマ「ですが、大丈夫です。こうして魔王の一人を連れてくる事ができました。
彼がいれば目的は達成されます。」
兵士が俺に剣を突きつけながら「こいつが魔王ですか?」
そして兵士はキャヘマに向かって、。
「しかし、枢機卿様やエンランや、トリライヌは、異教徒に捕らえられたのですか?」
酷く不満そうだ。
兵士「だから私が行くと言ったのです。
私が行けば、異教徒など何人いようと皆殺しに出来たでしょう。」
そう言って、大きな剣を軽々と振った。危ないのですけど、。
だが、ほんとに、かなり強そう……。
そういえば、俺は何も持ってきていない。武器も瑠璃も、。
キャヘマ「今回の我々の目的は異教徒をせん滅する事ではありません。
むしろ、イデルアを連れて行ったら、目的を果たせなかったでしょう。」
兵士イデルア「異教徒は死によって救われるのです。
異教徒の死による救済は我々の聖なる職務ですよ!」
こいつは何を言ってるのだ?
キャヘマはため息をついて。
キャヘマ「あなたの新約聖典への原理主義的信仰は危険すぎるのです。
今は、この魔王を連れて帰る事を何よりも優先しないといけません。」
連れて帰るって事って、。俺はもしかして囚われの身なのか?
キャヘマに小さい声で「俺は帰りたいのだが。」
キャヘマ「約束したでは無いですか?」
へ? 約束って……?
俺「約束? 何をするつもりなんだ?」
俺の言葉にキャヘマは少し赤くなり……。
すぐに額の瑠璃が光り、キャヘマの顔がゆがむ。何を考えたの?
キャヘマ「ち、ちがいます!」
その言葉は俺に言ったと言うより、額の瑠璃に言ったのかな?
キャヘマ「私たちには、あなたが必要です。」
その時、頭の中で <あと少しで、そこへ着地する! 合図したら兵士から離れて!>
瑠璃の通信! クラムか!? ここへ向かって飛んで来てる? クラムの飛行能力なら余裕か。
一瞬、上を見ようとしたが、、。クラムが近づいている事を兵士に気取られたらまずい!
視線は動かさないようにしながら瑠璃の通信で。
俺 <クラムか! 攻撃するなら殺さずに>
クラム <殺した方が良いと思うけど>
俺 <そんなに強いのか?>
クラム <強くは無い。だが危険な種類の兵士だ。>
種類って何?
俺<俺の瑠璃は持ってきてくれた?>
クラム<ルナに言われて持ってきた! 電撃と、あと、あの光が飛ぶヤツも。>
じゃあ、最悪の事態でも、なんとかなるだろう。
俺<なら、やっぱり殺さずに!>
クラム<命令なら従う。戦闘での命令は絶対だ!>
俺<命令だ!殺さないで制圧しろ!>
クラム<分かった。>
そして、数秒後、。
クラム<いまだ!下がって。>
俺が数歩下がると同時に横から、かなりの速度で何かが飛来し兵士にぶつかった。クラムの羽が、俺の鼻先をかすめる。
兵士はクラムの体当たりで倒れこむ。
だが、、、倒れただけ?
殺す気のクラムなら、この時点で、槍を突き刺していただろうか。今は、ぶつかったクラムの方が大きく飛ばされて、ぎりぎり手すりに捕まって海に落ちるのを回避している。重量が違いすぎ!
それでも、クラムはすばやく立ち上がって、飛行に使っていた羽を外し、背負っていたリュックを俺に投げてよこす。
俺は意外に重いリュックを受け止めた。リュックには瑠璃が入っているのだろう。大きさや重さから言って、他にも何やら入っていそうだが。
一方で倒れた兵士もゆっくり立ち上がった。ほぼダメージは無さそう。
先に態勢を整えたクラムは間髪入れずに剣を抜いて兵士に打ちかかる! そして、その剣は見事に兵士を捉えた。殺すなと命令したはずだが、その勢いの剣では兵士を殺してしまうのでは?
だが、兵士を切り裂くかに見えたクラムの剣……が、兵士の体に当たると大きな金属音を響かせて止まった。白い服の下は鎧か何か?
そのまま薙ぎ払ったクラムの剣が兵士の体……では無く服を切り裂く、。
切り裂かれた白い服の下は、まさしく頑丈な金属の鎧だった。床がきしむような重さは、その鎧のせいか。クラムの剣は、その鎧を露わにしただけ。
兵士は少し笑いながら、まるでうるさいハエでもはらうように大きな剣を素早く振るう。大きい分だけ間合いが広い。クラムは間一髪で兵士の剣を避けた。
クラムを見て聖女が、
キャヘマ「驚きました。このような辺境の島に空挺兵ですか。」
帝国では飛翔兵と言っていたが。クラムたちに別の呼び方があるの?
キャヘマ「ですが無駄です。強信兵のイデルアに勝てる異教徒はおりません。おとなしく降服なさい。」
兵士は、だがキャヘマの言葉を否定して
「 いいえ、聖女様。異教徒に降服は認められません。
だが、そうですね。
おとなしくしていれば苦痛なく殺してさしあげましょう! 」
むちゃくちゃ言うな。
しかしクラムは兵士の言葉に動じる様子はまったく無い。むしろ、不敵に嘲笑して、
クラム「清王の名を汚す堕落した信者たちが、何を言ってるのかな。」
なんだか、いつものクラムじゃない気がする。戦闘中だから?
キャヘマ「どういう意味ですか?」
クラムは、再度、剣でうちかかる。兵士はたいして避ける風でも無いが、クラムの剣は今度も頑丈な鎧に阻まれて止まる。そして、そのまま薙ぎ払ったクラムの剣が兵士の残っていた服を完全に切り裂いた。
おかげで、兵士の全身が露わに。
鈍く光る金属の鎧が全身を覆っていて、まったく隙が無い。
いかんせんクラムの細い剣は軽い。とてもじゃないが、この鎧を打ち砕く事はできないだろう。
俺がなんとかするしかない……という事だ。渡されたリュックを開いて瑠璃を探す。殺す事になるかもしれないが、俺が空間を切り裂く瑠璃を使うしかないだろう。
クラムでは無く俺が殺るやるべきなんだ。
クラムは一度、大きく下がり、、、。そして自身の剣を捨てた!
確かにクラムの剣は効かないようだが、。でも、剣を捨てて、どうする気?
俺が、リュックの中の瑠璃を探しているうちに、クラムは懐から何か別の武器?を取り出した。あの巨大な剣に対抗するには小さすぎる武器に見えるが。
新たな武器を手に、クラムが一気に近づき、……、兵士と交差した瞬間、突然、鎧の兵士の叫び声が上がる!
一瞬、おくれて、兵士の鎧の隙間、腕の付け根あたりから血が噴き出した。
どういう事? 腕の付け根、肩は可動部だから、なにかしらの隙間はあるのだろうけど、複数の金属の板が重なり剣を入れる事などできそうに無い……が。
良く見るとクラムの手から銀色の細い糸……リボンのような物が流れている!?
鎧の兵士は、血を流しながらも無事な方の手で大きな剣を素早く振り回す。片手で、どうして、あんなに大きな剣をすばやく振れるの?
クラムは、今回も間一髪、紙一重で、その剣を避ける。いや、少しかすってないか? 近づきすぎたせいだ。でも兵士の剣がかすめた瞬間の鋭い金属音からすると、クラムも服の下に何かしら鎧をまとっているらしい。鎖帷子みたいな物かな。魔王国とかにはあったし。
下がって行くクラムの手から、今度は、はっきりと細い銀色の筋が見えた。
一度下がった後、再び、兵士の剣の隙を見て近づくクラム。その動きに応じて、銀色のリボンがまるで生き物のように、兵士に向かって流れていく。リボンは兵士の、無事な方の肩にまとわりついた。クラムの手の動きに合わせて不気味にうねる。
次の瞬間、兵士は叫び声をあげ剣を取り落とした!そして、クラムから距離を取るように飛び退る。もう片方の肩からも血が噴き出していた。
両腕をだらりと下げて膝をつく兵士。鎧からあふれた血で、足元に血だまりが広がっていく。
膝を着いた兵士を横目にクラムは終わったとばかりに、平然とリボンを巻き取りはじめた。止めを刺さないのは、俺の指示のせいだろうな。
キャヘマ 「どうしたの? 何がおきたの? まさか!? イデルアが負け…… 」
キャヘマの言葉を遮って「ありえない!」兵士が大きな声を上げた「私が異教徒に負けるなど、ありえない! 」
すさまじい気迫のこもった声。
でも両腕が使えないようですけど?
キャヘマ 「で、でも、。」
兵士「聖女様! お逃げください! 」
キャヘマ 「何を言ってるの? 」
兵士「『私』からお逃げください! 」
そう言うと首から下げた小さいケースを頭の動きだけで、口にくわえた。手が使えないのに器用だ。
そのままケースをかみ砕くと、中から赤い錠剤。
キャヘマ「 ま、まさか! それって! 」
キャヘマはそこまで言って、、後ずさると、振り返って一目散に船首に向かって逃げ出した!
なんとなくだが、。たぶん、俺も知ってる薬。
レベルの認識力を失い、魔法回路を暴走させる薬。魔法回路のレベルは人間としての認識により制御されている。その認識を薬で喪失させ、獣と同じ状態にする事で、魔獣と同じようにレベルが暴走する。
暴走する獣……狂人になり、。
上限を超えるレベルと引き換えに……実現される人間の魔獣化、。そして、普通の人間が使えば……二度と戻れない。
俺は大声でクラムに「下がれ!」と叫びながら、リュックから、やっと見つけた空間を引き裂く瑠璃を取り出す。今は、これしか無い。
兵士の体が膨張して、鎧が大きな音を立てて割れた。そして、割れた隙間から青白い光が漏れてくる。
割れてなお鎧は兵士の体のかなりを覆っている。或いは、そういう状態も仮定して作られた鎧なのだろうか。
体の変化に合わせて、顔も異形に。口には牙が生え、頬にはうろこ状の文様。そして、目は赤く光っている。
魔獣もそうだが、こうした形態は何処から来るのだろう。
俺も、薬を飲んだ時は、こうなっていたの? いやでも、俺は偽装のために施されたレベルまでの暴走だから人の姿を保っていたはず? 自分では分からんのだが。
こいつは、俺と違って制約無しの暴走。レベル的にも、とんでも無い値になっているはずだ。
そして、……、もう戻れない。
クラムがこちらに逃げて来るのを追って化け物も、こちらに近づいてくる。
どうみても躊躇など不要だし、今回は、俺がこの瑠璃を使う事での、俺ツエー回、なんだろう。
クラムが俺の後ろに回り、小さくなる。
驚いた事にクラムは少し震えている。こんなクラムを見るのは始めてかもしれない。もちろん、俺も怖いが、少女のように震えているクラムを守らないといけない、という意識が不思議と俺に冷静さを与えてくれた。
空間を引き裂く瑠璃を構えたまま化け物を十分に引き付ける。
エミャルが近くにいない今のオレだと、一発で決めないといけない。電撃より魔力を使うし、この瑠璃を2回打てるとは思えない。
化け物が俺とクラムに覆いかぶさるように迫ってきた、まさにその瞬間、瑠璃の攻撃を放った!
暴走状態だと知能は低下している。化け物は避ける事も無く、もろに瑠璃が放った空間の刃を食らった! そして体がちぎれそうになりながら飛ばされていく。この瑠璃は、相変わらず物理法則を無視して、こちらには何の反動も無いのに、もの凄い衝撃を相手に与える。
暴走兵士は艦橋の前面の壁にぶつかり、大きな穴を開けた。さらに、その奥のいくつかの壁をぶち抜いたような重なる衝撃音。
かなり船を壊したかな? まあ上部の甲板より上の構造物だから水が入って沈むとかは無いだろう。
なんとか終わった! むちゃくちゃな疲労感で、ぐったりだが。俺が倒したぞ! 完全に俺つぇー回だ!
疲労感からすると、やはり、エミャルのいない時に、この攻撃を2回は無理だな。
逃げていたキャヘマが戻ってきて俺のそばで。
キャヘマ 「 驚きました。今の攻撃は、、。さすがに魔王……なのですね。」
疲れているがドヤ顔の俺。なんならガッツポーズでもするか。
こういう俺ツエー回は良いよな。
キャヘマ「 イデルアには気の毒ですが、あれでは全員にとって危険なだけです。
もう人間には戻れませんし、。気の毒ですが殺してください。」
ん?
キャヘマ「先ほどの攻撃ならエクラト状態のイデルアも倒せるでしょう。」
でしょう?
俺「ま、待ってくれ。今、倒せるでしょう? って言った? 倒した、じゃなくて? 」
キャヘマ 「エクラト状態だと体の中心の魔法回路まで破壊しないと倒せません。
さきほどは、まだ、中心には達していなかったように見えましたが、あれを繰り返せば十分に倒せます。」
ちょっと待ってくれ! まだ、倒せて無いの?
はたして再び大きな音が響き、艦橋の壁に別の穴が開いた。そして、その穴から暴走状態の兵士が現れる。
体には大きな傷、というか胴体が半分欠けているように見えるが、それでも凄まじい力で、壁に大きな穴を開けて出てきた。
キャヘマ 「体の傷に、さきほどと同じ攻撃を入れてください。」
俺「お、おれは、もう無理なんだが。 」
すでに、ぐったりだ。立っているのがやっと。この瑠璃は電撃よりも魔力を食う。
キャヘマ 「何が無理なんでしょうか? 」
俺「既に魔力が無い。 」
キャヘマ 「どういう事です? 一回だけで終わり!? 」
俺「そう。」
キャヘマ「ちょっと待ってください! そんな程度の魔力なのですか!? 」
暴走兵士が近づいてくる。
艦橋の上で、偉そうな帽子をかぶった船員が叫ぶと、多くの船員たちがマストに登って逃げていく。
マストの上へ逃げれば安全って事かな? 確かに知能が落ちてる暴走兵士だとマストは登れないかもしれない。
良く考えたな。
で、でも、今の俺たちの後ろにマストは無いのですけど……。船首に向けて平坦で細い甲板が続いているだけ。
逃げ場無し!
クラムが立ち上がって、先ほど捨てた剣を拾いあげた。
戦う気? いや、だが、無理だろう。
俺も、もう一度、瑠璃を構えてみたが……、まったく打てる気がしない。
キャヘマ 「あなたの魔力がその程度だとしたら、、。
もしかすると、あなたを連れて行っても!? 」
俺 「何を言ってるのだ?」
キャヘマ 「あなたの魔力では私たちの国を、、いや、世界を救うには不足……かもしれません。」
俺 「そんな事より、今は、あいつをなんとかしないと!
聖女さんの魔力で、この瑠璃を使えないか?」
キャヘマ「無理に決まってるでしょう! 私に出来るなら魔王を探したりしませんよ。」
そりゃ、そうか。
クラム 「俺が行く!」
その一人称は止めろ!
クラム 「俺が左側から攻撃するから、ヒロタンは右側をすり抜けて逃げてくれ。」
クラムはそういって、剣をかまえ暴走兵士の前に進んだ。
だが、暴走兵士の一瞬の攻撃で簡単に跳ね飛ばされ、。そのまま海のかなたに飛んで行ってしまいそうになるクラム! けん制にも何もなりやしない。
俺は慌てて走ってクラムを受け止め、ぎりぎりで手すりにつかまって耐える。意外にクラムが重い? 内側に鎧を付けてるから?
なんとか手すりにつかまった俺たちに向かって暴走兵士が近づいてきた。
俺に抱かれたクラムが顔を歪めて痛そうにしながら「今ので、だいぶヤラレタ。いくつか骨が折れたと思う。もう戦えない。」
俺は、クラムを抱えたまま、もう一度、瑠璃をふってみたが何の反応も無い。やはり魔力切れか。
クラムが最初に言った通り早めに、この兵士を殺しておくべきだった。俺のミスだ。その結果、クラムまでも……。
俺「しっかりしろ! まだ何か……、。」
クラムは痛みに耐えながらも少し笑って「無理だ。……、。だから、お願い。俺、、私を抱きしめて!」
こんな時に? いや、こんな時だからか、。言われるままクラムを抱きしめる。
クラム「ありがとう。こういう最後で良かった。私は、戦場でもっと悲惨な死に方をするはずだったんだ。
こうして、ヒロタンと一緒に死ねるなら幸せだよ。」
俺「バカを言うな。まだ、何か手が……。」
クラム「最後に、。私にもキスして!。お願い! 私は……、まだ……。」
暴走兵士が迫ってくる。自分が無敵なのを理解しているのか意外にゆっくりと、。
もしかして、ここでクラムにキスすると、奇跡のなんとかパワー的なので救われるとかか?
そういう話だっけ?
まあ、たぶん、違うけど、でも、いいや。 クラムは一番、素直で良い子だったし、だから、こういう最後って事なのだろう。
クラムを抱きしめて唇を重ねた。




