救助
突然、大きな爆発音がして、同時に馬車の前が大きく跳ね上がり、窓の外で炎と煙が噴きあがる。
火薬を使ったな!
枢機卿「うわ~!! どうした?」
キャヘマ「だ、だめ! 何も見えない!」
キャヘマが瑠璃の目で何を見ているのか分からないが、火薬の爆発で感覚が狂ったらしい。
そして馬車の前が跳ね上がった事で、前に座っていた聖女キャヘマが俺に覆いかぶさってきた。
キャヘマ「うわっ。ダメ!だめです!」
ミシャをかばっている俺の上に聖女キャヘマが、ほとんど俺に抱き着くようにかぶさってきた。
ゆったりした服に隠れていたが意外に大きな胸が俺にあたる。
ほぼ同時に女性兵士がすばやく立ち上がり、枢機卿の体を足場にしてキャヘマの体を俺から引きはがす。
枢機卿「ぐえっ!」
踏みつけられた枢機卿が変な声を上げた。
馬車は爆発で跳ね上がった前輪が、こんどは勢いよく地面に落ち、、。そして、バキっと言う音と共に、何かが壊れた。おかげで、前が少し下がった状態で急停止。
トリライヌが「やられましたね。」
枢機卿「おまえ、今、わしを踏んだだろ!」
トリライヌ「お許しください。聖女様を守るための止むを得ない行為でした。」
枢機卿「……、。ま、まあ、良い。……、。」
枢機卿は窓から外を見ながら、。
枢機卿「特に襲ってくる様子は無いな。……、。
あと少しじゃないか? 馬車を降りて歩いて行くぞ! 急げ!」
外に出てみると、馬車は壊れたが馬は無事なようだった。御者席に乗っていた二人の兵士も無事だ。
火薬による爆発は前輪の破壊による足止めが目的か。まあ、俺たちも乗ってたし、最低限にしたのだろう。
どういう原理で発火させたのかは分からない。
枢機卿の指示で兵士たちが馬車の上にのっていた荷物をおろし、馬車から外した馬の背に乗せはじめた。
結構な量の荷物だ。これを、島の外に持ちだすつもりかな?
誘拐の他に窃盗もやっていたりする?
聖女キャヘマが俺の傍にきて。
「先ほどの事は無かった事にしてください。」
俺「何を言ってるのだ?」
「私は純潔を守らないといけません。男性と触れ合うなど、あってはならないのです。
ですので忘れてください。」
良く分からんが、俺に覆いかぶさった事を言ってるらしい。俺は黙ってうなずいた。
そして、皆で歩き始める。
歩き始めると、すぐにミシャがぐったりして俺の袖を引く。もう歩けない?
彼女は、広場での魔力を封じる攻撃を受けてから弱っている。しかたないので俺が老人に向かって
「ミシャは弱っていて、これ以上、歩くのは無理なようだ。俺が抱えて行くが構わんよな?」
枢機卿「あー、かまわんず。その方が、おまえも変な事を出来なくて良いだろう。」
俺に抱えられたミシャは少し笑って。そして俺の耳元で。
「先日、神官長に攻撃用の瑠璃を体に埋め込むように言われました。いざという時のために。」
そうなの? いったい何時? そんな時間、あったか?
ミシャ「でも、今の私は魔力がありません。体の……、。皮膚のすぐ下ですのでお義兄様が皮膚を割いて取り出して使ってください。」
大丈夫なのか? 俺も小さい声で。
俺「どういう瑠璃?」
ミシャ「空間を切り裂く瑠璃です。」
あぶねぇ!!!
俺「どこにあるのだ?」
ミシャ「…………。隠すために……。おなかの下の方……です。」
また、いかがわしげな所に……。
ミシャ「さわれば分かります。皮膚を割いて瑠璃を取り出して……。」
俺「ダメだ!」
そもそも、そんな必要があるのだろうか?
ルナリスたちが来ているし、そんな物を使わなくても、なんとかなるのじゃないか?
俺は通信でルナリスに<俺たちを追っているのだよな?>
<はい。そちらが徒歩になったので、まもなく全員が追い付きます。見つからない程度の距離で包囲します。>
俺<分かった。合図をしたら、攻撃してくれ>
<分かりました。>
攻撃するには、俺たちが人質になっている事と、あと、聖女の瑠璃が問題だよな。あの相手を眠らせる聖女の瑠璃。あれがあると攻撃しても、やられてしまう。
どうしようか考えながら1時間ほど歩いていると、。
枢機卿「ほら、もう着いたぞ! そこが海岸だ!」
着いてしまった? でも、そう言われても海なんか……。
いや、少し先で大地が終わっている。そして、はるか先の下の方に水平線のような物が……。
し、しかし、恐ろしい高さだ。下には雲さえ見えるぞ!?
枢機卿「信号弾を上げろ!」
ここで誰かと落ち合うのか?
兵士が信号弾を打ち上げた。
海に向けて!?!?
そして、馬の背から荷物を下ろして広げ始める。
中から白い大きな布の束と、そこに繋がる沢山のロープ
印象からすると、……、もしかして落下傘?
ほどなくして、海の方からも信号弾のような物が上がった。つまり、崖の下に船がいるのだろうか。
そこまで、この落下傘でおりるつもり?
もしそうなら、早くなんとかしないと。
兵士が忙しそうに準備している隙に、俺は素早く聖女に近寄った!
気づいた兵士が俺を止めようとしたが、一歩先に聖女様を捕まえる。
俺「動くな! もし、動いたら聖女様がどうなっても知らないぞ!」
彼女の首に腕をかけて。近づいたら首を絞めて殺すぞ!というポーズ
キャヘマ「あっ! 私に触れては、なりません!」
俺「悪いが、今は、これしか無い。」
キャヘマ「……、ですが、これでは清王の涙が……」
聖女は清王の涙からの痛みを恐れて身を固くした。
だが、額の瑠璃は、、特に反応しているようには見えない。
枢機卿「うぐっ! 人質とは卑怯だぞ!」
おまえが言うのか?
通信でルナリスへ。
俺<急いで攻撃してくれ! 今なら大丈夫だ!>
ルナリス<わかりました!すぐに包囲して、攻撃します!>
聖女さえ抑えれば、なんの問題も無い……はず。
キャヘマ「清王の涙は反応しないようですね。止むを得ない不可抗力……と言う事でしょうか?!」
清王の涙が反応しない事に安堵した聖女は俺に体を預けてきた。特に抵抗する気は無いらしい。
枢機卿「止むを得ない!
キャヘマが死んでもかまわないから、そいつを捕まえろ!
後は下の船に降りるだけだ! 聖女は必要無い。 」
そうなのか? それで良いのか? 聖女は使い捨て?
枢機卿の命令で男の兵士二人が剣を構えて、すばやく近づいてきた。
キャヘマ「なんて事を……。でも、そうですね。それが正しいのかもしれません。」
そう言ってうなだれる聖女。
キャヘマ「私にかまわず攻撃してください。」
止めて! もっと自分を大事にして!
兵士が剣を振りかぶって、俺たちに撃ちかかる。こりゃ、ダメだ!
だが、その瞬間に女性兵士が俺と二人の兵士の間に入って、剣を受け止めた。
トリライヌ「聖女様を見殺しには出来ません!!」
そう言って、男の兵士の二人の剣を振り払う。なかなか強いな。
枢機卿「わしの命令に逆らうのか!
ならば、かまわん! トリライヌもろとも、殺れ! 」
少し躊躇していた男の兵士だが、枢機卿の言葉でトリライヌに向かって剣を振るう。
俺<おおい! 急いで攻撃してくれ!>
さすがに二人の剣に押されて、女性兵士のトリライヌは俺の、すぐそばまで後ずさる。
その時、ようやく声を上げて周りからルナリスたちが殺到してきた!
帝国の近衛が10名ほどと、魔王国の兵士が20名ほど。聖女は俺が抑えているから、例の兵士を眠らせる瑠璃は使えない。
多勢に無勢だし、たちまち襲撃者全員が崖に追い詰められた。
なんとか助かったようだ。
俺は聖女の腰から瑠璃を取り上げて、聖女を離す。
俺「瑠璃は預かるぞ。」
聖女はぐったりと座りこむ。
キャヘマ「私たちは失敗したようですね。」
取り上げた聖女の瑠璃は妙な装飾が付いた棒。この大陸……島では、瑠璃の棒に装飾を付けたりしない。それだけでも異国風だ。
襲撃者の兵士たちも追い詰められて、両手を上げ、武装を解除されている。
枢機卿だけは最後まで暴れていたが、崖に追い詰められ、無理やり武器や瑠璃を取り上げられた。
ほっとして、見回すと、。なかなか立派な帝国近衛士官の制服を着たクラムが彼らの荷物の白い布を興味深げに調べている。どうでも良いけど、クラムが着ているのは男性用の制服じゃないか?
俺が近づくと、。
クラム「これで崖から飛ぶつもりだったみたいだね。」
俺「クラムには分かるのか?」
クラム「分かるよ。里でもこれと同じ物を使っていた。新兵の教育には最適だ。」
使い方が分かるなら利用価値はありそうだ。
俺「どうやって使うのだ?」
クラム「これをこうして……。」
そう言って俺の体に付属のベルトを巻き付けた。何本ものベルトでしっかりと体に装着できる。
クラム「これは二人用みたいだね。」
確かにベルトが余っている。タンデム?
クラム「羽が開いた後は、ここの色のついた2本のロープで方向を決める。」
なるほど。パラグライダに近いかな? 知らないけど、。
崖の方では武器を取り上げられた枢機卿が、それでも何か叫んでいる。
聖女がようやく立ち上がって、枢機卿に向かい
キャヘマ「初めから良いやり方ではありませんでした。」
枢機卿「何を言う! おまえが油断して、あの男に抑えられたのが悪いのだ!
トリライヌも、わしの命令に従わないし! まったく!!!」
キャヘマ「いいえ。あなたの責任ですよ。もし、帰る事が出来たなら、この事を法王様に……。」
枢機卿「なんじゃと! 法王様に何を言うつもりだ?
あ、あの方は失態を許さない…… 」
キャヘマ「失敗したという事実を法王様に、。」
枢機卿が聖女に近寄って、。
キャヘマ「ん?。何をなさるのですか? 」
枢機卿「おまえは不要だ!」
聖女を崖に向かって突き飛ばす
キャヘマ「やめて!危ない……」
さらに、枢機卿は聖女を崖に向かって思いっきり蹴り飛ばした。老人とは思えない!
キャヘマ「だ、だめぇぇ! 」
彼女の悲鳴がこだまするように響いて、その姿が崖の向こうに消えていく、。
落下傘のベルトを付けていた俺はクラムに「これ、この状態で飛べるのか?」
クラム「飛べると思うけど、。……、まさか?」
ええい、ままよ!
俺は、落下傘を背負って走り出し。そしてキャヘマを追って思いっきり崖を蹴った。




