ミシャの攻撃力
フーコートはシサムたちからも距離を取りながら、部屋の入口を塞ぐように陣取った。
この状態で、俺に出来る事は、この魔獣と刺し違えるぐらいか。魔獣以外に強力な暴力装置は見当たらない。俺の偽勇者のレベルでも刺し違えるぐらいはできるかもしれない。俺が死んだ後は、エストリアに託して・・。 こんな事なら、もう少しレベル上げをしておけば良かった。
俺「エストリア! ミシャを頼む!」
エストリア「無理よ! 何をする気!」
エストリアでも護身用の電撃の瑠璃ぐらいは持っているはずだ。魔獣さえなんとかできれば、ミシャを助けるぐらいは。
俺は剣を構えて魔獣と向き合う。フーコートに操られた魔獣は、俺に向けてゆっくりと近づいてきた。
なかば焼けで、座っていた椅子を魔獣に向けて投げつけてみる。魔獣に当たろうとした椅子は、その瞬間、何かにはじかれたように飛び壁にあたって砕け散った。こんな骨だけの魔獣に、どうして、そんな事が出来るのだろう。
魔獣の近くの床に飛び散った血の跡があるので、よく見ると骨ばかりのような足の皮膚が裂けて、筋肉や血管が露出している。そこから血が流れ出しているようだ。こいつは攻撃時に自分を破壊しているのか? むちゃくちゃだ!
フーコートは、勝ち誇ったように笑いながら「ぐはは。終わりだよ!」
確かにそうなんだが。ここはでも、はったりしかない。
俺「どうかな? 俺は勇者だぞ! だいたい、その魔獣は壊れかけているじゃないか!」
フーコート「こいつは、どのみち3日と持たない。おまえらを始末するまで生きていれば、それで良いのよ。」
それでも、俺の言葉に多少は警戒してくれたらしい。魔獣は慎重に、ゆっくりと近づいてくる。
だが、これでは刺し違えるのは難しくなったかもしれない。いや、そもそも、そんな事が出来るのだろうか? 先ほどの動きからしたら、この魔獣の攻撃に俺に追従できるとは思えない。 一瞬で終わりじゃないか?
魔獣が、いっきに飛び掛かれるぐらいまでの間合いに近づき、まさに俺に……、
と思った瞬間、。
一瞬のまぶしい閃光の後、部屋に恐ろしいまでの衝撃音が響き、爆風とともに煙が沸き上がった。そして壁の一部が崩れる。その崩れた壁の周囲に真っ赤な血がべったりと……。
煙の中から二つに分かれたグロい肉塊が現れドサリと床に崩れ落ちる。位置から言って、かつてフーコートだったもの?! 吐きそう……。
魔獣は電池の切れたロボットのように止まっている。
横を見ると、かろうじて半身だけ起き上がったミシャの手に、おそらくは空間を切り裂く刃の瑠璃。
そして、ミシャは、そのまま床に倒れた。
ミシャは自分の体を維持できないほど魔力が尽きていたはずだぞ! そんな攻撃ができるわけが……!
俺は剣を投げ捨てると、ミシャを抱き上げた。今にも消えそうだが息がある。
あっけに取られてる総統たちに、
俺「もし、ミシャの身に何かあったら、、。きさまら……」
いや、それは別の話しだ。今は、とにかく、、。
入口の扉のロックを蹴飛ばすように開けると、ミシャを抱えて部屋を飛び出した。確か神官長も来ていたはず。
俺「神官長は!?どこに?」
だが、どうしたら良いのだ? 例え神官長がいても、今は俺の魔力も無くなっているのじゃないか? もし、そうなら、この前のようには出来ないだろう。
幸い、同じ建物の近くの部屋で神官長を見つけた!
神官長はぐったりとして青ざめているミシャを見ると。
神官長「また、やったのか?!バカタレが!!」
俺「話はあとで! この前以上に魔力が切れている状態です!」
だが、神官長は、以前の時より落ち着いている感じだ。
神官長「あー。また、こういう事があるかと思って用意はしてある。」
神官長に言われるまま近くのソファにミシャを寝かせた。そして、神官長は鞄から取り出した瑠璃のついた棒をミシャの体に突き刺していく。以前の両側が尖った棒とは違うようだが?
ロコナはいないし、神官長一人で大丈夫なのだろうか?
とりあえず、俺も腕をまくって、。
俺「俺の腕は……」
俺にもほとんど魔力は無いと思うのだが。
神官長「必要無い。ミシャ様の魔力を充填した瑠璃を用意しておいたのじゃ。」
いつの間に?
何本かの棒をミシャの体に差し込む。赤い血が服を染める。
ミシャの血が床に垂れて少しづつひろがる。その出血だけでも問題じゃないのか?
そして、……、ずいぶんと時間が流れたような気がしたが、、。
ミシャが目を開けてくれた。
俺「良かった!ありがとうございます。」
苦しそうだった顔も、おだやかになっている。
目を開けたミシャは確認するように深呼吸をして、……。そして、なにかを思い出すように手を伸ばしたが、そこには何も無い。
ミシャ「今回は、お義兄様と繋がって無いのですね。」
少し残念そうにも。
神官長が棒を外しながら、。
神官長「昨日、このための充填じゃと言ったろう。だからと言って、いきなり、こんな無茶をしおって!
絶対に止めるんだ! 今だってギリギリだったぞ!」
ミシャ「ごめんなさい。……、そうします。」
なんとか大丈夫そうなので皆がどうなったかと思って部屋を出てみると、。その部屋の扉の外に皆が集まっていた。
驚いた事にシサム総統たちもいて、。
シサム「大丈夫なのか?」
いや総統さんに言われても。
俺「なんとか大丈夫のようです。」
シサム「思ったのだが、さきほどの攻撃なら、スピカも落とせるのでは無いか?」
俺「スピカ?」
シサム「空を飛ぶ魔獣……と、お前たちが呼んでる……」
俺「落とせますよ。と言うか、落としました。」
シサム「……そうか。あれは、あの娘が……。」
俺「いえ。俺が、落としました。」
シサム「君が?」
俺「俺も使えますから。」
シサム「そ、そうか。驚いたな。」
さきほどの女性……ネイリンが
ネイリン「フー司祭が死んだので、当面、スピカの出撃は無いと思います。
彼が出撃の指示を出していましたから。
この状態でむしの良い話しかと思いますが、食料だけでも渡して頂けないでしょうか?
私たちは、本当に厳しい状態です。」
俺「俺は構わないのだけど……。エストリアが……」
エストリア「何よ! 私は鬼だとでも言いたいの? 食料だけなら良いのじゃない。」
ネイリン「ありがとうございます。」
俺「そういえば、。フー……司祭ですか? 彼は魔王国のネクトン派の生き残り。そして、シサム総統……将軍は帝国の、、まあ、反乱軍的な物として。」
シサム「反乱などしとらんぞ。むしろ、追い出されたような物だ。」
ネイリンに向かって、
俺「 あなたは、なぜ、その新国家に?」
何故、テロ国家の幹部? ネイリンは答えたく無さそうに黙っていたが、。
シサム「ネイリンたちは帝国の逃亡奴隷だよ。我々は、彼らを連れて帝国を離れ、魔王国のネクトン派と共謀したのだが……。」
帝国の元諜報員が奴隷?
ネイリンがシサムの言葉に、ため息をつきながら、。
ネイリン「捜査の途中で知ってはいけない事を知ってしまった……。それだけです。」
まるで、普通の事のように言われても。 何を知ってしまったの?
まあ、いろいろと陰謀がある国だとは思うが……。
ネイリン「殺されなかっただけマシでしょう。」
いろんな理由で奴隷にされる国……というのは知っていたけど。
そして、逃亡……か。
まあ、そういう事もありそうだな。
俺「なるほど。帝国の逃亡奴隷というのは興味深い話ですね。」
似たような話を知ってるわけだし。
ネイリン「ごめんなさい。帝国の皇帝陛下から見たら、逃亡奴隷はそれ自体が許せない存在ですね。
しかも、昨夜は……
食料を頂くのは無理でしょうか?」
シサム「うっ。すまん。私が余計な事を言ってしまったようだ。
この人たちは凶悪犯……というわけじゃないのだよ。いろいろな理由で奴隷にされたが、主人となった人たちも、暗に逃亡を許している。」
エストリア「そうなの?帝国の法律では、いかなる理由であれ奴隷の逃亡を許した主人は重罪よ。」
俺「そうなのか?」
それって、俺も……
エストリア「説明したでしょ!故意に逃がしたのなら最悪死刑だわ。」
俺「それは、やばいな……」
シサム「……。もしかすると、今の俺の言葉のせいでネイリンたちの主人だった者たちを処罰する……事になってしまうのか?
すまん。余計な事ばかり言ってしまう。俺は交渉に向いて無いようだ。」
まあ、でも正直だよな。
俺「いえ、。良い方だと思います。」
シサム「皮肉か?」
ネイリン「ごめんなさい。どうか、主人だった皆さんの罪を許してください。」
エストリア「いろいろあって、。どうしたら良いでしょうね。」
ネイリン「そうですね。お願いばかりで……。
食料は……、あきらめます。
主人だった人たちの罪だけは問わないでください。」
俺「しかし、俺もやばいわけか……。」
ほぼ、奴隷を逃がしてる。
ネイリン「へ? 何が、ですか?」
エストリア「そうよ。あなたは、かなりヤバイ……のよ。分かって無いみたいだけど。」
ネイリン「いったい、なんの、お話しです?」
たぶん、会話がかみ合ってない。
エストリア「気にしないで。食料は置いていくし、あんたたちの元の主人たちにも何もしないわ。」
ネイリン「良いのですか?」
エストリア「秘密だけど、このヒロタンも奴隷を解放している……ような物よ。
まあ,その奴隷たちは逃げて無いし、うやむやになってるけど。」
ネイリン「良く分からないのですが、その、サミアスは……。」
エストリア「サミアスも彼自身の意志で協力しているだけよ。」
ネイリン「そう……、なのですね。」
俺「奴隷について興味深いと言ったのは、そういう俺自身の経験からだ。」
シサム「良く分からんな。君は何者なんだ?」
俺「まあ、いろいろあったので。」
エストリア「そうね。帝都に戻ってから、法的な問題について対応を相談しましょう。
たぶん、恩赦で行けると思うけど……。」
俺「それで、食料は置いていくとして、お金の方は、少し相談があるのだが……。」
シサム「あー、。なんでも言ってくれ。」
俺「魔獣の操作は、あのフーというヤツ以外でも出来るのか?」
シサム「なるほど。魔獣の操作を出来る人間を全員差し出せと……。
ネクトン派の上位司祭5名ほどが出来るはずだが……。」
俺「ここに来ている?」
シサム「来てると思うが、。殺すと言うのか?」
おい!
俺「殺さないから連れてきてくれ。」
ほどなく、やってきた5名は、フー司祭と同様の鎖帷子を着ていた。そして、全員が手錠をされ、シサム総帥配下と思われる兵士に連行されている。捕虜として渡すつもりらしい。
シサム「彼らと交換で金で良いかな?」
俺「そういう意味じゃないよ。
悪いが、もう少しめんどうな話しだ。
代表……というか5人の中で交渉できる人間はいるか?」
まじめそうな、いかにも僧侶っぽい男が、。
「手錠を外して頂ければ交渉に応じます。今の、われわれに戦う術はありません。」
俺「あー。外してくれ。」
アウラ「ありがとうございます。アウラと言います。フー司祭の配下で副長でした。」
俺「では、アウラ副長。俺の言う仕事をやってくれれば、金を渡そう。」
アウラ「……。フー司祭を殺したというのはあなたですか?」
ミシャとは言わない方が良いかな?
俺「まあ、そんなところだ。それだとダメか?」
アウラ「いえ。フー司祭は、教義を逸脱していましたし。
いずれ、こうなるだろうと……。」
俺「後で文句を言われても困るから、先に言っておくが、俺の依頼は魔王様に協力する事に、なるかもしれない。」
アウラ「正直ですね。ですが、それだと……。」
俺「ネクトン派……だっけか。君たちが魔王様と長年に渡って争っているのは知っている。」
アウラ「我々は世襲の絶対権力を否定しています。そのために戦ってきました。」
俺「なるほど。それは正しいだろうな。」
アウラ「はぁ?。」
俺の答えにアウラがあっけに取られたような顔で。
アウラ「否定しないのですか? あなたは帝国の皇帝で、今は魔王の協力者だと聞いたのですが?」
シサム「こいつは、どうもおかしい。」
ほめられてる?
俺「俺が元いた世界では、それが当然だったからね。」
アウラ「良く分かりませんが、。それでしたら魔王を排して……。」
今、それは困るかなぁ。
俺「現在の魔王……、ミシャ様をどう思っている?」
アウラ「この前の戦闘では、その魔王のために仲間がたくさん捕まりました。」
こりゃ、難しいな。
俺「それで恨んでいる……わけか。」
アウラ「ですが意外に死者は少ないのです。多くはいまだに捕らえられていますけど。
フー司祭は誤解していたみたいですが、過去の魔王よりもやさしい方だと思います。
ですので、……、そうですね。今の魔王様個人はあまり否定する気になれません。」
シサム「我々の軍も、あれだけの攻防戦の割には死者が少ないようだ。捕虜は多いがな。
今回の作戦の目的のひとつは、その捕虜の解放にある。」
俺「分かった。では、魔王国に捕虜の解放をお願いしてみよう。
その条件として現魔王のミシャ様を認める事、そして我々の仕事に協力する事。
それでどうだ? 仕事がうまくいけば、相応の金も出せると思う。」
シサム「おまえは魔王国の事を安易に言うが、本来、魔王国は帝国の敵だぞ?
しかも、さきほど死にかけていたのが魔王様じゃないのか?
今回の件で我々への憎しみが増しているだろう。」
いつの間にか部屋の外に出て来たミシャが、その言葉に、
ミシャ「そんな事はありませんよ。私は誰もうらんでなどいません。
平和になってくれるなら、それで。」
やっと立っている状態だが、それでいて、その目や言葉には十分に威厳がある。どういう魔法なのだろう。
だが、ふらついているのは確かだ。慌てて俺が支える。
支えた俺を見る目には、威厳とは違うものがあり、、。
アウラ「魔王……様」
ミシャ「それが正しい行いです。ネクトン派も、こうした教義は共通のはずでしょう? 」
アウラ「確かに寛容は祝福されるべき行いですね。
フー司祭のように憎しみに囚われた行為は明らかに教義に反します。
組織としては誠に恥ずかしい限りです。」
ミシャ「私は誰も恨んではいません。そして、かつての敵国の皇帝に、こうして支えらえています。」
アウラがひざまずいて祈るように。
アウラ「敬虔な使徒の模範になりましょう。」
宗教臭いのは苦手だな。
俺「だが、そういうのは、俺には無理だぞ。
もし、ミシャが死んでいたら君たち全員を俺が殺した……かもしれない。」
できたか、どうか知らないけど……。
ミシャの黒い大きな瞳が俺を捕らえて、
ミシャ「……。そういう、お義兄様は諫めるべきなのでしょうね。」
ミシャに諫めらたら、何も出来ないだろうな。
だが、ミシャの俺を見る目に、教祖的な威厳は無い。
ミシャ「でも……少し……。私は……。私もダメですね。」
このやりとりに
シサム「恐ろしいやつらだな。」
と、精悍な将軍が震えるように。
アウラ「総帥が怖い? ここに来る前は魔王も皇帝も怖くないと言ってませんでした?
それに、この皇帝さんが怖いようには見えませんが。」
ほっとけ!
シサム「あー。だが、こいつは怖いぞ。
かつての大魔王テルオミと同じ匂いがする。」
この将軍……総統は昔の戦場で何を見てきたのだろう。
アウラ「でも、その大魔王は、……、。たしか帝国の勇者にやられたのですよね?」
エストリア「勇者キヨハルね。」
アウラ「そう、その勇者」
エストリア「その勇者なら、共和国の内乱に加担していたので、先日、このヒロタンが倒してきたわ。」
そういう事を言うなよ。
シサム「何を言ってるのだ? あの勇者を倒した!? 冗談を止めろ!
あれは倒すなどという存在では……。」
エストリア「本当ですよ。共和国では知れ渡っている事実です。
なんなら確認してみると良いわ。」
シサム「なんだと! しかし、なぜ、……。」
少し考えていたが、納得したように。
シサム「そうか、。そうだな。ヒロタンは、もし魔王様が死んでいたら俺たちを殺すと言っていたが。
魔王様は確か、かつての戦いでキヨハルに殺されかけて……。」
う~ん。まあ、そういう話しもあったね。
シサム「だが、それは、つまりヒロタンは、かつての大魔王以上と言う事でもあるのか?
とんでも無いヤツだな。スピカを落とすなど朝飯前といった所か。」
いや、そうでも無い……。だいぶ誤解している。だが、はったりとしては良いのかな?
シサム「我々は何と交渉していたのだろう。」
人を化け物のように言わないで欲しい。
シサム「そういえば、フーが最後に何か言っていたな。報告にあった男とか。現魔王とは別の?」
アウラ「大魔王の幻影ですね。あれは何かの魔法と言われていたのですが。」
そういう事になってるの?
ミシャ「それが、このお義兄様です。」
アウラ「いや、でも、ほんとうでしょうか? 魔王の力は世襲ですし。」
ミシャが何かの瑠璃を渡してくれた。
ミシャ「聖痕の瑠璃です。空に向けて……。」
あの花火って俺にも使えるの? だったら遭難した時も俺が……。
まあ、いいか。
俺が窓から空に向けて振ると、上空に大きな光の文様が浮かびあがった。
ミシャが使った時よりも大きいかもしれない。
アウラたちが膝をついている。これも共通なの? だったら、特に魔王を否定しなくても……。
いや、或いはこれ自体が精神系の魔法なのだろうか? 知らんけど。
そして、アウラたちは、何やら俺の言葉を待ってるようなそぶり。
聖痕を打ち上げたところで、何か宣言しないといけないの?
ミシャがやっていたように……。
俺には教祖的なのは無理なんだが……。
俺「ふむ。平和こそが第一だ! そして、俺はミシャを害する者を許す事は無い!」
聖痕には反応しなかったシサムが俺の、その言葉に身震いしている。
シサム「あの勇者が倒されたのなら俺たちなど……。
分かった。従おう。」
なんだか、うまく行ってる気もするが。だが、ミシャは既に限界だ!
俺「そうしてくれ! 話しはここまでだ!」
俺はミシャを抱えて、その場を退散した。一度、ホテルに戻ろう。歩きながらミシャに、
俺「もう少し自分を大事にしてくれ!」
ミシャ「大丈夫……、。」言いかけてから、俺に抱き着くようにして「いえ、私には、もう無理です。」
俺「きびしいのか?」
ミシャ「なので、このまま遠くへ……。」 行きたい気もするが、どこへ行けと言うの?
俺「それは、いずれ、そういう機会……かな。」
捕虜の解放となると魔王国と交渉が必要だし、そのためにはミシャに回復してもらわないと。
その日はとにかく弱っているミシャを休ませる。神官長さんがついていてくれたが。
翌日、それでもまだ、ふらついているミシャを伴って、ホテルの1室で通信用の瑠璃を起動する。エストリアとエミャルに手伝ってもらったが、。
エストリア「アウラさんやシサム将軍も呼んだのですか?」
俺「当事者だからな。」
アウラ「お邪魔でしたでしょうか?」
俺「いや、いるべきだろう。」
シサム「余計な事は言わないよ。」
エストリア「狭いのですけど、しょうがないですね。」
やがて通信がつながる。そして、
宰相『やはり危なかったようですね。ミシャ様がたいへん危険な目に合われたとか。』
俺「申し訳ありません。」
ミシャ「大丈夫ですよ。」
それでも元気そうには見えない。
俺「だが、そのおかげで魔獣の攻撃を止める事ができました。これで和平が実現できます。」
宰相『それは助かります。』
俺「そして、その和平のために魔王国で捕虜にしているネクトン派と、旧シサム将軍配下の帝国兵を解放して頂きたいのです。」
宰相『魔獣の攻撃が無いなら、それで、この件は終わりじゃないでしょうか?
なぜ、そのような組織のために捕虜を解放しないといけないのですか?
帝国兵はともかくネクトン派は無理です。』
もっともな話しだ。
俺「未来永劫、収容所で捕虜を管理するのは難しいと思います。」
宰相『まだ1年もたっていません。今解放すると、さらなる反乱を呼ぶでしょう。』
俺「その新国家の領土全体を大きな捕虜収容所と考えて包囲・管理しては如何でしょう?」
宰相『収容所より負担が大きいのではありませんか?』
俺「負担は彼らの反抗心次第でしょう。」
宰相『彼らの事をご存じ無いようですね。絶対的に魔王様を否定している集団ですよ。
むしろ、そのための組織と言って良いでしょう。彼らの反抗心が消える事はありません。』
少し違うと思う。
アウラ「我々が否定しているのは・・」
言葉消えてしまった。こういう場で消極的になるのは僧侶的な何かだから?
フーに操られていたのも、控えめだったから?
俺「ネクトン派が否定しているのは制度です。魔王様個人ではありません。」
しょうがないから俺が代わりに言ってみる。
アウラ「はい。その通りです。」
宰相『同じでしょう。それらは一体です。』
俺「制度が無ければ、ミシャに価値が無い……とでも?」
宰相『……。詭弁ですね。それは我々がミシャ様を知っているから分かる価値です。
知らない人たちにとっては制度があってのミシャ様です。』
アウラ「知らない……わけではありません。ミシャ様は良い方です。」
宰相さんの目が画面上のアウラに注がれて。
宰相『どなたでしょう?』
知らないみたいだな。
俺「ネクトン派の代表としてきてもらっています。」
宰相『なんと! フー司祭が亡くなったとは聞きましたが。』
体の調子もあっておとなしくしていたミシャだが
ミシャ「私からもお願いします。捕虜を解放してください!」
アウラがミシャに向かい小さい声で「ありがとうございます。」
宰相『申し訳ありませんが制度の維持は魔王国にとって絶対的な物です。
将来に渡る魔王国の国是であり法規です。それを脅かす行為はたとえ魔王様であっても許されません。』
宰相さんの立場だと、それが当然なのだろう。
宰相『捕虜の解放はできません。』
こうなると、やり方は限られる。
外国からの圧力、外圧しか無いだろうな。円満では無いかもしれないが。我々が、この大陸唯一の港を抑えている以上、経済制裁でも効果はある。長期間、続ければ枯渇する資源もあるだろう。
だが、ミシャが魔王国への、そうした敵対行為を認めてくれるだろうか?
ミシャに否定されるような手段を俺が取れるだろうか?
ミシャに近寄り小さい声で
俺「手段が限られてしまったのは分かる?」
ミシャ「はい。悲しい事ですが、、。」
ミシャは良く理解しているし、俺と同じ考え方をしてくれているようだ。
それでも名目に近いとは言え魔王国の元首としての立場では、難しい選択になるだろう。
俺「俺は俺の世界の価値観で見てしまう。それは、つまり、。」
ミシャ「世襲制を否定するお義兄さまの言葉は聞いています。そして、それに従う覚悟もあります。」
俺「いや、従わなくて良い。ミシャの判断で決めてくれ。」
ミシャ「そうですね。お義兄さまの考えは分かりますし、私もそれが正しいと思います。」
ほんとに良く理解してくれている。
俺「ミシャが同意してくれるなら、ミシャの口から言ってくれ。俺も同じ意見というだけだ。」
ミシャ「分かりました。」
宰相『何を話しているのでしょう? 魔獣が来ないのであれば、この件は終わりで……』
ミシャが決然として宰相さんに向かい
ミシャ「捕虜の解放を要求して、魔王国に対し宣戦を布告します!」
何だって??!!!
宰相『はぁ?』
ミシャ「お義兄様は、そう考えています。」
俺「えっ!」
エストリア「驚いたわ! ヒロタンは、そんな事を考えていたの? 」
いやいや、ぜんぜん考えて無い。 戦争なんかしたら人が沢山、死ぬのだぞ!
それに、もちろん、そんなばかげた戦争はエストリアが否定してくれるだろう。 それで、この話しは終わりだ!
エストリア「そうねぇ……。
いいわよ!」
おい!!
エストリア「今の戦力比と、ミシャ様がこちら側という大義名分から言えば5日程度の電撃戦で落とせるでしょ。
それで、帝国が大陸全土を支配下における。」
恐ろしいヤツだな!
エストリア「そして、ミシャ様の権力基盤が無くなる。悪い話しじゃないわね。」
おまえは何を言ってるのだ!?
宰相『ちょ、ちょっと待ってください!
それはつまり、大陸の3分2を相手に国家元首抜きで戦争?!』
エストリア「開戦の準備があるので20日後で良いかしら?」
ミシャ「やむを得ません。20日後に開戦と言う事で最後通告としましょう。」
エストリア「分かっていると思うけど、魔王国の敗戦で、ミシャ様はふつうの人間になるのよ。」
ミシャ「はい。それで、ふつうの……。」
ミシャは少し笑っているような。
いったい何を考えているやら。
それにしても、とんでも無い話しになってるぞ。どうすれば良いのだ?




