遭難
穴の開いた飛行艇を海に着水させたら、たちまち沈む。泳いで脱出するしかないが、冷たい海水はミシャには致命的だ。
ミシャ「ですから私の事は気になさらずに・・」
エストリア「そういうわけにはいかないでしょ。
ここでミシャ様だけ助からなかったら国際問題よ。」
だが、方法が無いだろう! どうしろと言うのだ?
エストリア「陸上で・・、畑は無理でも、雪原に降りる事はできませんか?
既に私たちの帝国は帝都の近くまで雪の季節に入っています。平野ですし、雪は、やわらかいはずですよ?」
帝都は高原という感じだからな。
機長「いや、平野といっても起伏があるだろう。ちょっとした起伏でも、ぶつかったら終わりだ。」
滑走路があるわけじゃないか。
エストリア「では凍った湖の上はどうでしょう? 完全に平面ですし、その上に雪が積もっているはずです。
この季節のゼム湖であれば、すでに厚く凍っています。衝撃で氷が割れる事はありません。」
機長「完全に平面・・か。」
それなら滑走路になる?
機長「分かった!やってみよう。
ただし、保証はできない。全員、覚悟してくれ。」
ライラ「いやよ! みんな、どうかしてるわ!
失敗したらエストリア姉さまだって、助からないかもしれないのよ?
海に降りるべきよ!」
まあ、ライラにしてみれば、無理も無いか・・
俺「すまん。ここはミシャのために・・」
ライラ「それで全員死んだら、どうするの!?!」
エストリア「そうね。でも、誰かが死んで生き残るのも、どうかと思うわ。」
ライラ「・・・・。」
ライラもそれ以上は何も言わなかった。
エストリアが地図上で指刺した場所に向かって、飛行艇は、ゆっくりと降下していく。
速度を落とすために一度畳んだ羽を、地上に近づいた時点で再び展開した。おかげで巨大な蝶になった飛行艇は、少しの風でもヒラヒラと大きく舞う。こんな状態で着陸できるのだろうか?
そして凍った湖は近づいてみると、。
副機長「真ん中に亀裂が走ってるじゃないか! あれにぶつかったら終わりだ!」
氷の膨張で中央が盛り上がっている。凍った湖に良くある御神渡りと言うヤツだ。
機長「既に高度を下げてしまったし、今更、海には行けない!あの亀裂と並行に着地する。
全員、しっかりベルトを締めて何かに掴まれ!」
凍った湖を二周した後、亀裂と並行に飛びながら高度を下げ、地上に近づいていく。
座席につかまって衝撃に備えた、、が。思ったほどのショックは無かった。それでも床が少しへこんで、その影響なのか横の窓のガラスがいくつか割れた。ほんとに弱い機体だな。
そのまま雪原を滑って、静かに止まる。
一瞬の静寂のあと、割れた窓から、着地の時に舞い上がったらしい雪が風に乗って船内に吹き込んできた。
副機長「助かった!! トスカ船長の操縦は神業です!」
たぶん、その通りだろう。彼女の操縦に救われたかもしれない。
エストリア「みんな無事?」
俺「あー。なんともない。」
ミシャ「大丈夫です。」
とりあえず、助かったわけだが、。
俺「ところで、この場所には何も無いみたいだが・・」
エストリア「そうね。歩いて行けるような所に人はいないと思うわ。」
俺「もしかして俺たちは雪の中で遭難している?!」
エストリア「とりあえず助かったのだし、。ゆっくり考えましょう。」
窓から吹き込んだ雪が船内を舞っている。
俺「割れた窓を塞がないと・・。」
船体を避難所にして救助を待つしかないか。
俺「食料は?」
機長「海上で漂流した場合に備えて4日分の水と非常食が・。
4人で4日分なので6人だと3日弱ですね。」
俺「節約していきましょう。
何か通信手段は?」
エストリア「通信に使う瑠璃が無いでしょ。」
こんな事になるなら持ってくれば良かった!
海上の長距離だと大瑠璃でも無いと届かないけど、島の中なら普通の通信用の瑠璃さえあれば連絡できたはずだ。
そういえば。
俺「ミシャの聖痕の瑠璃・・・だっけ? 頭上に光るマークを打ち上げるヤツ。
今、持ってる?」
ミシャ「ありますよ。」
あるのか! 救難信号に使えないかな?
俺「それって、どれぐらい高く大きく、打ち上げられるもの? 遠くから見えるかな?」
ミシャ「都市全体で見れる・・とは言ってましたが。
今の状況だと、意味があるかどうか・・。」
俺「やるだけ、やってみてくれないか。誰かに見つけてもらえるように、出来るだけ高く、大きく。」
ミシャ「分かりました。」
ミシャが棒を取り出したが、。
俺「いや、今やるより、暗くなってからやった方が目立つだろう。」
とりあえず、割れた窓をふさぎ、食料や水をチェックする。
ほどなく周囲が暗くなって来たので、ミシャが外に出て聖痕を打ち上げた。
幸い風は強いが星空が見える良い天気だ。その夜空に巨大な花火のように紋章が浮かび上がる。
これを誰かが、見つけてくれれば良いのだけど。
エストリア「なるべく体力を温存すべきね。今日は早く寝ましょう。できるだけ寄り添って。」
ライラ「ヒロタンは危険だから一番、すみですよ。」
俺「へ?」
それ、まだ、やってたの? すみは寒いのだけど・・
エストリア「じゃあ、私が隣に・・」
ライラ「ダメです! 私が隣に寝ます!」
俺「良いけど、殺さないでくれよ。」
エストリア「殺す?」
ライラ「な、なんでもありません!とにかく、私がヒロタンの隣です!
エストリアお姉さまは、ヒロタンに近づいてはいけません!」
俺は相変わらず寝不足だし、早く休みたい。
皆で毛布をかけて寄り添うように寝たが、隣のライラが小さい声で・・
ライラ「もし、襲ってきたら・・」
俺「襲わないって!」
ライラ「そう言いながら男は襲うものです。こんなに近いし・・・。」
俺「いや、だから!」
ライラ「あー、でも、今の私はナイフも何も無いし、、、どうしたら良いか、。」
俺「何もしないよ。」
ライラ「・・・。もしかして抵抗できない私は襲われてしまう・・」
俺「ライラは、昨日、寝て無いのだろ。くだらん事を言って無いで早く寝ろよ。」
ライラ「だめだわ。抵抗しようがない・・。
私は襲われてしまう・・。」
俺「だから、襲わないって。」
ライラ「でも、、。
私が犠牲になれば、エストリアお姉さまもヒロタンの恐ろしさに気づいてくれるかしら。」
俺「何を言ってる?」
ライラ「そう・・ね! それが今の私の使命なんだわ!
エストリア姉さまのために生贄になる!
それで、お姉さまを救う事が出来るのだわ。」
俺「俺も眠いから。もう、寝るぞ。」
ライラ「ん?」
何もしない俺を、なんだか、不思議そうに見ていたようだが、。
ライラ「まだなの? 眠い・・・わ。」
さすがに疲れたのか、ライラは、そのまま寝てしまった。俺も、すぐに寝てしまったが・・
翌朝、ライラに蹴飛ばされて目が覚めた。まだ、外はうす暗いようだが・・
夜明け前?
ライラ「いつのまにか寝てしまったじゃない!!! も、もしかして寝てる間に私に・・」
俺「何もしてないから!」
エストリア「うるさいわね! もう少し寝かせて!」
ライラ「うっ。あんたのせいよ!」
違うだろ!
いろいろ面倒くさいので、起きて外に出てみる。朝日が昇り始めて明るくなってきた。
一面の銀世界。寒いけど風は止んでいる。
まわりは雪の積もった湖の平原で本当に何も無い!遠くに真っ白い丘が見えるが、山というほどのものは無い。
本当に何も無いし、改めて遭難している現実を実感してしまった。助けが来なくて、ここで飢え死にするのはイヤだな。
なんとか食べ物を調達できれば良いのだが、あの丘まで行って雪を掘れば何かあるだろうか。或いは、湖の氷に穴を開けて釣りとか?
考えながら銀世界を眺めていると、遠くの水平線に、おかしな物が現れた!
何かが空を飛んでくる? 鳥? スズメ? 4匹のスズメ? いやでも異様に大きい!
俺「なんじゃありゃ!! 鳥?!」
近づくにつれて、どんどん大きくなる。元の世界の尺度で20メートル、いや、30メートルはあるだろうか。巨大な鳥! あんなものが飛べるのか?
それが、4つ、一直線に連なって、こちらに向かって飛んできている。
俺の叫び声にエストリアたちも出て来た。
エストリア「あんな大きな鳥はいないわ。もしかすると、あれが魔獣じゃないかしら。」
ミシャ「たぶん、そうなんでしょう。」
俺「でも、なぜ、こんな所に?」
巨大な空飛ぶ魔獣は俺たちの、すぐ近くを通過して、、そのまま去っていった。
特に襲ってくる気配は無いし、そもそも、俺たちが目に入ってなどいないようだ。ただただ、直線的に飛び続けて、飛び去った。
飛行艇に戻ったエストリアが、。
エストリア「地図はあるかしら?」
トスカ機長「飛行用に使っていた物なら。」
広げた地図に、エストリアが一本の線を引く。
エストリア「魔王国の国境の山間から、帝都まで直線で進む場合、このあたりを通る事になるわ。」
なるほど。馬車での旅は低地を回るが、空を飛ぶ魔獣は直線で行くので、より島の中心に近い、このあたりを通るのか。ドーナッツの穴の内側を通るみたいな感じだ。
この島は中心に近いほど高度が高く気温が低い。それで、ここの湖は厚く凍っているし、あまり人は住んでない。
エストリア「今のが帝都へ行く途中だとしたら、帰りも通るかもしれないわね。」
俺「どうする気だ?」
エストリア「落とせない? 少なくとも食料になるわ。」
魔獣って食えるのか?食いたく無いぞ。
ミシャ「一匹なら、空間の刃の瑠璃で落とせると思います。
でも、4匹いましたね。1匹落としても、残りの魔獣から攻撃を受ける危険があります。」
俺「ミシャは空間の刃の瑠璃を持ってるのか?」
ミシャ「はい。いざという時のために。」
どういういざという時だろう・・。
俺「俺とミシャで1匹づつ落としても、のこり2匹か。」
エストリア「何を言ってるの? ヒロタンなら4匹全部、落とせるでしょ?」
エミャルがいないから無理だわ。
俺「今は、無理だ!」
エストリア「そ、そう。疲れてるのね。それなら、仕方ないわ。」
エミュルの事を話したら、めんどくさい事になりそうだよな。
俺「イチかバチか最後尾の1匹だけ落としてみよう。」
ミシャ「残りの3匹に気づかれますよ。」
俺「そうしたら、俺とミシャで、交互に攻撃する。」
ミシャ「・・・。ギリギリですね。」
そうなるのだろうか?
俺「魔獣って、やられた仲間のために反撃したりするのか?」
エストリア「普通の魔獣は、各々が暴走しているだけで、群れで戦うような事はしないわ。
敵として認識した物をやみくもに攻撃するだけ。」
俺「そう言う意味だと、整然と並んで飛んでるのがおかしいよな。」
エストリア「誰かが、なんらかの方法で操っている・・のでしょうね。」
さっぱり分からん。だが、操っているヤツ次第では総攻撃を受ける危険がある。
俺「まあ、こうしていても危機的な状況だし。やるだけ、やってみよう!」
ミシャ「わかりました。最後尾の一匹! 私がやります!」
俺「いや、俺がやる。ミシャはもしもの時に皆を守る役を。」
ミシャ「・・。はい。」
俺「その前に、、。戦闘になるなら飛行艇を隠しておいた方が良いだろう。今のうちに雪をかけてカモフラージュしよう。」
カモフラージュに意味があるかどうか分からないが。やるだけの事はやっておいた方が良いだろう。
エストリア「待って!それでは救助に来た人にも分かり難くなるわ。」
俺「じゃあ、旗でも立てておいて、魔獣が来たら、その旗をしまう!」
機長「旗ですか?飛行艇の羽を切って、何か作ってみましょう。」
その日の日中は、皆で飛行艇のカモフラージュと旗の作成を行った。
飛行艇は完全に隠せたわけじゃないが、とりあえず雪で覆って、なるべく目立たないようにした。
はたして、夕方に近い時刻になって、反対方向から魔獣が現れる。エストリアの予言通りだ。
あわてて救助の目印に立てた旗をしまう。
魔獣たちは、朝、来た時と完全に同じ航路を逆にたどっているようだ。等間隔で一列にならんだ4匹の魔獣。行きと同様に俺たちなど目に入ってるようには見えないが、これから攻撃するのだし、雪原に掘ったくぼみに身をひそめて近づくのを待った。
そして、魔獣たちが俺たちの頭上を通り過ぎようとした時に、その最後尾の一匹に向かい、俺が空間の刃を放つ!
刃は、魔獣の体に突き刺さった。勇者以外に使ったのは初めてだが、すごい攻撃力だ。巨大な魔獣の体が反動でドンっと突き上げられると共に大きく裂け血が飛び散る。そして断末魔の叫び声を一声上げた後、一直線に落ちてきた。
攻撃に使った瑠璃を素早くミシャに渡す。他の魔獣が迫ってきたら、今度はミシャに攻撃してもらうためだ。エミャルがいない状態で俺が続けて二回はつらい。
はたして、他の魔獣は、、。
仲間の断末魔の叫び声にも、落ちていく姿にも、まったく無反応。ただただ、一直線に飛んでいってしまった。
おかげで助かったが、どういう事だ?まるで機械のようだ。
他の魔獣が地平線のかなたに消えた後、皆で落ちた魔獣に近寄ってみた。完全に死んでいて、まったく動かない。
エストリア「肉を食料にして、。あと、羽が燃料になるかもしれないわね。」
機長「なるほど。飛行艇の修理キットで羽を燃やすためのストーブ・・を作ってみましょう。」
ふと見ると、魔獣の頭に羽をむしられたような部分がある。気になったので、近寄ってみると。
俺「この頭のところを見てくれ。手術の後があるぞ。」
エストリア「手術? あー、。確かに縫合されてるわね。」
糸で縫い合わされてる。
俺「ナイフを貸してくれ。」
ちょっとグロいけど、縫合された跡を切り開いてみた。
エストリア「何これ!?」
俺「瑠璃が5つ。恐らくは魔獣の魔法回路に接続してあったのだろう。
これで、魔獣を操っていた・・のかもしれない。」
どこぞの洗脳的な・・・。
エストリア「魔法で操るなんて不可能よ。」
ミシャ「魔法回路に直結なら、精神干渉の瑠璃があったはずです。」
エストリア「ありえないわ!」
ミシャ「魔王国に伝わる魔術です。もし大瑠璃があれば、より高度な精神操作も出来るみたいですよね。」
俺に同意を求めないで!
エストリア「ほんとなの?驚いた!ヒロタンも知っているの?」
洗脳の事を言ってるのかな?
ミシャ「でも魔獣を作る技術は魔王国にはありません。」
エストリア「そうね。そっちは一部の山岳民と、後は帝国の軍事機密になってる技術だわ。」
俺「セクタで魔獣に襲われたじゃないか。動物に洗礼を施せば良いだけじゃないのか?」
エストリア「バカね。普通、人間以外に洗礼なんかできないわよ。
大瑠璃に、動物を人間と勘違いさせるための技術が必要なの。」
良く分からん。
俺「ところで、この埋め込まれた瑠璃だが。俺たちが助けを呼ぶための通信に使えないか?」
エストリア「無理ね。もちろん、この中に通信用の瑠璃もあると思うけど。
専用に構成されていて通信相手も通信内容も固定でしょ。私たちの救難のための通信に使えるとは思えないわ。下手に起動したら敵を呼び込むだけよ。」
俺「その構成を変更すれば・・。」
エストリア「変更するための端末の瑠璃が無いでしょ。」
と、一緒に覗き込んでいたミシャが。
ミシャ「あるみたいですよ。このマークは魔王国で使う端末瑠璃です。
こっちは通信用ですね。」
ミシャが棒を取り出して魔獣の中にある瑠璃の一つに繋ぐ。空間に画面が浮かび上がった。
ミシャ「動作させながら調整するために、端末も埋め込んだのでしょう。」
エストリア「ちょっと貸して。」
エストリアが、端末の瑠璃に何やら打ち込んで・・
俺「使えるか?」
エストリア「構成はある程度、出来そうだけど・・。どっちにしろ私一人じゃ無理よ。通信は2段同調によるノイズ除去が必要なの。正規の教育を受けた高等魔法の通信操作が出来る人間が2名必要よ。」
う~ん。
最近、初めから全部、リメイクしたいという衝動があったりします。
新しい章を追加すると(あまり多いわけではありませんが)新規で読まれる方がいたりするようです(アクセス解析上)。そういう皆さんにとって、最初の方の章は、話しが飛び過ぎて理解不能じゃないかと思ったりします(いや、まあ、申し訳ない事に、全体にそうなのでしょうけど・・・)。
私以外に分かりえない記述が多くて、(最初の方は忘却により、その私でさえ)分かり難いです。
完全に私が忘却してしまう前にリメイクしておかないといけない、という衝動・・・




