トスレイの書状
不定期に連載が止まってしまって、申し訳ありません。
司令部になっているテントは、城門からそれほど離れていない広場に置かれていた。救護所にしているビルからも遠く無い。入口には、兵士が二人立っていたが、俺が近づくと、あわてて中に通してくれた。俺を怖がっているようにも見える。
ストリュ「早かったな。」
中央に置かれた大きな机には城門周辺の地図が置かれていて、その周りに昨日からの戦いに参加したメンバーや隊長たち、なぜか戦闘に関係無さそうなミルレとルルムもいる。俺が入って行くと全員の視線が俺に注がれた。
相変わらず大統領はいない。たぶん、官邸に引きこもっているのだろう。普通に考えたら大統領がトップのはずだが、、。制服から言って大統領を支持しているらしい正規軍の将校もここにいるようだが。
俺「それで書状というのは?」
ストリュ「これだ。ミルレの解放について、ヒロタンと交渉したい・・そうだ。
なかなか攻めてこないと思ったが、これのせいかもしれない。」
ミルレの解放?意味が分からないぞ。ストリュは何を勘違いしているのだろう。
ストリュから書状を奪い取って読んでみたが・・
『ヒロタン殿
われわれは、やむなく軍を動かすものであるが、決して闘いを好む物では無い。話し合いによる解決が出来るのであれば、それが最善と考え、ここにこの書状を送る。』
戦争を始めたのは、おまえらだろうが。だいたい相手は大統領だろ? 何故、俺に?
『さて、先般の戦いにおいて、我々が、もっとも憂慮したのは、そちらが誘拐したミルレ嬢を、あろうことか人間の盾として使った事だ。』
え? そんな事したか?
『貴殿らは誤解しているかもしれないが、残念ながら一度放たれた勇者は我々の指揮下にあるとは言えない。ミルレ嬢がいたからと言って、われわれに勇者を止める術は無かったのだ。つまり、貴殿らのミルレ嬢を盾とした卑怯な作戦は、彼女をたいへん危険な状態に置く事になった。』
いろいろと誤解があるな。とりあえず、勇者は制御不可能と・・
『そして、その戦況から、我々は、やむなく勇者を見殺しにする事になり貴重な戦力を失った。』
そうなのか? 見殺しにされたから勇者は敗れた?
う~ん。俺は覚えて無いから分からんなぁ。ストリュに聞いてみるか?
俺「俺は覚えて無いのだが、俺が勇者を倒した・・・わけじゃないのか?
ここにはトスレイたちに見殺しにされたから、、と書いてあるが?」
ストリュ「あー。明らかにヒロタンが倒した。間違い無い。
そこに書いてあるのは、その闘いに干渉しなかったと言うぐらいの意味だと思うが。まあ、はったりだな。俺たちは、本当は強いのだぞという、そういう敵に対する虚勢。こうした交渉では良くある事だ。
現実には、あの壮絶な闘いへの干渉など不可能だったろうし、実際、少数の兵士は勇者に加勢しようとして、一瞬で肉塊になっていた。たとえ数が多かったとしても、結果は同じだったろう。」
俺「俺が肉塊にしたのか?」
ストリュ「聞きたいか?」
なんか怖いような・・。それに今は。
俺「・・・。後でな。」
心の準備が必要な気がする。
俺「そういえばミルレとルルムは、なぜ、この城壁まで来たのだ? 」
ミルレ「ルルムがどうしても、ヒロタンの近くに行きたいと言って、聞かなくて。それで私が連れて来たのよ。」
ルルム「ごめんなさい。私は一人で来るつもりだったのですが・・。」
ミルレ「ルルムは都市城内の地理を知らないでしょ。一人でなんて来れないわよ。」
俺「良いけど、さっきの勇者戦は、ほんとに危なかったぞ。城壁の上とはいえ、前線に立つのは止めてくれ。」
それで、トスレイは何を交渉するというのだ? とりあえず、先を読まないと・・
『そこで、ヒロタンが人質として拉致したミルレ嬢の解放について、薄情な大統領に代わり、私が交渉を行いたい。』
うわっ。ストリュの言う通り「解放」と書いてあるな。「拉致」?どういう意味だ?
大統領に代わり? 何を言ってるのか、さっぱりだわ。
『注意して欲しいのだが、我々の中には、再び、スラムの子供たちを連れて来るという策を言う者もいる。もちろん、そのような方法は、我々の本意では無い。』
交渉というより脅迫かな?
俺「トスレイの言ってるミルレの拉致とか解放って何の事だ?」
ミルレ「忘れたの? 私はヒロタンたちに人質として連行されたのよ。」
俺「あれ? そうだっけ?」
ストリュ「ミルレ嬢は自分から志願したようにも見えたが・・。」
ミルレ「仕方なく・・よ。」
今となっては、ずいぶん昔の話だな。俺も忘れていたが、クソ作者が長期間さぼったせいで読者も忘れてるだろう。
ミルレ「まあ、でも、今更、解放と言われても、余計なお世話よね。
トスレイさんは、私がヒロタンの嫁になった事を知らないのだわ。」
俺「それは、俺も知らないぞ。・・・。以前は、愛人って言って無かったか?」
ミルレ「とぼけないで!」
え?
ミルレ「ルルムが義妹になるためには嫁でしょ!
まったく、なんで、そんな大事を!」
言っていただけじゃないか! 会話になってないぞ!
で、トスレイは・・
『本日中に回答されたし。』
もう夕方だぞ!みんな、勝手な事!
それにしてもトスレイは、やけにミルレを気にしているが。ライラが言っていた件が関係してる・・わけかな。ならば、ライラに聞けば何か分かるかもしれない。あの時、エストリアもそのあたりの事情を聞いていたみたいだが・
俺「ライラとエストリアは? ライラが、ミルレとトスレイについて何か知っているみたいなんだが。
ここにライラを呼ぶ事はできないか?」
ストリュ「すまん。先に言うべきだったが、もう一つ重大な問題がある。
西の大陸の帝国から緊急の連絡があった。」
西の大陸?う~ん。最近、いろいろと忘れていたかもしれない。
ストリュ「エストリアたちは、その詳細を確かめるために、超長距離通信が出来る大瑠璃のところに行ってる。」
俺「なるほど。エストリアは通信か。
で、ライラは? 大統領官邸か?」
ストリュ「エストリアがライラを呼んだらしい。ライラも、そっちに行ってる。」
ライラは関係無いだろう? なぜ?
ストリュ「エストリアは、おまえにも来て欲しいと言っていたが。
もちろん、こっちの件が先だ!」
俺はもう寝たい・・。勇者戦から、ずっとバタバタしとるぞ!
ストリュ「で、どうするつもりだ?
分かってると思うが、これはチャンスだ!
戦力差から言って我々の負け戦と思っていたが、この交渉次第で、なんとかなるかもしれない。」
俺「トスレイに返信できるのか?」
ストリュ「その方法も、そこに書いてあるだろ。」
なるほど。下の方に返信の方法が書いてある。近くに連絡係がいて渡せば良いらしい。
ストリュ「俺の案は、ミルレと交換に敵の将軍を人質として要求する事だ。既に、この紙に敵の有力な将軍をリストアップしてある。中でもこの・・」
俺「回答は『ミルレは既に解放され、大統領官邸へ戻った。』で、どうかな?」
ストリュが一瞬、氷ついた。
ストリュ「・・。解放の条件は?」
俺「無い。単に解放するだけ。」
ストリュ「トスレイも分からんが、ヒロタンも分からん事を言うな。それでは交渉にならんぞ。
せっかく止まっている戦闘がすぐに再開されて・・・。そして、俺たちは負けるだろう。」
俺「そもそも既に解放しているような物なんだから、条件なんて言えないと思うが。
また、スラムの子供たちを連れてこられても困るし・・。」
ストリュ「誤解であっても、今、戦闘が止まっているのは事実だ! その立場を戦略的に使わないでどうする!
子供たちを使う手段は敵にとっても両刃だ。自らの正義を言えなくなる。」
ストリュと言いあっていると、ミルレ本人が身を乗り出して来た。
ミルレ「ちょっと待って!私に実家に帰れって言うの?嫁の私に!?」
俺「それでトスレイが安心するはずだ。」
ストリュ「何を言ってる?敵を安心させて、どうする気だ!?」
ミルレ「いやよ!」
俺「頼むよ。そうしないとトスレイを刺激する事になって、戦争が続く事になる。」
ミルレ「・・・。分かったわ。平和のために私が犠牲になるのね。
ヒロインとしては、そういうのも、あるかもしれないわ。
でも、あれよ! 悲劇のヒロインは必ず救われるのよ!」
俺「ん~。まあ、そういう事で良いから。
俺もあとで行く。」
ミルレ「・・・。それって、もしかして、実家で婿養子になりたいって事かしら?
そういう事なら、初めから、そう言ってくれれば良いのに。」
俺「違うぞ。」
ミルレ「あー、。でもダメだわ。私の家は実の娘であるライラが継ぐに決まってる。だから私は・・」
めんどくさいぞ! ミルレは無視してストリュに向かい、
俺「それで、さっき言っていた、西の大陸からの連絡という件は?」
ストリュ「詳細は分からんが、国境付近で空を飛ぶ魔獣が暴れて被害が出ている・・とか・・。」
なんじゃ、そりゃ!?
ミルレ「聞いてるの? 大事な話しなのよ!?」
ストリュ「いや、大事なのは、この戦いだ。目の前が戦場なんだぞ!
もう一度言うが、トスレイに、ヒロタンの今の答えを送ったら、すぐにも戦闘が開始される。
そして、戦力差から言って俺たちは負けるだろう。たくさんの味方の兵士が死ぬ。それで良いのか?」
俺「そうかなぁ。トスレイとしてはミルレが大統領官邸にいる事を確認するのが先じゃないか。
そして大統領官邸にミルレがいるとなったら、ミルレを傷つけずに大統領官邸を攻める方法を考えないといけない。最終目標が大統領なんだし、それでいて、ミルレの安全に拘っている。」
ストリュ「トスレイが、そこまでミルレに固執するとは思えんが・・。」
俺「これを読む限り十分に固執しているだろ。俺も知らんが何か特別な理由があるらしい。」
ストリュ「ううむ。」
やっぱりライラに聞くべきだろな。
俺「それで、エストリアたちはどこで通信してるのだ?」
ストリュ「ここから3ブロック行ったところに小さい劇場がある。今は、そこを臨時の神殿にしている。」
俺「分かった。俺は、そっちに行ってみる。トスレイへの回答は頼んだぞ。」
ストリュ「どうなっても俺は知らんからな。」
指令部を出て劇場とやらに向かう。3ブロックなら急げば10分もかからない。
司令部のテントを出ると俺を追ってルルムもテントから出て来た。
ルルム「私も!」
ほとんどストーカーだな。だが戦場に近い司令部よりは安全かもしれない。
俺「途中までだからな。」
劇場の入り口にも兵士が立っていたので、ルルムを入れないように頼んで、俺だけが中に入る。
少し暗いが大きな客席が広がっている。そして舞台の中央に大瑠璃が据えられていた。誰かが、そのあたりで何かをやっているようだが・・。 それを見守るように客席に人影が見えた。
司令部にロリャリムの司祭長がいないと思ったら、その客席の一人が彼だった。この大瑠璃はロリャリムの村から持ってきたものだろう。司祭長はそれが心配らしい。客席から見守っている。
そして、司祭長と並ぶように客席に、もう一人、。
エストリア「来たわね。ヒロタン。」
エストリアは通信をしているわけでは無いようだ。既に終わったのかな?
エストリア「すぐに西の大陸に戻るわよ。」
いきなり、何を!?




