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奥の手

 勇者の剣が、俺の真上から振り下ろされ・・

 俺は真っ二つなるか・・と見えたが、勇者の剣は空を切り、次の瞬間に、血を流しながら飛ばされたのは勇者の方だった。斜め横から来た光の(やいば)をモロに食らって飛ばされる。

 この(ステック)には幻影も組み込んであった。それによって、俺はさらに移動して別の場所から光の(やいば)を放ったのだ。3つの魔法を、ほぼ同時に使えるだけの魔力がエミャルが近くにいる時の俺にはある。・・まあ、相当に(こた)えてるけど・・。それに、全て固定した自動シーケンスで、幻影魔法で使う周囲の状況も、あらかじめ構成(プログラム)してあった。神官長とルナリスの傑作(けっさく)

 実は、俺が立つ位置もルナリスに指定されていた物。良く見れば背景がずれていたかもしれないが、光の魔法でごまかせたようだ。

 光の(やいば)をまとも受けた勇者は、地面を転がり動かなくなった。勇者の鎧だけでは、光の(やいば)は防げない。それは、昨日の戦いで分かっている。

 さすがに、ダメージが積み重なっている勇者にはこたえただろう。最後の一撃になった?神官長には(おど)されたけど、この(スティック)で、なんとかなったかもしれない。助かった!


 息はしてるのかな?と思いながら、倒れた勇者に近寄っていく。

 そして、勇者まで、あと1歩のところまで来た時、、、、。

 一瞬で勇者が跳ねるように立ち上がり、勇者の剣が空中を舞った。いったい、どこにそんな力が残っていたのだ!

勇者 「かかりましたね!」

 しまった! と思ったが、もう遅い! この距離で勇者の動きに対応できるほど、俺のレベルは高く無い。俺が一歩、下がるか下がらないかというわずかな時間で、勇者の剣は既に俺の目の前に・・。ここで、やられるのか!最後は、俺自身の油断という自己責任でやられるわけだ。それは、それで当然なのかもしれない。

 そして、まさに勇者の剣が俺に触れる、、と思った瞬間!

 斜め上から来た光の(やいば)が勇者を襲った。勇者は傷を増やしながら飛ばされる。

 振り返ると城壁の上に瑠璃(デバイス)(スティック)を構えたミシャ。


 もちろん、これでは1対1の一騎打ちとは言えない。双方の軍の観衆がざわつく。


 傷だらけで転がった勇者は、それでもなんとか立ち上がろうと、もがいている。どんだけ不死身なんだろう。剣を支えになんとか半身を起こして、


勇者「うっ。どういう事だ!」


 そして瑠璃(デバイス)(スティック)を構えたミシャに気づいたようだ。


勇者「ちきしょう! 卑怯だぞ! 一騎打ちの約束だろ! 」


 言いながら回復薬を飲んだ。もちろん、この世界の回復薬はすぐには効かない。翌日には治る程度。それも限度がある。どう見ても、今の勇者は終わっている。

 並んだ敵兵の列から、昨日の隊長が進み出て来た。


隊長「もう、良いでしょう。一騎打ちは終わりです! 勇者様は戻って治療をしてください。

   我々も、これ以上、茶番に付き合う気はありません。」


 賛成である! ここで勇者のとどめを刺す・・なんて気は無い。だいたい、大軍に襲われたら、俺なんか、ひとたまりもない。子供たちが気になるが、これでは、どうしようも無い。

 隊長と勇者が何やら話しているうちに、俺は、じりじりと後退して城門の通用口に向かう。


勇者「うるさい! 下がってろ! 僕はまだ戦える! 」


隊長「そうは見えませんが・・。」


勇者「これを使う!」


 勇者が腰のポーチから取り出したのは、金属製の容器。かなり厳重に封印してある。

 兵士の列の後ろの方で悲鳴のような声が聞こえた、、気がする。

 勇者は、その容器の口の部分を剣で叩き壊した。そして、こぼれ出る液体を頭からかぶる。周囲に異様な刺激臭がたちこめ、勇者の体から煙が。

 数秒で液体を浴びた顔も手もうろこ状に波打ち、そして、目が青く光りはじめ、、た。


勇者「こ、こ、これで。僕のま、、、負け、、負けは無くなっ、、た。」


 いや、もう、見た目が負けすぎてると思うけど、。確かに、すっと立ち上がり、強さを取り戻してるようだ。軽々と剣を一振りする。


勇者「て、、敵は、ど、どこだ?」


 だが、いろいろとおかしい。

 俺は、じりじりと後退を続けて城門の通用口の扉の所までたどりついていた。昨日、破壊された扉とは別の小さい門で、今でも開閉できる。叩くと開錠して開けてくれた。

 助かった!こんな化け物とやりあってもしょうがないから逃げる!


勇者「て、敵は・・、。」


 勇者の視線がふらついてる・・


勇者「おっ、。おまえか? 」


隊長「うわっ! 私は味方です! 敵はあっち! あっちです!

  ほら、早くしないと逃げちゃいますよ!」


 俺を指さすんじゃねぇ! 

 ははは。でも、遅いわ! 俺は既に内側に入って扉を閉める所・・


勇者「ん? あ、、あいつ?!

 そ、そうだった! あ、あいつと戦っていたのだ! ま、魔物、、め! 」


 扉を閉めかけた時に妙な事に気づいてしまった。

 勇者は俺を見て無いぞ? 勇者が、敵認定してるのは・・。


勇者「やるぞ! やるぞ!」


 勇者が、猛然と走り始めた。完全に昨日の速さを取り戻してる。いや、それ以上だ!

 ・・、だが、俺に向かって来ていない?!


 そして、俺の横の城壁に取りつくと、トカゲのようにするすると登り始めた。勇者が目指しているのは・・

 おいちょっと待て! ミシャを目指してるのか!!!


 俺は入りかけていた城門から外に出て、下から光の(やいば)を城壁を登る勇者に放つ! だが、やすやすと避けられた。後ろが見えるの?

 城壁の上からミシャも同じ攻撃をしたが、今度は盾で受ける。反動で1メートルほど下に滑ったが、再び、登り始める。ミシャはこれで2回目だよな。まだ(スティック)を構えているが、既にふらついて立っているのがやっとだ。ミシャに、これ以上は無い。城壁の上では他のメンバーも剣を構えて勇者を待ち受けているが、とても、こんな勇者と戦えるとは思えない。


 他に手段が無いし、ミシャが襲われるなら躊躇(ちゅうちょ)する事もできないだろう。


俺 「逃げるんだ! ミシャ! 」


 下から出来るだけの声で叫ぶ!


ミシャ「いいえ!やります!兄さまのために、ここで皆さんと・・」


俺「ちがう! 俺から逃げろと言っている!」


 俺はポケットから薬を出して、それを高くかざした。ミシャや城壁の上の皆に見せるために。

 それを見たミシャたちは、何も言わずに、あわてて逃げ出した。


 これは、自我を喪失させる薬。それによって、体に刻まれた(にせ)のレベルまで魔法回路が暴走する。俺は意識の無いまま戦うだけの化け物に。上昇したレベルは、勇者を超えている・・はず。エスタで魔獣相手に使って以来、2度目。

 これで、化け物対化け物だ! 見境なく殺し回る化け物。ミシャたちが逃げたとしても、後ろの敵兵や、人質の子供たちは巻き添えになるかもしれない。

 少し神官長に改良してもらったが、どのみち飲めば俺の意識が無くなる事に変わりない。そして、俺はもう戻ってこれない、、可能性が高いらしい。

 狂乱の矛先を勇者に向けるため城壁を登る勇者を見据()えた状態で、薬を飲み込む。大きな錠剤は喉を通すのに苦労するが、飲み込んでしまえば、胃の中でいっきに溶けて体中に広がる。一瞬で頭が沸騰し、意識がふっとび、そして、、


 長い夢を見ていた気がする。楽しい夢では無い。何かに囚われてもがいているような・・


 気が付くと、頭が割れるように痛い。痛みで思わず目を閉じる。それでも普通に立っていた。どうやら生きて戻ってこれたらしい。腕がヌルヌルで見ると血だらけだったが自分の血では無いようだ。特に俺自身に傷は無い・・かな?恐ろしいほどの疲労感と頭痛があるが、以前の時のような体のダメージは感じ無い。いや、まて、少し?!

 胸のあたりがチクリとしたので、目をやると鎧を貫通して、注射器のような物が刺さっている。ゆっくりと引き抜いた。何かの薬を注射された? この薬剤で戻って来れたという事? 誰が?


 目を上げると、見たく無い光景だった。

 周りには、無残な死体が十数体。胴体が完全に切断されている物もあり、見ただけで吐きそうになる。敵・・だけでは無い。すぐ近くに、サミアスが倒れている。少し離れてクラムも。

 そして、、、

 城門の扉の近くでミシャが倒れている!!

 俺がやったのか!

 或いは勇者?

 探したが、その勇者は・・見当たらない。今も城内で暴れている?或いは逃げたのか?


 ただ、すぐ近くの大きな岩の上に墓標のように突き立っている勇者の剣が見えた。その剣に貫かれて岩に固定された状態で、勇者の盾も残っている。そうか、あの盾も、あの剣なら貫けるのか。

 良く見ると、その盾と岩の間のわずかな隙間に、何かの肉塊が・・。盾ごと剣が、その肉塊を貫いているように見える。おぞましくて、グロい。吐きそう・・。思わず目を(そむ)ける。


 近く倒れているサミアスを急いで抱き起すと、、、かろうじて意識があるようだった。

俺 「おい! しっかりしろ!」

サミアス「も、戻ったみたいですね。嬉しいです。」

 予備に持っていた回復薬を飲ませる。これなら、命に別状はないだろう。

 それから、クラムだ! 駆け寄って抱き起すと、彼女も意識を取り戻した。

クラム「ここは天国? 俺・・、私は失敗しちゃったし・・。もう死んでるよね・・。ヒロタンも天国に来たのかな・・」

俺「バカ言うな! 二人とも死んで無いぞ! おそらく、サミアスがやってくれたのだろう。」


 さっぱり分からんが、何かそういう事だという気がする。


クラム「そうなんだ・・。良かった・・」


 クラムにも回復薬を飲ませる。

 ミシャは、既に誰かが城門から中へ運んだようだ。無事だと良いのだけど・・


 そして、誰かの指示なのか味方の兵が十数人、城門から駆け出してきた。俺たちを保護するため、、のようだ。

 戦闘になるかと思ったが、、敵兵は恐怖の表情で立ち尽くしている。むしろ引き気味?


 もしかして・・俺を怖がってるのか? これは使えるかもしれない!ならば・・

 敵兵に向かって、


俺「おい! スラムの子供たちを開放しろ! 早くしないと、おまえたちも皆殺しだぞ!」


 今の俺にそんな力は無いけどね。だいたい、俺は武器を持っていない。どうしてこうなってる?

 兵士たちが戸惑っていると、さっきの隊長が・・


隊長「おい! 解放してやれ!」


 隊長は特に恐怖心から、、という感じでは無いが・・。そう命令してくれた。

 兵士たちが、慌てて子供たちを開放する。味方の兵士が城門の方に手招きすると、その方向へ子供たちが駆け出した。

 途中に俺がいるわけだが、すれ違う子供たちも、、明らかに俺を怖がって避けながら走って行く。ただ、一人だけ、俺に近づいて、おじぎをして、、走り去った。

 少しうれしい。


 意外に落ち着いている隊長が・・


隊長「我々も勇者を回収しないといけません。

   しばらく休戦にしましょう。」


 死体を回収するのが、そんなに大事なのか? まあ、助かるが。


俺「了解した。その間は、休戦にしよう。」


 サミアスとクラムがいるし、俺の疲労や頭痛も酷い。

 味方の兵士に手伝ってもらって、サミアスと、クラムを城内へ運ぶ。


 敵兵は岩を破壊しようとしている? まあ、どうでも良い。

 味方と子供たちの全員が城内に入った事を確認して城門を閉めた。

 俺はもう、倒れそうだし、このまま、


ストリュ「ヒロタンは、すぐに救護所に行ってくれ。神官長が呼んでいる。」


 もしかして、俺の治療をしてくれる・・・、じゃないな。悪い予感しかしない。もしかして、。


俺「ミシャは大丈夫なのか?」

ストリュ「いいから、すぐに行け!」


 最後の力を振り絞って駆け出した!

 救護所といっても、付近のホテルのようなビルを接収しただけの物だ。飛び込むと、看護兵のような女性に一番奥の部屋だと言われた。ICU的な所?そう考えたら、ますます、いやな感じになる。扉が閉まっているので、ノックすると、

神官長「誰も入れるなと言っただろう!」

俺「すみません。俺です。」

神官長「ヒロタンか。入れ。」


 扉を開けると、ミシャがベッドで苦しそうにしているのが目に入る。見ただけで痛い。

 (かたわ)らにエミャル。治療用と思われる、薬や(スティック)が並び、神官長が真剣な顔で何かを操作していた。


俺「いったい・・」

神官長「強力な魔法を3回使ったのだ。ミシャ様は、自身の体を維持するための魔力が尽きてしまった。

    このままだと死ぬ。」


 そう。ミシャは、失われた臓器の機能を自身の魔力で維持していたのだった。


俺「なぜ。」

神官長「おまえの暴走を止めるためだ!」


 俺はどこで間違ったのだろう・・、。こんな事になるぐらいなら・・

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