頑張れぼくらの・・・
勇者が、すさまじい光を放つ剣を構えて向かってくる。触れたら、いや、近づくだけで蒸発しそうな恐ろしい剣だ。
と、頭の中で瑠璃の通信が!
ルナリス <行きます!サングラスを!>
ルナリスの通信を、俺の傍にいるミシャにも伝える
俺「サングラスを!」
この通信は、ミシャには届かない。ルナリスの光の魔法は予定していたものだし、ミシャも分かってると思うが。果たして勇者に通用するのだろうか。
で、もう一つはクラム・・
俺 < あの勇者の剣だとクラムの攻撃は無理だ! 中止して・・>
クラム < ストリューの兄貴が予定通りと言ってる。変更は無い! >
俺 < だが危険すぎる! >
クラム < ヒロタンの指示は聞かない。そういう命令だ。 >
あれ? おれが最上位じゃないの?
俺とミシャが閃光避けのサングラスを付けた瞬間、後ろの建物の上からルナリスが瑠璃の閃光を放つ! いつもの光の魔法だ。周囲の空間が眩しい光に満たされ、勇者の視界を奪う! これで勇者が止まってくれれば、そこを攻撃して・・。
確かに、勇者は、一瞬、立ち止まって眩しそうに目を閉じたのだが。剣でルナリスの方向を遮り、それだけで、再び、こちらに向かって一直線に走り出した。光を遮ったぐらいでは周囲に満ちた光で、何も見えないはずなのだが・・。ルナリスの魔法がうまくいってないのか? だが、味方の他の兵士は何も見えて無いような仕草で手探りをしている。
どういう事だ? 普通の人間の視力とは違うという事? これもダメなのか?
そして、ルナリスと同じ建物から一直線に勇者に向かって飛ぶ長いくちばしの大きな鳥! もちろん、くちばしに見えたのはクラムの槍で、滑空するクラムだ! 銃や弓矢が使えない、この世界で、自らを弾丸とする飛翔族の本来の戦い方。だが、勇者の剣に触れたら確実にやられる。
幸いな事に勇者は、剣で光を遮っているので、光と同じ方向から来るクラムに気づいていない。クラムと勇者が交差し、クラムの槍が勇者の心臓を貫く・・・かに見えたが。
直前で勇者が何かが迫ってくる事に気づいた! 勇者がクラムの攻撃をかわすようにジャンプする。クラムの槍は、勇者の体と言う目標を失ったが、それでも、まだ槍の射程に残っていた、勇者の足を貫く。勇者も勇者だが、クラムの反応もすさまじい。クラムのレベルも常人にそれに比較すれば相当高い。つまりは恐ろしいほどの運動能力がある。
クラムの鋭利な鋼鉄製の槍は、勇者の鎧の関節部分から足を貫き、同時に勇者の足をすくって体制を崩す。体制を崩され前のめりになりながら、それでも、二人が交差する最後の瞬間に勇者はクラムに対して剣をふるった。クラムの片方の羽がちぎれて燃え上がり、片方の羽の浮力を失ったクラムはバランスを崩し、燃えながら地面に叩きけられ、そして転がる。
一方、勇者も、空中で足を取られて体制を崩し、ほぼ頭から地面につっこむ!
その瞬間、俺がミシャに「今だ! 二人で同時に!!」
ミシャに2回目の魔法攻撃はつらいはずだが、それを言ってる状況では無い。ミシャは、俺が瑠璃を振るうタイミングを合わせて瑠璃を振る。地面に倒れた勇者が起き上がろうとした瞬間に、至近距離で二つの光の刃が、その体にヒットした。鈍い音が響き、勇者は、バッドに捕らえられた野球の球のように高速で飛ばされる。弧を描くというよりは一直線!
物理的にはさっぱり理解できない現象だが、この光の刃は、空間そのものの歪のようだ。その歪の波に乗って飛ばされる。
飛ばされて行く勇者は幾筋もの真っ赤な血の筋を残している。ひとつの光の刃であれば剣で受ける事が出来たのだろうが、二つの光の刃を一つの剣で受ける事はできない。勇者の装備は鎧も、なにやらすごそうな物だったが、それも切り裂いたようだ。一応、剣を縦にして、致命傷を避けてはいたようだが・・。
飛んで行った勇者が城壁にぶちあたって大きな音が響いた。そして、今度は、城壁をぶち抜いた!
城壁を貫通する穴だけが残り、勇者の姿は消える。おそらくは城外。穴のあたりにも、かなりの血が残っている。これでは、たとえ死んでいないとしても、かなりのダメージだろう。
一方、クラムは地面を転がりながら燃えている服を脱ぎ捨てたようで、肌着だけになっていた。そして、自分の体を点検するようにゆっくりと立ち上がる。笑っている表情から見て大きなダメージは無さそうだ。
ぎりぎりだったが、なんとか、危機を脱しただろうか。思わず、安堵のため息が出てしまう。
そこに、後ろから駆け出して来たストリュが、大きな声で
ストリュ 「 城門の穴の防御を! 急げ! 」
そういえば、勇者は撃退したが、勇者の開けた穴から大軍で攻めこまれたら、やばい事になる。敵の方が数が多い! 穴から敵を入れてはいけない!
穴に向かって走り出そうとすると、、、。ミシャに足を取られた。
ミシャ 「 私も連れて行ってください。 」
2回の魔法攻撃で、ミシャは、かなりまいっている。とても走れる状況では無い。もちろん、これ以上の攻撃も無理だ。
俺 「 ここで待っていて・・ 」
ミシャ 「 外に飛ばされた勇者キヨハルの状況が見たい・・です。
たぶん、あの程度では・・まだ。 」
振り切って行こうとしたが、しがみついていて、無理をすると体の弱いミシャに怪我をさせてしまいそうだ。
しかたが無いので、ミシャを抱え上げる。相変わらず、羽のように軽い。
俺 「 連れて行くが、見るだけだぞ。これ以上の無理はするなよ! 」
城門の穴から外を見ると、荒野に血の跡が続き、その先に勇者が倒れていた。ちょうど、後から来た兵士の列が勇者を飲み込み、勇者を守るように槍と盾を構えて止まった。
兵士の大軍が列をなしているが、それ以上、進む様子は無い。
先鋒の勇者がやられてしまう状況は想定外だったのだろうか。隊長風の兵士が勇者に話しかけているが、隊長の声は良く聞こえない。勇者の大声の悪態だけが、ここまで聞こえる。
「ちくしょう! ちくしょう! あのペテン師め! 詐欺師め! 卑怯者! 」
死にかけているかと思ったが、元気そうでなによりである。
ミシャ 「 勇者にとどめを! 早く! 」
そう言われてもミシャにもう一度は無理だし、俺一人の攻撃だと手前の兵士を倒すだけだ。この数の兵士を相手に何ができるのだろう。そもそも、とどめとか必要なのか? 既に戦闘不能だろう。
ちょうど、ルナリスが来たので
俺 「 遠見の魔法で、勇者の状態を詳しく見る事はできるかな? 」
ルナリス 「 声も取れますよ。魔法で撮った物をヒロタンに接続しますね。 」
ルナリスが棒を構えると、瑠璃が光だして、。同時に俺の手を握る。
すごい。目の前に勇者たちがいるように見える。そして、聞こえる。勇者の傍にいる敵の隊長の声だ。
隊長 「 しっかりしてください。 どうして勇者様がやられるのですか? 」
勇者 「 ちくしょう! 魔王だ! 最悪の悪魔だ! 」
隊長 「 西の島から来ている魔王は小さい少女で たいした力は無いと聞きましたが・・ 」
勇者 「 違う! その子じゃない。
ペテン師のヒロタン! ヤツは皇帝でも無ければ、勇者でも無い!
ヤツこそが悪の化身の魔王だ! 世界を滅ぼそうとする大悪人だ!
絶対にアンデットだぞ! 」
えっ? アンデットって何? この世界に、そんなのいたっけ?
と視界に白い服を着た看護兵が入ってきた。大きな黒い医療用の鞄を抱えている。
看護兵 「 それ以上、しゃべらないで! 」
強い言葉に勇者が口を閉ざした。使命感によるものか言葉に怒りにも似た強さがある。
看護兵 「 出血が多すぎます。早く止血しないと危険です。 」
この看護兵は、、、。
服も白いが肌も白い。そして美しい青い大きな目・・。 あれ?
ルナリス 「 サミアスですね。 」
やっぱりそうだよね。
看護兵 「 止血します。鎧を解いてください。 」
勇者 「 だめだ! 戦場で鎧を解くわけにはいかないよ! 」
看護兵 「 早く! 」
勇者 「 僕の体は大丈夫だから・・ 」
看護兵 「 死にたいのですか! こんなに血が流れ出しているでしょう! 」
実際、普通の人間なら、とっくに死んでる量の出血だ。回復薬を飲んでるとはいえ、勇者の体はどうなっているのだろう。
隊長 「 勇者様。今は治療を優先してください。敵からの防御は我々が命に代えても。 」
勇者 「 分かった。だが、俺の体の事は秘密だぞ。 」
勇者がいやそうに鎧の留め金を外す。相当な重さだったのか自重で、ガチャりと勇者の体から外れた。鎧が外れたが、下に、まだ何か鎧のような物を着けてる? 鱗状? いや、でも、その鱗状の肌が切り裂かれて血が流れている。
看護兵 「 こ、これは・・。
いや、かまいません。
止血します。横になってください。 」
鞄からテープ状の物と、細長いハサミを取り出した。テープを傷に添えて、ハサミを・・。いや、でも、そのハサミ、長すぎだよね? おかしいよね?
勇者も何からしら、おかしいと思ったのか、起き上がろうとしたが・・
瞬間的な早業だった。ハサミが丁番で2つに分離し短剣になる。その短剣を勇者の傷に深く突き刺した。傷から血があふれだす。
どこにそんな力が残っていたのか、勇者が看護兵を跳ねのけて飛び上がった。周りの兵士をもなぎ倒す。ほぼ同時に看護兵が持ってきた鞄が爆発した。すさまじい煙が周囲に立ちこめる。もう何も見えない。
隊長 「 その女を殺せ! 」
「ギャー 」「や、止めろ! 」
隊長 「剣を使うな! 同士討ちになる! 」
見えない状態で剣を振り回したら危険だよね。
周囲に広がった煙は、俺たちがいるあたりまで流れて来た。
そして、煙が晴れると、俺の鼻に濃厚な血の匂いが・・。
いつのまにか、目の前にサミアスがいた。まるで、ずっとそこにいたように。大きな青い目で下から俺を見上げる。そして手を俺に見せて・・
サミアス 「 血が落ちません・・。 」
濃厚な血の匂いは、サミアスが差し出した血まみれの手から漂っていた。ひどく悲しそうだ。
俺は、サミアスの血まみれの手を握って。
俺 「 大丈夫だよ。悪いのは俺だからね。 」
俺の手も血まみれになる。そういう事だ。
ミシャ 「 どうしたのですか? 」
ミシャには見えていなかったのだろうか。やや不機嫌な感じだが・・。
ルナリス 「 サミアスは、今しがた、敵兵に紛れて勇者にとどめを刺してきました。 」
ミシャ 「 まさか!? 」
ルナリス 「 本当です。遠見の魔法で確認しています。 」
敵は勇者の死体?をかかえて引き始めた。作戦が狂ったので、一度退却するのだろうか。
サミアス 「 治療すると言って騙して、心臓に達する傷を与えました。
心臓を傷つけられて生きている人間はいません。 」
ミシャがなにか考えている。
何を考えてる? 少し悲しそうに見えるが・・。
そういえば、ミシャは心臓を傷つけられて、それでも生きている。強力な魔力と回復薬の力だけで。
ミシャ 「 人間じゃ無い・・ 」
俺 「 ミシャは人間だよ! 」
ミシャ 「 えっ? 」
ちょっと戸惑った感じだが、それでも、うれしそうに笑った。
ミシャ 「 あ、。ありがとうございます。 」
ミシャ 「 でも、私が言いたかったのは勇者の事です。彼は人間・・でしょうか? 」
ちょっと待て! 何を言ってる!
だが、俺たちの会話にストリュが割って入ってきた。
ストリュ 「 その話しは後で!
今は、この城門の穴をふさぐ作業が先だ! 敵が引いてるうちに早く! 」
確かに!
急いで、兵士を総動員して、ありあわせの鉄板、そして岩で城門の穴をふさぐ。
幸い勇者がやられた事で作戦が狂ったのか、その日は、それ以上、攻めてこなかった。
まあ、彼らに急ぐ理由は無いわけだし、じっくり攻めて来る気かな。
夕方、大統領官邸に皆で集まる。
俺「 なんとか勇者を倒したな。 」
大統領 「 ふむ。良くやってくれた! 」
ミシャ 「 だと良いのですが・・。 」
ミシャは心配し過ぎじゃないか? まあ、一応、考えておくべきかもしれないが、例え、勇者が復活しても、今日の戦いから一定の方策は得ている。
ストリュ 「 勇者を退けたと言っても、これからだぞ。
明日は、大軍との闘いになるだろう。むしろ、これまでは前哨戦に過ぎない。 」
俺 「 策はあるのか? 」
ストリュ 「 一般的な籠城戦と・・。 」
ライラ 「 皆さん! 安心してください! ステブリー・ギルドの新兵器が間に合いました! 」
何それ? なんだか、大統領が、あきれ顔でライラを見ているのですけど・・。




