ぼくらの勇者キヨハル
翌朝、南門の前に敵が集結しているというので、急いで、そちらに向かった。
城壁の上から見ると、南門の前は、既に1万を超える敵の軍勢で埋め尽くされている。そして、その先頭に立っているのが、勇者キヨハル!
予想していたとはいえ、恐ろしい戦いになりそうだ。
豪華な馬車で大統領もやってきたが、城壁の上から敵の軍勢を一目見て、、、すぐに逃げた! 何しに来たのだ? あんたがメインじゃないのか? 大統領が逃げ出して、勝てるのか?
敵は、後方から続々とやってきている。いったい、どれだけの軍勢になるやら。
だが、勇者は、全軍の終結をまたずに、ゆっくりと門に向かって歩き始めた。あきらかに普通じゃない光り輝く鎧を着ていて、普通じゃない燃えるような剣、、いや、実際に剣先が燃えている。どこで手に入れたか知らないが、さすが勇者だ。顔もイケメンだし、完全に決まっている!
なんだか、もう、ビジュアルだけで、こっちが負けそう。カッコ良い方が勝つよね?
取り合えず、もし、金で雇われているなら、それ以上の金を提示すれば説得できるかもしれない。城壁の上から、出来るだけ大きな声で。
俺「キヨハル! いくらで雇われたのだ?
こちらに寝返るなら200万ゴールドを即金で用意しよう! 今、すぐに渡すぞ! 」
声を聴いて、俺の存在に気が付いたようだ。印象薄いかな。まあ、俺はモブと大差無い装備で、城壁の上に並んでるだけだからな。
キヨハル「ヒロタンか! そこにいると言う事は敵に加担しているのか!?
金の申し出はありがたいが僕は、味方を裏切ったりしないよ!
今日の分は50万だけど・・。」
少し残念そう?
キヨハル「 それに、金の問題じゃない!
物価を操作して民衆を苦しめたのは、そちら側だ! 」
はい。そうです。ごめんなさい。
キヨハル「 つまり、悪い人たちなんだ。
だから、やっつける。 」
単純だなぁ。
俺 「 そんなに悪くないと思うけど・・。 」
あまり自信は無い・・。
キヨハル「 ヒロタンこそ、なぜ、悪人側にいるのだ? 金か?
いくら積まれたか知らないが、正義のために、君も、こちらに加わるべきだぞ! 」
俺 「 仲間がいてね。 」
キヨハル「 仲間? もしかすると女性かな? 」
俺 「 まあ、女性も・・。 」
キヨハル 「 なるほど。そういうトラップか。
あまりモテないタイプだと、ひっかかりやすいって言うな。 」
おい! ちょっと待て!
俺 「 そういうのじゃないから。 」
キヨハル 「 本人は自覚できないのだよね 」
俺 「 いや、自覚も何も・・ 」
キヨハル 「 分かった。
止むを得ないみたいだ。 」
それだけ言うと、いきなり猛スピードで一直線に城門に向かい、すごそうな剣で城門の鉄の扉を薙ぎ払う! ものすごい轟音がとどろき、分厚い鉄の城門に、一瞬で巨大な穴が開いた。まったく、とんでも無いパワーだ! 鉄の扉は、火薬でも簡単には破壊出来ない厚さだと聞いていたが、勇者は火薬を超えている?! 物理的なパワーだけで、そんな事が可能なのだろうか? 明らかにおかしいだろ!
この大穴から、大軍で、なだれ込むつもりかな? やばいな!
ところが、勇者は一人でその穴から城内に走りこんできた。
勇者に続いている軍勢も城門に向かってはいるが、、まだ離れている。ほとんど瞬間移動の勇者とは速度が違いすぎる。
しかし、いくらなんでも、一人で城内に突っ込んでくるのは無謀だろう。勇者一人を皆で叩けば・・・。
と思いながら見ていると勇者を倒そう集まった、こちらの兵、数十人が一瞬で血みどろの肉片の山になった。むちゃくちゃだ! 勇者が、一人だけで突っ込んで来たのは、味方の兵は足手まといに過ぎないからか。一瞬で、今回の戦いにおける、最大の犠牲を出してくれたわけだ。
こんなのを繰り返されたら、どれだけ被害が出るか分からない。
止むを得ないので、俺が勇者の前に進み出る。
そして、いつもの瑠璃の棒をふって電撃を放つ! 細い雷が幾筋も勇者を捉えて降り注ぐ! これで勇者が倒れて・・。だが、勇者は電撃を受けても、まったくなんの影響も無かったかのように、少し笑っただけ。雨に打たれたほども気にしていないようだ。そして、剣を構え、こちらに向かって飛ぶように走り続ける。どういう事?!
いや、考えている暇など無かった! 猛スピードで俺の前に移動し、振りかぶった勇者の豪華な剣が、目の前で煌めき振り下ろされる!こりゃ、俺、死んだ! っと思った瞬間、俺の体のすぐ右下で瑠璃が光り、勇者の体に細い閃光の刃が当たった。空間を歪める刃。神官長が、昨日、対勇者戦用に用意した物だ。電撃などと違って明らかに殺傷力のある攻撃。俺の後ろに隠れていたミシャが、俺のわきから、それを放ってくれた。ぎりぎりの攻撃。
至近距離の光の刃は確実に勇者を捉えて切り裂く!やったか! 意外と簡単・・。ん?
だが、一瞬の出来事なのに、その閃光の刃を勇者は自分の剣を横にして受けている。どういう早業?! まあ、受けはしたが、閃光の刃には特大の威力があり、剣を前に構えたまま、体ごと飛ばされた。斜め下からの閃光の刃で、勇者の体は大きく弧を描いて飛ばされて城壁にぶち当たる。そして、めり込み、めり込んだ勇者の上から城壁の一部が崩れて埋めた。瓦礫の中に埋まってしまった。
俺の後ろからミシャが「勇者は、この程度では倒れません。お兄様は今のうちに回復薬を。」
え?何故、回復薬? と思って、自分の体を見ると鎧が裂けて肩から胸にかけて血が・・。傷を見た瞬間に鋭い痛みが走る。痛いじゃないか!!! いつの間に? 勇者の剣は届いて無かったと思うが、風圧だろうか・・・。風圧だけで、鎧が裂けて傷を受けるの? 俺の鎧はティッシュペーパーかよ!
幸い深い傷では無いようで、多少痛いが、それだけだ。回復薬を飲んで、ミシャに渡された布で縛る。
そして、ミシャの言う通り勇者はやられていなかった。城壁の瓦礫の中から、ゆっくりと這い出してきた勇者が「ひどいな・・。ろくな攻撃をしてこないと思ったら、囮だったのか。卑怯だぞ!」
いやいや、勇者のチート的な強さの方が卑怯だろ。
見ると勇者も左手で回復薬を取り出して口に入れている。右手は・・。うまく動いていない? さすがにダメージはあったようだ。ある程度はうまく行ったかもしれない。
もう一度、説得してみるかな?!
俺「片手をやられているでは無いか!もう止めないか? 先ほど言った金の倍400万を保証するぞ!」
勇者キヨハル「 あいにくだが、この程度の傷で僕は負けないよ! 君たちなど片手で十分だ!」
勇者は左手で服を切り裂いて、右手を体に縛り付ける。縛りながら、ふと、ミシャを見て・・
勇者キヨハル「ん! 誰かと思えば・・。きみは魔王軍にいた悪魔の少女じゃないか!
驚いたな。あの時の傷は致命傷だと思ったのだが。とんでも無い魔物だね。」
いやな事を言う。
勇者キヨハル「 ヒロタン。君は、その魔物の仲間だとでも言うのかい? 」
俺「 え? そうだよ。このミシャの仲間・・だけど? 」
勇者キヨハル「 その子の姿を見て、なんとも思わないのか? 」
何を言ってるのだろう?
そういえば、ミシャとエミャルの容姿は帝国の大半の人には、評判が悪かった。それと同じかな? でも、だから何だと言うのだ? 容姿と敵味方は関係無いだろう。
勇者キヨハル「 いいかげん目を覚ましたらどうだ?
もう一度、その子をよく見てみるんだ! 」
へ? 思わず言われるままに、振り返ってミシャを見たが・・。
勇者キヨハル「 そんな魔物の仲間になって良いと思ってるのか? 」
怯たような瞳で俺を見返してきた。いつも強気のミシャが怯るなんて・・。
こんなミシャは初めてかもしれない。
それが、また恐ろしく可愛い。可愛すぎて、心臓が止まりそうだ!
俺 「 んぐ!? 」
俺の動揺した様子を見て、勇者が
勇者キヨハル「 そう! 分かっただろ? 正気に戻ったなら、早く僕たちの側に・・ 」
俺 「 へ? なんで? そっちに行くのだ? 」
勇者は、肩をすくめてため息をついた。
勇者キヨハル「 何かで脳をおかされているのかな。 」
それは、おまえだ!
勇者キヨハル「 しかたがない。
残念だが、その魔物と一緒に死んでもらうよ。 」
そう言いながら左手で剣を構えると、俺に向かって走り出す!
ミシャ「来ます!」
ほんとに、ミシャは怖がってる。
ミシャが「兄さまも、これを早く!」
先ほど、ミシャが使ったのと同じ光の刃を放つ瑠璃の棒。その2本目を装備の入ったカバンから出して、俺に渡す。俺は急いで、受け取った魔法具を、こちらに向かって来る勇者に向けて放つ! 先ほどと同じ光の刃が勇者に向けて飛ぶ!
だが、俺の放った光の刃を、勇者は軽々と避けた。光の刃は背後の城壁にあたり、大きな音とともに、城壁に大きなへこみを作った。
さっきのミシャの攻撃は、至近距離からの不意打ちだったから当たっただけか。だったら、もっと引き付けてからやってみる? いや、でも、勇者の速度だと、その前に俺の体は真っ二つじゃないか?!
とか考えていると、勇者キヨハルが
勇者「 驚いたな。今の攻撃に使った魔力は、人間の物じゃないだろう!?
もしかして、きみも既に魔王なのか?!」
俺 「 まあ、仮の魔王というか・・。 」
勇者キヨハル 「 なるほど。君は既に人間を辞めて・・。そういう事なんだね。 」
いや、何がそういう事なんだ?
勇者キヨハル「 それなら、。もう、容赦はしないよ!
その悪魔の少女もろとも、、!」
今まで容赦してくれていたのか? とか甘い事を考えたのをすぐに反省せざるを得なかった。
勇者が剣を握り直すと、剣先の炎が、赤から黄色、青、、そして白い球状の光となった。温度が上がったという事だろうか。どういう剣なんだ? その剣で試すように、地面を軽く舐めると、剣が触れた部分、、いや、剣が近づいた部分さえ一瞬で爆発的に蒸発した。これは何なんだ?
分厚い鉄の城門に巨大な穴を開けたのも、こうした剣の威力だろうか。
先ほどの、俺が傷を受けた攻撃に、このモードを使っていたら俺は既に死んでいたかもしれない。
勇者キヨハル 「 僕の腕の魔法回路は、今、直接、この剣の回路に接続されている。 」
籠手と剣が合体しているように見えるのは、そのせい? それだけじゃないな。今は片手のため、右手で握る部分が空いてるのだが、そこに特殊な装置があるように見える。
勇者キヨハル 「 そして、僕の魔法回路を流れるパワーは、普通の人間とは比べ物にならないほど強大なんだ。 」
一般的にレベルが上がると魔法回路によって物理的に大きな力を出せるけど、勇者のそれは桁違いだ。その桁違いの力を、何かしらの機構で剣に注ぎ込んでるのか? かすっただけで、吹き飛びそうだよ。
ミシャが震えている。俺は、ミシャの前に立って棒と剣を構えたが。
まったく勝てる気がしない! 虎の前にいる二匹のウサギだ。やばすぎる!
俺 「 ま、まて! 分かった! 抵抗を辞めるので・・ 」
勇者キヨハル 「 無駄だよ。魔王と話す事は何も無い。 」
俺 「 いや、あの。魔王は仮なんだ! カッコ仮な?! 本当は違うから・・ 」
勇者キヨハル 「 何を言ってるのだ?
さっぱり分からんが、もし敵対する気が無いと言うなら、その魔物をかばうのを辞めたらどうだ? 」
俺 「 待て! 実はこの子も・・ 」
勇者キヨハル 「 その魔物が何者か、僕は君よりも知ってるよ。
会話は終わりだ! 覚悟してくれ! 」
勇者が、再び近づいてくる。速すぎる!
これ、もう、完全に終わって無いか!? やる気の無い作者がバッドエンドの最終回にする気なのか?!
や、め、て、く、れ!




