大商人 1人目
数日すると、国務長官がようやく大商人のところへ案内すると行ってきた。何故か、大統領も一緒に行くらしい。
国務長官トサラル「大統領も行くので、どうしてもと言ったら、挨拶だけなら会ってくれるそうです。
ただ、あまり時間は無いみたいなので、ほんとに挨拶だけでお願いします。」
大統領「市民会議が近いから私も挨拶しておく必要があってな。
まあ、時期的に、ちょうど良かったと言う事だよ。」
市民会議と言うのは、エストリアが言っていたやつか。大統領も気にするような物らしい。
俺とルナリスで、国務長官や大統領と、豪華な馬車に乗って。
近くまで行くと見渡す限り、同じ看板のビルが並ぶ通りに出た。全部、同じ商会の事務所らしい。確かにすごい!
俺「看板がエルラン商会となってますね。大統領と同じ家名ですが。」
大統領「実は、私の家がやっている事業で、今は兄が会長なんだ。
私が大統領なのも、半分は家のおかげだ。」
どういう大統領? どういう国?
中央のひときわ大きなビルに入り、国務長官が入り口で何か言うと通してくれた。まじめそうな女性の案内で最上階まで上がる。豪華そうな飾りのあるドアを女性がノックすると、
「どうぞ。入ってください。」
内部も豪華な部屋だ。彫刻の入った家具が置かれている。その奥に会長がいた。
国務長官トサラル「こちらが、リダレトクレ・エルラン会長です。世界最大の商会の会長と言って良いでしょう。」
俺「西の島の帝国皇帝、ヒロタンです。」
会長「それは、また。よろしくお願いします。
西の島・・ですか?
うちは、今、たいへん厳しい状況なのですが、。西の島・・と言うとあの商会の?」
大統領「兄さん。厳しいとは? どうかしたですか? 」
会長「あー。おまえにも話しておくべきだと思うが、物価の変動に巻き込まれてな。
少し欲を出したのもあるが、とても大きな損失になっておる。
それで・・」
会長の言葉の途中で、突然、社員らしい人がノックもせずに飛び込んできた・・。
「会長! シバタイル・エミャル商会の方がお見えです!
止めたのですが、ここに来ると言って。今、上がってきます! もう、すぐここに!」
会長「なに!? ついに来たか!
すまん! 時間が無いようだ。皆さん、こちらに隠れて!邪魔しないでくれ!」
え、何?
大統領「おい! 仮にも私は・・。」
会長「うるさい! 商会の危機なんだ。黙って隠れてろ!」
良くわからんが衝立の後ろに追いやられた。邪魔な荷物を片付けるようだ。
俺たちが隠れると同時に、黒っぽいスーツを着たスキンヘッドの男が、ドアを蹴り飛ばすように開けて入ってきた。ヤクザっぽい強面の男で、部屋の中を点検するように見渡す。見つかったらヤバそうで少し怖い・・。会長もなんだか萎縮している。
入って来たヤバそうな男が不似合にマジメな声で、ドアの後ろに向かって、。
「お嬢様。会長がおります。」
男がドアの横に退いて道を開けると、黒メガネをかけたダークなスーツの怪しい女性が入ってきた。どこかで見たような気もする・・けど。
女性は、会長の前に進むと
「あんたが会長?」
会長「はい。お越しいただきありがとうございます。」
衝立の後ろでルナリスが小声で「あれってエミャルさんじゃ!?」
信じたく無いが、そういう気もする。
俺「しー。よくわからんが黙っていよう。」
大統領「ん?」
女性に続いて数人の怪しげな人間が入ってくる。一人、ちっこいのがいるが、やっぱり黒メガネをかけていて怪しい。
怪しい女「自己紹介の必要は無いわね。」
会長「はい。承っております。」
怪しい女「分ってると思うけど、あんたの所がうちから買った鉄の代金が期限を過ぎても支払われていないのよ。」
会長「ですが、その鉄が、暴落していて・・。
うちにはゴールドがまったくありません。」
怪しい女「ほんとに無い?」
会長「ありません。昨日から他の借金取りも来て、もう、まったく何も。」
怪しい女性が1枚の証文を取り出して、会長の目の前にかざす。
会長「それは?」
怪しい女「あんたの会社の全権利を、シバタイル・エミャル商会に譲り渡すと言う証文よ。
これにサインしてくれる。そうすれば鉄の代金は忘れてあげるわ。」
会長「そ、そんな!? 10日、待ってください。そうすれば、支店から、。」
その女性が机を蹴って。
怪しい女「バカを言わないで!あんたの所の支店の金なんかゴミよ!
偉そうに座って、何、ふざけた事を言ってるのかしら。」
会長が、あわてて椅子から降りて床に這いつくばり、頭を床に付ける。この国でも土下座があるのか?
会長「お願いします。あと少し。」
怪しい女「あんたの所の取引先も借金のかたに抑えてるわ。もう終わりよ!」
怪しい女性が床に座っている会長の前に証文とペンを投げる。犬にエサをやるようだ。
会長「こ、この商会を手に入れても。既に他の借金で破綻状態で・・。」
女性が窓の外をあごで示す。会長が窓からのぞくと、馬車の上に金塊が積まれていた。
怪しい女「余計な心配をしなくても私たちなら大丈夫よ。
あんたが、それにサインして出て行けば良いだけ。わかるわね?」
会長が、震える手でペンを取ってサインした・・が。ちびい黒メガネがのぞき込んで。
怪しいチビ「この国では重要な契約には血判を押すはずよね。
下町で聞いたわよ。あんたの所から金を借りた時に血判を押させられたって。」
会長「で、ですが、それは、字も書けない卑しい人間が・・。」
怪しいチビ「ほら、ナイフ。」
切腹させられそうな雰囲気だが。会長が泣きながら、指に傷を作り血判を押す。
怪しい女が証文を拾い上げ、眺めて・・
怪しい女「何よこれ!ふざけないで!
サインが曲がってるじゃない。もう一度よ!」
おまえら、情けという物が無いのか。
会長が泣きながら、もう一度、サインして血判を押すと・・。
怪しい女「ん。いいわ。
じゃぁ、一刻後にスタッフと来るから、それまでに片づけて出て行ってくれる!。」
彼女たちが帰った後。
俺たちは衝立の影から出たが・・。会長は完全に放心状態だ。
大統領が座り込んだ会長を抱えるようにして。
大統領「にいさん! しっかりしてください!」
会長「あー、。もう俺は終わりだ~!
帰ってくれ!」
大統領「もうすぐ、市民会議なんだが・・。」
会長「だめだ! 私をあてにするな! 帰れ!!!」
会長が手をふって大統領を振り切ると、大統領も、それ以上、何も言えなくなる。
そして、俺たちは、そのビルを後にした。
俺「なにやら、とんでも無い事になりましたね。」
大統領「こ、これでは・・。私は・・。」
トラサル「ビジネスで失敗したのでしょう。そういう事もあります。
大統領には災難のようですが、わが国には他にも大商人がおります。」
俺「なるほど。」
大統領「ふ、ふむ。そうだな。彼に支援してもらえれば・・。」
トサラル「はい。もう一人の大商人の所へ参りましょう。」




