魔獣との戦い
昼間のうちに、城壁の外側に仮の壁を木の杭で作る。まあ、気休めだろう。3日間、夜、やってくる魔獣から工事中の城壁を守り抜けば、完成するわけだが。
夜になると、3匹の大王狸が・・。
赤く光る眼を持ち、固いウロコで覆われた、凶暴で巨大な肉食獣だ。確かに形はタヌキと言えなくも無いが、10メートル以上の巨体に硬いウロコで、むしろ恐竜と言って良い。
固いウロコは、普通に剣で攻撃しても跳ね返されるだけとか。
俺「クラム。倒せると思うか?」
クラム「1匹ならなんとか出来る。」
俺「じゃあ、クラムの無事を最優先で、1匹仕留めてくれ!」
クラムは鉄のやりを持って残っている城壁によじ登った。20メートル以上の高さだ。そして、その上を走り勢いを付けて空中に飛び出した。彼女のぶかぶかの服は広げると、むささびの羽と言うかハンググライダーというか、そのまま、うまく滑空している。そして、狙いを定めて魔獣の頭に向け、急降下。自身をやりの一部にしたかのように大王狸の脳天に長大な鉄のやりを打ち込んだ。固いウロコを貫通して脳を撃ち抜かれ、崩れ落ちる大王狸。そういえば、ストリュに聞いたクラムの里の名前は飛翔族だった。
ストリュは、片手で日本刀のような細い刀を持って大王狸の正面に立つ。あんな刀じゃまったく刃がたたない・・と思えたのだが。突進してくる魔獣をギリギリでかわし、すれ違いざまに一瞬の閃光で刀をふるった。どういう魔法なのか、ドカンと大王狸の頭が落ちる。ストリュの刀は微塵も傷んでいない。
後で聞いたのだが・・
俺「何をやったのだ?」
ストリュ「隙間のある所に刀を差し入れたのみ。
かの獣のウロコの間、骨の間、筋の間に刀を入れた。
隙間のある所に刀を入れただけだから、なんの問題も無い。」
何を言ってるのか、さっぱり分からん。
もっと分からないのがサミアスだ。突進してくる大王狸の前にふら~と現れ、そのまま巻き込まれるように下敷きになった。そして、サミアスの上を通り過ぎた大王狸が首から血が噴き出し、大きく吠えるとドーンと倒れた。返り血で真っ赤になったサミアスが立ち上がり、死んだ大王狸の横で何かの祈りを唱えている。美しい分、怖い気もする。
サミアス「首の下のやわらかい所に剣を入れて動脈を切りました。」
軍のメンバーはあっけにとられていたが、3匹が倒されると歓声を上げた。
昼間は、近くの村の宿に戻って休んだ。エミャルが俺を迎えてくれるのが嬉しい。
翌日は5匹の大王狸が現れた。やはり、なんらかの意図が感じられるが、やるしかない。この日は、軍の残存兵も戦ってくれたので、なんとか5匹を倒す事ができた。
そして、あと1日で、城壁が完成するという最後の日。目の前に現れたのは10匹の大王狸。
ストリュ「おそらくは残り全部の魔獣を送り込んで来たのだろう。」
誰が?
いずれにしろ、これを食い止めないと、再び城壁は壊されてしまう!?
そして、俺がやるしか無いわけだ。
エストリアに渡された狂戦士の薬を取り出す。
エストリアとルナリスの説明だと、これは、人間の自我を消失させて、自我が認識する所のレベルを消失させ、魔法回路を暴走させる薬。つまりは自分が魔獣になるのだ。普通のヤツが使うのは自殺行為。
だが、俺の場合は魔法回路の外側にもレベルが刻まれている。その値は、自我では無く客観的な値として存在しているらしい。自分を無くして客観的な認識のみになる事で、その認識において正真正銘のレベル70の勇者を誕生させるのだ。入れ物がある分、一定レベルまでで暴走が止まるとも言える。ただし、自我が無いから、無差別に攻撃する事になる。まさに、狂戦士。
クラムと抱き合うようにして城壁の上からジャンプする。二人では滑空というほどうまくは行かないが、それでも俺を大王狸の群れの中央に投げ込み、クラム自身はUターンして戻る。俺はクラムに投げられる直前に薬を飲んだ。飲んだ瞬間に目がくらみ、同時に体が燃えるように熱くなり、そのまま意識を失う。
俺の主観だと、次に気付いた時には大王狸の血と自身の血にまみれて地面に転がっていた。全身が痛むが、それ以上に頭が割れるように痛い。サミアスが滑るように駆け寄ってきて、回復用の瑠璃薬を飲ませてくれた。同時にサミアスは近くで傷を負いながら暴れていた大王狸の喉に剣を差し入れ、とどめをさす。
俺「う、うまくいったのか?」
サミアス「しゃべらないで。まだ、います。このまま離脱します。」
傷ついている物が多いが、まわりに、まだ4頭あまりが残っている。むしろ、この魔獣たちの中心にサミアスが来れたのが不思議だ。サミアスが俺を肩にかかえたが、魔獣に囲まれていて、とても離脱できるようには・・。
っと、軍の兵士が突撃してくる。
「勇者様を救え!」
クラムが長いやりで、ストリュが剣で戦っている。
最後はぎりぎりだったと思う。なんとか残っていた魔獣を倒した。
狂戦士状態の俺は、魔獣たちの中心で、まさに八面六臂というか、大立ち回りを演じたらしい。力任せに大王狸の固いウロコをぶち抜いて、叩き潰していったとか。レベル70とは、凄まじいものだな。
血だらけで宿に戻ってきた俺にエミャルが泣き叫んで抱き着いてきた。何かのトラウマでもあるのだろうか?
俺「大丈夫だ。大半は魔獣の血だからね。俺は深い傷は負って無いよ。」
エミャル「でも、でも、。ヒロタンさんが死んだら、。私は・・。」
ストリュ「安心しろ。深手は負って無い。でも、休まないとならんからヒロタンは、この宿に置いて行くぞ。
エミャルはそばにいてやってくれ」
サミアス「ぼくも・・」
クラム「私も・・」
ストリュ「エストリアがすぐに戻れと言っている。他にも問題があるのかもしれん。
ヒロタンとエミャル以外は戻るぞ!」
エミャルと俺以外は、中央の城に戻ってしまった。まあ、ここも城壁内だし馬車なら城まで2刻、、2時間かからない距離だが。
とにかく、終わった。そのまま、ばったりと倒れて眠る。
しばらく寝ると回復薬のせいか、だいぶましになった。
宿の1階で食事をとっていると。
娘「新しい領主様・・ですよね?」
俺「さぁ。どうだろう。」
何故、知ってる? いずれにしろ、そういうのは苦手だ。
リナル「こんな、町はずれの宿の給仕でも、運が向く事があるのね。
私は、リナル。以前はお城の近くにいたのだけど、帝国が攻めてきて、いろいろ酷い事になっちゃって。
町の学校に通っていた時は人気者だったのよ!? どうです?」
なにが、どうです?っだか分からんが、あんまり趣味じゃない・・。
お化粧が派手すぎて、むしろ怖いぐらいだ。
リナル「私は、領主様みたいな男を捕まえるつもりなの!
今晩、お部屋にいっちゃいますね。」
俺「来るなよ!俺は怪我して療養中なんだぞ。」
何を考えてるやら。
それで無くてもハーレム路線は危険なんだよ!エストリアが、また怒り出したら、どうすんだ!
俺が下で食事をしていたためエミャルが、降りてきた。
あまり部屋から出なかったのだが。
リナル「あれ? もしかして、エミャル?」
俺「ん? 知り合い?」
エミャル「あ、、」
リナル「小さい頃、お城にいた、ぶさいくエミャルでしょ?」
俺 「おい! いきなり酷い事言うなよ。」
リナル「ほんとの事じゃない。なんで、領主様と一緒なの?こんな子が?」
まずいな、エミャルの精神状態は、まだ、安定していない。
俺「エミャル、部屋に戻るぞ!」
エミャル「はい・・」
リナル「ちょっと待ってよ。なんで、こんな娘と一緒にいるの?」
俺「うるさいな。エミャルはこんな娘じゃないし、ぶさいくでも無い。」
とにかくエミャルを引っ張って、部屋に戻りカギをかけた。
俺「知り合いか? 昔、ここに住んでたの?」
エミャル「小さいころは、ここのお城で・・」
俺「ここでも酷い事を言われていたのか。」
エミャル「いえ。ほんとうの事・・ですから。」
俺「でも、俺には、そうは見えない。」
エミャル「ヒロタンさんはやさしいからって、エストリアさんが・・。」
バタンとドアが開いた。さっき、カギかけただろ? どういう事?
リナル「合鍵を借りてきました!」
俺「おい!」
リナル「聞きましたよ。やさしいから・・ですか。それで、そんなブサイクを?
もしかして王族の娘って噂はほんと? だから、ブサイクを我慢してます?」
俺「へ?何を言ってるのだ?」
リナル「でもね。女の子は私みたいに魅力的なのが一番ですよ!
領主様、若いしステキ。キス・・しません? 」
俺「しないよ!」
リナル「ほら、そんなブサイクよりも、私と・・」
エミャルが小さくなっている。ヤバイだろ、これ。
俺「いやいや。君よりもエミャルのがかわいいから。」
リナル「そう口では言っても。
じゃあ、キスできます? あんな子と。」
何回かやってるし。
俺「エミャル? あのバカな子に分かってもらうために。」
エミャル「・・もう、元気ですから、無理しなくても。」
俺「無理じゃないって!」
抱き上げて、エミャルにキスする。
多少抵抗したけど、むしろ、受け入れて手を後ろに回してくれた。
リナル「あきれた! そんな子と・・」
俺「あのね。君は人気者かもしれないけど・・。こういうのは、それだけじゃないんだ。」
リナル「そ、そうね。私が悪かったわ。」
急にしおらしくなったぞ。どうしたんだ?
リナル「やっぱり、気持ちが大事よね。」
いや、。エミャルは、見た目がとびきりかわいいから・・。
リナル「見た目だけで釣れる男なんて、価値が低いって事だわ。」
俺にはエミャルの見た目が可愛すぎて・・。いろいろ痛い。
リナル「私が間違っていたわ。見た目に頼らないでもっと他の方法で・・」
間違ってるのは、そこじゃないけど。
リナル「平和になったみたいだし、町に戻って、お城に仕えるわよ!
私は、なんとしても・・!
見てなさい!今度は!」
ドアをバタンと閉めて去っていった。
最後になんかフラグ立てて無かったか?
まあ、お城にはエストリアがいるから大丈夫だろうけど。
エミャルが離れないので、そのままで聞いてみた。
俺「ところで王族の噂ってなんの話しだ?」
エミャルが、エミュルになっていた場所を古い部分も含めて、なおしました。
読み返すたびに間違いがあって、、、申しわけありません。




