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察しの良さは達人級

朝、目覚ましの音で目が覚める。

少し憂鬱な気分になったが、昨日の事を思い出し、そんなものは吹っ飛んだ。


まだ覚醒しきっていない目を無理矢理こじ開け、体にムチを打ち、台所に向かう。朝食作りだ。


いつもなら、コンビニなどで済ませていたが、今日からはしばらく作る事になりそうだ。

昼も、当たり前だが帰って来ないので昼食も一緒に作っていく。

よく、一つも二つも一緒とか言うが、そんなことはない。一つだったら一つでいい。


なかなか時間を掛けて、朝食二つに昼食を一つ作り終える。


地下の様子を見てみるか、もう七時半だ。流石に起きてるだろ。

俺は地下へ行き、ノックをする。


「はぁーい」


明らかに、今起きましたという感じの声が聞こえてくる。


「飯作ったから持ってきたぞ」

「はーい、ありがとうございますー」


扉を開け、朝食を机の上に置く。ついでに昼食も地下にある冷蔵庫に入れる。

用事を終えたので、部屋を出ようとすると恵が声をかけてくる。


「あれ、優先輩はもうご飯食べたんですか?」

「いや、今から食うつもりだけど」

「なら一緒に食べましょうよ!一人で食べるのは寂しいです!」


そういうものか?

けど、確かに恵なら一日人と喋らないだけで孤独死しそうだな。

しょうがない、一緒に食ってやるか。


「わかった。上から飯取ってくるわ」

「早くしてくださーい」


急かされながら、早足で飯を取りに行く。


――もう一度地下に戻ると、机の上に俺の分の箸が置いてあった。相変わらず気が利くやつだ。


「いただきます!」

「おう」

「そうだ優先輩!――」


いつものように恵が会話を主導しつつ、飯を食べていく。適当な相槌をしても、会話は途切れない。


しかし、朝食は軽めに作ったので、結構早く食べ終わってしまう。


「ふぅ、ごちそうさまです」

「ごちそうさま」


食器片付けてながら、今日の予定を確認する。

これからは、今までのように残業をしてはならない。

なるべく早く帰らねば。


「昼食は冷蔵庫に入れといたから、腹減ったら食べてくれ」

「了解でーす」

「じゃあ仕事行ってくるわ」


会話に違和感を感じる。

……おかしい。俺達の関係は、拉致の実行犯と被害者だよな。なんで同棲中の男女みたいになってんだ?


現状に呆れつつも、仕事の支度をする。


「優先輩」


すると、恵に呼び止められた。


「行ってらっしゃい」


――やばい、また泣きそう。

恵のその一言は、当たり前の挨拶は、俺の感情を揺さぶるには十分だった。


しかし、なんとか耐える。恵に、二回も泣き顔を見られるのは嫌だからな。


「……行ってきます」

「頑張ってきて下さいねー」


恵にバレないように、駆け足で階段を上がる。

しっかりと地下への扉に鍵を掛け、会社に向かう。


――キツイ通勤を終え、会社に到着する。いつもより大分遅い。遅刻はしていないが、不自然に思われてしまいそうだ。


「あ、優!今日は遅いね、なんかあったの?」


さっそく突っ込まれた。声のした方を見ると、綾だった。


「…いや、久しぶりに寝坊して、さ」

「優が寝坊するなんて珍しいね。明日は雪でも降るのかな?」


綾は納得しながらおちょくってくる。誤魔化せたようだ。


「ん?優…」

「な、なんだ?」


綾が突然、俺の顔をじっと見る。

…何か気付かれたか?


「何か良いことでもあった?」

「は?別に、何も…」


良いことどころか、昨日は厄日だった。


痴漢に間違えられ、トラウマを抉られ、後輩を拉致監禁する事になったのだから。

確かに、恵が来てからは少しだけ、ほんの少しだけ愉快だったのも事実だか…


「うーん、そうなの?」

「そうだわ。何でそう思ったんだよ」

「いつもより顔に生気があったと思ったんだけどね。気のせいだったかも」


…こいつ、案外鋭かったりするのか?

なるべくボロを出さないように意識しないと。バレたら即逮捕の運命だ。


そんな会話をしている内に自分のデスクに着いた。すると、いつも仕事を渡してくる上司が近づいて来る。


「松田くん。これも頼んでいい?」

「…すいません、今日から仕事は増やさないようにしようと思っていて…」

「えっ…」

「「えっ…」」


言ってしまった。


見ると、上司は唖然としている。それどころか、この部屋の全員が声を上げ、こちらを見てきた。


しばらくすると、上司が口を開いた。俺は身構える。


「良かったよ!松田くん仕事し過ぎなのに、仕事は意地でも増やすから心配だったんだよ!」

「えっ」

「だからわざわざ簡単な仕事を回してたんだけど、もう必要ないね!」


この人は自分の仕事を回していた訳ではなかったのか。てか、逆にめちゃくちゃいい人だった。

この恩はいつか返そう。


「優!とうとう気付いてくれたんだな!自分の仕事の多さに!」

「優さん、おめでとうございます!」

「これからは適度に働けよ!」


部屋にいる全員の社員が拍手をしながら、俺に言葉を投げてくる。賞賛だったり、注意だったりと様々だ。


……なんだこの雰囲気。

なんで仕事減らしますって言って讃えられてんだ?


果たして、俺がおかしかったのか、社員がおかしいのか。どちらだろう。

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