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夕食

優は階段を上がって行く。

生気の抜けていた目は、いつの間にか、大学の頃の目に戻っていた。地下室での出来事は、トラウマを考えさせないには十分で、会話は大学を彷彿とさせたのだろう。


一階へ戻っていく優の顔は心なしか楽しそうだ。いつもの貼り付けたような笑顔ではなく、本心からに見えた。

――――――――――――――――――――――

俺は階段を上がり、扉に鍵を付ける。

あの調子で逃げるのかとも思ったが、流石に逃げられたら怖いので付けた。


「はぁ〜。なんなんだあいつは…」


そんな事をボヤキながら、キッチンへ向かう。


少し埃っぽい台所を横目に、冷蔵庫を開ける。中身は寂しかったが、二人前ぐらいは作れるぐらいはあった。


両親が死んでから、自炊をやっていた時期があったため、料理が出来ない訳ではない。

…まあ、一年ぐらいでやめてしまったのだが。


冷蔵庫の中身を適当に掴み、作るご飯を考える。

この材料なら、チャーハンでも作れそうだな。そんなに時間もかからないし、それで行こう。


野菜とウィンナーを切り、冷凍してあったご飯と一緒に炒める。塩胡椒を感覚で入れて、程よい所で皿に盛る。

…久しぶりに作ったが、大丈夫か?


まあ、不味くても恵だしいいか。

そう納得し、二人分の皿を持ちながら地下へ向かう。扉の前で、鍵を掛けた事を後悔した。両手が塞がっているのだ。


「めんどい…」


愚痴を零しつつ、鍵を開け、下に下りる。

また面倒な事に、ドア閉まっていた。もう開けたくない。


「開けてくれー」

「はーい」


呑気な返事と共にドアが開く。

心なしか、恵は楽しそうな顔をしている。


「お!美味しそうですね!流石優先輩です!」

「おう、有り難く思え」


そんな軽口を叩き、皿をテーブルに置く。

地下室にあった戸棚から、スプーンを二本取り出し、恵に渡す


「ほら、不味くても文句は言うなよ?」

「まさか、文句なんて言いませんよ」

「お、いい心がけだな」


恵にも、優しいところってあるんだな。見直したわ


「次から私が作ります」

「遠回しに文句じゃねーか」


前言撤回。全然優しくねーわ


「それじゃ、いただきまーす」

「いただきます」


恵と俺はチャーハンを口に運ぶ。


「うん!美味しいじゃないですか!」

「そうか。それは良かった」


そうして、食べ進めていく。二人でたわいのない話をしながら。


食べ終わる頃、恵が驚きの表情を浮かべた。何故と考えていると、自分が泣いていた事に気付く。


「…優先輩!私と久しぶりに会ったからって泣かなくてもいいんですよ!」

「う、うるさい。そんなんじゃねーわ」


何故泣いてしまったのか。

理由は簡単で、楽しかったのだろう。幸せだったのだろう。

両親を亡くして、一緒に無くしてしまったその二つを、恵と過ごしていた内にまた感じたのだ。


俺が涙を拭っていると、恵がティッシュを差し出してくれた。


「はい。服で拭いたら汚れちゃいますよ」

「ありがとう…」


本当にこいつはなんなんだ。

無理矢理連れ込んだにも関わらず、楽しそうにしていて。それでいて、俺にも普通に接する。


泣き止んだところで、恵が声を掛けてくる。


「それで、なんで突然泣いちゃったんですか?」

「……チャーハンに付いてた胡椒が目に飛んだ」

「あ!それ良くありますよね!私も昨日ありましたよ!」

「あるよな。マジでどうにかしてほしいわ」


照れ臭いので誤魔化したら、乗ってきた


「そうだ!それってちゃんと処理しないと、失明に繋がるって知ってました?」

「へえー。それは知らなかった」


ここでハシゴを外してもいいのだが、せっかくなのでもうちょっと遊ぶ


「こっち来てくださいよ!やってあげますから!」

「えっ。教えてくれれば後でやるから」

「ダメですよ!早く早く!」


しょうがないので、渋々、恵の元へ向かう。


「まずですね。こうやって水を準備して、目に向かって投げるんです!」

「うが!!」


死角に入っていて気付かなかったが、いつの間にか、コップの水を手に持ち、俺に向かって振るってきた。


「な、なにすんだ!」

「はぁ。ダメですね、優先輩。そこは、目がー目がー、でしょ?」

「この野郎…!」


こんな賑やかな夕食が終わり、俺は考える。

…これ、もう捕まった方が楽じゃね?

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