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逮捕まで秒読み

仕事が早く終わってしまい、帰らざるをえなくなってしまった。そう認識してしまえば憂鬱な気分になってくる。


トラウマの震源地と言ってはおかしいが、両親がいない家に帰ってしまうとどうしても心が弱ってしまう。


こうやって早く帰れてしまう日は、仕事に熱中し後回しにしている家の掃除をやる事が多い。

どこかで時間を潰してしまうのもいいのだが、流石に住んでいる家が汚れだらけなのも嫌だ。


そんな事を考えながら電車に乗る。まだ早いこともあり空いている。

俺は席の前に立ち、ケータイを出す。

だが、降りた後の事を考えてしまい、また憂鬱になる。


俺は、両親を亡くした事故以来、バス、タクシー、車に乗れなくなってしまった。

乗ろうとすると眩暈と吐き気が襲ってくる。

医者曰く、ストレス性のものらしい。


それからというもの、駅から絶妙に遠い俺の家から、バスを使うという事が出来なくなってしまった。


歩けない距離ではないので、仕方なく歩いているが、やはり面倒だとは思ってしまう。

ふと顔を上げると、次の駅で降りることに気づく。


(こっから歩くのが面倒だ)


再度そう思い、定期をポケットから出そうと手を下げたところ、手を誰かに掴まれる。


「いま、わたしの事、痴漢しましたよね?」


かなり小さい声で、けれどハッキリと聞き取れる声でそう言われた。

あまりの事に、一瞬頭が思考を停止したのは仕方ないと思う。


しかし、理解した次の瞬間、ありとあらゆる穴から嫌な汗が出てくるのが分かる。


周りを見て、視線が集まってないのが分かり、俺にしか聞こえてないという事に少々の安堵を覚える。

けれど、問題は解決していない。どころか、現在進行形で大問題に発展しつつある。


焦るな、まずは弁解だ。そう考え、顔を上げる。


「何を言ってい……‼︎」


言いかけて、止まる。その女性が知っている人だったからだ。


「恵…か?…お前…」


俺の頭はすでに何が起こっているのか理解不能だった。痴漢を疑われたと思えば、知っている人だったのだ。


しばらく沈黙が続いていると、恵が何かを決心したのが分かった。


「まさか優先輩だったとは思いませんでした。でも……犯罪は犯罪です。一緒に警察に行きましょう」


そう言うと、タイミングが良く――この場合は悪いのかもしれないが――電車の扉が開く。

と同時に恵は、俺の手を引っ張り電車から降りていく。


引っ張られながら、俺は必死に頭を回す。

山口恵やまぐちめぐみは大学の頃の後輩だ。同じサークルで、仲は良かったと思いたい。


身長は155前後、ショートカットが似合う子だ。両親の事故があった後、告白をされたのだが、その頃は俺もだいぶひどい時期で断ってしまった。


それが原因か、一年疎遠になってしまっている。


けれど、痴漢を疑われたのが恵で良かったのではないか?恵なら話合えば分かってもらえるかもしれない。


この場合、行動は早い方がいい。さっそく口を開ける、


「な、なあ恵。何かの勘違いじゃ…ないのか?俺は恵に手を掴まれた時、定期を出そうとしてただけなんだ」

「言い訳は見苦しいですよ。わたしは確かに触られましたし、その時に近くにいたのは、優先輩…貴方だけでしたよ?」


くっ!ダメなようだ!触っていないという証拠がない以上しょうがないのだが。


ふと、警察に捕まった後の事を考えてしまう。

もしかして、このまま逮捕され、有罪判決を食らってしまうのではないか。刑務所もしくは罰金があるのではないか。


……悪い想像は止まらない。


「まさか、優先輩が痴漢をしているなんて思いませんでしたよ」


恵のその一言で、想像が止まる。


「ち、違う。本当なんだ。俺はやってない」

「わたしが会社を辞めて、しばらく見ないうちにこんな事をしていたんですね」


俺の言葉は見事に無視され、恵はそんな事を言う。恵は大学を卒業し、俺の居る会社に入社してきたのだ。


その時の俺は複雑な心情だったのを覚えている。大学の俺を知っている恵が、会社での俺を見て違和感を覚えてしまうのではないかと思っていたからだ。


会社での俺は、初めて見る人からすれば普通に見えるかもしれないが、元の俺を知って人からすれば、ぎこちないと思われても仕方ないものだった。


「恵こそ…何で急に仕事辞めたんだよ。入って一年ぐらい経った頃だったか?」


取り敢えず、世間話から入ろう。そこから何があるかもしれない。


「……普通に家の事情ですよ。わたしも大変だったんです」

「そ、そうなのか…」


あっさり返されてしまう。何か考えていたようだったが、何かあったのだろうか。


そうこうしているうちに、改札を通過してしまう。


まずい。この駅は北口と南口があるのだが、北口には交番がある。

……しかも目の前に。


北口を通られたら終わる。今警察に突き出されるより、話し合いで解決したい。


「なあ…俺も早く解決したい。だから警察には行く。ちょうどここは俺の住んでいるところだから、案内出来ると思うんだ。」


頼む、乗ってきてくれ…!


「……そうなんですか。なら優先輩に任せますね」


しばらく考えた後、恵は了承してくれた。

これはまだワンチャンある…?


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