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これが今の日常

電灯や家から溢れる光が、薄暗く道を照らしている。その中をトボトボ歩く男性が一人。松田優まつだゆうという。


しっかりとしたスーツを着ており、仕事帰りなのが伺える。しかし、その目は力が入っておらず、生気が見られない。


あまり考えたくないが、自殺でもしてしまいそうだ。


優が住宅街に入る。

家族単位で暮らすためのその地区は、一人暮らしである彼には余分とも言えるだろう。


仕事中の彼はもっと元気のある顔をしていたが、家に入る前の彼の顔は悲しみを表していた。

――――――――――――――――――――――――

「ただいま」


声量などなく、呟いただけとも言えるその言葉は、自分でも分かるぐらい顔歪めさせた。


しばらくして元の顔に戻ると、風呂などの事を済ませてベットに潜る。


「なんで…俺は…」


独り言が増えたのは、遅くまで時間を使うようになったのは、二年前。

両親が死んでしまった二年前からだ。


その日から毎日のように後悔の念が襲ってくる。

二年経っても収まることなんてなかった。


後悔に潰されそうになりながら、耐え抜き今日を生きている。


数十分経つと意識が薄れていくのが分かる。今日を生き抜けた事に安堵し、明日に備える。

明日を生きる為に。

そんな当たり前な事を全力で。


――朝、目を覚ますと、だらける事なく準備を済ませる。徒歩で最寄りの――最寄りと言うには少し遠い駅に向かう。

電車に20分乗った後、また徒歩で会社に向かう。


俺が務めている会社は、結構大手で給料も良い。会社では明るく振舞っているので、同僚や上司、後輩とも関係はいい方だろう。


会社の入り口を通り過ぎ、エレベーターに乗る。自分の部署に入ると、二人の挨拶が聞こえてきた。


「おはよー」

「おはよう、優」


気の抜けた挨拶をした方が中野綾なかのあや。俺の同期だ。

背丈は155ぐらいだろうか。ポニーテールが特徴的な女性だ。


もう一人は、赤崎圭あかさきけい。同じく同期で、背丈は170ぐらい。170に届かない俺は、少し顔を上げる形となっている。

圭は、キチンと髪をセットしていて中々のイケメンだろう。


「おはよう、二人とも」


明るい顔を務めて、挨拶を返す。


「優、夜遅くまでいるのに、よく朝早く来れるよね。俺なんて毎朝苦痛だよ」

「昔から朝は強いんだよ」

「いいなー、私も強くなりたい。優コツ教えてよ」

「朝の強さにコツなんてあるのか…?」


そんなくだらない雑談を毎日しているぐらいだ。同期の中では、この二人が一番心を許しているだろう。


俺の仕事は基本的にデスクワークだ。座って出来ることが多い。


そのせいか分からないが、大学ではあった筋肉が消えてきた気がする。非力とまではいかないだろうが。


仕事中の俺はメガネをかけてる。その為、元々細めの目がさらに細く見えている気がする。

地味にコンプレックスだ。


「松田くーん、これも頼んでいい?」


上司の呼ぶ声が聞こえる。入社してからずっと仕事を求めていたら、自分の仕事を回してくるようになった。


良いように使われてる気がするが、仕事に熱中していないと、会社でもトラウマが襲ってくるような気がして、仕事を受けている。


「ふぅ…」


仕事に終わりが見え、新たに仕事を貰おうと席を立つ。上司は俺が立ったのを見て、苦笑いしている。


これは…


「松田くん、今日はもう仕事ないよ?」


やっぱりそうだった。こうなると困る。俺の存在意義が無くなったと言っても過言でもない。


心底残念ですという顔をしていると綾が声をかけてきた。


「優って仕事し過ぎじゃない?私たちの倍ぐらいやってるよね?」

「うるさい、仕事してる時が一番落ち着くんだよ」

「中野くんの言う通り、休みは必要だよ。いつも頑張ってるんだし、尚更さ。」


上司が言ってしまっては、他の人の仕事を手伝うと言う口実に、仕事をするというのも難しいかもしれない。


「分かりました…」


もう一度、残念ですという顔をした。

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