生還
「おい、あれ」
「ああ・・・間違いねぇ」
ナルが街の中をギルドに向かって進んでいると、周りでひそひそという話し声が聞こえてくる。
ナルのことを横目に見ながら話しているのは、誰も彼も武器を持っている・・・つまり、冒険者だった。
「あの噂は嘘だったのか?・・・ひっ」
ナルが睨むと静かになるので、ナルのことを言っているというのは明らかだ。
しかし、ナルは別に気にしていなかった。
もともと鎧もボロボロなので、同業者から笑われることもあったし、その異様な格好から気持ち悪がられることもあったので慣れていたのだ。
「・・・ん?」
ある匂いがナルの鼻孔をくすぐる。
グゥ~・・・。
その甘辛い匂いにナルのお腹がなった。
ナルは自分のお腹をさすりながら気付いた。
自分はお腹が減っていたのだと。
ナルはその匂いの出ている屋台へ、一直線に歩いて行く。
「三本」
そして、店主に向かって指を三本立てながらそういった。
「あいよっ・・・て、あんちゃん!生きてたのか?」
店主は、一口で頬張るには少々大きいくらいの肉が五つ刺さった串を三本差し出しながら言った。
「どういうことだ」
「いやよ、前は毎日のように買ってくれてたのに随分前からここらで見なくなっただろ?そしたらえれぇ強い冒険者が死んだって冒険者達が騒ぎ出したんだよ、んで詳しく聞いてみたらあんちゃんの事だって言うじゃねぇか、あらぁビックリしたぞ・・・でも、生きてたんだな」
ナルは、そういうことかと納得する。
それで、さっきから周りでひそひそとされている話にも納得がいった。
「俺はどのくらいいなかったんだ?」
「ん~・・・3年くらいか」
「そうか、三年か・・・」
ナルは不死神に会いに行ったのは一瞬だったはずだと不思議に思うが、すでに生き返ったことも不思議なので考えても無駄かと思う。
「じゃあ」
「おう、また買ってくれよ!」
それよりも早く肉にかぶりつきたいナルは軽く手を上げると、ギルドに向かって歩き始めた。
ナルはこの肉が昔から好きだった。
街に来ると必ず母親と一緒に食べたこの肉が。
ナルは串を一本取り、兜を下から押しあげて開いた隙間にその串を差し込みかぶりつく。
口に入れた瞬間に甘辛いタレが口いっぱいに広がり、香辛料の香りが鼻を抜ける。
肉は少し硬いが、その歯ごたえがまた満足感を与えてくれる。
ナルはその大きめの肉を次々に口に運び、あっという間に三本を完食した。
残った串を紙に包んでポーチにしまうと、ギルドの扉に手をかけた。
カランカラン。
ギルド内には数人の冒険者がいたが、ナルが中に入ると静寂に包まれた。
ゴトッ・・・。
ナルの履いている板金をあてたブーツが、静かなギルド内に重い足音を響かせる。
「えっ・・・ちょっ・・・ア、アリア」
「どうしたの?」
アリアは受付で書類に目を通しながら、同僚の呼びかけにこたえた。
ゴトッ・・・。
「どうしたのじゃなくて・・・彼よ」
「彼って?」
彼女は肩を揺さぶられても適当にあしらって書類に集中する。
ゴトッ・・・。
「彼は彼よ・・・生きてたのっ」
「私今忙しいの・・・わかるでしょ?」
その叫び声にも似た小声は状況の異常さをあらわしていたが、書類に集中するアリアは気付かない。
ナルがいつものカウンター。
つまりアリアの座っているカウンターの前まで来ると同僚は俯いてそそくさと自分の椅子に戻っていく。
「何か適当な依頼をくれ」
「自分で探してくださ・・・い」
ナルが声をかけると、アリアはさすがに冒険者を無視するのは失礼だと思ったのか書類から顔をあげる。
そして、言葉を失った。
何か適当な依頼をくれ、これはナルがアリアに毎日言っていた言葉だ。
「そんな・・・ナルさん?」
「ああ、久しぶりだな」
ナルからすれば数日ぶりくらいの感覚だが、現実では三年が経っているので一応話はあわせる。
「生きてたんですか?でも、確かにあなたの遺体が発見されたと報告が・・・」
「別の死体と間違えたんじゃないか?」
「でも・・・」
アリアは言いたいことが頭の中をぐるぐると回るが、口をぱくぱくと動かすだけで声にはなっていなかった。
「・・・良かった」
最後はただそう呟いて、カウンターから身を乗り出しナルのことを抱きしめる。
ナルは抱きしめ返すこともなく、振り払うこともなく・・・ただ、その場に立っていた。