覚醒
「・・・」
ナルは目を覚ますと、ゆっくりと体を起こした。
半分ほど地中に埋まった白骨化している死体がどれだけの長い時間が経過しているのかを物語っていた。
「・・・嫌な夢を見た」
ナルの呟いた声が兜の中に響く。
ナルは自分の体を見回す。
「傷が・・・ない?」
オークに刺されたはずの傷がすっかりなくなっていた。
鎧には確かに傷やへこみがあるのに、ナルの体からは綺麗になくなっていたのだ。
「・・・帰るか」
しばらく考えた後、考えても無駄だと判断したナルはそう呟いて街までの道を歩き出した。
不死神の力として片付けてしまうのが一番簡単なのだ。
「今の俺のレベルは・・・」
ナルが空中に出したのは、ステータスウィンドウというものだ。
誰もが簡単に使える魔法のようなもので、使用者の魔力をわずかに消費して、その者のステータスを表示する。
名前:ナル 性別:男 レベル:129
称号:不死神の寵愛を受けしもの、復讐者、冒険者
スキル:不死、求める者
その下にもいろいろと細かいことが書かれているが、ナルはいつもそれを見ない。
それよりも気になることがあった。
「不死?」
スキルが一つ増えていたのだ。
ナルが持っていたスキルは100レベルになったときに習得した求める者という、経験値やレベルアップのときの能力向上値が増えるというものだけだった。
そこに、不死というスキルが増えていた。
ナルは不死という文字に触れる。
そうすることでスキルに関する詳細が表示される。
不死 発動中
効果:死なない。傷を受けても不死神の加護がそれを即座に癒す。ただし痛みはある。
説明:不死とは祝福か呪いか・・・だが案ずるなかれ、たとえ不死とて、終わりのときは必ず来る。
「人は二度死なない・・・か」
ナルは不死神の言葉を思い出して、ポツリと呟いた。
「・・・ん?」
街までの道中、ナルは異変に気付いた。
風に乗って流れてくるにおい。
長らく嗅いでいなかったような、でもずっと嗅いでいたような。
そのにおいは・・・。
「血だ」
ナルは風上に向かって走り出す。
しばらく走ったところで、人の悲鳴のようなものも聞こえてきた。
「あれか」
原因と思われるものをその目に捉えるとナルはさらに加速する。
「なぜ、こんなところに」
ナルはそれがはっきりと見える距離まで近づくと、驚きに声をあげた。
こんなところにいるのはずのない・・・こんな街の近くにいていいわけがない存在。
全身をびっしりと赤褐色の鱗に覆われた肌。
大空を掴み飛ぶ巨大な翼。
睨まれただけで、本能が逃げろと警告を鳴らすその瞳。
ヤツは、紛れもないドラゴンだった。
それが、王国の旗をかざすフルプレートの兵士達を弄ぶそうに殺していた。
ナルは一度だけドラゴンと戦ったことがあった。
結果は惨敗。
体中に火傷を負って死にかけたが、ギルドの医療施設まで自力で歩いて帰り、間一髪のところで助かった。
「怯むな!国王直々の命!勝たずば生きては帰れぬぞ!!」
「女?」
驚いたことに指揮をとっていたのは女騎士だった。
ナルは気になりはしたが、考えることがめんどくさくなったのか、そんなことはどうでもいいと女の横を素通りする。
「なっ、民間人だと!?ここは危険だ、立ち去れ!」
だが、もちろん向こうは得体の知れない人間をスルーすることなど出来ないので声をかけてくる。
しかし、それでもナルは無視をし続けた。
死んだ兵士の剣を一本拾い上げる。
「貴様っ!何をする、それは王国のため命を賭して戦ったものの剣だ!離せ!」
ナルが剣を盗むとでも思ったのか、女騎士は激昂してナルに詰め寄ろうとする。
だが、女騎士がナルに掴みかかるよりも、ナルが行動を起こすほうが早かった。
ブンッ・・・。
それを天高く舞うドラゴンめがけて思いっきり投げたのだ。
剣は吸い込まれようにドラゴンの翼の付け根に突き刺さった。
「気をつけろ」
「・・・は?」
動揺しているのか、意味がわからないといった様子で聞き返してくる女騎士にナルは言葉を発することはなく、ただ上空を指差した。
「ま、まさか・・・」
女騎士がゆっくりと顔をあげると、そこには地面に向かって落下してくる巨体があった。
「くそっ・・・!」
女騎士が咄嗟に避けようとするが、誰がどう考えても間に合わない。
周りの兵士達は動揺したようにその様子を眺めていた。
「グフッ」
女騎士のそんな声だけが異様に響き、辺りは静寂に包まれた。
「隊長・・・?」
「隊長が・・・」
「「「隊長ぉぉおおおおおおおお!!」」」
その静寂の中にぽつぽつと生まれた嘆きの声は、やがて大きな叫びとなった。
「愚か者!まだ、竜は死んでおらんぞ!」
そんな兵士達の後ろから女騎士の声が響く。
「え・・・隊長!!」
「生きてたっ!隊長が生きてた!!」
「「「うぉぉおおおおおおおおお!!」」」
兵士達が振り向くとそこにはお腹をさする女騎士の姿があった。
今度は辺りを歓声が包み込む。
「たく・・・抱きかかえて運んでくるたのは感謝するが、もう少し優しくできないのか?」
「すまない」
ナルは一言、女騎士に謝ると自分の剣を引き抜いて気絶したドラゴンの顔の前まで歩いて行く。
「別に謝らなくても・・・調子が狂うな」
女騎士はそんなナルの背中を見て、感じたことのない胸のざわめきに困惑していた。
「とどめは俺がもらうぞ」
ブンッ!
ナルは無機質な声でそう言うと、剣を一振りする。
その剣は、ドラゴンの硬い鱗を砕いて見事に首を切断して見せた。
ナルは感動していた。
自分は強くなっていると。
ドラゴンの硬い鱗に傷すらつけられなかったあのときよりも確実に強くなっているんだと。
「貴様・・・いや、あなたは一体」
女騎士の問いに答えることはなく、ナルは剣を収めると街に向かって歩き出した。