不死神
ザッ・・・ザッ・・・。
男は気付くと何千もの剣が突き立てられた緩やかな丘を歩いていた。
丘の上には異様なほど大きな十字架が立っており、それを中心として円形の空間になっている。
その円の外は濃い霧に囲まれており、全く見えない状態だった。
「あれは・・・」
男は十字架に座り本を読んでいる少女を視界に捉えると、剣の柄に手をかけた。
「・・・おや?お客さんとは珍しい」
少女は少しして男の存在に気付くと「すまない、本を読んでいて気付かなかったよ」と苦笑いして十字架から飛び降りた。
それはまるで花びらのようにふわりと優しく着地する。
「ここに人が来たのは何年ぶりかな・・・いや何百年か」
「お前は?」
男はどこか嬉しそうに笑う少女の言葉には耳をかさず、無機質な声で質問をする。
「僕は不死神」
「不死神?」
「そっ、生を司る神だよ・・・一応神様なんだから、敬語くらい使いなさい」
不死神は男のつけている兜のおでこ部分をつつきながら言う。
「まっ、いいや・・・人がここに来たってことは僕がすべきことは一つだけ」
「・・・」
男は無言で続けるように促す。
「君を蘇生するよ、君にはまだすべき事がある」
「すべき事?」
「それは自分で考えて、僕の仕事は君を蘇生するだけだから」
不死神は苦笑いをしながら答える。
「・・・蘇生、俺は死んだのか?」
「くふふ・・・あはははははっ、君気付いてなかったのかい?」
不死神は男の質問にキョトンとしたあと、今度は大笑いしながら答えた。
「君は飲まず食わずで睡眠もとらず、ずっと戦い続けていたんだよ?そんなことしたら誰だって死ぬ・・・まったく、なんであんなことしたのさ」
「・・・強くなりたいんだ」
男は少し俯き答えた。
「だからって死ぬまで戦い続けなくたっていいじゃないか」
「・・・」
「どうしてそこまで強さを求めるの?」
「・・・わからない」
男は少し考えたあとにポツリとそう答えた。
「わからない?」
「ああ・・・最初は何か理由があった気がする・・・でも思い出せない」
「そっか、まあそのうち思い出せるさ」
不死神は、そういうと手早く準備を済ませた。
「さあ、君はそこに立って・・・うん、そこっ!よしっ・・・」
不死神は男を定位置に立たせると咳払いをした。
「君はこれから長い旅路を行くことになる、そんな君に一つ伝えておこう・・・人は二度死なない」
「どういうことだ」
不死神は男の質問に答えることは無く、ただニコリと笑ってこう続けた。
「でも、案ずるな、終わりのときは必ず来る・・・汝に不死神の加護をっ!」
パチンッ・・・。
不死神が指を鳴らすと、男の意識は途切れた。