ペロとお花畑
朝ご飯を食べた後、毛づくろいをしているとお母さんネコが言いました。
「ペロ、お父さんみたいに素敵な紳士になるために働いてきなさい。お父さんは出逢った頃からとっても素敵だったのよ。宇宙一のネコだわ。」
お母さんネコは夢を見るような目でほうきを手に過去に想いを馳せています。
ペロはお母さんネコの夫の自慢話から逃げ出すように家を出ました。
「今日は働きたくないんだよー。」
ペロの心はお母さんネコには届きません。家に背を向けて歩き出すと憂鬱のあまり、ペロの背中は丸まり歩幅は狭くなっていきます。トボトボ歩いていると大きなため息まで出てきました。
「はあ・・・僕にとっては朝ご飯の後は暖かいお日様に挨拶をしてお昼寝をするのが至福のひと時なんだ。短い命なのに、僕っていうのはなんて不自由なんだろう。」
独り言をこぼしながら、何も考えずに歩いていると気持ちの良さそうな芝生を見つけました。
「日向ぼっこでもするか。」
ぺロは芝生の丁度真ん中あたりに寝転びました。目をつぶって深呼吸します。
「うーん、良い気持ちだ。と言いたいところだけど」
残念なことがありました。ペロが目を付けた芝生の近くにはお花畑があったのです。
「匂いが強すぎて眠れたもんじゃないや。」
ペロは勢いよく起き上がって叫びました。
「みんな僕のお昼寝の邪魔をするんだ!僕は意地でもここで眠るぞ!」
花たち、と呼びかけると「どいてもらうぞ!」と言って仁王立ちになりました。
ペロは中腰になって花の茎を掴んでブチブチと引きちぎります。時間が経つにつれて花の山が一つ、二つ、と増えていきました。
するとそこへ通りかかった豚の奥さんが花の山を見て「あら素敵!」と胸をときめかせました。豚の奥さんは言います。
「そこのネコさん、私にそのお花を売ってくださいな。」
ペロは花を引きちぎることに夢中で顔も上げずに背中を向けたまま、いい加減に答えました。
「一本どれでも三ポロだよ。」
豚の奥さんはあまりの安さに二十本買いました。
豚の奥さんが帰ろうとしていたところにカワウソの少年とウサギの旦那さんと老いたハリネズミが通りかかりました。
「丁度良かった。お母さんカワウソの誕生日プレゼントを探していたんだ。」
「それは良いね。では私も愛する妻に花を贈るとしよう。」
「私は夕食の食卓の飾りにするとしよう。ばあさんも喜ぶだろうし。」
ウサギの旦那さんが問いかけます。
「お花はいくらですか?」
「一本どれでも三ポロよ。」
豚の奥さんがペロの代わりに答えました。
ペロは相変わらず顔も上げずに背中を向けたまま夢中で花の茎を引きちぎり続けています。
三匹は思い思いに花束を作り、代金を豚の奥さんがお金を置いておいた芝生の上に置きました。
アライグマの親子にカエルの夫婦、ゾウの青年もやってきました。豚の奥さんが動物たちとすれ違うたびに花の話をしたのです。ほかにも噂を聞きつけた動物たちが次々とやって来ました。
「一本三ポロだったね。ありがとよ。」
「ここにお代を置いておくわね。」
動物たちの呼びかけにペロは気づきもしません。
腰が痛くなってきたためペロはやっと顔を上げました。大きく伸びをすると腕まで固まっていたことに気づきました。花の匂いももう気になりません。
「忌々しい花たちめ!僕のお昼寝を邪魔するからだ!」
引きちぎった花の山を見るべく振り返るとペロは「へ?」と間抜けな声を発しました。
想像していた花の山は金の山に代わっていたのです。
「なんで?」
豚の奥さんに花の値段を言ったことなど記憶にないペロは心底不思議に思いました。ですが、もう眠くて眠くてそれどころではありません。
ペロはその場に横になるとすぐに寝息を立てて眠りました。
ペロが眠っている間も花を買い求める動物たちは絶えませんでした。
ペロは日暮れ時になり、少し肌寒くなったことで目が覚めました。
隣には昼寝前より大きくなった金の山がありました。花の山はもうありませんでした。
「魔法使いでも来たのかな?もしかしたら魔法使いもお昼寝するのに花が邪魔だったのかも。」
ペロはお母さんネコに働いてきたと言わなければならないため、手に持てる分だけ金を持ちました。これを自分の部屋に隠しておいて毎日お母さんネコに小分けにして渡せば一週間は働かなくて済みそうだ。
ペロは金の山に向かって「魔法使いさん、ありがとう。」と言ってその場を後にしました。
金の山は次の日の新聞の夕刊に「ネコ神様現る?」という見出しで大きく取り上げられました。ペロが金をほとんど持たずに帰ったことで「なんて無欲なネコなのだ」と豚の奥さんが感動して新聞社に連絡したのです。金の山は三日後、街の繁栄のために寄付されました。
ペロは自分の部屋から一歩も出ることなく三日間惰眠を貪っていたのでそんなことは知るはずもありませんでした。