冬
和哉と別れた日から約一ヶ月。
私は長いこと落ち込んでいた。
彼と25歳の誕生日を過ごすことなく、私は独り身であることを選んだ。
自分からお別れしたけど、急な展開だったから、気持ちを切り換えることができなかった。
外出や趣味で紛らわせることもできず、ただ仕事にだけは行って、食べて寝ている感じだった。
そもそも私の趣味ってなんだ……?
ここ数年は恋人ができたことに夢中になっていて、恋人に合わせるのに頑張り過ぎて、自分に目を向けることもなく空っぽだったな、と気づいた。
お正月休み。
同期のみんなでゆいちゃんの結婚祝いにカニ食べ放題しようということになって、盛り上がるみんなの後にくっついてなんとかやって来た。
「ゆいちゃん、婚姻届出したん?」
「出してきたよーー!
元旦、一緒に夫婦になってきました」
「他の夫婦、いた?」
「結構いた!
なんか嬉しくなっちゃって、妻友トークしちゃったよっ」
ゆいちゃんの結婚に関する話題で盛り上がりながら、みんなカニを貪るように食べていた。
私はみんなの話を聞きながら、黙々とカニを食べ続けていた。
みんなと一緒に来たし、相槌打ってるし、カニ食べてるし……、私お祝いできてるよね?
ふと会話が途切れ、みんなの視線が私に集中する。
え、え!?
私はカニを頬張りながら、突然の注目に戸惑ってしまった。
「真乃、めっちゃカニ食べてるね!
今日来てくれたし、なんか安心した~~」
みんなが、ほっとした表情で見てくれてる……。
私のこと、気にかけてくれてたんだ。
「ゆいちゃんの結婚祝いなのに、気遣ってもらっちゃってごめんね?」
周りに合わせて変にならないよう気をつけていたけど、みんなに受け入れられた気がして、私は安堵のあまり涙目になった。
「真乃ぉ、無理しなくていいんだよ?
うちらも話聞くからさ、いつでも言ってね」
和哉と別れてからずっとつらかったから、やっと少し息がつけたような気がした。
私きっと、わかりやすい人間なんだよね。
でも今は、素直にそれがうれしい!
人に合わせてばかりいたら壊れちゃう、自分の気持ち出してっていいんだね。
「……。
みんな、ありがとう。
三年遊んだ相手と、別れたんだ」
やっと自分から公表することができた。
「えーー!!
三年も続いてたの!?」
ほぼ彼氏じゃん!」
「うん、自分の中ではもう彼氏だった」
「やっぱり、結婚したくなった??」
「うん。
あと二年経ったら結婚してくれるーーっていう話になったんだけど。
彼に合わせ過ぎて自分の意志がなかったって気づいて、終わりにしたんだ」
「なにそいつ~~。
別れて正解だよ!」
「あと二年で結婚……。
女心弄ぶなぁーー。
でも結婚する前にわかってよかったじゃん!
二年だって経ってみなきゃわかんないし、すっげー大事な時間だし」
「じゃあ今日は、真乃の新年の大事な一歩だねっ」
みんな、私に大いに共感してくれて、すごく励まされる。
今日、がんばって来てよかったーー!!
「あーーじゃあ、ついでに私も報告していい??
私も去年、清算したんだ……」
「マジで?!
思ったより早かったね!
ドハマりしてたから、もっとかかっちゃうかと思ってたけど……」
「ゆいちゃんの結婚報告があってから、やっぱり自分のこと考えちゃってさ。
今はいいけど、あと二、三年後のこと考えたらやっぱり将来性がないなーーって」
「ゆいちゃん効果、すごいな!
実は私も、今年から婚活始めるんだ~~」
「おぉ、恋活すっ飛ばして、本気モード!!」
「やるよ~~?
25は若さが武器になるから、勝算も高いしっ!
彼氏じゃなくって旦那様見つけちゃうから」
「自己分析にもなるらしいね!
最終的に自分は人生どうしたいのかっていう」
「そう、人間活動!!
経験は全てにおいて役に立つ財産!」
ゆいちゃんの結婚に影響を受けたのは、私だけじゃなかった!
節目の年齢でやっぱり心は揺れ動くもので、他の二人も考えてたんだなーーとつくづく思った。
私は痛みを伴ったけど、人生で自分のことこんなに考えたことないかも。
世渡り上手な人なら、いろいろなこと経験して人間関係も並行できるのかもしれないけど。
私は一個一個しかできないから、条件の厳しい恋人を捨てて、また新しい世界に未来を求めたんだね。
2月のはじめの土曜、夜。
理久からお誘いがあった、交流会の時間だった。
話をもらったのは、カニ食べ放題から数日後のこと。
臨月を前に、しばらくゆっくり友達と食べたり話したりできなくなるので、夫婦の友達みんなに声をかけて、楽しい会にしたいらしかった。
強制じゃないけど、私には是非来てほしいな、と言われた。
ーー確かに、理久に子どもが産まれてからも会うけど、今までと同じようには遊べないよね……。
友達の友達との交流はおまけで、理久夫婦ともお話したいし。
新年になってちょっと元気出てきたし、せっかくの機会だから、参加しようかなっ!
私は参加の返事をした。
他に来られそうな人いたら是非誘ってみて、という追加注文があり、会社の同期の二人にも話をした。
「えっ、是非~~!!」
想像以上の好反応で、賑やかな会になりそうだった。
私が共通の知人になるので、3人で待ち合わせてから、お店に入った。
「こんばんは、理久、工藤さん!
会社の同期女子で来ました。
今日は誘ってもらってありがとうございます」
「すっごい楽しみにしてました~~」
「真乃から理久さんの話よく聞くんですよーーよろしくお願いしますっ」
「あはは、ありがとございます!
あたしもお二人のこと聞いてて、なんか前から友達みたいな気がしちゃう!
今日はいっぱい食べて、ゆっくり話してってね」
初めましての挨拶を交わすと、私達3人は適当に空いてる席に座って、飲み物や食べ物を注文し出した。
理久とも個人的にお話したかったけど、主催者だから来る人みんなと話すだろうし、逆に同期女子といられるから変な緊張感もなくて済むわ。
今いるお店も、実は理久夫婦が勤めているところだった。
(彼女は産休に入ったけど)
店の一部を貸し切って、30人くらいはいるかな、ちょっとしたパーティーだ。
以前の理久ならしなかったようなことも、新しい家族の誕生を前に、変わってきたのかな。
ざわついたなかでそんなことを考えていると、男性二人連れが私たちの向いにやってきた。
「すいません、ご一緒して大丈夫ですか?」
「どうぞ、うちらも今来たところなんです~~」
二人は理久夫婦の取引先の先輩後輩らしく、年も私達の一つ上と一つ下だった。
「工藤さんの奥さんの友達の、会社の同期の方々なんですね!
女子同士仲良しでうらやましいなぁ」
「おかげさまで、助け合ってますよーー。
今日も真乃の友達の理久さんに声かけてもらえたから!」
「だよね。
でもつい最近一番に結婚した同期のこと知った時は、荒れたよね」
「うわーー、やっぱそういうのあるんだぁ……」
「女子同士はそうなるかなぁ。
でも、そのおかげで自分のこと考えるきっかけになったし!」
「なるほど、プラス思考だね!」
「加山さん達は、男子が多いんですか?」
「ほんともう、男ばっかり!
やっぱ気楽なところはあるんだけど、異性と出会うって難しいよね。
だからこういう機会があったら、とにかく繋がろうって必死」
「うちらと変わんないねぇ!
今アプリとかも普通になってきたけど……」
「それも一つの選択肢なんだけど、危険なことも自己責任になっちゃうしね」
「確かに。
リスクとリターン、両方あるよね」
年の近い男女達は、話題も尽きずにすぐに仲良くなっていた。
私と、後輩男子を除いて。
よくしゃべる先輩男子加山くんは、見た目も性格もよさげで、やはり好感度は高かった。
一方、後輩男子宝木くんも、人は好さそうだし今時の男子って感じなんだけど、時々話に相槌を打つ程度で食べたり飲んだりして会話に積極的ではないので、目立たない感じだった。
なんて観察している私も、飲んだり食べたりのついでに話の輪にいるような感じだったし、似たようなもんなんだけど。
中心的に話をする人、聞いて促す人、いろんな役割があって場は進行するだなって、実感する。
時々、宝木くんと目が合って、にっこり笑ってごまかしたり、気まずそうに目線を外したり。
なんか言葉のいらないコミュニケーションしてるみたいで、久しぶりに新鮮だった。
「お疲れ様でしたっ!
メール忘れないで下さいね?」
「後で怖いから、必ずするよっ!」
あれから少し流動的に他の人達とも話したけど、やっぱり最初の男子二人組といっぱいいたかな。
すっかり仲良しになった私達と男子達は、お店の外まで一緒にいて、そこで解散の運びとなった。
「あの、……っ」
その時、ほとんどしゃべらなかった宝木くんが、貴重な発声をした。
私達3人はびっくりして、誰に話しかけたのかわからない始末だった。
一番近くにいたのが私だったので、
「……はい?」
場の流れ的に、答えてみた。
「今日はありがとうございました。
楽しかったです!」
率直に感謝される。
……あんましゃべってはいなかったけど、彼なりに楽しめたのかな??
よく理解できなかったけど、悪い感触ではなかったので、私も気持ちを伝えた。
「うちらに付き合ってくれてありがとう。
よかったら、また!」
それを聞いた宝木くんは、目をキラキラさせて言った。
「またご飯食べましょう!」
「最後、宝木に持ってかれたな!
というわけで、次回もまたよろしく~~」
加山さんがまとめて、二組は帰って行った。
それから二週間くらいして、同期の子から、交流会で知り合った男子二人組とご飯食べに行こう、という企画を聞いた。
「う~~ん、……」
気持ち的には行きたいんだけど、なんか最近体調が悪い。
風邪かな……??
自分しんどいし、他の人にもうつしちゃったら悪いから、辞退しておこう。
「だよね、真乃、次また声かけるから!
大事にしてねっ」
そして二日後、よくならないので医療機関を受診したところ、インフルエンザにかかってしまっていた。
仕方ないね……、仕事も行けないし、今はおとなしくしていよう。
私が数日間休養している間に四人の会食が行われたらしく、楽しそうに卓を囲む画像とメールが送られてきた。
病人にするメールかよと苦笑しつつ、逆に早く良くなれっていう励ましなのかなと思った。
私が行けなくっても4人いるし、なにより……。
二人が加山さん目当てなのわかってるから、気を遣わなくて済む。
追加でメールが来た。
「宝木くんが、残念がってたよ!」
ハハ、なんかうれしいな、……。
ちょっとだけ救われたような気がした、25の冬の夜だった。
あれから二年。
私は27歳になった。
理久も男の子が産まれてママに、春には2歳になる。
今でもしょっちゅう会うけど、二人だけで夜に遊びに行くことはなくなった。
あれから少しずつ恋人のいない日常に慣れていった私は、今も特定の人はいない。
同期の二人も加山さんや宝木くんとは何度か出かけたりしたみたいだけど、狙っていた加山さんは女友達が多いようで特に進展もなく、また別の機会を見つけるべくがんばっているようだった。
そんな1月のある日、理久が珍しく電話をかけてきた。
「もしもし、真乃?
あけおめ、ひさしぶりーー!」
「おめでとう、理久!
どしたの、なんかあった?」
「うん、たまには電話で話すのもいいかな、なんてね」
「ふーーん??」
ふだんメールで忙しそうだから、なんだか勘ぐってしまう。
「真乃さぁ、石川に会いたい?」
「ーーえっ」
予想外の人の名前に、言葉が出なかった。
「……和哉がそう、言ったの?」
口に出すのも重かったけど、私は混乱して聞き返した。
「いや、そうじゃないんだ、余計なお世話でごめん。
ただ再会できそうってだけで、真乃が会いたくなかったらこの話はなし。
どうする?」
どういうこと?
今更会ってヨリが戻るわけでもないし、元彼に会うなんて過去のこと思い出しちゃって、つらくなるじゃん……。
私は黙ったまま、数秒が経過した。
理久はどういうつもりで私に言ってきたんだろう。
なにか今の私に、メリットあるのかな。
「真乃?
急に変なこと言ってごめんね!
無理しなくて大丈夫だからーー」
「会う!
きっとそんな機会ないから。
元彼の今、見てみたい」
「……了解。
1月最後の日曜日の10時に、陽だまり公園で会うことになってるから、気が変わらなかったら来て」
「わかった、じゃあ」
私達はいつもと違って緊張感を残しながら、約束して電話を切った。
約束の当日。
陽だまり公園は、うちからちょっと離れた場所にあった。
遊具もあり、ベンチや芝生の広場もある、子どもから大人まで楽しめる公園。
小春日和のおかげで、早くから子連れの家族などでわりと賑わっていた。
近づいてきた理久親子と一緒にやってくる人影が見えた。
そのなかには和哉もいて、家族連れであることがわかった。
「真乃、早かったね!」
「真乃たん、こにちはーー」
理久と息子の奏太くんが近づいて挨拶してくれる。
「こんにちは!」
私は瞬時にさまざまのことを理解し、自分を落ち着かせた。
「初めまして、石川さくらです。
理久さんとは去年児童館で知り合って、主人が担任だったっていうお話聞いて、すごく驚きました」
……感じのいい奥さんだな。
「田原です、先生にはクラスでも世界史でもすごくお世話になりました」
私は緊張しながらも、奥さんのいい人ぶりに負けないよう、しっかりと答えた。
ーーあ、恋人としてもお世話になったんだけど……なんて、心のなかでツッコミを入れながら。
「……、田原、久しぶりぃーー!」
先生が一番、緊張したしゃべり方だった。
そんな私達を見て、理久が気を利かせて切り出してくれた。
「さくらさん、遊具で遊ばない?
ここの公園、うち初めてでさ~~」
「あのここって、小さい子向けの結構、あるんですよ!
大成、奏太くんと一緒に遊んでこよっか??」
あっという間に母子達は遊具の方へ向かっていった。
二人きりになった私は、冷静に切り出した。
「奥さん、私達のこと知ってるんですか?」
「知ってたら来ないし、言う訳ない」
口外しないって約束、今も守ってるのかな?
奥さんに元カノの話なんか、しないか~~。
「じゃ、理久にだまされて……」
「田原が来るって言われなかっただけ」
……そっか、世間的には先生と生徒の関係だもんね。
完全に先生は居心地が悪そうだった。
私はなんか逆に主導権を取った気がして、貴重な機会を活かしたいと思った。
「立ち話もなんですし、そこのベンチで座ってお話しませんか?
向こうからもこっちの様子が確認できますし。
ーーあ、今日は飲み物奢って下さい、私ココアがいいなぁ」
「お、おう!
今買ってくるから、座って待ってろ」
先生はそそくさと自販機に向かっていった。
「どうぞ」
先生は私に買ってくれたココアをベンチに置き、コーヒーを飲み始めた。
「失礼しまーーす」
私は遠慮なくベンチに腰掛け、温かいココアを頂いた。
こんな風にまた先生とお茶するなんて、思ってもみなかったな。
結婚して子どもがいる先生に会ったけど、あまりにも戸惑ってる姿を見て、拍子抜けして声を出して笑ってしまった。
「この状況でよく笑えるな!」
「だって、おかし~~!!
俺様だった先生が、いいパパになっちゃったんだもんっ」
私はしばらく笑いが止まらなかった。
先生は、ムッとしてずっと黙っていた。
ーーこれはちょっと、意地悪だったかな……?
私は真顔になって、先生の方に向き合った。
私の様子に気づいて、先生も私の方を見た。
「おまえ、佐伯に俺のこと、言ったろ」
「今は工藤さんね。
言ったけどもう終わってるし、時効ですよ」
「ーーまぁ、そうだな」
「それに、おまえじゃなくって、ちゃんと田原って呼んで下さいよ」
「……悪かった、田原」
先生にダメ出しを連発する私。
この二年で私成長したのかな、元恋人の先生とも冷静に話せていた。
「ねぇ先生、奥さんとの馴れ初め、聞いてもいい?」
「ーー、どうぞ?」
先生は強がっていたのか、私の言う通りに答えてくれた。
「奥さん、いくつ?」
「32」
「きっかけは?」
「合コン」
「……」
そういうの行かない感じだったから、意外だった。
ーーでも考えてみたら、月一回デートするだけの関係で、知らないこといっぱいあったんだなって、今更気づいた。
「田原にフラれてさ、なんかぽかーーんて心に穴が空いちゃってさ。
今まで自分に尽くしてくれた恋人と突然終わってさ、そんで俺恵まれてたんだって急にわかったんだよね。
そんで独りになって、周りと比べて焦って、急いで婚活的なこと始めて……」
私は少しその言葉にふらっとしながらも、なんとか自分を保って会話を続けた。
「私って、結構存在感あったのかな?」
「俺がわがままだっただけで、田原は十分価値があるんだよ」
「スピード婚だったのは、先生が奥さんに惚れたんですね?」
「そういうこと。
あーーこの人ゲットしたいって、必死にがんばったよ」
いいなぁ、奥さん。
「あ、俺今、塾の講師だから」
「え!!」
一番の衝撃。
「奥さんに結婚の条件出されてね。
私立の女子高の教師はやめてくれってさ」
あぁ……。
あれだけ仕事にしがみついてたのに、奥さんの意見は絶対だったんだな。
ま、賢い人はきちっとそこまで言えるのかも。
「だから必死で就活して、転職したってわけ。
そんで息子が奏太くんの1歳下で、さくらが佐伯とママ友で、今に至ると!」
先生はこの話を終わらせたいのか、一気にしゃべった。
「ーーあ、デキ婚じゃないかんね?」
「そこまで聞いてませんよ。
でも塾の先生もイメージ大切でしょうから」
「すげーー重要!」
その先生の反応を見て、あぁ、やっぱり変わんないところもあるんだなぁって実感した。
「あぁーー、今日来て良かった!
先生の家族も見られたしねっ」
「そりゃ、どうも……」
「じゃ私、さくらさんと大成くん?
二人にご挨拶して帰りますね~~」
「あ、ありがとう!」
先生は急に切り上げた私に驚きながらも、ほっとしたような感じだった。
私は飲み終えた空き缶をゴミ箱に捨て、母子達にお別れの挨拶をするため遊具の方へ向かっていった。
「真乃、今日大丈夫だった?」
「あーーうん。
なんか区切りついた。
会わせてくれてありがとね」
理久からのメールに、淡々と返事を送る。
思ったよりも大丈夫になってたこと、ちょっと心が揺れ動いたこと、それにやっぱり私とは結婚できなかったんだろうなって気づいたし、でも先生に人生考えるきっかけ与えてて、……。
一言では表せなくて、ちょっと泣けてきちゃう。
結婚は、その時と相手と、本当に縁なんだなぁって。
だけど先生と家族を引き合わせたって、やっぱり重要な役どころだよね!
「田原は十分価値があるんだよ」
そうだよその通りだよって、自分でも再確認できた。
最後はつらかったけど、あの三年間で私も、いろんなこと学んだ気がする。
あれから二年の時間が経って、今日会って話して、自分がすっごく大人になったような気がした。
先生との再会から一か月後、私は仕事の取引先から直帰する途中、雰囲気のある素敵な女性に遭遇した。
……あれ、知り合いだっけ??
でもなんか、印象に残ってるんだよねーー。
「あっ!!」
思い出すと同時に、すごい声をあげていた。
周りの人も、もちろんその女性も、かなりびっくりして私の方をすごい見ていた。
ーー先生の、元々カノだっ!!
私の様子に気を悪くしたのか、その女性が心配して逆に声をかけてきてくれた。
「大丈夫ですか?」
「ーー」
私はものすごく迷いながらも、思い切って女性に話し出した。
「突然ですいません、石川和哉先生ってご存知ですか?!
私教え子で、実はお二人が一緒にいるの見たことがあって、……」
女性は一瞬身構えたものの、慌ててしゃべる私を見て、悟ったように言った。
「隠してたんだけど、見られちゃってたのね?」
「失礼なこと言ってしまってすみません!!」
「いいのよ、もう何年も前のことだし」
女性は優しく私に言ってくれた。
「先生、元気?」
懐かしそうに聞いてくる。
「あ、はい。
先月会ったんですけど、家族がいてびっくりしました!」
「そうだったーー。
大学のサークル繋がりで、聞いたんだった……。
あなた、女子高の時の生徒さん?」
「あ、そうです。
私、先生がお付き合いしてるの見ちゃって、すごいびっくりしてーー」
「じゃ、あなたも先生の恋人だったのね?」
「!!
どうして、それを……」
「私のことも見たでしょ?
風の噂で、先生が一回り若い女の子と付き合ってるって、親しい人は知ってたのよ。
本人は必死で隠してるつもりなんだけどね」
知らなかった、私、見られてたんだーー。
「あの先生と付き合うの、めんどくさかったでしょう?
元生徒じゃ、特に」
「ーーつらかったです」
「人って変わるね、一生結婚しないかと思ってたら、あっさりしちゃってさ」
「あの、もうご結婚されてます?」
「ええ、この通りね」
女性は左手薬指の結婚指輪を見せてくれた。
「三年前にいい感じの人と結婚したわ。
先生のリア充ぶり見ると、ちょっと妬けてきちゃったりするけどね、……」
私はなにも言えなかった。
「私達、先生の恋人っていう共通点があったのね。
あなたも、先生のことは片付いた?」
「ええ、最近、整理できました」
「よかった、あなた若いし、がんばってね」
そう言うと、女性は手を振って、去って行った。
かっこいいなーー……。
突然私的なこと言っちゃったのに、お話してもらって。
すごい、勇気づけられた。
ふっと周りを見ると、そこは先生と付き合って、待ち合わせて、別れたコーヒーショップの前だった。
先生との思い出かなにかが、引き合わせてくれたのかな?
少しずつ、みんな変わってくんだね。
もちろん、私も。
「真乃、今日で2月終わりだね!
今夜空いてたら、うちに鍋食べに来ない??
友達も来るんだ~~」
理久から、夕飯のお誘いメールが来た。
「オッケイ!
なにか買ってこっか?」
「じゃ、アイス5個買ってきて~~」
「任されよーー」
私はスーパーで手土産を買っていった。
ピンポーーン。
「あ、真乃?
開いてるから、入ってーー」
「お邪魔しまーーす」
あ、靴が多い、そういや友達来るって言ってたっけ。
「こんばんは、宝木です!
二年ぶりなんですけど、覚えてます??」
「!!
もちろん。
田原です、久しぶりだね」
交流会の時の後輩くんだーー。
「初対面じゃないから、大丈夫かなって思って」
理久はすかさず言った。
「あの後インフルかかっちゃったんですよね?
大変だったっすね」
宝木くんに言われて思い出した、そういやあの時体調悪くて、ご飯行けなかったんだっけ。
「覚えててくれたんだぁ。
おかげさまで、すっかりよくなったよ~~!
あ、アイス買って来たんだった、理久、冷凍庫入れとくね?」
私は買ってきたアイスを冷凍庫にしまいに行く。
「田原さん 今日からご飯友達 よろしくお願いします 宝木」
カードのついた、チョコレートらしいものが入っていた。
私はすぐにそのプレゼントを手に取り、宝木くんの方に見せて、答えた。
「ありがとう!!
こちらこそよろしくっ」
照れ臭かったけど、たまらなくうれしくなって、涙ぐみそうだった。
宝木くんも不器用に笑って、私の隣に座ってくれた。
「さぁ始めよ、奏太もお腹空いたしね!
いっぱい食べてね~~」
理久の掛け声で、友達との鍋ご飯が始まった。
もうすぐ春が始まる、冬の終わりの楽しい夜だった。