秋
「うれし~~い!!
やっと理久と旅行に来られたーーっ」
10月、暑さと寒さのほんの束の間の穏やかな季節、私は理久と一泊の旅行に来ていた。
理久が土日にお休みを取って合わせてくれて、二年前の約束が叶った楽しみな日だった。
「混雑するけど、逆に活気があるかも。
世間の人に時間を合わせるのも、勉強になるね」
「理久、休み合わせてくれてありがとっ!」
目的地の駅で降りて、ゆるやかな山道を歩いて登っていく。
海か山か決められず、両方を見渡せる場所に決めて宿を取った。
これといって観光するわけでもなく、ただ二人で来て時間を共有して、たくさん話してそこそこおいしいご飯が食べられればいいや、みたいな感じだった。
行きの今日は、山に登って上から海を見ようという企画だった。
「あーー疲れてきた……」
「体力落ちたね、働いてると体動かさないし……。
運動って大切だなぁ」
一時間くらい歩いただろうか、息が少しずつ上がってきた。
「ね、もう少しじゃない?」
「だね!
私達、がんばったーー」
少し広くなった場所。
駐車場やトイレ、ベンチもあって休憩できるようになっていて、そこから海も見ることができた。
もっと上まであるんだけど、登頂が目的ではないので、ここで景色を見ていこうという予定だ。
「お茶がおいしいーー」
「山から海を見るために歩く、シンプルにイイね!!」
しばらくお茶を飲んだり感嘆したりしながら、潮風に当たっていた。
「ね、真乃、最近なんかいいことあった?」
「えっ」
急に理久に聞かれて、私はドキッとした。
「私、雰囲気変わった?」
「うん、なんかキラキラしてるんだよねーー」
理久にじっと見つめられて、緊張が高まる。
「彼氏、できた??」
図星ーー!!
「えっと……、うん。
つい最近なんだけど。
旅行の間に報告しようとは思ってたんだけど、いつにしようか考えちゃって。
リア充オーラ、出ちゃってた?」
「ーーそうだね、あたしにはわかっちゃったかな。
年上の人?」
「うん、まぁーー。
やっぱり理久はお見通しだなぁ」
隠すつもりはなかったけど、かといって契約条件のこともあるから、どこまで言っていいものか考えてしまって、いっそ内緒にしとこうと思ったんだけど……。
理久にはバレてしまった。
どう言おうかまとまらないでいると、理久はすっと私に言った。
「真乃からちゃんと話聞きたいから、無理しないでね。
大人の恋愛ならいろいろワケありかもしれないし?」
「あ、ありがとう……」
私の気持ちを察してくれたのか、それ以上理久は聞かず、しばらくお茶を飲んだりただ海を見たりして、ただぼーーっとして時間を過ごしていた。
「ご飯もお布団もやってもらって、温泉ゆっくり入れて幸せだったーー!」
消灯した後、理久は満足気に言った。
「理久は仕事で人のご飯のお世話してるし、彼と住んでるからおうちのこともやってるもんね」
「まぁ、ね。
でもたまにだからいいんだよね、旅行という非日常が」
「そうかも。
セレブだったら、この気持ちは味わえないよ!」
「庶民最高ーー」
二人で盛り上がりながら、眠くなるまでしゃべって、旅行一日目の夜は終わった。
次の日の昼。
今日は海辺を散歩して、お昼ご飯を食べて帰り道だ。
「明日から仕事だと思うと、帰る日ってなんかあんまり楽しめないね……」
「気分的には金曜から土曜が休日って感じなんだね」
昨日のテンションとは真逆になって、二人は言葉少なに海岸線沿いに当てもなく歩いていた。
私はふと立ち止まって、水平線を眺めた。
ーーああ……心が洗い流されるなぁ。
来てよかった~~。
よーーっし!
「理久、彼氏の話、聞いてくれる?」
ふっきれた顔の私に気づいて、理久は立ち止まって話を聞いてくれた。
私は一部始終、理久に和哉のことを話した。
「まじか~~。
真乃から話して来ないからなんかあるなとは思ったけど。
まさかまさか、だな!」
もっと反対されたり否定されたりするかと思ったけど、理久は意外に落ち着いて聞いてくれた。
「理久は応援してくれるんだ?」
「いや、真乃の恋愛に口出す気はないよ。
だからって共感もできないけど。
その厳しい条件で、ほんとに大丈夫なの?」
「うん……、まだ一ヶ月だし。
会ってる時は、ずっと話してるしくっついてるんだよ!」
「~~そっか。
石川マジックは、真乃には合ってるのかも。
なんかあった時は話聞くから、いつでも言ってね」
「ーーありがと!
理久に言えてよかった~~、誰にも言ってなかったんだぁ。
あでも、他の人には言わないでね!」
「売れるネタじゃないしなぁ。
でも、契約恋人だよね、本当」
「いいの、恋人は恋人だからっ」
契約はあっても、先生の恋人。
和哉と私だけの、秘密の恋人同士!
(但し理久という、一部の人を除いて)
それから三年。
和哉と私の関係は、順調に継続していた。
幸運にも、私は和哉の恋人の条件に合わせることができ、周りにバレるとか別の人に心移りすることなく、お付き合いすることができていた。
月に一度の逢瀬、行く店もほぼ決まったエリアなので大体同じデートコースなんだけど、普段会えない話せない設定環境が逆に燃えさせるのか、私は特に疑問を持つこともなく、和哉の恋人であることに幸せを感じていた。
うまくいっている遠恋のような。
「これ、恋人三年目のお祝い」
和哉は鞄から取り出したプレゼントを、私に渡してくれた。
「ありがとう。
開けていい?」
「どうぞ」
細い横長の贈り物。
ネックレス?
私は早く開けてみたいと思いながら、包装が破れないよう丁寧に開封した。
「!
かわいいボールペン。
お仕事に使えるねっ」
「うん、真乃がんばってるしね。
励みになればと思って」
ささやかな花柄の、落ち着いたピンクのボールペン。
「今日は俺の奢りだから、いっぱい食べて」
「やったーーっ。
じゃ、三年目の私と和哉に乾杯!」
「乾杯」
空腹にシャンパンが効いて、私は体が熱くなった。
今日みたいに交際記念とか私の誕生日なんかは、おしゃれなお店でご馳走してくれて、プレゼントもしてくれた。
決して女子受けするものではないけど、私のことを考えてくれたプレゼントなので、とてもうれしかった。
いつもより特別な分、気分は高揚して満たされていた。
再会から即始まった交際も三年目、和哉と恋人であることが最高に幸せだった。
先月のデートのことを思い出して、「ふふ」と思い出し笑いをしてしまった。
おっといけない、ここは会社だった、にやついてるの見られたら変な人認定されちゃう!
お仕事用にもらったボールペンを見るたび、和哉が身近に感じられてやる気も出るし、愛の力ってすごいなぁと実感。
責任感と自信を持って仕事に就けるし、恋人がいてくれるし、公私共に充実していた。
その日の昼休み。
今は半年に一回程になった同期会のメンバーのゆいちゃんから、今度の三連休の最終日に彼女の家で同期会しませんかという、お誘いのメールが入った。
ゆいちゃんは同期の中でも一番静かな子で、彼女からの企画は多分初めてだった。
珍しい……と思いながら、他の二人からオッケーメールが続けて入ってきた。
私も空いてるしぃ、久しぶりにみんなで集まれるーー!
私も即参加の返事をした。
同じ職場でも部署等が違うし、こういったやりとりはやはりSNSになる。
就業中は基本スマホ禁止なので、やりとりも昼休みや休憩時間のみ。
久しぶりに同期全員そろっての集まり、超楽しみだった。
「ゆいちゃーーん、ケーキ買ってきました~~」
「わ!
ありがとぉーー!!
どうぞ、入って」
3人はあらかじめ待ち合わせて、評判のお店でお土産を買ってきた。
「ゆいちゃん、G.W.の時はここの引っ越しがあったから、同期会全員そろうの一年ぶりだねーー。
遊びに来られなくってごめんね、お邪魔しまーーす!」
新しいゆいちゃんち初訪問の3人は、わーーと感嘆しながらしっかりとお宅拝見していた。
3人はみな実家暮らしなので、お宅訪問は非常に興味深かった。
「広くていいお部屋ーー。
もしかして、彼氏と同棲してる~~??」
彼女には学生の時から付き合っている彼がいるので、突っ込んだ質問も出た。
ゆいちゃんは、少し恥ずかしそうに言った。
「実は上の人には言ったんだけど、私、年が明けたら結婚するのーー」
3人は固まった。
聞いてなーーい!!
いやいや、今聞いたし。
「え?
どゆこと」
「仕事やめちゃうのっ?」
「もしかして、デキた?!」
衝撃で、心の声が出てしまった。
ゆいちゃんは、ハハハ、と笑いながら答えてくれた。
「デキてないよ。
仕事も続ける。
引っ越しって、実は同棲だったんだ。
みんなに言うの遅くなっちゃってごめんね、直接報告したかったから……」
ゆいちゃんの告白に驚いたけど、それを聞いてみんな納得すると同時に祝福した。
「付き合って何年?」
「5年かな、若いけどいっかなって思って」
「じゃ、やっぱり一緒に住んでみたかったの?」
「うん、一応お試ししてね」
「年明けっていうのは、誕生日かなんか?」
「いや、わかりやすく新年にして数えやすくしようと」
「結婚式はするの??」
「二人で来年のG.W.に海外で式と旅行してくる予定。
あったかくなって、準備してからがいいなぁって」
「いいなぁ~~。
じゃあさ、同期でお祝いしようよっ。
みんなでおいしい物食べに行くとか、どーーお!?」
「それ結局、自分が食べたいんじゃん!」
「みんなでおいしくお祝いしよーよ、ねぇ!
ゆいちゃん、どう?」
「すごい楽しみ!
みんなありがと~~」
ゆいちゃんの結婚の話ですっかり盛り上がり、帰る頃になってケーキがあったのを思い出し、慌てて食べたのだった。
ゆいちゃんちの帰り道、3人は引き続き興奮冷めやらぬ様子で、相変わらずしゃべっていた。
「おいしいケーキが吹っ飛ぶくらい、ハッピーオーラ全開だったなぁーー」
「ゆいちゃんて普段は目立たないけど、実はしっかりしてるよね。
幸せアピールのはずなのに、ナチュラルで嫌味がなくって……」
「なんか魅力があるんだよね。
好感度高いの、うらやましいなぁ」
残る3人は、彼氏なし、不倫、私はセフレ(説明が面倒なので)、というところだった。
結婚ってやっぱり幸せ感強いなぁ、まぁ多様化っていう意味では本当にそれぞれだなって思うけど……。
「うちら何歳だっけ??」
「ーー25!
でも初婚平均年齢30歳だし、これからだから」
「人生いつでもこれからっ!
とりあえず明日からも、お仕事がんばりましょっ」
私達はゆいちゃんの結婚に大きく刺激を受けながらも、自分達を肯定しつつ、目の前の日常と向き合うよう励まし合って解散した。
家に着いた。
楽しい時間も終わり、明日から仕事という精神的な疲れを感じ出した頃、スマホにメールが届いた。
理久からだ!
「元気?
11月になったら久しぶりにご飯に行かな~~い??」
本当、理久にこの前会ったのいつだっけ……。
「オッケーー!!
11月の第三日曜以外、いつでも空いてますよーー」
私は理久と会う日を約束するべく、すぐに返信した。
来月も、楽しみだなぁ!
11月の第一金曜の夜、理久と私は、パスタ屋さんで夜ご飯を食べる約束をしていた。
春以来かな、理久と会うの。
「あ、真乃、お疲れ様~~」
「こんばんはーー。
理久は今日休みだったんだ?」
「うん!
ね、じゃあ早速頼もぉ~~」
食べたいサラダ、ピザ、パスタを注文して、シェアすることにした。
「あれ、理久、今日は飲まないんだね。
明日仕事早いの?」
「うん、最近やめてて」
「えーーそうなの??
超意外!」
なんとなく言った後で、なんか変だなと思った。
いつもお酒頼むし、毎日飲めるって豪語してた女が、禁酒?
前回会った時は、確か飲んでたよな。
瞬時に私は計算し、目を閉じて彼女に確かめた。
「ひょっとして、妊娠?」
「そうなの~~!
真乃も鋭くなったねぇ」
マジかーーーー!!
「えーーちょっと!
びっくりなんだけど~~。
あ、改めまして、おめでとう!
ごめんね、なんか混乱してて……」
「だよね。
真乃の反応が見たくって、内緒にしてたんだ、ごめんね!」
理久はにっこりしながら、オレンジジュースを飲んだ。
「あ、つわりとかは大丈夫なの?」
「うん、ありがたいことに、体調も良くって。
安定期に入ったから、真乃への報告も兼ねて、おいしいご飯食べたかったんだ!」
そうだったんだ、11月に入ってからって、そういうことだったのね~~。
「順調そうでなにより!
お腹出てきた?
ぱっと見全然わかんなかったよ」
「気持ち、ぽっこりかな。
体重もそんな増えてないし」
「お酒やめたって聞くまでほんとわかんなかったよ!
あれ、じゃあもしかしてもう、奥様?」
「あーーそうそう!
妊娠・結婚の順番だったから、入籍の報告つい忘れちゃって……。
二か月前に妊娠がわかって、母子手帳やら産院の手続きがややこしくなるから、籍入れちゃったの」
「理久、結婚より妊娠のが大事だったんだ??」
「うーーん、そうかも!
妊娠がなかったら、今も事実婚だったと思う。
ま、もう長く住んでたから、デキたら結婚しようって話はしてたんだけどね。
若いしすぐそうなるかと思ってたけど、意外とわかんないもんで」
「え~~、私からしたら、十分若いママですけど!
あーーもう、今日は私奢るから、満喫してってね?!」
「やーーん、真乃と友達でよかったぁっ」
「正直だなぁ!
あれ、じゃ式とかもやったの??」
「ううん、なし。
超地味婚。
記念写真だけ撮ったんだ、洋装と和装と、普段着のマタニティフォト」
「理久らしいなぁ~~。
普段着でお腹出てなかったら、マタニティってわかんない気もするけど……」
「だよね!
まぁ、子どもへの記念というか、授かってあたし達うれしかったんだーーっていう、気持ちだね」
なんか私まで、ほろって涙出ちゃいそう!
ちょうどそこへ出来立てのお料理が運ばれきて、私達は食べ尽して、甘い物も追加した。
「あーーなんか、理久が就職祝いしてくれた時のこと、思い出した!
25くらいまでには理久に子どもいるかもって言って、ほぼそうなったなって」
「あ~~そうだったかも!
人生って深いわぁ……。
それなら、真乃だって恋人ゲットしたじゃん?
すっごい人をさ~~。
そっちのがびっくりだけど?」
ーーーーあぁ……。
「アハハ、そうじゃんねぇ!
理久がリア充過ぎて、自分のこと忘れちゃってたよ~~」
私は笑い飛ばしながら、なんとか理久の方に話を戻した。
自分もあの時と違って恋人がいるのに、なんでだろう、その話をされるのが急につらくなった。
友達の結婚や妊娠というおめでたい報告が続くなかで、私の充実してるはずのプライベートが真っ黒になって、不安と苦しさを感じるようになってしまった。
11月の第三日曜日。
私は恋人との定例集会に、早めに来ていた。
「珍しく早いね?
待たせたかな」
和哉はいつも通り優しく、私に気遣ってくれた。
「……」
この二週間ずっとモヤモヤしていて、和哉と会う今日になっても、私は気持ちを晴らすことができなかった。
「なんかあった?」
和哉は私の様子がひどく違うことに気づいて、話し出すのを待ってくれていた。
「すごく、個人的なことなんだけど。
最近周りで結婚や妊娠の報告が重なって、とてもおめでたいことなのに、なんでか自分が惨めになって……。
私は和哉と変わらず付き合ってるのに、自信が持てなくって、ーー」
これ以上は説明できなかった。
そんな私を見て、和哉は静かに言った。
「真乃、25になる年だっけ?
女子だとこれから、そういう人が増えてくるよな。
うらやましいって思ってるんじゃないか?」
和哉の言葉が、私の核心を突いてくる。
「恋人がいるのに私、どうしてつらいの……」
「結婚願望、あるんじゃないの?」
和哉はまっすぐに私を見て言った。
そうだーー。
和哉は私に、そのことをはっきりと気づかせてくれた。
その視線が冷たく、私は居心地が悪かった。
「私まだ若いし、今までそんなことなかったのにーー」
「いざ友達がそうなって、嫌でもそういうの意識する年齢になったってことじゃないの」
和哉に言われたくなかった。
確かにその通りで、だけどそう願ったら終わりだって、自分で思ってたのかな。
「和哉、私、……」
「自分できちんと言って」
和哉は視線を落として、私から言い出すよう促した。
「和哉と付き合って三年経つし、長く付き合ってきたから……、結婚、したいです」
最後の方は消えそうな程うまく言えなかった。
「……今すぐ?」
和哉は私の話を引き出しながらも、自分の意見をはっきりと言った。
付き合う時言ったっけ、和哉は結婚願望がないって。
私もその時はなかった、けど今はそうなってしまった、けど和哉はその時と変わってないんだったらーー。
「ーー今すぐ、ですね。
和哉は?
……」
私は静かに、彼の言葉を待った。
「ーーごめん、できない」
想像した通りの言葉だった。
「それは、今はできないってこと?
それとも私とはできないってこと?」
耐え難い状況だったけど、震えながらも私は必死で話を続けた。
「そうだな、今はできない、かな」
「ーーじゃ、いつなら?」
「……」
和哉は少し考え込んだ。
「二年後」
あと、二年ーー。
そうしたら私もう、26歳かぁ。
今まで三年付き合ったんだし、あと二年続ければ叶うよ?
二年間の婚約期間なんてきっとすぐだよ~~。
私に、新しい選択の可能性ができた。
私が望んでいた方の。
だけど。
私はそれをよしとすることができなかった。
「それって私が教え子だから?」
「そう」
やっぱり彼らしい答えだった。
「俺今の仕事変えたくない。
あと二年で26、いや27になるなら真乃も適齢期になるし、卒業して10年近く経てば周りの目も和らぐだろうし……。
だから今すぐっていうのはーー」
「うん、わかった。
今日会いに来て、話せてよかった!
私、ーー!!」
嗚咽を堪えることができなかった。
「私、和哉の恋人でいるためにずっと合わせて来た!
自分でもそれが自然でうまくいってると思い込んでたけど、私、自分の気持ちなかったね!
前の人より長く付き合えて、そのうち結婚できるかもって都合良く解釈してたけど、それじゃダメだよねーー」
うぁ、ああ、あああ!!
「和哉、私、恋人終わりにする!
もう、無理、ーー!!」
私は自分を保っていることができなくて、その場にしゃがみこんで号泣した。
「わかった、真乃、ごめん」
和哉は私をなだめながら、私の名前とごめんを、何度も何度も静かに繰り返した。