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先生の恋人  作者: 玉城毬
3/4

「うれし~~い!!

 やっと理久と旅行に来られたーーっ」

 10月、暑さと寒さのほんの束の間の穏やかな季節、私は理久と一泊の旅行に来ていた。

 理久が土日にお休みを取って合わせてくれて、二年前の約束が叶った楽しみな日だった。

「混雑するけど、逆に活気があるかも。

 世間の人に時間を合わせるのも、勉強になるね」

「理久、休み合わせてくれてありがとっ!」

 目的地の駅で降りて、ゆるやかな山道を歩いて登っていく。

 海か山か決められず、両方を見渡せる場所に決めて宿を取った。

 これといって観光するわけでもなく、ただ二人で来て時間を共有して、たくさん話してそこそこおいしいご飯が食べられればいいや、みたいな感じだった。

 行きの今日は、山に登って上から海を見ようという企画だった。

「あーー疲れてきた……」

「体力落ちたね、働いてると体動かさないし……。

 運動って大切だなぁ」

 一時間くらい歩いただろうか、息が少しずつ上がってきた。

「ね、もう少しじゃない?」

「だね!

 私達、がんばったーー」

 少し広くなった場所。

 駐車場やトイレ、ベンチもあって休憩できるようになっていて、そこから海も見ることができた。

 もっと上まであるんだけど、登頂が目的ではないので、ここで景色を見ていこうという予定だ。

「お茶がおいしいーー」

「山から海を見るために歩く、シンプルにイイね!!」

 しばらくお茶を飲んだり感嘆したりしながら、潮風に当たっていた。

「ね、真乃、最近なんかいいことあった?」

「えっ」

 急に理久に聞かれて、私はドキッとした。

「私、雰囲気変わった?」

「うん、なんかキラキラしてるんだよねーー」

 理久にじっと見つめられて、緊張が高まる。

「彼氏、できた??」

 図星ーー!!

「えっと……、うん。

 つい最近なんだけど。

 旅行の間に報告しようとは思ってたんだけど、いつにしようか考えちゃって。

 リア充オーラ、出ちゃってた?」

「ーーそうだね、あたしにはわかっちゃったかな。

 年上の人?」

「うん、まぁーー。

 やっぱり理久はお見通しだなぁ」

 隠すつもりはなかったけど、かといって契約条件のこともあるから、どこまで言っていいものか考えてしまって、いっそ内緒にしとこうと思ったんだけど……。

 理久にはバレてしまった。

 どう言おうかまとまらないでいると、理久はすっと私に言った。

「真乃からちゃんと話聞きたいから、無理しないでね。

 大人の恋愛ならいろいろワケありかもしれないし?」

「あ、ありがとう……」

 私の気持ちを察してくれたのか、それ以上理久は聞かず、しばらくお茶を飲んだりただ海を見たりして、ただぼーーっとして時間を過ごしていた。


「ご飯もお布団もやってもらって、温泉ゆっくり入れて幸せだったーー!」

 消灯した後、理久は満足気に言った。

「理久は仕事で人のご飯のお世話してるし、彼と住んでるからおうちのこともやってるもんね」

「まぁ、ね。

 でもたまにだからいいんだよね、旅行という非日常が」

「そうかも。

 セレブだったら、この気持ちは味わえないよ!」

「庶民最高ーー」

 二人で盛り上がりながら、眠くなるまでしゃべって、旅行一日目の夜は終わった。


 次の日の昼。

 今日は海辺を散歩して、お昼ご飯を食べて帰り道だ。

「明日から仕事だと思うと、帰る日ってなんかあんまり楽しめないね……」

「気分的には金曜から土曜が休日って感じなんだね」

 昨日のテンションとは真逆になって、二人は言葉少なに海岸線沿いに当てもなく歩いていた。

 私はふと立ち止まって、水平線を眺めた。

 ーーああ……心が洗い流されるなぁ。

 来てよかった~~。

 よーーっし!

「理久、彼氏の話、聞いてくれる?」

 ふっきれた顔の私に気づいて、理久は立ち止まって話を聞いてくれた。

 私は一部始終、理久に和哉のことを話した。


「まじか~~。

 真乃から話して来ないからなんかあるなとは思ったけど。

 まさかまさか、だな!」

 もっと反対されたり否定されたりするかと思ったけど、理久は意外に落ち着いて聞いてくれた。

「理久は応援してくれるんだ?」

「いや、真乃の恋愛に口出す気はないよ。

 だからって共感もできないけど。

 その厳しい条件で、ほんとに大丈夫なの?」

「うん……、まだ一ヶ月だし。

 会ってる時は、ずっと話してるしくっついてるんだよ!」

「~~そっか。

 石川マジックは、真乃には合ってるのかも。

 なんかあった時は話聞くから、いつでも言ってね」

「ーーありがと!

 理久に言えてよかった~~、誰にも言ってなかったんだぁ。

 あでも、他の人には言わないでね!」

「売れるネタじゃないしなぁ。

 でも、契約恋人だよね、本当」

「いいの、恋人は恋人だからっ」

 契約はあっても、先生の恋人。

 和哉と私だけの、秘密の恋人同士!

 (但し理久という、一部の人を除いて)


 それから三年。

 和哉と私の関係は、順調に継続していた。

 幸運にも、私は和哉の恋人の条件に合わせることができ、周りにバレるとか別の人に心移りすることなく、お付き合いすることができていた。

 月に一度の逢瀬、行く店もほぼ決まったエリアなので大体同じデートコースなんだけど、普段会えない話せない設定環境が逆に燃えさせるのか、私は特に疑問を持つこともなく、和哉の恋人であることに幸せを感じていた。

 うまくいっている遠恋のような。


「これ、恋人三年目のお祝い」

 和哉は鞄から取り出したプレゼントを、私に渡してくれた。

「ありがとう。

 開けていい?」

「どうぞ」

 細い横長の贈り物。

 ネックレス?

 私は早く開けてみたいと思いながら、包装が破れないよう丁寧に開封した。

「!

 かわいいボールペン。

 お仕事に使えるねっ」

「うん、真乃がんばってるしね。

 励みになればと思って」

 ささやかな花柄の、落ち着いたピンクのボールペン。

「今日は俺の奢りだから、いっぱい食べて」

「やったーーっ。

 じゃ、三年目の私と和哉に乾杯!」

「乾杯」

 空腹にシャンパンが効いて、私は体が熱くなった。

 今日みたいに交際記念とか私の誕生日なんかは、おしゃれなお店でご馳走してくれて、プレゼントもしてくれた。

 決して女子受けするものではないけど、私のことを考えてくれたプレゼントなので、とてもうれしかった。

 いつもより特別な分、気分は高揚して満たされていた。

 再会から即始まった交際も三年目、和哉と恋人であることが最高に幸せだった。


 先月のデートのことを思い出して、「ふふ」と思い出し笑いをしてしまった。

 おっといけない、ここは会社だった、にやついてるの見られたら変な人認定されちゃう!

 お仕事用にもらったボールペンを見るたび、和哉が身近に感じられてやる気も出るし、愛の力ってすごいなぁと実感。

 責任感と自信を持って仕事に就けるし、恋人がいてくれるし、公私共に充実していた。

 その日の昼休み。

 今は半年に一回程になった同期会のメンバーのゆいちゃんから、今度の三連休の最終日に彼女の家で同期会しませんかという、お誘いのメールが入った。

 ゆいちゃんは同期の中でも一番静かな子で、彼女からの企画は多分初めてだった。

 珍しい……と思いながら、他の二人からオッケーメールが続けて入ってきた。

 私も空いてるしぃ、久しぶりにみんなで集まれるーー!

 私も即参加の返事をした。

 同じ職場でも部署等が違うし、こういったやりとりはやはりSNSになる。

 就業中は基本スマホ禁止なので、やりとりも昼休みや休憩時間のみ。

 久しぶりに同期全員そろっての集まり、超楽しみだった。

 

「ゆいちゃーーん、ケーキ買ってきました~~」

「わ!

 ありがとぉーー!!

 どうぞ、入って」

 3人はあらかじめ待ち合わせて、評判のお店でお土産を買ってきた。

「ゆいちゃん、G.W.の時はここの引っ越しがあったから、同期会全員そろうの一年ぶりだねーー。

 遊びに来られなくってごめんね、お邪魔しまーーす!」

 新しいゆいちゃんち初訪問の3人は、わーーと感嘆しながらしっかりとお宅拝見していた。

 3人はみな実家暮らしなので、お宅訪問は非常に興味深かった。

「広くていいお部屋ーー。

 もしかして、彼氏と同棲してる~~??」

 彼女には学生の時から付き合っている彼がいるので、突っ込んだ質問も出た。

 ゆいちゃんは、少し恥ずかしそうに言った。

「実は上の人には言ったんだけど、私、年が明けたら結婚するのーー」

 3人は固まった。

 聞いてなーーい!!

 いやいや、今聞いたし。

「え?

 どゆこと」

「仕事やめちゃうのっ?」

「もしかして、デキた?!」

 衝撃で、心の声が出てしまった。

 ゆいちゃんは、ハハハ、と笑いながら答えてくれた。

「デキてないよ。

 仕事も続ける。

 引っ越しって、実は同棲だったんだ。

 みんなに言うの遅くなっちゃってごめんね、直接報告したかったから……」

 ゆいちゃんの告白に驚いたけど、それを聞いてみんな納得すると同時に祝福した。

「付き合って何年?」

「5年かな、若いけどいっかなって思って」

「じゃ、やっぱり一緒に住んでみたかったの?」

「うん、一応お試ししてね」

「年明けっていうのは、誕生日かなんか?」

「いや、わかりやすく新年にして数えやすくしようと」

「結婚式はするの??」

「二人で来年のG.W.に海外で式と旅行してくる予定。

 あったかくなって、準備してからがいいなぁって」

「いいなぁ~~。

 じゃあさ、同期でお祝いしようよっ。

 みんなでおいしい物食べに行くとか、どーーお!?」

「それ結局、自分が食べたいんじゃん!」

「みんなでおいしくお祝いしよーよ、ねぇ!

 ゆいちゃん、どう?」

「すごい楽しみ!

 みんなありがと~~」

 ゆいちゃんの結婚の話ですっかり盛り上がり、帰る頃になってケーキがあったのを思い出し、慌てて食べたのだった。


 ゆいちゃんちの帰り道、3人は引き続き興奮冷めやらぬ様子で、相変わらずしゃべっていた。

「おいしいケーキが吹っ飛ぶくらい、ハッピーオーラ全開だったなぁーー」

「ゆいちゃんて普段は目立たないけど、実はしっかりしてるよね。

 幸せアピールのはずなのに、ナチュラルで嫌味がなくって……」

「なんか魅力があるんだよね。

 好感度高いの、うらやましいなぁ」

 残る3人は、彼氏なし、不倫、私はセフレ(説明が面倒なので)、というところだった。

 結婚ってやっぱり幸せ感強いなぁ、まぁ多様化っていう意味では本当にそれぞれだなって思うけど……。

「うちら何歳だっけ??」

「ーー25!

 でも初婚平均年齢30歳だし、これからだから」

「人生いつでもこれからっ!

 とりあえず明日からも、お仕事がんばりましょっ」

 私達はゆいちゃんの結婚に大きく刺激を受けながらも、自分達を肯定しつつ、目の前の日常と向き合うよう励まし合って解散した。


 家に着いた。

 楽しい時間も終わり、明日から仕事という精神的な疲れを感じ出した頃、スマホにメールが届いた。

 理久からだ!

「元気?

 11月になったら久しぶりにご飯に行かな~~い??」

 本当、理久にこの前会ったのいつだっけ……。

「オッケーー!!

 11月の第三日曜以外、いつでも空いてますよーー」

 私は理久と会う日を約束するべく、すぐに返信した。

 来月も、楽しみだなぁ!


 11月の第一金曜の夜、理久と私は、パスタ屋さんで夜ご飯を食べる約束をしていた。

 春以来かな、理久と会うの。

「あ、真乃、お疲れ様~~」

「こんばんはーー。

 理久は今日休みだったんだ?」

「うん!

 ね、じゃあ早速頼もぉ~~」

 食べたいサラダ、ピザ、パスタを注文して、シェアすることにした。

「あれ、理久、今日は飲まないんだね。

 明日仕事早いの?」

「うん、最近やめてて」

「えーーそうなの??

 超意外!」

 なんとなく言った後で、なんか変だなと思った。

 いつもお酒頼むし、毎日飲めるって豪語してた女が、禁酒?

 前回会った時は、確か飲んでたよな。

 瞬時に私は計算し、目を閉じて彼女に確かめた。

「ひょっとして、妊娠?」

「そうなの~~!

 真乃も鋭くなったねぇ」

 マジかーーーー!!

「えーーちょっと!

 びっくりなんだけど~~。

 あ、改めまして、おめでとう!

 ごめんね、なんか混乱してて……」

「だよね。

 真乃の反応が見たくって、内緒にしてたんだ、ごめんね!」

 理久はにっこりしながら、オレンジジュースを飲んだ。

「あ、つわりとかは大丈夫なの?」

「うん、ありがたいことに、体調も良くって。

 安定期に入ったから、真乃への報告も兼ねて、おいしいご飯食べたかったんだ!」

 そうだったんだ、11月に入ってからって、そういうことだったのね~~。

「順調そうでなにより!

 お腹出てきた?

 ぱっと見全然わかんなかったよ」

「気持ち、ぽっこりかな。

 体重もそんな増えてないし」

「お酒やめたって聞くまでほんとわかんなかったよ!

 あれ、じゃあもしかしてもう、奥様?」

「あーーそうそう!

 妊娠・結婚の順番だったから、入籍の報告つい忘れちゃって……。

 二か月前に妊娠がわかって、母子手帳やら産院の手続きがややこしくなるから、籍入れちゃったの」

「理久、結婚より妊娠のが大事だったんだ??」

「うーーん、そうかも!

 妊娠がなかったら、今も事実婚だったと思う。

 ま、もう長く住んでたから、デキたら結婚しようって話はしてたんだけどね。

 若いしすぐそうなるかと思ってたけど、意外とわかんないもんで」

「え~~、私からしたら、十分若いママですけど!

 あーーもう、今日は私奢るから、満喫してってね?!」

「やーーん、真乃と友達でよかったぁっ」

「正直だなぁ!

 あれ、じゃ式とかもやったの??」

「ううん、なし。

 超地味婚。

 記念写真だけ撮ったんだ、洋装と和装と、普段着のマタニティフォト」

「理久らしいなぁ~~。

 普段着でお腹出てなかったら、マタニティってわかんない気もするけど……」

「だよね!

 まぁ、子どもへの記念というか、授かってあたし達うれしかったんだーーっていう、気持ちだね」

 なんか私まで、ほろって涙出ちゃいそう!

 ちょうどそこへ出来立てのお料理が運ばれきて、私達は食べ尽して、甘い物も追加した。

「あーーなんか、理久が就職祝いしてくれた時のこと、思い出した!

 25くらいまでには理久に子どもいるかもって言って、ほぼそうなったなって」

「あ~~そうだったかも!

 人生って深いわぁ……。

 それなら、真乃だって恋人ゲットしたじゃん?

 すっごい人をさ~~。

 そっちのがびっくりだけど?」

 ーーーーあぁ……。

「アハハ、そうじゃんねぇ!

 理久がリア充過ぎて、自分のこと忘れちゃってたよ~~」

 私は笑い飛ばしながら、なんとか理久の方に話を戻した。

 自分もあの時と違って恋人がいるのに、なんでだろう、その話をされるのが急につらくなった。

 友達の結婚や妊娠というおめでたい報告が続くなかで、私の充実してるはずのプライベートが真っ黒になって、不安と苦しさを感じるようになってしまった。

 

 11月の第三日曜日。

 私は恋人との定例集会に、早めに来ていた。

「珍しく早いね?

 待たせたかな」

 和哉はいつも通り優しく、私に気遣ってくれた。

「……」

 この二週間ずっとモヤモヤしていて、和哉と会う今日になっても、私は気持ちを晴らすことができなかった。

「なんかあった?」

 和哉は私の様子がひどく違うことに気づいて、話し出すのを待ってくれていた。

「すごく、個人的なことなんだけど。

 最近周りで結婚や妊娠の報告が重なって、とてもおめでたいことなのに、なんでか自分が惨めになって……。

 私は和哉と変わらず付き合ってるのに、自信が持てなくって、ーー」

 これ以上は説明できなかった。

 そんな私を見て、和哉は静かに言った。

「真乃、25になる年だっけ?

 女子だとこれから、そういう人が増えてくるよな。

 うらやましいって思ってるんじゃないか?」

 和哉の言葉が、私の核心を突いてくる。

「恋人がいるのに私、どうしてつらいの……」

「結婚願望、あるんじゃないの?」

 和哉はまっすぐに私を見て言った。

 そうだーー。

 和哉は私に、そのことをはっきりと気づかせてくれた。

 その視線が冷たく、私は居心地が悪かった。

「私まだ若いし、今までそんなことなかったのにーー」

「いざ友達がそうなって、嫌でもそういうの意識する年齢になったってことじゃないの」

 和哉に言われたくなかった。

 確かにその通りで、だけどそう願ったら終わりだって、自分で思ってたのかな。

「和哉、私、……」

「自分できちんと言って」

 和哉は視線を落として、私から言い出すよう促した。

「和哉と付き合って三年経つし、長く付き合ってきたから……、結婚、したいです」

 最後の方は消えそうな程うまく言えなかった。

「……今すぐ?」

 和哉は私の話を引き出しながらも、自分の意見をはっきりと言った。

 付き合う時言ったっけ、和哉は結婚願望がないって。

 私もその時はなかった、けど今はそうなってしまった、けど和哉はその時と変わってないんだったらーー。

「ーー今すぐ、ですね。

 和哉は?

 ……」

 私は静かに、彼の言葉を待った。

「ーーごめん、できない」

 想像した通りの言葉だった。

「それは、今はできないってこと?

 それとも私とはできないってこと?」

 耐え難い状況だったけど、震えながらも私は必死で話を続けた。

「そうだな、今はできない、かな」

「ーーじゃ、いつなら?」

「……」

 和哉は少し考え込んだ。

「二年後」

 あと、二年ーー。

 そうしたら私もう、26歳かぁ。

 今まで三年付き合ったんだし、あと二年続ければ叶うよ?

 二年間の婚約期間なんてきっとすぐだよ~~。

 私に、新しい選択の可能性ができた。

 私が望んでいた方の。

 だけど。

 私はそれをよしとすることができなかった。

「それって私が教え子だから?」

「そう」

 やっぱり彼らしい答えだった。

「俺今の仕事変えたくない。

 あと二年で26、いや27になるなら真乃も適齢期になるし、卒業して10年近く経てば周りの目も和らぐだろうし……。

 だから今すぐっていうのはーー」

「うん、わかった。

 今日会いに来て、話せてよかった!

 私、ーー!!」

 嗚咽を堪えることができなかった。

「私、和哉の恋人でいるためにずっと合わせて来た!

 自分でもそれが自然でうまくいってると思い込んでたけど、私、自分の気持ちなかったね!

 前の人より長く付き合えて、そのうち結婚できるかもって都合良く解釈してたけど、それじゃダメだよねーー」

 うぁ、ああ、あああ!!

「和哉、私、恋人終わりにする!

 もう、無理、ーー!!」

 私は自分を保っていることができなくて、その場にしゃがみこんで号泣した。

「わかった、真乃、ごめん」

 和哉は私をなだめながら、私の名前とごめんを、何度も何度も静かに繰り返した。

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