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先生の恋人  作者: 玉城毬
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 春だぁーー!

 新しい環境に移るこの季節は、苦手。

 私、コミュニケーション能力低いからね。

 深く息を吸い込むのが怖いくらい、緊張で胸が苦しくなる。

 私立の女子高校に入学できたものの、つらさはMAXだった。

「ーーはぁ~~……」

 深く重いため息をつく。

 入学者に同中出身者が少なく、クラスに知人もいないので、ゼロからのスタート。

 あーあ、こんな時男子だったら、ぼっちでも肩身がせまくないのかなぁ……。

 やー、それはそれなんじゃ?

 そもそも男に生まれ変われないし。

 共学だったらよかった?

 いや、自分的にも同性の友達ばかりなんだから、関係ないわ。

 もう一ヶ月近くこうだもんな、人見知り認定は定着しつつあるかも。

 ある意味メンタル強い……、けど、やっぱり楽しくないし、しんどいわ。

 一刻も早く!

 学校生活に慣れて友人を作りたいっ。


 実は私みたいに一人でいる子が、クラスにいた。

 佐伯理久。

 彼女は美人でデキる感じで、確固とした自分を持ってて孤独さえ望んでいるような……イメージ。

 私は自分からも話しかけず、他人からも話しかけられないで、今日まで来てしまった。

 クラスの中で着実に何グループかができていくなかで、私は、自分と同じように一人でいる彼女を、いつのまにか目で追うようになっていた。

 

 そんなある日、移動教室という時に彼女と二人きりになった。

 話しかけられるチャンスかも!

 私の胸はこのうえなく高鳴った。

「あの、……」

 いよいよ切り出した。

「よかったら次の授業の教室……、一緒に行かない?」

 やった、言えた!

 顔真っ赤、かなりテンパってる。

 彼女は目をまんまるく見開いて、キョトンとしていた。

 そして冷静に、私を見返した。

「あたしが一人だから、寂しそうに見えた?」

 ドキッとした。

 これは、失礼だったかな……?

 どうしようどうしよう、私は頭をフル回転して、返答しなければならなかった。

「うまく言えなくてごめん!

 私ずっと一人でいたから、誰かと話したくなっちゃって……」

 アハハハーー、私は笑ってごまかした。

 「誰かと」なんて、佐伯さんとじゃなくてもいいってことになっちゃうじゃん!

 彼女は大きな瞳いっぱいに、じーーっと私を見つめた。

 なんか言って、身が持たない……。

 次の瞬間、彼女はこのうえなくかわいらしく、にっこりとほほえんだ。

「声かけてくれて、ありがとう。

  実はあたしも、ヤバイくらいしんどかったんだ」

 本当ーー?!

 少女漫画の花や光でキラキラしてるような、幸せの瞬間だった。

「友達になってくれる?」

 すがるような私に、彼女は少しおどけて言った。

「あたしマイペースだから、合わない時はゴメン。

 佐伯理久です。

 ユルイ感じで、よろしくね」

 主張しつつも、合わせてくれた彼女の気遣いが嬉しかった。

 くすぐったく感じながら、私は彼女の言葉を受け取った。

「田原真乃です、こちらこそよろしくお願いします!

 理久さん、かっこいい名前だね」

「理久でいいよ!

 真乃でいい?」

「うんっ」

 想像以上にカジュアルな口調の彼女と、下の名前呼びでオッケーになって、頭の中のモヤが一気に吹き飛び、世界が鮮やかになった。

「あ、次の授業始まっちゃう!

 早く行こっ」

 感動の瞬間から現実に戻った私は、彼女と一緒に次の教室に急いだ。


 あれから、一年。

 理久と友達になった私は、やっと女子高生活を満喫できるようになった。

 もっと早く声をかければよかった、けど、あの時が絶好の機会だったと思う。

 他のクラスメートとも少しずつ仲良くなれたし、理久と私のそれぞれの友達ともつながって、友人関係が広がった。

 学校生活にもなじんできた2年生の春、望みはもちろん、また理久と同じクラスになることだった。

 幸い、今のところ文系という点は共通しているので、私はお祈りしながら、運命の日を迎えた。


 願いは叶わなかった。

 残念だが、隣のクラスになった。

「いんじゃない?

 体育とか選択授業は一緒になれるから、合わせればいいしさっ」

 ちょっと泣きそうな気分の私に、理久はにっこりと励ましてくれた。

「そうだね!

 ラッキーだよね、今年もよろしくーー!」

「改めてよろしく!

 じゃあ、ホームルーム始まるから、またねー」

 二人とも、それぞれのクラスに入っていった。

 新しいクラスにも、数人知ってる子はいる。

 去年よりは大変じゃないから、新しい気分でやっていこう!

 チャイムと同時に、新クラスの先生が入ってきた。


 若い、男の先生。

 第一印象は単純に、そんなものだった。

 女子高ということもあって、それだけで生徒の興味の対象になった。

「エッ、うそ若ーい」

「イケメン?

 フツメン?」

 やっぱり、クラスの一部がざわついていた。

 先生は、大きく息を吸い込んだ。

「おはようございまーーす!!」

 はっきりとした、大きなあいさつ。

 クラス中、驚きで静かになった。

 先生は的中、という感じでにっこりして、続けて自己紹介を始めた。

「今年度からここに赴任になりました、2年1組担任の石川和哉です。

 よろしくお願いします。

 担当教科は世界史。

 知ってる通り、2年の社会科の必修になる。

 俺の感覚だと、世界史は女子の受験科目にあまり選ばれないから、授業が少ない人もいると思う。

 だけどホームルームや進路指導なんかで、2年から3年にかけて多くの時間関わっていきます。

 俺自身も新人に毛が生えたレベルですが、みなさんの学校生活に少しでも貢献できるよう、精進したいと思います」

 熱く長々と、先生は抱負を述べた。

「去年の担任の先生達から、引継ぎで君らのことも聞いています。

 今時だけどわりとまじめなんだとか、みなさんどうですか?」

 みんな顔を見合わせて、首を傾げたりしてる。

 クラスも今日が初日だし、何の応答もないままだ。

 先生はフッと顔をゆるめて、一言締めくくった。

「前評判を参考にしつつ、俺なりに君らと向き合っていきたいと思う。

 世界史、学校、進路関係の質問は大歓迎、君らの高校生活のお手伝いができるよう、教師をどんどん利用して下さい」


 理久と同じクラスになることしか考えてなかったのに、新担任に魅了されてしまった。

「そんなにいいかぁ?」

 始業式から一週間経った理久との帰り道、相変わらず石川先生に関しては、ダメ出しされっぱなしだった。

「いや……、なんとなく、いい感じくらいだよ?

 まだ一週間だから、この先ゲーッてなるかもしんないし」

「そりゃもう、ガチ恋だって! 

 あたしからしたら、どこにでもいそうな年相応の男だけど。

 女子高だから、若い男ってだけで、モテ要素ありそう。

 真乃は一人っ子だから、男に免疫なさそうだし」

「お兄ちゃんのいる理久の指摘は、リアリティあるなぁ……」

「そーだよ、リアルに若い男がいて、そのダメさ加減が身に染みちゃってるよーー」

 今の私、恋愛に興味はあっても、受け身型で女子高だから出会いもないし、そんな日常へ若い男が現れたら……。

 はぁ、私のハートは、なんと安っぽいんだ!!

 でも。

 好きに理由はいらないし。

 高スペックでもないのに好感が持てるって、なんか魅力があるってことで、私はそれにハマっちゃったんだよね。

「ファストでチープなラブだけど、毎日会えて、つらい授業にも前向きになれて、日々の生活に潤いとハリが出るよ!」

「化粧品のCMかよ……。

 あたしは興味なしだなぁ。

 でも恋愛モードになってる部分は、うらやましいかな」

「理久でもそう思うの?

 なんか、くすぐったいな」

「リア充じゃなくて、リアル片思いってとこがミソかな!

 ま、恋する乙女の一喜一憂を、横から楽しませてもらうよ」

「もちろん、いっぱい相談させてねっ」

 公私共に、全身でうれしいを感じていた、高2の始まり。


 春の終わり、石川先生に習い始めた世界史での、初テスト。

 先生が出席番号順に、テストを返してくれる。

「田原ーー」

 私が呼ばれた!

 緊張と不安を感じながら、前に出る。

 テスト用紙と私を見比べながら、先生はにっこりとほほえんだ。

「がんばれよーー」

 27点。

 ガビーン……。

 初、赤点!!

「えーー、想像以上にひどい出来でした!

 追試は、一週間後の放課後に行います。

 30点以下のヤツは受けること。

 合格点は60点以上ね。

 同じ問題だと俺は楽だけど、暗記されちゃうから別の問題作ります。

 範囲はおんなじだから、しっかり勉強してくるように」

 周りの子は、私みたく落胆してる子が多い。

 あぁ、自分だけじゃなさそうでよかったーー!

 けれど結果に変わりはなく、その後の授業はずっと肩身の狭い気分だった。


「やっちまったねぇーー。

 世界史ってさ、年代も長いし、国も人もカタカナ長くて覚えきれないから、きっついよね~~!

 ま、あたしは35点だったから、セーフだったけど」

 はぁ……いいなぁ、マジでうらやましい。

「けど、恋する先生の授業は、がんばりたいよねっ」

 気持ちはいつも全力だよぉ!!

「なら、チャンスじゃん!

 追試で大逆転したら、スゲーーって見る目変わるかも!」

「うぅ……。

 60点以上だって、とれるかわかんないのに!

 理久、教えてよぉ」

「うーーん、こればっかりは、死ぬ気でがんばれとしか……。

 あ、じゃあ、先生にわかんないとこ聞きに行っちゃえば?」

 機転を利かせてくれた理久の言葉に、私の気持ちは舞い上がり、超前向きになった。


「悪いけどパス。

 勉強聞きに行くのに付き添うなんて、わけわかんない」

 次の日の放課後、早速先生に世界史の勉強について聞きに行こうと思ったんだけど、一人で行く勇気がなくて理久に付き添いお願いしたら、見事に断られた。

「やーでも、勧めてくれたの理久だし、見守ってほしくって……」

 精一杯、懇願する。

「確かに思いついたのはあたしだけど、あたし追試じゃないから関係ないし。

 生徒が先生に教えてもらうのって、当然の権利だよ?

 石川も言ったんでしょ、どんどん聞きに来いって」

 確かに理久の言う通りだ。

「大丈夫だよ。

 じゃああたし、寄るとこあるから、また明日ねっ」

 理久はにっこりと笑って、バイバイして帰って行った。

 すっごく心細い……。

 他の追試の子と一緒に勉強したっていいんだけどーー。

 でも。

 せっかくだし、なんか自分でがんばりたかった。

 昨日の今日でまだ全く復習してないんだけど、とりあえず、先生になんか伝授してもらえるかもしれないと思って、行くことにした。


 放課後の職員室。

 たくさんの先生が仕事をしていて、生徒もちらほらいた。

 とりあえず世界史の教科書を持って、入り口の辺りに立っていた。

 自分から職員室に出向くなんて、私すっごいがんばってるぅーー!!

 けど、やっぱり踏み出せなくて右往左往してしまう。

 2~3分くらいそうしていただろうか、そんな挙動不審の私に気付いた石川先生が、声をかけてくれた。

「どうした?

 職員室になんか用事か?」

 緊張した私がギュッと持っている世界史の教科書を見て、先生は、あぁと納得した。

「そっか、世界史のテスト勉強してるんだな?

 どこがわかんなかった?」

 優しく話しかけてくれた先生に、私は低レベルの質問をした。

「どうやって勉強したらいいか、全っ然わからなくって……」


 きっと、呆れ返ってるーー。

 先生はまじまじと私を見つめて、肩をすくめた。

「そっか。

 田原には世界史、難しかったかな?」

 予想外に対応されて、自分が受け入れられたような気がして、泣きそうになって慌てて目を抑えた。

「!?

 どした?

 そんなに悩んでたのか!」

 マジに考えてくれる先生の気持ちがうれしくって、感極まりながら、私はどうにか自分を落ち着かせた。

「こんな質問してすいません」

「謝ることないよ。

 前任の後藤先生から、田原の成績は上々だって聞いてるし。

 きっと本当に難しかったんだろうなって」

 先生、優しい……。

「テスト前に、どのくらい勉強した?」

「……。

 前日に、2、3時間、です」

 先生は驚いて、苦笑した。

「田原は意外と短時間型か?

 けどその時間で、テストの手応えはどうだった?」

「もう全然……。

 ヤバイ、覚え切れないって頭真っ白になって、絶望でしたーー」

「日本史と違って、新しく覚えること多いもんな。

 あと一週間ないけど、毎日少しずつでも復習できるか?」

「次で絶対受かりたいんで、今日からやります!

 だから、コツを教えてもらえませんか??」

 先生は満面の笑みを浮かべた。

「コツなんてないよ。

 やる気はあるようだから、かけた時間だけ得点できる。

 教科書、ノート、資料開いて、テスト範囲の年代、国、人、出来事や情勢をまとめる。

 音読でも書き写しでも繰り返しやれば、頭に入ってくるよ。

 自分でやって、それでもわからないところがあったら、その時はまた聞きに来てよ」

 ほんの5分ほどのやりとりだったけど。

 先生は私の話をきちんと聞いてくれて、励ましてくれた。

 その日から私は、毎日がんばって、世界史の追試勉強をした。


 追試、終わったーー。

 16年間生きてきて、一番勉強したよ~~!!

 手応えを感じながら、わたしは世界史の追試をやり切った。

 次の日の昼休み、別室にて追試が返却された。

「田原」

「はいっ」

 先生に向き合いながら、受け取りに行く。

「がんばったね」

 点数は、85点だった。

「ありがとうございます!!」

 すっごくうれしくなって、先生と喜びを分かち合いたかった、けど……。

 当然そんなことできないので、答案用紙ごと自分をハグして、自分の中で喜びを溢れさせた。

 先生は目を細めて、笑った。

 ふとした瞬間の優しい表情が、たまらなく好き。

 私が意識しているから、先生のそういうところ発見しちゃうんだろうけど、もう本当に、幸せ。


 楽しい時間は、瞬く間に過ぎる。

 3年生に進級して、私の担任は、持ち上がりで石川先生になった。

 文系短大の進路を志望した私は、国語・社会・英語の三教科が受験科目となり、社会はもちろん世界史を選択した。

 担任で、選択教科の担当で……、先生と共有できる時間を最大限に堪能した。

 そして、文系のクラスで、二年ぶりに理久と一緒になれたのも、うれしかった!

 ただ、進路が違ったので、やることは結構別々だったけど。

 私の短大進学は、とりあえず、の選択だった。

 行きたい学校、なりたい職業があるわけでもなく、けれど、卒業してすぐに就職はしたくなかったので、二年間の学生生活をいただいて、大人になるまでの猶予期間を満喫したいと考えた。

 幸い家族の了解も得られ、自宅から通う条件で、地元の文系短大に合格することができた。

 理久は逆で、就職組だった。

 私よりも成績は良かったが、彼女は高2の夏休み以降放課後のバイトをして、有意義に高校生活をエンジョイしていた。

「あたし勉強好きじゃないし、早く稼いで独立したいわ」

 常々言ってた、彼女らしいセリフ。


「明日で卒業だねぇ」

「ねぇ」

 私と理久は、卒業式の前日、約束して一緒に下校した。

 明日の卒業式も春休みも会えるんだけど、制服で生徒同士で一緒に帰るのは、多分今日が最後になるから。

「また、新しい環境で胸が苦しくなるのかーー」

「真乃は本当に、そういうの苦手だもんねぇ」

 苦笑いする私と、おもしろがる理久。

 たくさんあった高校生活の一日、だけどもう戻れなくなる一日。

「けど感謝だなぁ!

 そのおかげでこんなに理久と仲良くなれた」

「本当、それはあたしもおんなじ!」

 あははは……と笑いながら、なんだか泣きそうになった。

「真乃は恋してたから、さらに充実だったね!」

「おかげさまでね……。

 一生イジられるな、このネタは」

「告んないの?

 二年間の想いを、どーーんとさ」

「そんな、大したものじゃないよ……」

「つまんないのーー。

 いや、でもあたしも側で女心を刺激されて、青春してた気がする!

 ありがとうございましたっ」

「友達の恋愛欲満たすって、私ある意味すごい!

 ……ま、理久は大人の恋愛解禁になったら、全力で恋するんだろうから」

「ホント、楽しみ!

 恋多き女になるか、一途に純愛を貫くか……、ねぇ」

 大人っぽくて彼氏がすぐできそうな理久だったけど、「高校時代は自分の進路だけで余裕ない、稼げるようになったら参戦する」というのが彼女の持論で、彼女なりに学業に専念していたようだ。

「春休みは遊ばないの?」

「新生活の前だから、すれ違い起きそうだし。

 お給料もらって、仕事にも慣れてきたら、ガンガン遊びまくるから」

 私とは違う進路の理久。

 社会人を選んだのは本当に彼女らしく、うらやましいような、かなわないような。

 新旧のあれこれを話しながらも、本当にいつもと変わらない、楽しいおしゃべりの時間だった。


 卒業式。

 理久をはじめ、同級生とはしゃいでおしゃべりしながら、劇的な感動や感傷に浸ることもなく、限られた時間は淡々と過ぎていった。

 式に参加した両親は、家族写真を撮ると、仲の良い他の親達と昼食会に向かっていった。

 卒業生同士での時間を満喫して、お腹も空いてきた私達は、何人かで行きつけのカラオケ店へ行くことになった。

「あっ!!」

 私は突然思い出した。

「何、どしたの?」

「教室に忘れ物しちゃった!

 取ってくるから、みんな先行ってて」

「最後まで、真乃らしーー!!」

 みんなに笑われながらも、私は軽くダッシュで教室に戻って行った。

 今朝、自宅にずっと置いてあった生徒手帳を見つけて、卒業の記念にと学校まで持ってきて、机の中にそのまま置き忘れてきた。

 後で整理された時回収されるんだろうけど……、最後忘れ物しないように!

 卒業生はみな下校して人気のない教室に戻ってくると、黒板の方を見て立っている石川先生がいた。

「お?

 どうした、忘れ物か?」

 卒業式も終わってまたすぐ顔を合わせるのも気まずかったけど、偶然会えたことはうれしかった。

「そうなんです、うっかりしちゃって!」

 机の中を確認して、無事生徒手帳を回収した。

「最後まで関心だな、けど学生になってからも気をつけないとな」

 先生はにっこりして、私に優しい眼差しを向けてくれた。

 なんか、いい雰囲気。

 卒業の日に二人で会えるなんて……。

「あの、卒業の記念に、握手で激励してくれませんか?」

 恥ずかしさで少し下の方を見ながら、私は右手を差し出した。

 先生はやや戸惑いながらも、私に向き合ってくれた。

「セクハラになっちゃうからな……。

 応援してるから、がんばれよ!」

 直情的になっていた私も、先生の気遣いに助けられた。

「あはは……ですよね!

 二年間ありがとうございました。

 短大でもがんばります」

 なんとかごまかす。

 もうちょっと、近づけないかな……?

「ーーあの、私が社会人になって先生とお会いすることがあったら、ご馳走してもらえませんか?」

 真剣な、ちょっと厚かましいお願い。

 先生は苦笑して言った。

「田原って結構、天然というか大胆というか。

 そうだな、俺に借金がなければ、だな。

 集団でタカりにくるとか、やめてくれよ?」

 私も、脱力して笑った。

 ジョーク交じりの口約束。

 でも、最後に笑ってお別れできてよかった。

 こうして私の高校生活は、楽しく幕を閉じた。



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