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「お兄ちゃん、終わったよー!」


 少女が上に向かって叫ぶ。が、反応はない。


「おにーちゃーん! 聞こえてるー?」

「……ちょっと待って! あと一分……いや、三十秒待って! これ、フルコン取れ…………んあああああああ」


 情けない悲鳴が屋上から聞こえて、少年少女は顔を見合わせる。


「まーたスマホで音ゲーやってる」

「しばらく動かないよ、どうせ。真文まふみさんに連絡しよ」

「私電話する!」

「こないだタマちゃん電話したじゃん! 僕がする」

「もう俺が電話したぞー」

「お兄ちゃんいつの間に?」

「ここ来る前に」

「えぇーずるーい」


 眼鏡を掛けた少年、すなわち彼等の兄もビルの屋上から飛び降りる。「よいしょ」と小さく呟いて軽々と着地すると、路面から首だけ生えているという奇妙な光景を見やった。


「今回は、一体誰が消えたんだろうな」

「ヤンキーの団体とか、そんなんじゃない?」

「まあ、場所的にそうだろうなあ……人数的にもな」

「連れてかれた人達は無事なのかな」

「さあなぁ、そこまでは責任取れねぇよ。俺らがどうこうできる問題でもねぇじゃんか」


 肩をすくめて眼鏡の少年が答えている最中に、車の音が聞こえてきた。路肩に停め、ドアの開く音。駆け寄る音も聞こえる。三人が振り向けば、狭い路地を塞ぐようにして一人の成人男性が立っていた。


「申し訳ありません、お待たせしました」


 筋骨隆々とした長身を地味なスーツに包み、しかしどこか小ぢんまりとした印象を受けるのは、狭い路地に合わせて体を小さくしているからだ。そこまで縮まる必要はないのだが、なんとなくそうしてしまうのだろう。ギリギリ当たらない鴨居をくぐる時に、つい頭を下げてしまうのと同じで。


「いや、こっちもホント今終わったとこです」

「お兄ちゃん何にもしてないよね? 何にもしてないよね?」

「うっせえ、タマのその貧相なボディが地面と激突しないようにしてやっただろが」

「貧相ってなによぅ!」

「未成長つった方がいいか? ん? 今年何センチ伸びたんだ身長はよぉ?」

「れ、れいてん、ろくせんち」

「六ミリじゃねえか!」

「キイイイイイ!」


 突撃してぐるぐるパンチをおみまいしようとする少女。そんな彼女の頭を伸ばした腕で押さえ、往年のコントのような状態になる。


「うはははははは届かんなァ! 悔しかったらあと二十センチ伸ばすんだなぁ身長をよ!」

「のーびーまーすー! 来年は伸びるもん!」

「あーゴメーン、二十センチじゃキョウに追いつくだけだった。二十五センチはないと駄目だったー」

「ギイイイイイ!」


 不毛な争いを開始した兄と妹を、太い眉を八の字にして困ったように見つめる男性。果たしてこれは介入しても良いものか否か、それともスキンシップ的なものなのか。どうすればいいのかと困り果てていると、残ったパーカーの少年が背中を叩いた。


「あれは、無視で。放っといていいです」

「良いんですか?!」

「いつもあんな感じです。それより、こっち」


 指差す先にはアスファルトに生えた首と手。しかも全て生きているので動いたり騒いだり。


「うわ……ゴブリン、ですか」

「うん。沈めておいた」

「なるほど、全てゴブリンですね。ホブゴブリンは確認できず。八体。死亡した個体は居ますか?」

「ううん、居ないよ。あと、ここにいるので全部のはず。呼ばれてすぐに移動した、とかじゃなければ、だけど」

「分かりました。厚労省に連絡を取りますので、回収班が来たら拘束を解除していただけますか」

「はぁい。おーいタマちゃん、係の人達来たら解除ー」


 兄と大抗争大会を繰り広げていた少女は、その体勢のまま「はーい」と返す。

 彼等を横目に、青年は上着の内ポケットからメモ帳と万年筆を取り出した。丁寧な字で「立入禁止テープ」と書き、ミシン目から切り取る。すると、書いた文字が微かにふわりと光った。気が付けば、彼の手に黄色いテープが存在していた。更に別のメモに「三角コーン」と書くと、これもまたいつの間にか足元に存在している。


「これを、向こうの入り口に置いてきていただけますか」

「はーい」

「自分はテープ貼ってきますね」


 よく観察すれば、メモ帳に書かれた文字がかすかに、僅かづつ、ちりちりと燃えているのが確認できるはずだ。燃えているにも関わらず青年はメモをポケットにしまい、いそいそと黄色いテープを貼りに向かう。

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