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入院病棟(個室)


 入院病棟のドアが、控えめに叩かれる。どうぞ、と答えたのは剣吾ではなく、真文であった。


「あれ、真文さんいた」

「真文さん、こんにちはー」

「お前らなあー兄に対するご挨拶はないのかよォーここは俺の病室だぞォー」


 ベッドに横たわったまま、剣吾が文句を飛ばした。横に座っている真文は困ったような顔で微笑んでいる。見舞いにやってきた双子は遠慮なしにベッドに腰掛けた。


「お兄ちゃん、具合はどう?」

「まあ、普通に痛いけどマシになってきた」

「うぅー痛そう、僕、そういうの聞くの苦手」

「お? 見るか? 傷口見るか? キョウには特別に見せてやろうなあ?」

「いやだあああああ」


 コカトリス討伐の後、剣吾は「然るべき病院」へと救急搬送された。既に解呪担当の神父が待機しており、すぐさま石化は解除されたのだが問題はその後だ。あの状態から石化が解けたらどうなるか。現れるのは、ずたずたに引き裂かれた生身だ。行わなければならないのは外科的な処置である。それ故の、解除担当要員の病院待機なのである。

 残念ながら治癒能力の保有者はその場で確保できず、ごく一般的な手術によって剣吾の傷口は塞がった。勿論、回復の経過もごく一般的なものになる。二週間の入院を言い渡された剣吾は、授業に出なくて良いのは最高だと満面の笑顔であった。今日も今日とてスマートフォンでゲームに勤しんだりリンゴ丸かじりしたりしている。


「なんかお兄ちゃん、思ってたよりずっと元気だね。心配して損した」

「損とはなんだお前、タマよぅ、損とはなんだぁ。おめーら庇って怪我したんだぞお兄様はよぉ、もっと心配しろやぁ」

「うぅー……」

「もっとありがたがれやぁ、ひれ伏せぇ、あがめたてまちゅ……たてまつぶ、たてまつるがいい」

「噛み過ぎ」

「うるせえ」

「いくらなんでも噛み過ぎ」

「うるっせえ、それがお兄様に対する態度か? 身を挺して庇ったっちゅうのに…………あ」

「どうしたの?」

「体でドーンてすっ飛んで庇うんじゃなくて、ただ単に、弾き飛ばせばよかっただけなんじゃね? あの羽」


 自分でその結論に到達してしまった剣吾。頭を抱えてのたうち回り、それが傷口に響いて更にのたうち回る。悪循環だ。真文は相変わらずの困ったような顔しかできないし、双子はいつものこととばかりに放置している。


「あああーもう傷付いた、繊細な俺の心がズタズタになった。もうこれは炭酸でも飲まないと癒やされない。炭酸。それしかない。備え付けの冷蔵庫が一杯になるまで炭酸買ってきてくれないともう駄目だぁーということで買ってこい」

「パシらせたいだけだ」

「うむッ」

「傷口抉るよ?」


 玉乃の容赦ない言葉。だが、真文は立ち上がり財布を手にした。


「何本くらい買ってきましょうか?」

「あっスイマセンあざっす、えーと、二本くらいかな? 下にいくとコンビニあるっしょ、そこに微妙なサイズのやつ売ってるんで……小さくもなくでかくもないやつ……あと、お茶もお願いします」

「僕も行くよ」

「おぉーセンキューセンキュー、優しくないのはタマだけかぁ」

「キィー!」


 実際のところ、剣吾は車椅子での移動を余儀なくされている。一階に売店代わりのコンビニエンスストアが入っているが、そこにまで移動するのはなかなかの大仕事なのだ。大きな病院ともなれば距離自体もあり、つい億劫になって足は遠のく。


 しかし、鏡也が真文の同行を申し出たのは別の理由があった。

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