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個人の邸宅、敷地内

 異様な光景が広がっていた。

 いやに精巧な石像が転がっている。猫の石像だ。驚愕の表情のまま固まった、とでも表現すれば良いのだろうか。


「キャッ」


 暗がりの中、その石像につまづきそうになって玉乃が小さく悲鳴を上げた。


「タマちゃん、大丈夫?」

「うん、ありがとキョウちゃん。ビックリした……」


 バランスを失った玉乃を咄嗟に支える鏡也。


「タマはアレだ、足が持ち上がってねえんだよ。何もねえとこで転んだりするのもそれだ、足。足をだな、ちゃあーんと持ち上げてねえの。筋力が足りてねえの。もしくは足が重てえんだな」

「ちょっとお兄ちゃん、なにそれェ! 私が太ったってこと?!」

「昨日も口の中噛んだーっつってたろ、お太りあそばされた証拠じゃござんせんか」

「ぅうわ!」


 剣吾と玉乃がやいのやいのとやりあっている最中、今度は鏡也がつまづいた。先程とは逆に玉乃が鏡也を支える形。


「キョウはボケーッとしすぎ。見なさすぎ。そんなんだからオメーはポロッポロポロッポロ物を落としまくるんだよ何でもかんでもよぉー。あと、足の小指を角っこにぶつけたりすんだよ」

「うわ! これ犬だ!」

「人の話を聞かねえのもオメーの悪いとこだぞキョウぅ! ってうわッあっぶね!」


 同じく石像につまづきそうになり、変なポーズで足を持ち上げる剣吾。しかもその石像は、熊である。


「この家は一体どんだけ謎のオブジェ置いてたんだァ? ってか熊て! 熊て!」

「お兄ちゃんだって転んでるじゃんか」

「うっせえ、キョウは黙ってろ」

「お兄ちゃんさあ、人のこと言えないじゃん」

「タマも黙ってろコンチキショ、だって熊だぞ熊、熊の石像が転がってるとか考えるわけねえだろが」

「犬とか猫の石像が転がってるとも考えにくくない?」

「黙れぇぇえ!」


 現場は都内のとある邸宅である。無闇矢鱈と敷地面積が広く、いかにも金持ちと言った感。その和風庭園に転がっているのが、先程の石像群である。


「ねえお兄ちゃん、あのさあ、聞こえるんだけど」

「タマに言われんでも聞こえとるわい。どこからどう聞いてもニワトリです。ありがとうございました」

「めっちゃデカい声でコケコッコーって鳴いてるもんね、夜なのにね」


 三人で肩寄せあって暗い中を進む。敷地内の照明はほとんどが消えている。奇声の聞こえる先は、邸宅内ではなく外だ。厳密に言うなら、屋敷の裏手。

 人間は全て避難済み、のはずだ。餌とやらをやっている最中に事は起こり、すぐさま通報、現場に比較的近い位置にいた兄弟が向かうまでその間二十分。避難を行うには十分な時間があったと思われる。真文もすぐさま駆けつけたが、中に戻ると暴れる家主を抑えるので精一杯だ。


「クッソ、どこ行きやがったんだニワトリ野郎」

「ニワトリかあ……でもさ、なんだっけ、入れ替わりの対象が人食い虎なんでしょ?」

「おっ、キョウにしては珍しく話聞いてたんだな。そう、人食い虎の代わりに来たのが巨大ニワトリ。油断するなよ、そんだけの戦闘力あるってことだからな」

「人間くらいの大きさのニワトリなんでしょ? その時点でもうコワイ」

「タマの五倍くらいあるんだろうな」

「なにそれェ! 私そんなにちっちゃくないもん!」


 ギャンギャン騒ぐ兄と妹をよそに、鏡也は転がる石像をじっと見つめる。そして、妙な点に気付いた。


「なんで……?」


 唐突な言葉に、剣吾と玉乃は口喧嘩を止める。


「どうしたキョウ、言葉足らなすぎて分かんねえぞ」

「ええーと、ほら、コレ見て」


 指差すのは転がる石像。


「これ、あのさ、ほら……これ」

「なんかくっついてる?」

「うん。なんだろ、この長いもの……全部にくっついてんの」

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