命懸けの戦い
病院の先生が頭を抱え込んでため息をつく。
『嫌よ。……見ず知らずの男の人に見られるなんて――!』
『『――そこかよ!』』
俺の命と自分の命が危ないって時に~!
『直ぐに分娩室へ!』
『イテテ、先生、私、堕ろしたいんですけど』
『はあ? 寝言は寝て言いなさい。ご家族そろって来ておいて、ちょっと笑えない冗談だ。それに、妊娠二十二週以降は母体保護法で中絶手術は認められていない』
先生は直ぐにプラスチック手袋とマスクを付け始める。
『――だって、こんな、こんなことで生まれてきた子供に、私はどうやって接したらいいの? ――母親失格よ』
『ハッハッハ。受験じゃあるまいし、
――母親に失格も合格もないだろ――』
先生のその一言で……、どうやら覚悟が決まった。
頭が締め付けられ――痛い。イデデデデ――頭の形が変わりそうなぐらい痛いデデデデ――。だが、痛いのは俺だけじゃないはずだ。きっと、女も痛いハズだ。だったら、俺だけが痛い目を逃れるわけにはいかない――。ちゃんと、ちゃんと生まれてやるんだ。
転生を果たすんだ――! 転生して世間を驚かせるビックなベイビーになってやるんだ!
こんなところでくたばってたまるか――!
そして数時間後、俺は出た――! 遂に外の世界へと飛び出した――だが!
――息ができない!
――空気が――吸えない! これじゃ喋るどころか、死んでしまう――。次々と襲い掛かる生死の狭間! 崖っぷちのような転生への道――!
ンゴゴゴゴキュ~ン!
細いホースのような管を口や鼻から突っ込まれ、喉や鼻に溜まった羊水を吸い取られると、やっと俺は産声を上げることができた――。
「オギャー、オギャー、オギャー」
「こんにちは」か、「わんばんこ」って言ってやろうかと思ったが、とてもとても無理だった。息を吸うのに必死で、言葉なんて喋る余裕がなかった。
やっと呼吸が落ち着き、ゆっくりと静かに抱き上げられる……。
母親か? それとも若くて綺麗な看護婦さんだろうか……。
眩しさをこらえながら、ゆっくりと初めて瞼を開けると……。
――頭悪そうな、チャラい男。
どことなく知っている面影……!
――まさか! 急に意識が遠のく……。
その面影は、紛れもない転生前の……、俺の親父の顔だった――。
つづく
ここまでの感想、ポイント評価、お待ちしております~。