手遅れ
『早くしないと……手遅れになるかもしれないでしょ……』
スンスンと鼻をすすりながら静かに言った。
『……』
――手遅れってなんだ? ――産むことが手遅れってことなのか? いや、それより、せっかく転生したのに、生まれ変わる前に、俺は……、
――鋏でザクザク斬り刻まれ、血まみれの死骸になって引きずり出されるのか?
夢のチートライフはどうなるんだよ! ぜってーありえねー!
ガンガンに腹を中から蹴ってやった。
『――あ、動いた。今、中からグリグリ蹴っているわ』
『マジかよ』
恐る恐る男の手が当てがわれる。そこを中からパンチする。
『うわ、本当だ』
ドン引きするんじゃねーよアホ!
『……ねえ、産む?』
『はあ? 勘弁してくれよ。俺らまだ大学生なんだぜ。こんなガキに人生決められるって、ないっしょ。
……堕ろせよ』
こいつは……いや、こいつらは保健体育で中絶の恐ろしさを勉強しなかったのか? 銀行でお金を下ろすのとは訳が違うんだぞ。
……保健体育の授業で見せられた、トラウマになるような恐ろしい器具。母胎に与えるリスク。
恐怖と後悔。そしてなにより――尊い命!
――俺じゃん!
……ていうか、俺、今何歳だ? いや、零歳なんだが、何ヶ月なんだ?
身体を中から足でグリグリ蹴れるってことは、……相当成長しているんじゃないのか?
もう、とっくに堕ろせないとこまできているんじゃないのか?
つづく
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