無敵転生――
コポコポコポコポ……。
ここはどこだ……。俺はいったいどうなってしまったんだ……?
転生か? 俺には前の記憶がある。
これ、ひょっとして何かの赤ちゃんなのだろうか……。薄っすらと赤く明るい空間にチャプチャプ浮かんでいる。
無茶苦茶強い最強ドラゴンの赤ちゃんか?
いや、落ち着け俺。
ドラゴンって爬虫類ぽいから……卵だろ。だったらこの温い空間でドクンドクンと俺以外の心拍音が聞こえてくるのはおかしい。
哺乳類だ。しかも、聞き覚えのある鼓動のビート。これは人間で間違いない。
転生前の記憶が残っているのが、これからの運命的な大飛躍を確信させる。前世のような……ただ普通の高校生じゃない。
きっとこれは、伝説の勇者……もしくは大魔王……百歩譲って無敵の超イケメン吟遊詩人に間違いない!
――生まれ変われる期待に、ゾワッと鳥肌が立ってしまうぜ!
「コポコポ、コポコポコポ!」
今、最強の暗黒魔法を詠唱してみたんだが……なにも起こらない。
そりゃあそうか、異世界に転生したわけでもないのに、ゲームの魔法を真似して詠唱なんかしても、……空から狂乱竜が現れて火を吐いたり暴れ回ったりするはずがないか……。
少し頬が赤くなってしまう。ま、赤ちゃんなんだから許してくれ。テヘペロ。
転生した俺の母体は、俺という超偉大な存在を身ごもったまま移動している。ゆっさゆっさと揺れ動くのは、地震のような震えとは程遠く、むしろ心地よい。外の状況はまったく分からないが、ここは暖くて心配ごとは何もない。
――まさに無敵だ――。
ひょっとしてだが……異世界ではなく、現実世界の人間にリアル転生を遂げたのだろうか……。だとすれば、勇者になってハーレム生活~とかからは大幅にかけ離れてしまうが、仕方ない。
現実で味わえる最上級の暮らし……富裕層ってやつを満喫してやろう。
生まれたら……賢いのを利用してチートライフを過ごしてやる。
赤ちゃんダンスを披露してやろう。たちまち世界中の人気者になり、俺の動画は全世界で驚愕の再生回数を数えることだろう。
あとは、いきなり喋ってやろうか。見た目は子供、頭脳は大人――てやつだ。
天才赤ちゃん子役もいいかもしれない。どんな要望にも応えられる赤ちゃんなら、テレビCMの出演が殺到するだろう。
穿かせるオムツのCMに抜擢されること疑いなしだ――!
ああ~楽しみだ!
レベル最強で転生チートライフってやつを満喫できるんだ!
――いや待て! ……あんまり調子に乗って大人のフリをしたら駄目だ。
……銭湯で母親に連れられて「女湯」に入れなくなってしまう……。ちゃんと、「バブバブ」って赤ちゃん語も練習しておかなければいけない。
ああ~楽しみだ! それにしても、俺のチートライフって……すげえ庶民的だ。もっともっと今のうちにチートライフプランを考えておかないと、十数年後には凄くも何ともない普通の高校生になってしまう。
転生してもまた高校生でした……って、ぜんぜん笑えない。
つづく
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